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第2話:プラネタリウム

 文化祭の出し物は様々なものがある。


 屋台、喫茶、輪投げ、光線銃、VS嵐にあったコインを摘む回転する台の奴、お化け屋敷、人力ジェットコースター、VS嵐にあった落ちる棒をキャッチする奴。


 全部挙げようとすると途方もない時間がかかるほどに多い。


 部活は、運動部系は屋台が多く。それ以外はその部活独自の特色を用いた出し物を出す場合が多い。


 例えばこの天文学部では、自作プラネタリウムを公開していた。


 教室の窓から入る光を厚手のカーテンで遮断。とても暗い空間に星を模した光が投影されていた。


「綺麗なんだけど、首の骨が折れそうだ」


「横に投影すると、夜空の星の感じが出ないと思うのだけど」


 プラネタリウムの投影位置は真上の天井だった。


 見るには上を見上げなければいけなく、首が痛い事を彼女と笑いあいながら愚痴った。


 そんな時、横から高い声が聞こえてきた。


「え、と。このプラネタリウムはですね。実際の星空を模したものになります」


 小柄の女性だ。天文学部の部員だろうか。部屋の中央に置いてあるプラネタリウム投影装置について解説を始める。


「この星空は4月ごろの星空を再現したものなので、今の時期に見える夜空とは真逆の星空を楽しめるんです」


 ほら10月では見られない星があるでしょう、っと丁度真上に投影されている星に、指を指す。


 ……分からない。この星は今の時期は見れないのか? 星の知識についてはさっぱりなんだ。なんて思っていると、


「確かに、今の時期にカニ座は見えないわね」


 彼女が興味深そうにそう呟いた。


 カニ座らしき星をもう一度、じっくり見るが……分からない。いったいどの辺がカニなんだろうか。


 彼女に聞いてみよう。なんて思って顔を下げると、彼女が部員に向かって話していた。


「かに座は分かりやすく光る星が無いから、形で覚えないと分からなかったわね」


「12星座の中では最も暗いんですよ。うお座と同じで、3等星以上の明るい星が無いことも特徴ですね」


 とても楽しそうだ。部員は笑顔で、彼女も笑顔だ。


 ……俺と彼女はあまり趣味の方は合わない。だから話す内容としては、最近あったニュースやら何やらの話になる。だから彼女と趣味な話はあまりしない。するとしても片方が常に聞き手になる。


「流石にこのプラネタリウムだと星雲は書けなかったの?」


「流石にそれは……透明なフィルムを加工して作ろうとしたんですけど無理でした」


 だからこそ、見ていてイライラする。彼女が女部員に笑顔で会話しているのを見て、イライラしてしまう。


 その笑顔は俺があまり見ない彼女の笑顔だ。対話して意見を交換し合う事に対して喜びを感じている顔だ。


 ――だから、悔しいんだ。


 彼女の趣味に歩みよろうとしたことはある。でも無理だった。分からないんだ。どこがおもしろいのか全く分からない。


 彼女は「無理しなくて良い」とも「確かに趣味を一緒に楽しんだ方が楽しいけど、その楽しみ方は1つじゃない。ただ聞いてくれるだけでも楽しい」とも言ってくれた。


 でも、悔しいものは悔しい。


 一緒に、一つの趣味を熱狂的に語り合いたかった。話したかった。


「カニ座の扱いについて知ってます?」


「ヘラクレスに攻撃したけど、ヘラクレス自体は気づかずに踏みつぶされて殺されたのよね」


 部員と話している彼女の手を今すぐ引っ張って、教室を出たかった。


 でも、それはしてはいけない判断だ。そんな事をすれば、迷惑をかける。


 思い出せ、演劇の役決めの事を。


 あんなことにならないために、俺は耐えねばならない。それが一番良い対応なんだ。


 彼女と部員の会話が終わるまで、俺は良く分からない星々を観察していた。


 高い、キンキンした声が耳障りだった。

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