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血気盛んな紳士

 国王は悲しんでいた。深いため息をつきながら、玉座の隣に立つ男から、淡々と機械的に伝えられるこの街の惨状を、まるで自分がその惨状一つ一つの当事者であるかのような表情を浮かべながら聞いていた。驚きや、悲しいなど、いくつかの感情が混じった表情を繰り返ししていた。玉座の隣に立つ男は、この国に長らく仕えてきたシルファという偵察部隊長だった。シルファは自ら見てきた街の惨状を、必死に感情を押し殺しながら報告していた。シルファは昔からこの街で生まれ育ってきたが故に、毎日見て、慣れ親しみ、父と母と共に歩んだ街並みが、跡形もなく、そして醜く変貌を遂げてしまったことに、本当は声を上げて泣き叫びたかった。しかし、国王陛下の前である以上、報告に、そして仕事に私情を挟んではいけない、とシルファは自分に言い聞かせながらわざと、機械的な口調になりながら報告した。

 一通り被害報告が済み、国王の隣から一歩離れたその時、報告の間ずっと真一文字だった口を、重いシャッターを開けるように開きこう言った。

「我が国もここまでか…。」

 今まで仕えてきてほとんど聞いたことのない国王の弱気な発言に、シルファは驚いた。そして国王に何とか元気と自信を持ってもらおうと

「そ、そんなことございません!陛下が今まで信頼してきた我らが兵と国民の手で、この国はもとより、この城下町は元の美しい街並みになるはずです!ですから街の復興を急ぎましょう!」

 と国王を持ち上げて語った。しかしその数十秒後、シルファは国民よりも自分の身を案ずるべきだった、と後悔するのであった。

「...おぬしの家もやられたんじゃろ?だからそのように我に私見を語るんだな...。」

「...!」

 そう、この王国の宮殿内では玉座に座している国王、ミラーに意見してはならないという”鉄の掟”があった。破ったものには厳しい制裁が下される。ある補佐の者は問答無用に首を狩られ、またあるメイドであった者は抵抗するスキも与えられずに、城下町の端にある牢獄に入れられた────色欲を抑えられない”獣”が多く潜む地の底へと────。

 シルファはその掟を忘れていたわけでも、ましてや知らなかったわけでもない。ただ”言いたくなった”だけなのだ、惨状をどうにかしたかったシルファの独断である。国王は静かに立ち上がりシルファのまねごとのように淡々と伝えた。

「シルファ、君まで私の下を去ることになるとは残念だよ。でも君は今までの者とは違ってそのまま生かしてやる。...第一遠征部隊へお前は行け、仕事は部隊長に伝えておくからそのつもりで。」


「...で、あんたがエリート揃いの偵察部隊からこんなところに飛ばされたアルファ君?」

「シルファだ、同期なんだからいい加減ちゃんとした名前で呼んでくれないかクロイス...隊長殿。」

「ははは!いつもの冗談じゃねえかそう丁寧になるんじゃねえよ!」

 シルファは、隣でバカでかい声で話す男と、部隊に所属する筋肉隆々の男たちと対峙しながら、再びの出会いに感動していた。


 そのバカでかい声の男、第一遠征部隊隊長クロイス、またの名を”血気盛んな紳士”。国民の間では紳士的な振る舞いで、国王と同じくらい絶大な人気を誇っている。国王の息子であるアルフレッド王子より、国王になってほしいという声すら上がるほど、実力は持ち合わせていた。しかし、その姿を想像しながらこの部隊へ入ると、今までのイメージが180度覆る。実際に部隊での姿は、超がいくつも付くような血気盛んっぷりで、敵を見つけると、作戦を立てる参謀役のエマソンが話し合いを始めようと荷物を下ろしたと同時に、敵陣に突撃するような武闘派である。なおかつ剣技で国王を相手に手加減したうえで圧倒する実力で、高速で始末できるため、他の部隊が半年かかっても攻略できなかった大きな城がある街を、クロイス率いる第一遠征部隊は、たった2か月で街にいる敵兵どころか、難攻不落と言われた城まで一気に占拠していった。


 そんなクロイスの下で働かせられることになったシルファは、命があることに感謝しながら旧友との再会を懐かしんだ。そして気が気ではない質問を彼に投げかけた。

「それで...、私に課せられたここでの罰は何だ?ここにいるお前たちの飯の用意か?それとも...」

「おいおい、そんなわけないだろ?お前はこの部隊で二人目の参謀役さ。今すぐに出かけなきゃいけない旅でのな。」

 シルファは困惑した。彼らは今さっき帰ってきて国王との接見を終えたばかり、そのあとは慣例に従い長期休暇が与えられる────よっぽどの緊急事態ではない場合だが。そしてクロイスはシルファの言いたいことを何となく察してこう付け足した。

「俺だって行きたかないさ、帰ってきたらいきなり東方の街にある敵の拠点つぶしなんて。ついさっき同じところ通ったっての。」

 クロイスは大きくため息をつきながら部屋に飾られた地図で街を探す。その手つきは幾度となき戦いのせいか、ものすごく手慣れていた。クロイスはおもむろにピンを探して目的の街に刺すと、戦いを待ちわびていた男たちを前に語った。


「この部隊にまた一人野郎がやってきた。この野郎は俺と同じ時にここに入った、いわば友で、お前らの先輩だ。だがここに入った以上手加減も上下関係もいらねえ、手荒くこいつをこき使ってくれ。そして俺らはまた今から戦いに出る、お前らここのおきては覚えてるよな?」

「「おおー!!」」

「新人の役目は?」「「全速前進!」」「俺たち仲間は?」「「全力援護!」」

「部隊の目標!」「「全戦全勝!!」」「しゃぁ!行くぞ野郎ども!!」

 ウオオオオオオオオオ!!

 シルファはこの時思い出した。クロイスがここの隊長を務めて始めてからの、第一遠征部隊が今までに積み重ねてきた戦績────99戦全勝、という事実を。

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