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3 罪を犯しました

 俺と七奈は、生まれた時から幼馴染になるとほとんど決まっていた。

 

 俺の両親と、七奈の両親は高校時代に同級生だったらしく、一度スケジュールの都合で合わなくなってしまったのだが、結婚して一軒家に住み始めた時、奇跡的にも家が隣になり、再会した。

 

 そして同時期に第一子を出産。それが、俺と七奈というわけだ。


 運命に運命が重なって、俺と七奈は当然のように仲が良くなり、毎日のように遊んだ。

 思春期に入って異性を意識始める前も、その後も七奈と一緒にいたのだから、七奈のことを好きになるのは当然の流れだろう。


 確かに恋人になりたいなという気持ちはあるにはあるのだが……フラれたらどうしようという気持ちがあり、今の関係を壊したくないという理由から告白には至っていない。

 

 でも……このおかしな現象が起きてしまって、改めて七奈を意識したことで、七奈に対する恋愛感情が増幅してしまったようだ。


「マジでなんなんだよこれは……」


 七奈が帰ったあと、改めて奇妙なノートを手に取って、ページをぺらぺらとめくる。

 昨日見た通り、あの予言チックなもの以外は何も書かれておらず、奇妙この上なかった。


 もしかしたらほんとにラブコメの世界にでも転移してしまったのでは? と思うほどには頭が混乱している自信があった。もはや災害レベルに脳内が荒れてる。

 ただ、今の現状ではこれがSFとかに出てくる本物の予知ノート的なものなのかは判断できない。あまりに情報が少ないし、突然のことに頭がだいぶ混乱しているし。


 それにもしこれが本物予知ノートなのだとすれば、これっきりで終わる気がしないし。

 この先情報が増えてから、いくらでも考えられそうだ。


「とりあえず、この先の様子で判断していくか」


 いくら悩んだって答えが出るわけではないし、むしろわからな過ぎて気分を害すだけだ。

 だからこの不可思議な現象について、考えることをやめることにした。

 諦めることに関しては意外とあっさりしている方だと、自分でも思う。


 でももしかしたらそういうことではなくて、単にノートのことなんてどうでもよくて……。

 今は七奈が俺のベッドで寝ていたという事実が、俺の中では急上昇していた。


「……か、かいでもいいのか?」


 さっきベッドに倒れこんだ時に、七奈が寝ていたところからかすかにいい匂いが香ってきた。あれは間違いなく、七奈の匂いだった。

 

 でもよく考えろ常盤慶十六歳。

 幼馴染と言えど俺の好きな人。その人の匂いをクンカクンカしてしまうのは客観的に見たらどうなんだ?


 答えは即答。ただの変態ッ!


 ……いや待てよ。

 俺の脳裏に、革命的な事実がよぎる。


「今俺の部屋には俺しかいない。つまり……誰にも見られない! 完全犯罪だ!」


 実際犯罪ではないのだが、犯罪者予備軍的な行為をすると思っている。

 いや、これはただの比喩表現で、心持ち的には罪悪感が半端なく、そんな気になってしまうのだ。


 でも誰にも見られていないなら悪いことにはならない。つまり、極論見られなきゃいい!(完全に犯罪者の思考)


 俺はその究極解にたどり着き、罪悪感を薙ぎ払ってそーっと布団に鼻を当てた。

 

 その瞬間に香る、ラズベリーの香り。女子の匂いはいい匂いだという、イかす男が流したのか、それとも妄想癖のあるヲタクが流したのかはわからないが、その都市伝説は今リアルとなった。

 ほんと、めちゃくちゃいい匂いする……。


「……さすがにそろそろやめよう。今日の俺はテンパってて色々とおかしすぎるな。今日はしっかりと寝て、いつもの俺に戻ろう——」


「お兄ちゃん……?」


「…………」


 背筋が凍るような、軽蔑しきった声の方へ、ゆっくりと視線を向ける。

 そこにはオイミャコンよりも冷え切った眼光を持つわが妹が仁王立ちで俺を上から見下し、視線で殺害を図ろうとしていた。


「違うんだ三咲。ほんとうまく言えないが……違う——」


「お母さんー‼ お兄ちゃんがついに変態になったよぉぉぉ! 身の危険を感じるから私たち早く荷物まとめて実家に帰らないとぉぉぉ!」


「うわぁぁぁぁぁぁ! 俺は変態なんかじゃねぇんだよおぉぉぉぉぉぉ!」


 駆けだす妹を追いかけながら、俺は心底思った。


 見ている人が誰もいないからって、油断して罪を犯すものではない——と。


 



夕方にもう一話投稿する予定です!


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