17頁:かくれんぼ
ん…体痛いなー。
とりあえず、起きよ。
あっは、よかった…まだ大丈夫みたい。
松葉杖を使って、病院の外へと出る。
今の時間わかんないや。
とりあえずー、夜。
「チチチチチさん」
呼ばれた?
いや、僕の名前は千知だけど。
…でも、呼ばれたと思うなあ。
信号待ちして正解だったね。
「…呼んだ?」
「ええ、呼びました」
…なんだか、また知り合いに会っちゃった。
クルクルさんか…。
「んー、…全部知ってる?」
「…はい。貴方が記憶喪失でないことも、現状も…全て聞きました」
「やっぱりそっかー」
ここまでは、予想どおりかな。
「…百藻さんと、西川先生はどちらに?」
「ん?…会わなかったけど?」
「その回答は不適切です。…貴方はやっぱりと言ったのですから」
「え?どういうことー?」
「聞きました、にたいしてやっぱり…つまり、貴方は他に知っている人がいる事を知っていることになります」
「…あらー、ミスっちゃったなあ」
むう…なかなか鋭い。
「また、まだあの二人と会っていないのならば、貴方が病院を出る必要性がありません」
…んー。
「鋭いね」
「もう、敬語の仮面はやめましたか」
「うん」
だって、無意味だもの。
あっは。
「…で、来栖さんも僕を捕まえに来たのかな?」
「おおよそ、その推理であっています」
おおよそ、ね。
「あ、信号変わるね」
二人並んで歩きだす。
…もっとも、僕は右足と松葉杖だけ、しかも片方だから、変な歩き方だけど。
「…」
「…」
無言。
あっは…ここまでは…まだ大丈夫。
「で、どうやって捕まえるつもり?」
「…貴方が私に会おうとしていることも知っています…その理由も」
「理由って?」
んー、なんのことやらー。
「貴方が記憶喪失ではない、という事を知っている人を、説得…するためですね」
「断定するね」
「事実ですから」
…あっは、テレパシー能力でもあるのかな?
よく知らないけど。
「で、どうやって?」
「簡単な話です。…あなたの土俵からあなたを外せばいいのです」
「よく意味が分からないんだけども」
「…賭けをしませんか?」
「ああ、なるほどねえ」
言いたいことは分かった。
…僕がそれにのるかは知らないけど。
ってかクルクルさん優しいなあ、僕に歩調を合わせてくれてる。
「もはや、あなたに勝負事で勝てるとは思えません…喧嘩もしかりです」
「それで?」
「ですので、最も私の勝てる確率の高い土俵で戦って貰います」
「僕がそれにのるとでも?」
「のらなければ、逃げるだけです」
ま、だろうねー。
足の速さで勝てるわけがないし。
…今の僕じゃ、無理だしなー。
「で、どんな賭け?」
「私が勝てば、貴方は大人しく入院する。…貴方が勝てば、お好きにどうぞ」
「…内容は?」
「かくれんぼです」
「かくれんぼ、か」
「はい。…私が学校のどこかに隠れますので…24時間以内に私を見つけてください」
「…なるほど…ちなみに今の時間は?」
「深夜1時です」
はー、なるほどー…考えやがったなー。
「実質制限時間は…3時間と4時間ってところかな」
「何をおっしゃっているのかよく分かりませんが、24時間です」
よく言うよ。
どうせ、24時間全て使わせる気なんてないくせに。
ま…分かってたけど。
っと、学校が見えてきた。
…結構長い時間喋ってたんだなあ。
右足つりそうだよ。
「…では、隠れさせていただきます…深夜2時にスタートと致しましょう」
「あ、時計貸してくれない?」
「どうぞ」
そういって、腕時計を僕の右手につけてくれる。
「では」
「健闘を」
「祈りません、私が勝ちます」
「…頑張って」
そういって、クルクルさんは学校の門を乗り越えて、振りかえることなく学校へ入った。
…背筋伸ばしてかっこいいー。
はー。
んー、あっは。
…簡単なゲーム…にはなりそうもないなあ。
結構手ごわいぜ、あの人。
逃げ場の少ない屋上にやって来てくれた二人とは大違いだ。
…むう。
ま、いいや…。
2時まで寝るとしようかな。
おやすみ。
検討を祈るよ、クルクルさん。
頑張って、…勝ってね。