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15頁:真実と魔法



んー、いい目覚め。


ノイズのないってのはいいね。



あっはー。




ガチャリ…あ、扉が開いた。


ああ、ノックの音で目が覚めたのか。



コツ、コツ…と、靴の音。


近づいてくる。




…違う。






「やあ、…待ってたよー。おはよう」


「…おはよう」




あっは。



…いやー、…あはははは。


見下ろしてくれるねえ…。




僕が座ってるから、だけどさー。



「…これは?」


「ああ、これ?…ちょっと右手怪我しちゃってね、血が出てさー」


「…」



あっはははは。



…ふぅ。



「…っ」


「どうしたの…?泣いてる?」


「…っ…るさい」


ポタリ、と、垂れる滴。


暗闇に光る…滴。


涙、ってやつだね。





涙かあ。…懐かしいなあ。


「何で、泣いてるのー?」


「…」


眼をこすりながら、…それでも僕を見つめてくる。




…ああ、彼女の眼からは…どこまで知ったのか、分からないや。



「…何で?…ないてるの?」


「…悔しい…っ…から」


悔しい…か。


ああ、…可愛い顔が台無しじゃないか…。



「泣かないでよ…、僕まで辛くなっちゃう」


「っく…」


ああ、…きれいな声が…台無しじゃないか。


「ねえ、泣かないで…?またきれいな声で僕を呼んでよ」


「…っ…千知…くん」


ああ、きれいな声。



…ある意味、待ってたよ。


ぺたりと、僕の横に座り込む。


あー、泣いてる人を見るのは辛いなあ。


「なんで…っ、前の千知くんじゃないのっ…」


グサリ…。


あっは。



…そっか、うん…ノイズはもう鳴らないね。


まるで…歯車の軋むような…、ゼンマイをまきすぎたような…。


ノイズは聞こえないね。


「…ああ、ごめんね」



…よかった、モモちゃんにも…ばれてないみたいだ。





「…なんで…そんなに嘘を吐くの?」









…え?






「…分かってるよ」






あっは…。





ばれた?



「…嘘…?百藻さんに嘘なんて吐いてないよ?」



「もう、…いいよ」



…横を向いて…彼女の顔を見る。





…泣きやんで、まっすぐ僕を見つめている。





あー、ばれたかな?



「ばれた?」


「…うん」



まさかなあ…。



モモちゃんに…ばれるとはなあ。




「なんで…記憶喪失のふりなんて…」


「さあ?…何でだろうね」


あー、ばればれだー。



「…ところで、何で気づいたの?」


「勘…だよ」


「…まさか」


ばかばかしいー。


つー、あっは。



ノイズ…なくなったんだっけ。


あー、きっつ。





頭ぶっこわれちゃうよ。





「答えて…、何で、記憶喪失のまねなんか」


「日常を守るためかな」


…ふう。


「日常…?」


「そう、日常。…僕なりのね。例えばさ、学校帰りに遊ぶとか、授業受けるとか」


「…」


「あとは、…彼女を作るとかさー。…そんな日常」


「…それが、どうして」



…答えなきゃ、だめかなあ。



「あ、ちなみにね…。ちょっと訂正すると、起きた頃は本当に記憶喪失だったんだよ」


「…どういう…」


「自己暗示…で。記憶喪失にね。…ま、ばれちゃったみたいだけど」


「…」


「あと、なんで記憶喪失にわざわざなったか、だね」


「…うん」


「それはねー、…嫌だったんだ。…事件の事を言われるのが」


「…」


…黙って聞いてくれてるのをいいことに、一気に言うかな。


「両親が死んでさー、そのこと言われたくなかったんだ」


「…え?」


「だから…両親が犯罪を犯して死んだことを、言われたくなかったんだよ」


「…もっと言うとさ、両親なんか関係ない、自分だけの日常を守りたかったんだ」


…本心に、最も近い…言葉かなあ。


「そう…」


「あっは、…いいね。その…軽蔑した眼」


うん、…もうなんか、慣れた。


「君さ、…僕の事好きだったんでしょ?…僕の両親が犯罪…死ぬまでは」


「…今でもそうだよ」


「嘘だよ。…両親のおかげで、…その日常も、奪われたわけだ」


「…嘘なんか」


「もう、面倒だから、黙って?」




なんか、疲れたー。


体痛いし。




…ってか、うん。



別に、モモちゃんお呼びじゃないんだけどな。


…正直、邪魔…だなあ。


ほんとは…演出のために頑張って仕掛けたんだけどなあ…ま、いいか。


「…ねえ、百藻さん…魔法使いって…信じる?」


「え?」


「ほら、こんな風に…火とか出したりさー」


僕が指を鳴らすと、…手の中に火が巻き起こる。


まるで、魔法のように。


…人差し指すっげー痛いけど。


「え、な…あ」


「あとは…ほら、…物を燃やしたりさ…」


その手の中の火を…放り投げる。



…まるで焚火のように、屋上で燃え上がる洗濯物。


それに照らされて、まるで昼間みたいに明るいなー。


「ひ…やだ…え?」


「ねえ…魔法使いって…信じる?」


手を…モモちゃんの方に向ける。


…指を鳴らす姿勢をとる…。




「やだ…いや!」


…扉を必死で開けて。





最後に、こっちを、…まるで怪物でも見るような眼で見つめて。








走り去る、モモちゃん。


頑張って逃げるんだよ…僕から。

…追わないけど。


別に恋人関係じゃないしさー。




「さて、早く来てくれるといいなあ…熱いや」



あー、何か忘れてたけど、体動かない。





しかし、モモちゃんもあんなのでよくだまされるなあ。



手の中にマッチとアルコールにつけたハンカチを持ってただけなのになあ。



んー、ばかばかしいや。


ふう。





あー、眠い。



あっは。


やっぱりなあ…無理はよくないや。





ノイズという防衛ラインが消えてから…心が三段飛ばしで衰弱していくよ。



すごい…疲れる。







おや…す…み…。




…あったかーい。




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