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12 お姫様抱っこ

「お前らとことん自由過ぎんだろ……」


 ふと壁にかかった時計に視線を向けると、もう深夜三時を回っていた。

 

 ようやく元気モンスターの二人が大人しくなり、これはそろそろ寝れるのでは? と思ったのだがなんとも自由なことに二人が寝落ちしてしまった。


 三咲はコントローラー片手にゾンビに食い殺されて寝ているし、七奈はまた俺のベッドですやすやと心地よさそうに寝ている。

 これがラブコメイベントなのだと言われれば確かにそうなのだが、もう眠すぎて頭がうまく回っていなかった。


「お兄ちゃんがセクハラしてくるよぉう……えへへ~」


 お前ダイイングメッセージにも「セクハラ」って言葉書くんじゃないか? 

 寝ぼけながら言うくらいだから相当その印象強いんだろうな。三咲が勝手に染みつけた印象だけど。


「ん、ん……」


 寝返りをうつ七奈。

 七奈は基本的丸まって寝るので、その姿が妙に愛らしく、目が異様に覚めてくる。

 

 可愛いのはわかるのだが、ここまでほったらかしにされたら俺の負担が大きいんだよな。

 世話の焼ける妹を二人もったような気分だ。


 とりあえず二人が俺の部屋で寝てては俺が寝れない。

 だって朝俺の部屋で起きたら絶対セクハラだって言われるし。それに実際何もするつもりはないけど何もしてない証拠はないし。


 ってなわけでこの二人を三咲の部屋に運ぶことにした。

 

 助かることにもうすでに七奈用の布団は母さんが用意していたらしく、後は運び込むだけだ。


「さてと、とりあえずゾンビに殺された三咲から運ぶか」


 テレビの画面が血に染まっているのが恐ろしいので消しておく。

 そして三咲の体をお姫様抱っこで運び、ベッドに寝かせた。


「お兄ちゃんが……お兄ちゃんが……」


「お前はブラコンか」


 ここまでくるとパシりも愛情表現なのかと思ってしまう。

 妹が普段は結構きつめに接してくるけど実は大好き、とかいう展開よくあるし。

 いや、それは俺がアニメやライトノベルを見すぎてるだけか。


 なんにせよ、兄離れはそろそろしてほしいものだ。


 次は七奈。


 ぐっすり眠ってしまっているし、運んでいる間に起きて「セクハラ!」とにらみつけられることはないだろう。

 だからといって、何もしないけどな?


「おいしょっと」


 恥ずかしいのだが、お姫様抱っこで七奈を持ち上げる。

 

 しかし女子の体が軽すぎる。

 確かに七奈は女子の中でも小柄な方ではあるが、赤子を抱いてるかのようだ。

 

 でもちゃんと発育していて、顔つきも昔に比べたらずいぶんと大人っぽくなってるもんだからタチが悪い。理性を保つので精いっぱいである。


 幸いにも妹の部屋は俺の部屋から近いため、時間で言ったらわずか十秒ほど。


 しかしそれがずいぶんと長く感じられたのは、言うまでもない。


「ん、ん……むにゃむにゃー。にゃー」


 夢の中で猫にでもなったのかよ。

 でもそういうギャップやめようね? 結構グッとくるんで……。


 三咲のベッドの横に敷かれた敷布団に、起こさぬようにゆっくりと七奈を下ろす。

 その後三咲と同様風邪をひかぬように布団をかけた。


「ふはぁー」


 昨日と今日に続いて夜更かししたら、さすがに眠い。

 今すぐに寝ようと思い、腰を上げて三咲の部屋を出ようとしたとき、服の端を七奈に掴まれた。


「ん? どうした?」


 起きてるのかと思い、そう声をかけたが七奈からの返答はない。

 しばらくの静寂の後、七奈は寝ぼけながらも確かに言った。





「気づきなさいよ……ばか……」




 

 その後、またすぐに寝息が聞こえてくる。


 ——今の言葉、どういう意味だ?


 というかそもそも起きていたのか、それとも寝ぼけていったのか?

 しかしその答えは、わからず、ほぼ寝かかっていた俺の頭は自分のベッドに行くことしか考えられなかった。


「おやすみ」


 だからそう一言だけ言って、今度こそ自分の部屋へと戻った。


 

 

 七奈の耳がほんのりと赤く染まっていたことは、誰にも気づかれず、夜は更けていく——



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