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竜国の王子と金剛石の乙女  作者: 柳沢 哲
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唯一無二の花嫁

 城に戻ると、以前使っていた部屋ではなく、城内の奥の部屋に案内された。扉の大きさも前より大きい。

 少しだけキャロルは落胆した。前の部屋ならばもしかしたら、ルルがいるかもしれないと思ったのだが、虫のいい話だ。部屋に入ると、以前よりも大きなベッドや家具、大きなクローゼットが見えた。そして嗅ぎなれたお茶の匂いに顔を上げると、ルルがいた。

 ここを出る前と変わらない。黒い髪を丁寧に結い上げ、白いエプロンには染み一つない。伸びた背筋には彼女の芯の強さが表れている。

 ルルがいた。ここに来てから彼女に会って、まだ一カ月もたっていないのに、恋しかった。

 言葉が出ずにキャロルは涙がこぼれた。ルルがそっとハンカチを差し出す。

「ごめん、なさい。貴方が目の前にいるのが、嬉しくて。」

 震えて上手くハンカチがとれない。

 ルルはキャロルの顔にハンカチを当てる。涙で滲んだルルの顔も泣いているように見えた。

「私のほうこそ、どれだけ嬉しいか。」

 ルルの目から大粒の涙が溢れた。

「キャロル様が大役を見事はたされて戻って来られたと。聞いた日は何も手につきませんでした。」

 キャロルはルルを抱きしめた。夢ではない。ルルが目の前にいる。

「私、知っていたのです。キャロル様は、自分よりも他のものを大切にする方だと。あの日、私が思っているよりもずっと貴方はそうなのだと知って、とても悲しかった。」

 ルルの手がキャロルを抱き返した。

「本来であれば、妃殿下のお世話はもっと経験を積んだ者にしかできないのですが、私が無理を言ってとりなしていただきました。」

 言葉にならず泣き続けるキャロルに、ルルはハンカチを何度も当てる。

「許して、とは言えないわ。私、貴方を傷つけたのだから。」

 鼻水をすすると、ルルも言った。

「もちろんですとも。許せません。貴方は私の大切な方です。そんな貴方を粗末にする人など、許せるものですか。」

 ふふっとキャロルは思わず笑った。

「ドラゴン族の王にも言われたわ。」

「王とそのようなお話を? 」

 キャロルはうなづいた。

「だから私、私のことも、貴方やサファイア殿、私の大切な方たちのように、大切にするわ。」

 ルルは涙を拭いて顔を上げた。

「戻ってきてくださったことはもちろん嬉しかったのですが、キャロル様がレオナルド様の求婚を受けてくださったと聞いて驚きました。」

 言われてキャロルは赤面した。

「その、ええ。まだ自信がないけれど。」

 ルルの前ではもう隠し事はしたくない。

「私、レオナルド王子のそばにいると、強くなれる気がして。あの方のように、堂々と生きれるようになりたいの。」

 こんな自分を見つけてくれた。彼に応えたい。

「それに、王子は他に奥様をもうけられるでしょう? 」

「キャロル様、またそのようなことを。」

 ルルは呆れた顔をした。キャロルのこの病はすぐには治りそうにない。

「キャロル。ルルに謝罪はすんだか。」

 部屋の扉を開け放したままだった。セラヴァリル夫人とレオナルドが立っていた。

「キャロライン殿。お披露目会のドレスを作りましょう。」

「お披露目? 」

「ええ。夜会用にもね。貴方の身体にぴったりの、たった一つのドレス。それに、ドラゴンの王より賜ったダイヤモンドでティアラやネックレスも作らないと。どんなデザインがいいかしら。」

 キャロルは拳ほどの大きさのダイヤモンドを思い出してくらっとした。

「恐れ多くて、と、とても思いつきません。」

 思い出すだけで目の前がちかちかする。

「遠慮するな。そなたに似合いの石ではないか。」

 眩暈のしたキャロルの顎を持ってレオナルドは言った。

「金剛石は角度によっては脆く、火にも弱い。しかし宝石の中では一等の硬度をもつ。脆く儚く見せながら思いがけない強さを持つそなたらしい。」

 キャロルは赤面し、セラヴァリル夫人はため息をついた。

「本当に、王子様たちはお上手でいらっしゃいます。」

 にこにこと包み込むような笑顔でセラヴァリル夫人が迫ってくる。

「明日から忙しくなるわ。ええ、大丈夫よ、恐がらないで。かじったりしないわ。優しくしてあげる。」

 その優しさが逆に恐い。

 壁際に追い詰められるキャロルを見ながら、そっとルルはレオナルドに囁いた。

「王子。后殿下は平等でなくてはなりません。となると、他の方々もドラゴン族の王から賜ったダイヤモンドのような婚礼用の装飾品が必要になりますが……この世にキャロル様以外、それを用意できる方はいらっしゃるのでしょうか。」

 レオナルドは捕まってウエストのサイズを測られるキャロルを見た。

「まぁ、世界は広い。ドラゴン族に認められ、王のウロコが結晶化した宝石を賜れる娘が他に現れるとも限らないが。私が妻にしたいと思うかはまた別だ。」

 どうやらキャロルはまだそのことに気づいていない。

「本当に。私は申し上げましたのに。」

 ふふっとルルは微笑んだ。

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