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20頁:最期、ではなく最後


 木箱の蓋を少しだけ開け…辺りの様子をうかがう。


 声は…しない。


 ついでに真っ暗だ。


 さて、ここから出ようか。




「あいたたた…」


 思わず声を出してしまうほど痛いや。


 木箱を出ようとしたら…転がるように出てしまったものなあ。


 幸い体の右から落ちたけれども…すごく痛かった。響いた!




 そういえば、思いだしたけど…僕時計持ってるじゃないか。


 寝ぼけてるかなー?


 時間は…十一時ちょうど、か。


 まあ、ちょうどいい時間かなあ。


 重い体をひきずりながら、学校中を探しまわる。

 …無駄かもしれないけど。



 一階は…誰もいない、二階も…しかり。


 いや、居るには居たけど…居眠りしている警備員さんだけ。


 とか言うと警備員さんがまじめに仕事していない風に思われてしまうかな?


 ちょっと訂正しよう。…居眠りしている誰か知らない人が校舎内にいた。


 …あれ、これでもまじめに仕事していない風かな?


 ま、いいや。



 とりあえず、クルクルさんの隠れ場所を思いついてしまったので…行こうか。


 今の時間を確認すると…十一時かなあ、暗くてよく見えないけど。


 体を引きずりながら、松葉杖だけに頼って歩く。


 ぺた、ごつ、ぺた、ごつ。


 スリッパと、ギブスのアンサンブルー。


 目指す先は…屋上。



 階段は…なんだか慣れてきた。


 痛みもほとんどしなくなったし。


 屋上への扉を引く…。


 思ったとおり、夜だというのに鍵がかかっていない。


 …寒かっただろうになあ。


 ともかく、屋上に侵入…あれ、校舎から出たことになるのかな?まあいいや。


「やあー、クルクルさん!見つけたよー?」


 目の前に…彼女が。




 いや、別にいないけど。


 …声すら聞こえてこない。


「ああ、探せってことね。…まあいいや」


 …と、フェンスの向こう側に人影が見える。


 座ってる…?


 


 本当に屋上にいるとは思わなかったなあ。


 何故この屋上を選んだのかは…よく分からないけど。


 隠れるに適した場所はもっとあったはず。


 鍵がかかる場所ならば、僕が入れないのだから…確実な勝利だろうに。


「もう一度言う、見つけたよ?」


「…」


 フェンスの向こうから返ってくるのは…無言。


 ともかく、彼女に近づいていく…人違いは、多分ない。


「あ、そういえばそっちにどうやっていったの?…このフェンスやたら高いけど」


「そこの穴からですよ」


 …返事があった。


 逆に驚きだ!



「…ほんとだ、こんな穴あったんだねえ…」


 人がかがんで通れる程度の穴。


 僕も…フェンスの向こう側の世界へ旅立とうかな。


 …クルクルさんの隣に立つ。


 あっは、クルクルさんが小さく見えるー。


「さて、…現在の時刻は十一時二十二分、僕の勝ちだけど?」


「そうですね」


「…来栖さん隠れてすらいないけど?」


「そうですねえ…」


「ああ、そうか。…最初からかくれんぼは、無意味だったのね」


 …僕もクルスさんの隣に座る。


 足を放り投げる形で…屋上の端っこに座る。学校の屋上は…やたら高い。


 こええええ!!


「はい。…あなたが誰かに見つかればいいな、とは思っていましたが」


「なるほどなるほど。…で、…かくれんぼのルールとして君は僕に従うべきなんだけど」


「…どうせあなたも従う気なんてなかったでしょう?」


「まーね」


 足をブラブラさせてみる。…落ちそうで怖いけど。


「ちなみに、何故記憶喪失のふりなんて?」


「んー?…普通の学校生活を送りたかったんだよね。…犯罪者の息子としてでなく、普通の男子生徒、として」


「…あなたらしいですね」


 あー、空がきれいだ。


 何だかんだで、星がいっぱい。


「で、…どうやって僕を病院送りにするのかな?」


 何か怖い表現に聞こえるけど…ようするに僕を捕まえて病院に閉じ込める、と。


「動けないほどに痛めつけて、ですけど?」


「あー、そう。…どうやって?」


 彼女はしばし考え込むようなポーズをとり…、


「あなたを殺して」


 と、にっこり微笑みながら言い放った。


 あっは、言うねえ。


 殺して…か。



「…まあ、いいけどさあ」


 と、ポケットに入れてあったガラス花瓶の破片を取り出す。…病院で拾ってきたんだ。


 もちろん、クルクルさんには見られないように…左手に持つ。


「殺す方法も、簡単ですよ?」


 左手で破片を固く握りしめる…食い込んで手が切れたけど、気にしない。


「んー、一応これでも何回も死にかけて生きてるんだけどなあ」


「でも…あなたはまるでポリシーみたいに守ってる一つのことがありますから」


 ポポポ、ポリシー!?


 僕にそんな変なものがあったのか。…すげえ。


「ポリシーって?」


 破片を構える。


 …狙いは彼女の右足。…逃げるためにはそれがベストだよねえ。


 嘘っぽいかな?




 彼女は少し考えるそぶりを見せる…と、いきなり立ち上がった。


 そして、


「あなたは人殺しだけはしてませんね。…人の死を見ていない、というのが適切でしょうか」


 と、そのままゆらりと、体を揺らし、


 


 こちらににっこり微笑みながら、



 そのまま、




 体を、




 空中に、投げ出す。



「なっ…」



 ぞくり、と、背中に何かが。



 …あー、あー!!!


 なんで、周りはこんな変なのしか居ないんだろうか!




 落ちながら、それでも微笑んでいる彼女に…手を伸ばす。


 


 届け、…ってか届け!


 望んでない、こんなの!




 手が、届いた。



 …気づいたら、僕も落ちているけど。



「ありがとうございます…千知(ちち)さん」


 微笑むのはいいけど、チチチチとかの変な呼び方はどこいった?



 まあ、いい。






 あーあー!




 何だろう、これ。




「死ねよ、来栖さん」


「…なら、殺してみてください」


 くだらない会話。




 とても、地面が迫ってきているとは考えられない程の、…くだらなさ。




 クルクルさんを抱きかかえるようにして…、




 僕は、背中から落ちた。






 それは、痛いとか、痛くないとか、…そういう問題ではなくて、




 体に衝撃が走る。




「…おやすみ…っ、なさい…千知(ちち)…さん」


 最期に…ってこの表現ヤダ。


 最後に見たのは…クルクルさんの苦しそうな顔。


 落ちた衝撃で痛かったのかー。






 あっは、…まあいいや。




 おやすみ、…みんな。



 

これはあくまでもフィクションです。…決して真似をしないようにしてください。…あなたの健康を害する恐れがあります。

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