表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/19

18 俺の妹

 お風呂に入ろうとしたとき、三咲が「今からお風呂に入んの?」と聞いてきて、きっと今日七奈が予知ノートを書くんだろうなという確信が持てた。

 

 というのも、前から予知ノートが更新されるときは決まってお風呂から出てきたときだったし、その時は毎回三咲が俺に話しかけてきていた。

 それに二人の仲の良さから考えて、共犯なんだろうということは昨日の時点でわかっていた。

 

 いや、別に共犯って言い方してるけど、全然悪いことしてないんだけどね? ってかむしろ有能なパサー妹だなと感心しているくらいだ。

 ……パサー妹ってなんだよ。


 まぁそれは置いといて、とりあえず服を脱いで風呂に入るそぶりを見せる。

 これもすべて、七奈にあのノートを開かせるため。


「ちょっとお兄ちゃん! 私の前で脱ぐのやめてよ!」


「ん? 何照れてんのか? まさか照れてるのか?」


「ちょセクハラ! セクハラお兄ちゃん爆誕してるんですけど! 気持ち悪いよぉぉぉぉぉ!」


「んな大声で悪口言わないでくれます? 妹に罵倒されるの結構くるものがあるんだよ⁈」


「じゃあその粗末なものはしまえぇ‼」


「粗末……この野郎!」


「ひぇぇぇ~!」


 奇声を上げながら三咲は風呂場を出ていった。

 

 ……マイソンってやっぱり粗末だったのか……いや、修学旅行とかで「あれ? マイソン成長期来てないんじゃ?」とか思ったけどマジですかい。


 結構ショックに思いながら、風呂に入る——



 ふりをするッ!



 なぜならこの後俺は告白するのだから。


 さすがにお風呂に入ってからじゃ謎の時間ができるし、かといって全裸で部屋に行って告白すれば、本物のセクハラ野郎として死ぬまで罵倒され続けるに違いない。

 それにムードが台無しだ。


 そのため数分は風呂場で待機して、そろそろかと思って風呂を出た。


 とりあえず、夏に感謝。

 

 急いで服を着て、そして風呂場を出る。

 するとそこには、俺を見てあっけらかんとしている三咲の姿があった。


「お……兄ちゃん?」


 意外だったのか、それともこれを待っていたのか。

 どうも三咲の表情はわかりづらい。


「よっ」


「……どうしたの?」


「そろそろこの茶番を終わらせようと思ってな」


 俺のこの一言で、七奈と三咲の行動がばれているということを察したのか、肩の力をグッと抜いて浅い溜息をついた。


「お兄ちゃん鈍感主人公じゃなかったんだね。……いや、実は微妙な感じかも」


「まぁ確かに鈍かったかもしれないが、まぁこうしてちゃんと気づいたよ」


「そっか……」


 今度は明らかに安どの表情を浮かべて、いつも通り元気はつらつとした笑顔を浮かべた。

 俺もその表情につられて、頬を緩ます。


「なんで七奈に協力したんだ?」


「それは……お兄ちゃんと七奈ちゃんが全然くっつかないからだよ」


 すねたように放たれたその言葉に、俺はなるほど、と思う。


 確かに俺と七奈は「なんで付き合わねぇ―んだよ」とツッコまれてもおかしくないくらいに付き合っていなかった。

 というのも、お互い幼馴染ということもあって普段から距離が近く、それだからこそお互いの気持ちなんてわからなかったし、告白することに抵抗があった。


 でもそれは傍から見れば、きっとむずがゆいのだろう。


「私は早くお兄ちゃんと七奈ちゃんが結ばれてほしかった。幸せになってほしかった。だって私……ずっと二人のこと見てたから」


「…………」


「いつも仲良くってさ、明らかに両想いなのにお互いそれに気づいてなくってさ。もうほんと二人ともラブコメしすぎなんだよ。ほんと、好きな人すらできたことがない私にとってはむずむずしてしょうがないの! 早くくっつけ!」


「……そうだな」


「何よその大人な表情! むかー!」


「お前の兄なんだから、大人で当然だ」


「余計にムカつく~!」


 でも、今は大人になる必要なんてない。

 

 そろそろ行くか——


「じゃあ行ってくるわ」


 そう言うと、少しの間うつむいた後、満面の笑みを浮かべて俺の背中をトンと叩いた。


「早く行ってこい!」


「おう!」


 妹に恋を応援されるだなんて、思いもしなかった。

 でも俺と七奈がこうして踏み出せたのも、なんでもセクハラにしようとする、どうしようもなく世話の焼ける妹のおかげ。


「またシュークリームでも買ってやるか」


 そう思いながら、階段を上る。


 階段を上る間に、俺の決意は固まっていた。


 だからゆっくりと、落ち着いてドアを開いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ