1頁:記憶喪失
ああ、晴れやかな朝。
いいなあ、こういうの…。
ずっと憧れていたんだよね。
「あ、千知くん、起きた?」
「うん、あー…うん」
そうそう、実はね僕の名前は千知と言うらしいんだ。
千を知ると書いて千知。
…いやー、親の過度な期待が分かっていい名前だね。
ヂヂヂ…ヂヂ
またあの音だ…。
…ノイズと表現するべきなのかな。
うん。突然だけど、ここで自己紹介でもしておこうかな。
いや、別に読者とか知らないよ?そんな天の上の存在なんか知らないよ?
で、僕の名前はさっきも言ったとおり千知。
身長は多分175くらいだったらいいけど、どうやら165らしいね。
体重はヒ・ミ・ツ。
うん、後どうでもいいことなんだけど、僕は何かの理由で記憶喪失なんだって。
でー、今は何をしてるかって言うと、病院でニート生活ってところかな。
一応成績はトップクラスだったらしいし。
あ、そうそう、何で僕がこんなに明るいかって言うとね、暗すぎると大変なことになるからだよ。
皆だって、暗い主人公よりも明るい主人公の方が好きでしょう?
それと、あそこにいるのが…えーっと…
「えーっと…百藻さん?」
「もう、いい加減幼馴染の名前くらい覚えようよ。なーに?」
ああ、百藻さんです。
きれいな声の可愛い女の子。
何と僕の幼馴染なんだって!やったね!
「いや、何でもないよ」
「もう…。そうだ、リンゴいる?」
「いるいる、多分リンゴは好きだったと思う」
あー、記憶喪失って意外と楽しいねえ。
誰だか知らない人が世話を焼いてくれる感覚は他では味わえないね。
ヂヂヂ…ヂヂヂヂヂ
あー、ノイズうるさい。僕が話してるんだ邪魔するな。消えて消えてなくなってしまえ。
「はい、リンゴ」
モモちゃん(脳内ニックネーム)が僕にリンゴを渡してくれる。
…わお、可愛らしいウサギリンゴだよ。
「おいしい?」
モグモグ、シャリシャリ、ヂヂヂヂ。
何か変な音混じったかな?気のせいだよね。
「おいしいよ」
うん、甘いようで酸っぱくて、そのくせ味が薄くて…実に季節外れだ。
一通り食べると、手がベタベタ。
何故かベッドから起き上がろうとすると怒られるので、シーツで拭こう。
決して面倒なわけではないんだ。
「ほんと、千知くん明るくなったね」
「あはは、百藻さんが知ってる僕がどんな僕かは知らないけどね」
「あはははは」
あはははは、ぐりぐりと抉るように打つべし!って?
あは、いってー。
「あ、そういえば、千知くんも2学期からまた学校来るんだよね?」
「うん、また学校行くよ」
…あはは、いい加減まじでいってー。
ヂヂヂ…
うっさいノイズ。お前うるさい。今機嫌悪いんだよ、僕は。
あー、ノイズごときに八つ当たりするとは、僕も落ちたものですな。
「あ、そろそろ面会時間終わりじゃないかな?」
「ほんとだ!…じゃ、また明日ねー」
モモちゃんは元気に手を振って、
「はいはーい、じゃあねー」
僕は何故か軋む右腕を弱弱しく振って、お別れする。
ああ、悲しいなあ。彼女と明日まで逢えないなんて。
悲し過ぎてよく眠れそうだ。
コンコン
ん?何の音だろう。
コンコン
ああ、扉に何かが当たってるんだ。
コンコン!
んー、ノックの音って奴かな?
コン!ゴン!
どうしようかな、…眠いなー。
「面会謝絶チューです」
よし、寝よう。
コンコン!!
ヂヂヂヂヂヂ…
あー、残念ノイズがうるさくてノックの音が聞こえないや。
当然誰かが来たなんて気づけてないっと。
じゃ、おやすみ。