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17 まさか

物語はとうとうクライマックス!

『そろそろ大丈夫?』


『うん! 今お兄ちゃんお風呂入ったから、行くなら今だよ!』


『了解!』


 三咲からのゴーサインを確認して、私は慶の家に入った。

 ちなみに慶のお母さんもこうして私がこの時間帯に家に来ていることは知っている。


 果たして何をしているのかは知らないだろうけど。


 お風呂場の方に視線を向ける。

 そこには三咲がいて、私に向けて堂々とサムズアップしてきた。

 なので私も、にこやかにグッと親指を立てる。


 一応音をたてないように、忍び足で二階に上がる。


 この泥棒みたいなことをしている背徳感が、実は癖になったりしている。 

 が、今回は告白の宣言をするだけあって、緊張している。



 ついにこのときがきたんだ。



 私の初恋は、そろそろ何らかの形で結末を迎える。

 少し寂しい気もするけど、私は前に進みたいと思ったから。


 だから、もう逃げ出したりしない。


「お邪魔しまーす……」


 慶の部屋のドアをそーっと開ける。

 

 そして机の上にノートがあることを確認し、手に取る。

 いつもはそこらへんに置かれているのに、今日は「どうぞ書いてください」と言わんばかりに机の上に置かれていて、ご丁寧にペンまで置いてあった。


「もしかして慶、このノートが嬉しいのかな……」


 そうなると、もしかして慶、私のこと好きだったりして——


「そ、そうだったら最高に幸せだなぁ……」


 ぽわぽわと妄想が連なって映像となり、脳内で再生される。

 

 慶と過ごす、恋人として過ごす生活。

 きっと楽しいものになるだろう。


 しかし今はそんな妄想はひとまず置いておいて、早く書かなければいけない。

 油断大敵だ。


 私はノートをぺらっとめくって、ついに宣言をしようと、そう思ったその時——


  

 私の目に飛び込んできたのは、こんな言葉だった。








『今から、七奈は幼馴染に告白される』








「えっ?」


 私こんなの書いてない。

 というかこの字って明らかに——


 混乱する頭の中で導き出される結論。

 それを口にしようとしたその瞬間、ドアがゆっくりと音を立てて開いた。




   ***




 きっと俺は、前からどこかこの予知ノートは七奈が書いているんじゃないかと思っていた。

 

 第一俺が生きている世界は現実。普通に考えて、本物予知ノートなんてあるはずなくて、誰かの仕業に違いないと思う。

 しかし予期せぬラブコメイベントに舞い上がってしまった俺は、「これは間違いなく予知ノートなんだ!」と信じこんでしまっていた。



 だからこの予知ノートが『七奈だけになら書ける』ということについて気が付けなかった。


 

 だってそうだ。今までのラブコメイベントは、意図的に作り出すことができる。

 すべてやっぱり現実だったんだ。


 そして根本的なこととして、七奈はなぜこんなことをしているのか。


 さすがに鈍感主人公ではないので気づいた。

 気づいたとき、凄く嬉しかった。


 しかしそれと同時に、このままでいいのか?

 という感情も湧いてきたのだ。


 七奈のアプローチをされるがままに受けて、そのまま七奈にだけ初恋を背負わせて、後は俺は返事をするだけ。

 そんなの、俺の初恋じゃない。


 だったらどうするって?


 そんなの決まっている。

 この予知ノートを、逆手に取ってしまえばいい。


 今度はこの予知ノートを、俺が利用してやる。


 七奈とデートに行った日の夜。

 俺の『予知ノート乗っ取り大作戦』は、こうして動き出した。

 


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