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第1話:たこ焼き

 文化祭、1日目。


 開会式は前日の放課後に終わっており、学生の出し物は朝8時からの準備時間後、9時に一般人にも解放される。


 準備時間で学校は今頃てんわやんわしているだろう。うちの学校はとても広くて生徒数が多いのだ。


 なぜその事を俺は人ごとのように語っているのか? それは実際に人ごとで、俺たちのクラスの出し物が演劇だからだ。


 休憩室と言う名の空室をいくつか確保するために出し物の中には教室を一切使わないものがいくつか選ばれる。その一つが演劇だ。


 そして我がクラスの演劇は2日目の午後に行われることになっており、つまり言うと1日目はやる事がないのだ。


 部活や委員会活動を行なっている人間ならば、そちらの出し物や活動があっただろう。だが、それすらもやってない俺らは、本当にやる事が何も無い。


「……」


 無いのだが、やりたい事があった。


 文化祭デートだ。


 時刻は9時くらい。俺は彼女の家の前にいた。


 昨日は夜遅くまで演劇の練習をしていたので、起きるのが遅くなったのだ。


 ……何が「明日から一通り通した練習ができないから遅くまでちゃんとやろう!」だ。おかげで彼女と文化祭を楽しむ時間が減ったじゃないか。


 なんて副学級長への呪詛を吐きながらインターホンを鳴らす。ピンポロロン。一風変わった電子チャイム音が彼女宅に鳴り響く。


 はーい、と彼女の声がして家のドアが開かれた。




 @




 彼女の親いわく、「明日に文化祭を見に行く」らしいので、俺達二人で楽しみに行くことができた。


 何時も見ているはずの校舎は、生徒の手によって賑やかになっている。


「賑やかにするのは良いんだけどさ、万国旗を飾る意味が分からないよな。日本のこんな高校だけで行うイベントだし」


「万国旗は華かなイベントの象徴なのよ」


「万国旗が華やか?」


「そう、もともと万国旗は万国博覧会に使われてた物なのよ。日本が参加したのは明治時代ころの話だから、とても派手で華やかだったのよ」


「それで万国旗が華やかなイメージになったと?」


「私はそう聞いたわ」


 なんて話ながら、俺達は文化祭を楽しみ始めた。


 学校の門から玄関口までの距離はそこまで長くはない。長かったら生徒が大変だろう。歩いて一分もかからずに横断することが出来る。


 そんなせまっ苦しい通路には所狭しと出し物の屋台が並んでいた。


 歩くだけで食べ物の匂いが漂ってくる。焼きそばやたこ焼きのソースの匂い。綿あめやポップコーンの甘ったるい砂糖の匂い。朝飯を軽く済ませた俺の胃を刺激してくる。


 そんな気持ちが顔に出ていたのだろうか? 俺が少し目を離した間に、彼女はたこ焼きを、


「はい」


 食べさせてくれた。


 とても粉っぽい味。慣れない学生が作った物だろう。そんなたこ焼きをゴクリと飲み込む。


「……嬉しいんだけど、いつ買ったんだよ?」


「貴方が校舎を見てる時だけど」


 嘘をつけ。校舎を見てたのは数秒だ。


 その数秒の間にたこ焼きを買って、パックを開いて、俺に向かってアーンは無理だろ。

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