14頁：日常は戻らない
ヂヂ…ヂヂヂヂ
針の刺すような痛みが頭に響く。
ヂ…ヂ…
…うるさい。
頭痛い。
あー？
んー。
だが、それ以外の部位に感覚がない。
あー、思いだした。
…うん。
僕、轢かれたんだったね。
あー、生きてるっぽいな。
僕。
…そう、僕はまだ生きているね。
ま、どーでもいいけど。
あっは。
眼を開ける…。
…周りには誰もいない。
ま、当たり前だよねえ。
今まで…変過ぎた。
モモちゃんも、クルクルさんも、西川先生も、ナースさんも。
…みんなやさしかったものねー。
さて、どうするかな。
定番の状況確認？
左手…ギブス、多分骨折…まだ若干麻酔が効いてたり。
右手は、平気っぽいなあ。
…残念ながら、サウスポーなんだけどね。
あ、ついでに点滴刺さってる。
足は…左足が吊るされてる。
うん、折れてるんだろうね。
あー、結構痛くなってきたなあ。
脇腹もちょっと痛いや。
さて、ナンバーも全然見てなかったしなあ。
…赤い…乗用車？
まー、変な色と言えば変な色だけど。
あっは、手がかりあんまりないねー。
ま、事故じゃないだろうけど。
うん。
…あー、どうするかなあ。
体、重い。
ヂヂ…ヂ…
あっは、結構静かになってきたね、ノイズ。
…そろそろかー。
っちっくっしょー。
…まだ、やり残したことがあるんだよね。
全てを元通りにするには、少し早い。
少し？…いや、だいぶ。
あーうー、なんか、じわじわ痛くなってきたー。
頭もなんか包帯巻かれてるし。
んー。
どうしようかな。
ヂ…
あ、ノイズ止まった。
…静寂。
久々ー。
夢以来だね。
あー、何。
時間ないかんじ？
おっけ。
…まだ、麻酔効いてるしね。…いけるだろー。
左足をちょっと浮かす…、よし外れた。
ボスッと、ベッドに足が落ちる、痛い。
…そのまま、落ちる。
ベッドの下に。
ついでに、点滴抜けた。
すっげー、痛い。
あっは、なんかこの感覚も懐かしいな。
あー、よし、行こう。
ずりずり…這いつくばって進む。
何でー？
…それはね、もうちょっとだけ頑張るためだよ。
何自問自答してんだろ、きもちわるっ。
おっけ、扉―。
…右手で頑張って開ける。
スライド式っていいね。
結構距離があるけど、行かなくちゃ。
ずりずり…EXITの明かりを頼りに進む。
さて、ここが関門だなあ…。
…階段。
がんばろ。
12段だし。
よいしょ、よいしょ。
ズズズズ…。
ずり落ちた、すっごい痛い。
何度かチャレンジしてたら、右手の爪剥がれちゃった。
…人差し指痛い。
もっかいいくぜー？
よいしょ。
左手を段にかける、右手を同じ段にかける。
体をひっぱりあげるようにして、右足を下の段にかける。
体を伸ばして、左手と右手を上の段に。
左足？放置だよ、そんなの。
あー、ついた。
扉…かあ。
手すりにつかまる。
よいしょ…。
おお、立てた。
扉を開ける…踏ん張ったら落ちそうになった。
…やってきました、屋上！
痛い。
…こけた。
はぁ…ふぅ…。
ちと、疲れたなあ…。
夜風が心地いーや。
眠りたいけど…その前に、最終確認だ。
時計を…って、外されてらー。
んー、どうするかなあ。
ってか、こけたままでいるとちょっと寒い。
壁によりかかって座る。
フェンスの鉄の感じが妙に心地いい。
…あっは、マゾ？
さーて、うん。
車に轢かれて、…あー、なるほど。
結構点滴の後がいっぱいある。
んー、だいぶ寝てたみたいだね。
…どうりで、心配してる人が見えなかったわけだ。
っつ…。
もしかしたら、来ないかなあ。
…くるよね？
来るよねえ、まだ終わってないもん。
…まだ、終わってないもん…ねえ。
眠い…うあー。
…ふう。
ったく、…はあ。
どうしてみんな、ありのままの、記憶喪失した僕を受けとめてくれないのかなー？
…右手が血まみれ…床に塗ってダイイングメッセージごっこ。
って、ばかなことやめよっかー。
うん。
あっは。
ったく、この町の人皆病んでるよなあ。
…あー、ネタバレしたい気分。
ダイイングメッセージにねー、何で、この町で、この短い期間で、犯罪が…。
…息継ぎ。
っと、どこからだ…？…ああ、犯罪が…多いのか、その理由を、書いてみました。
…あっは。
寝よ。
おやすみー。
