第1話:今か未来か。天秤をかけよう
一学期期末テスト。
その言葉を聞いた生徒たちの反応は様々。悲しみの渦に巻き込まれていた。今回は自身があるぞと張り切っていた。もうそんな時期かとぼーっとしていた。
偏差値の差が激しいこの高校では十人十色な反応を見せていた。
そんななか、俺たちと言えば、
「ふぁあ……」
「……大丈夫? すごく眠そうだけど」
「もしかしたら授業中に寝ちゃいそう」
「勉強することは良いことだと思うけど、それで一番良い学習方法の授業が受けられないなんて本末転倒、無意味極まりないわ」
テスト勉強で睡眠時間を限界まで追い込んだ、そのおかげか今にも倒れそうな、俺。
それに比べて彼女は、いつもと変わらない様子で俺の家まで迎えに来た。テス勉なんてしてないらしい。うらやま。
俺たちはいつも通り、図書館で勉強をしていた。
今日は英語。いつも通りテスト的なモノをやり終わった時の事だ。
「英語は文法と単語は大丈夫。後は熟語と長文だけど……」
彼女は俺をちらりと見て、
「今日はやめた方がいいわね」
そう口に出した。
「やめる?」
「うん」
「なんでだよ」
「私に死体蹴りをしろと言うのかしら」
「俺は死体なの?」
「顔の色的には水死体に近いわね。これでデブだったら土左衛門間違いなしね」
「ひどい」
「ふふふ。まだ結構時間あるし、寝る? 膝枕してあげるわよ」
彼女は笑いながらそう呟く。
避けがたい魅力的な提案。
だけど、今は、それをしてる場合じゃあない。
「いや、勉強するよ」
気持ちは嬉しいんだけどね。なんて付け加えながら、採点が終わったテストもどきを見る。
先ほど彼女が言った通り、文法、単語は大丈夫そうだ。となると、熟語と長文が問題になると。あと今日はやらなかったけどリスニングについても聞いてみるか。
なんてことを考え、彼女の顔を見る。
顔が強張っていた。
「……なんで?」
「え?」
びっくりして硬直していたが、彼女の声によって治る。
「なんで私を選ばないのよ?」
「え、選ぶ?」
「そうよ。なんで私じゃなくて英語を選ぶの?」
「いや、だって――」
そこまで言って気づく。
嫉妬してる? 彼女は英語に嫉妬してる?
そんな馬鹿な事がと思ったが、蚊に嫉妬した前科があるしあり得ない話じゃあない。
となると、誤解というか、その、彼女の理不尽な嫉妬をどうにかするしかないだろう。
「……だってから先の話が聞きたいんだけど?」
「ああごめん。えっと、俺が勉強頑張っている理由は知ってるだろう?」
「……上のクラスに行くためでしょ」
「厳密にはお前のクラスに行きたいんだよ」
言葉の最後に彼女の名前を言って、念を押す。
何かを伝えたい時にはととても効果的な手だ。
「俺はな、お前と一緒に過ごしたいんだよ。同じクラスで過ごせたら休み時間の間も一緒にいられる。席が隣ならばさらに良い」
だから、
「お前を選ばなかったんじゃあないよ。お前との将来の時間を選んだんだ」
そう言い放った。
「……そう」
彼女は腕を組んだ。考え込んだようだ。
しょうもない事で嫉妬する彼女だが、なんだかんだ頭が良い。感情を理性で丸め込める人間だ。きっと、いや、絶対分かってくれる。
考えている間に勉強で寝ないようにコーヒーでも買おうかな。
そう思ってメモ帳に「自販機行ってくる」と書く。
彼女は考え込むと周りの言葉が聞こえなくなるのだ。本当は一緒に行った方が良いのだが仕方がない。……いや一緒に行きたいなぁ。やっぱ待とうか。
彼女の考えている内容なんて考えずに、俺はしょうもないことを考え始めた。
「でもなんかムカつく」
だからその言葉を聞いた時びっくりした。




