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第4話:俺はその目の前で祝福しろと?

 どうしてだ。


 周りからの笑い声が更に激しくなる。うるさい。そこまで大きいとは言えない教室中に広がって、反響する。


 だけど、それよりも小さな水滴音が俺の耳に大きく響いた。


 俺は立っており、彼女は俺に寄りかかるように座っている。俺の目には彼女の顔は見えない。が、泣いているのは良く分かった。


 どうしてこんな事をしてしまったんだろう。


 この時出来る行動は何だろうか。ズボンの右後ろポケットに入っているハンカチ。それを取り出し彼女の涙を拭くべきなのか。


 いや、そもそも彼女に謝るべきだろう。どう謝るべきなのだろうか。何から謝るべきなのだろうか。


 現状を変えるための行動を考える。考えようとする。


 だけど、この考えが頭を掴んで離さない。


 俺はどうしてあんな行動をしてしまったのだろうか。


 いや、原因は分かっている。俺がロミオに嫉妬したからだ。


 彼女がジュリエット役ならば、そのロミオ役は彼女と1度結ばれることになる。それが劇と言う現実ではない世界だとしても。


 それは嫌だ。嫌だ。絶対に嫌だ。


 別に本当に結ばれる訳じゃないとしても、空想上の出来事だとしても、嫌なのだ。


 だとしても。


 もっと良い方法があったはずだ。なんで急に俺は叫んだんだ。なんで喧嘩を売るように叫んだのだ。


 あまりにも感情的な行動だ。理性的ではない。論理的ではない。後の事を一切考えてない。


 でも、当時の俺はそのことに一切疑問を抱かなかった。


 立って、叫んで、彼女が困惑しても、その困惑先が俺ではないと曲解して再び叫んだ。そして彼女から起こされただろう水滴音でやっと理解したのだ。


 ゆえに今回のコレは俺が暴走してしまったで片付けることが出来る。今後は暴走しないように気を付ければよい。


 だから、今やることは起こってしまった事を鎮める事だけだ。そうするべきだ。


「……」


 だけど、行動が出来ない。誤るという初歩的な行動すら出来ない。


 さっきから背筋が冷たい。汗が出て下着が肌にくっつくのが身に感じてわかる。


 体調が悪い。平衡感覚が失われ、地震なんて起きてないはずなのに、グラグラと視界が揺れる、揺らぐ。


 考えられるものは、どうしてそんな事をしてしまったんだと後悔する事のみ。


 それはさっき結論付けたはずなのに、後悔が湧き出る。何回も出る。止まらない。


 もう一度、後悔しては前に進めないから、これからの事を考えるのが大切だと思い込む。思え。


 俺の叫びによって周りが笑った。その原因は何だ。俺だ。笑いが起こるような行動をした俺が原因なのだ。つまり俺がそれを払拭するような行動をすればよい。


 つまり、するべき行動は謝罪だ。勢いあまっての行動をしてしまったと素直に謝れば良いのだ。


 よし。言え。言うんだ。言葉を出すために口を開ける。


『……なんで彼女がジュリエット役なんだよ』


 口からは何もなかった。音1つ出なかった。


 ああ、俺はどうしてあんな行動をしてしまったのか。


 あのような感情的な行動をしなけれ――いや、それはさっき結論が出ているだろうが! 反省は後でやれば良いんだ! 今はこの先の事を考えて行動しないと!!


 何回も何回もクルクルと、後悔と理性が入り乱れる。


 俺の理性は今すぐ謝罪するべきだと分かっているのだ。それでも、後悔がゾンビのように湧き出る。


 口を動かそうとするたびに先ほどの発言が頭を過る。また、あんな感情に任せた言葉が出てしまうのではないかと恐怖している。


 クラスメイトらの笑い声が耳に響く。誰の笑い声なのかは分からない。笑う人が多すぎて無茶苦茶に反響している。とても深いなノイズ。


 でも、それよりも明確に感じられる水滴の音――


「……」


 ……今更だが、何故彼女は泣いているのだろうか?


 彼女の感情の変化は、戸惑いから泣きだ。俺の行動に戸惑って、その後まわりからの馬鹿にした笑い声によって泣いた。


 つまり、彼女は俺が馬鹿にされているから泣いているのか?


 ……そうだよな。自分の彼氏が馬鹿にされていたら、悲しいよな。俺も彼女が馬鹿にされていたら悲しむだろう。


 だったら、やるべき行動は1つだ。


「えっと、ごめんなさい。つい感情的になっちゃって叫んじゃったよ」


 俺の中ではちゃんと言葉にして言ったつもりだ。まだ後悔が渦巻いて、唇は震えていたけど、ちゃんと言ったつもりだ。


 なぜなら、これ以上、彼女を悲しませるわけにいかないから。


 俺は、しっかりと、しなくちゃいけないのだ。


 声が届いてくれたのか、笑い声が徐々に収まっていく。なんだなんだという好奇心の目が俺を刺す。


 そんな時、黒板前に立っている副学級長が声を出した。


「まぁ、そんな感じはしてた。俺の意見なんて嘘っぱちだって勢いだったし」


「えっと、ごめん……」


「それよりもさ。さっきの声の張り方良かったんだけど、演技でもなんかやってるのか?」


「え?」


 演技?


「やってないけど……」


「えーマジ? 舞台役者顔負けの叫びだったぞ」


 何故か知らないが、急に叫び声を誉めだす副学級長。


 そう思うよな? なんて、周りに呼びかけ、周りのクラスメイトからは思う思う! っと賛同の声が次々と上がる。


 何故か知らないけど嫌な予感がして、


「そうだ! ちょうど役が1つ空いてるよな。まだ役が決まってないやつ……そう、ローレンス!! その役、彼にしようぜ!」


 周りからは賛同の声が次々と上がる。多数決を取るまでもないな、と副学級長が黒板に『ローレンス役:』の所に俺の名前を書く。


 ちょっと待ってくれ、ローレンス? ローレンスだって??


 そいつは、修道僧でロミオとジュリエットの結婚の立会人だ。その役を俺にやれと?


 ――彼女が結婚するのを、俺はその目の前で祝福しろと?

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