第5話:相撲の明確なルールは知らない
「だ、大丈夫?!」
彼にそう声をかけてみるが、返事が無い。もしかして死んでるのではなんて想像が湧くが、息はあるし出血は無いので生きている。気絶してるようだ。
頭に手を当て撫でる。たんこぶを発見。かなりの熱を発しており出来たばっかり、妹さんの背負い投げでぶつけた跡だと理解できた。
たんこぶは後頭部に出来ており、このまま地面に頭を寝かせると負担になるだろう。
頭は何か柔らかい物で支えた方が良い。ゆえに膝枕したほうが良いだろう。
と思ったが、彼に対する初めての膝枕がこれで良いのか? という疑問が芽生えた。どうせならもう少しロマンチックにしたいという欲求が芽生えた。
ので、登山着の上を脱いで枕替わり。彼の頭の後ろに置く。
「ガールフレンドさんはフレンドリーですねえ」
後ろから声。振り向くとチェンソー音。妹さんが切り倒したばっかりの気を丸太に加工していた。
何をしてるのだ?
「ハウスをメイクしてますよ!」
私の視線に気が付いたのか、そう説明してくれる。
妹さんの顔は楽しそうだ。……さきほど彼を昏倒させたことなど一切考えてなさそうな顔だ。
「ブラザーの事は放っておいて一緒にメイクします?」
「……謝らないの?」
その問いに対して、妹さんが笑って答える。その答えを聞いた瞬間、
「謝る? ワッツ?」
ブチリっと脳内にある血管が破裂した音を幻視した。
「彼は自分勝手で理解が出来ないとか言ってたけど、全くもってそのとおりね……!」
「わぁスケァド。ワシを殴りたそうなフェイスしてる」
「その口を使えなくしたいわね」
「トライする? フリーにやられるつもりはナッシングだけどね!」
「それでも私には効かないでしょうね。素人が黒帯に勝てるわけがないでしょう?」
「それはルールにロックされた中でのストーリーだね。ルールがナッシングな状態だと意味ノット! ……まぁルールがゼェアでもワシがウィンするけどね!!」
「……だったら、何かルールでも引いて縛ってみる?」
「お、ナイスアイディア!」
「ルールはそっちで決めて良いわよ。どんなルールでも負けるつもりはないわ」
「ふひひ。その自信をブレイクしてあげるね!」
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……意識が浮かび上がる、そんな不思議な感覚がした。俺は寝ていた?
そう考えたが、直前の記憶を掘り起こして違うと判断で来た。
直前の記憶――妹の襟をつかんだ瞬間、天地が逆転して頭に衝撃が――それを意識した時、頭が裂けそうな程の痛みが襲った。痛い。
幸い後頭部には布があったためか、そこまで圧迫されている感覚は無い。
「うぃいぃ!!」
「ぁあぁぁ!!」
2つの女の声。喉の奥から出てるとすぐに分かるような、力を入れた声が聞こえた。
その声が気になって、顔を動かす。
――彼女と妹がお互いに向き合って腰を掴んで、押し合っていた。
よくわからな過ぎて周りを見る。
彼女らの周りには先ほどは無かったはずの石が並べられており、並べ方は円状。彼女らを囲うように円状に並べられている。
押し合っている、石の並べ方。そこから連想されるモノが1つ、
「……もしかして相撲?」
俺の意識ない時に何があったんだよ。




