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74.援軍

レオルの、そしてティアたちの激闘。


 一方こちらは、第一の門の前。

 レオルと【 災厄の獣(ディザスター・ビースト) 】による苛烈な戦闘が繰り広げられていた。


「ふんっ! ──獅子王奥義【 覇王武神撃 】!!」

『ぶるるるっ!』


 獅子王、いや神獣となったレオルの強烈な一撃が、災神【 災厄の獣(ディザスター・ビースト) 】に炸裂する。

 だが、まるでカブトムシのような黒い装甲はとてつもなく固く、レオルの一撃すら完全に弾き返す。


『──カウンター発動【 災厄の光 】』

「ぐううっ!」


 逆にディザスター・ビーストの反撃に遭い、手痛いダメージを食らう。だが──。


「獅子王様! 【 高度治癒ハイリカバー 】にゃ!」

「助かる、ノビル!」


 ノビルの治癒魔法を受け、すぐに傷を回復させるレオル。連携は完璧だ。


 だが、先の戦いで生物としての大きな殻を破り、もはや地上最強の生物といっても過言ではなくなったレオルをしても、目の前のモンスター【 災厄の獣(ディザスター・ビースト) 】はとてつもない強敵だった。

 どんな一撃を加えてもダメージを受けないディザスター・ビースト。対してレオルも野蒜ノビルの回復魔法を受け、戦闘マシーンと化して何度も襲いかかる。戦況は完全に停滞していた。

 ……いや、回復魔法を連発して疲労の色が出始めた野蒜ノビルに対して、ディザスター・ビーストは一切の疲れを見せていない。その上、相手の硬い装甲を破る術さえ見出せずにいる。

 このままでは、レオルたちがジリ貧になっていくのは明白だった。


 だが──ここで【 災厄の獣(ディザスター・ビースト) 】が新たなる攻撃方法に切り替えてくる。


『ぐるるる……。──専攻形態【 災厄の角 】!

 発動────災厄特攻《 カラミティ・ブラスト 》!』

「なっ!?」


 ディザスター・ビーストの角が一回り大きくなり、背中の黒い蝶の羽が暗黒の鱗粉を放ちながら、凄まじい速度で突進してきた。

 しかもそのターゲットは、レオルではない。これまで彼をサポートしてきた──野蒜ノビルだ!


「きゃああぁぁっ!」

「ノビル!!」


 レオルはなんとか野蒜ノビルを守ろうとするも、明らかに相手のスピードの方が早い。野蒜ノビルは能力が治癒に特化しているため、戦闘や防御の類の魔法を一切使えない。

 ……このままでは、彼女は災厄神の一撃で確実に殺されてしまうだろう。


 絶体絶命のピンチ。

 レオルは、まるでスローモーションのように過ぎる時の中、必死になって野蒜ノビルに手を伸ばす。


 とても届きそうにない。

 ディザスター・ビーストの攻撃が先に届いてしまう。


 俺は、俺はまた──大切な存在を己の力不足で失ってしまうというのか。

 災厄という名の理不尽に、またしても大事なものが踏みにじられてしまうというのかっ!

 巫山戯るな……巫山戯るなっ!!






 ──wWOOOOoooooww!!







 その時──。




「唸れっ! 《 火焔大刀かえんたいとう 》!」






 ──激しい炎が、レオルの視界を覆い尽くした。







 ◆◆






「おいゴアティエ! わいのこと覚えとらんのかいなっ!」

『……魔王術タイラント【 千の雨の針 】』


 アスモデウスの問いかけに、大魔王ゴアティエから返事の代わりに返ってきたのは──強烈な魔法攻撃。

 こちら第二の門の前でも、大魔王ゴアティエとティア・アスモデウス・アーダベルトの死闘が繰り広げられていた。


「ちっ! ティア! 頼むわっ!」

「ええっ! ──吸血鬼魔法【 鮮血の傘 】!」

「いまだっ! 直槍術──【 彗星槍 】!」


 ティアが吸血鬼魔法で攻撃を防いでいるスキに、アーダベルトが反撃がわりの槍術を放つ。だがゴアティエは左手を前に出すと、発生した衝撃波で3人を簡単に吹き飛ばした。


「ぐっ!?」

「きゃっ!」


 姿勢を崩した3人に向けて、ゴアティエが今度は右手を前に出す。


「あかんっ! 追撃が来るで!」

『……魔王術タイラント【 灰塵の光 】』

「吸血鬼魔法、せんけつのか……ああっ!」


 ゴアティエの放ったレーザーのような魔法が、ティアの防御魔法をかいくぐり、背後で閃光のように炸裂した。かろうじてアスモデウスが防御壁を構築して最悪の事態は回避したものの、完全に対応が後手後手に回っている。このままでは、勝てない。苦戦するティアたち3人。


「相手はたった1人だというのに、なんという戦闘力だ!」

「当たり前や! 相手は大魔王で裏ボスやで! 本来ならラスボス倒すレベルのパーティでも太刀打ちできへんような相手や! それを3人で対処しようとするんが間違い……せや! その手があったわ!」


 自分で言いながら自己完結したアスモデウスが、すぐに魔法陣を描き出して魔術の準備に入る。


「すまへん2人とも、ちょいと時間稼いでぇな!」

「えっ! パパなんで……」

「分かった!」


 疑問を抱くティアを強引にアーダベルトが引っ張り、大魔王ゴアティエに対峙する。その間にアスモデウスが目の前に複数の魔法陣を構築する。


「みんな、頼むで……今度こそちゃんとわいたちに力を貸してくれや……」


 ──外法・外道召喚──【 魔族の(ジャック・)王たちの宴(オー・ランタン)


 ~knock Knock Trick or Treat Who are you ?

 ~I'm バエル! I'm 魔戦士バエル!


 ~knock Knock Trick or Treat Who are you ?

 ~I'm フォラス! I'm 魔族神官長フォラス!


 ~knock Knock Trick or Treat Who are you ?

 ~I'm ダンタリオン! I'm 魔王ダンタリオン!




 そして召喚されたのは──三体のアンデッドモンスター。

 戦士風の巨躯のゾンビ男、バエル。

 黒い法衣に身を包んだ神官風のミイラ女性、フォラス。

 そして──小さな人形、ダンタリオン。


 かつてのアスモデウスの同士であり、おそらくは双子の女神たちによる『シナリオ調整』によって殺戮されていったものたち。

 先の戦闘ではシドーレンに操られ不本意な使い方をした。だが今回は違う。


「みんな……頼む、力を貸してくれ!」


 ゾンビ男バエルが、無言でサムズアップをした。

 ミイラ女性のフォラスが、たおやかに頭を下げた。

 小さな人形のような魔王ダンタリオンが、可愛らしく片手を上げた。

 その動作は、先の戦闘時の操られていた感じとはまるで別のもの。通常アンデッドには感じられないはずの感情が──魂が、そこにはあった。


「みんな、ほないくで!! かつての魔界最強パーティの再結成やっ!!」


 アスモデウスの掛け声に合わせ、三体のアンデッドは勢いよく大魔王ゴアティエに突入していく。すでに戦闘中だったティアやアーダベルトと合流して6人パーティとなったチームは、即席とは思えない様子でスムースに連携体制を整えていく。


 死闘は──第二ラウンドへと突入していった。





「ぐるるぁぁっ! ──戦斗術【 旋風魔斧 】」

「キリキリキリ……。──暗黒祝詞(ブラック・ディシプリン)【 ダーク・ハンマー 】」

「空飛ぶハエは落とす。──魔王法(タイラント)【 デッドエンド・カレント 】」


 アスモデウスが召喚した三体の仲間アンデッドが、連携しながら大魔王ゴアティエの注意を引く。その間隙を縫って、ティアとアーダベルトが己の持つ最大級の攻撃を放った。


「──究極吸血鬼魔法【 全天壊滅血界(スカーレット・スコール) 】」

「はあぁぁあっ! ──究極槍術【 夢幻槍 】!!」


 だが──。



『愚かなり、我は魔族の大いなる王、大魔王なり。

 ──大魔王法エル・タイラント【 カラミティ・ガンマー・バースト 】』


 ゴアティエを中心に、強烈な爆発が発生した。


「うがっ!?」

「きゃっ!!」

「ぐぅぅっ!」


 全ての技をキャンセルされただけでなく、破壊力の権化たる波動がティアたち全員に襲いかかる。


 これは──ダメだ。食らっちゃいけないやつだ。ティアは直感でそう悟る。

 恐らくゴアティエが放ったのは、肉体の破壊ではなく──もっと奥にある大事な部分の楔を断ち切るもの。ティアが知ることはないが、遺伝子すら断ち切る再生不能の超爆撃であった。

 このままでは、たったの一撃で全滅してしまう。しかし、分子レベルで破壊行為を行う攻撃に対して、ティアたちは防御するすべを持っていない。


 目の前に差し迫る、絶対的な──死。


 防ぐ手段は……ない。




 ティアたちが絶体絶命の状況に陥った──そのとき。




「……こいつは酷え攻撃だな。だけど、俺にかかれば同じ魔法──切るなんて・・・・・朝飯前だな!」



 ズバッ!

 何かを断ち切るような音が、ティアの目の前で炸裂する。



 次の瞬間──。


 分子すらも崩壊させる威力を持つ大魔王ゴアティエの魔法が──。




 真っ二つに・・・・・叩き切られ(・・・・・)ていた(・・・)






 ◆◆






 レオルは、目の前に焔が走っていくのを見た。

 炎は道となり、野蒜ノビルの前に立ち塞がる。


 ギィィィィン!

 すさまじい音とともにディザスター・ビーストが炎に激突する。結果は──わずかに軌道を逸らされて、野蒜ノビルを掠めるようにして通過していった。


「ノビル、大丈夫がるかっ!」

「あぁ……あなたは……」


 野蒜ノビルの声が震える。

 彼女の前に立っていたのは──燃え盛る大剣を手に持った、赤い髪の美しき虎の女性獣人。

 レオルは彼女を知っていた。自身と魂を賭けて戦い、傷を負わせることに成功した卓越した戦士。


「みぃ姉ちゃんにゃ!」

「その呼び名はやめるがるよ、ノビル」


 そう、野蒜ノビルを守ったのは、アーダベルトのパーティメンバーである美虎ミトラであった。

 だが彼女は本来であればここに居ないはずの人物だ。なぜ美虎ミトラがここに居るのか……。


「俺っちもいるぜ!」

「同じく、怪盗クラヴィス参上ってな!」

「このルクセマリアが、怪物の好きにはさせないわっ!」


 続けて、元騎士隊長のダスティ、盗賊のクラヴィス、そしてルクセマリア王女までもが続けて姿を現す。

 ……《 英霊の宴 》に来ることができなかったはずの、《 自由への旅団(フリーダム・ブリゲード) 》一行の姿がそこにはあった。


「なっ……お主らはどうやって……」

「それはね、あれ・・が導いてくれたがるよ!」


 レオルの問いかけに、美虎ミトラは空の方を指差す。

 彼女の指差す先にあるのは──紫色に輝く一冊の本。


「あれは……ラティリアーナの《 紫艶の魔導書ヴァイオレット・グリモア 》ではないか」

「そうなのよ! 氷の棺に閉じ込められていたラティリアーナが急に消えたと思ったら、残されてたあの本が輝き出して扉を作ったの。だから思い切って飛び込んでみたら……ここについたってわけなのよ」

「まったく、とんだおてんば姫だぜ」

「付き合わされる俺たちの気持ちも考えて欲しいよなぁ」


 ダスティやクラヴィスの愚痴はともかく、ラティリアーナの身体が突然消えてしまった理由について、このときのレオルは何も知らなかった。自身の戦闘に集中していて、第三の門で起こっていた事態に気づいていなかったからだ。

 だが、たとえ気づいていたとしても、《 紫艶の魔導書ヴァイオレット・グリモア 》だけが一体どうしてここに来たのか? そしてなぜ美虎ミトラたちが″英霊の宴″の場に来ることができたのか。……その理由に対する答えは持ち合わせていなかったであろう。


 やがて、レオルたちの疑問に答えることなく──《 紫艶の魔導書ヴァイオレット・グリモア 》は輝線を描きながら、《 オラクルロッド 》の方角へと飛び去っていった。


「……行っちゃった」

「なんだったんだ、あれは……」

「ルクセマリア! クラヴィス! それよりもアイツがるっ!」


 美虎ミトラの声に、その場にいた全員が前方に視線を元に戻す。

 先ほどは攻撃を外されてあらぬ方向へと飛んで行ったディザスター・ビーストが黒い蝶の羽をはためかせながら舞い戻ってきたのだ。


「……疑問はさておき、とりあえず先にあの忌々しいケダモノを排除する必要があるな」

「ふふっ、レオル様と一緒に戦えるなんて光栄がるよ!」

「まさか″運命の戦い″で競い合った貴方と共闘するなんてね……。だけどこれはきっとあの娘の導きなのかな。だったら──あたしたちは、あなたを全力で支援するわ!」

「おうっ! 姫さまの言う通りだぜっ!」

「いくぜっ! みんなっ!」

「これだけいればきっとあいつに勝てるにゃっ! あたしもがんばるにゃ!」


 改めてディザスター・ビーストと向き合うレオル、野蒜ノビル美虎ミトラの獣人3人に、ルクセマリア、ダスティ、クラヴィスの計6人。


 対するディザスター・ビーストも、先ほどよりもさらに禍々しいオーラを放ち始める。


 だが、今度は仲間もいる。

 レオルはニヤリと微笑むと、雄叫びを上げながら──他のメンバーに先駆けてディザスター・ビーストへと突撃していった。



 ここに──災厄の神ディザスター・ビーストとの真の決戦が始まる。






 ◆◆






「な……なんやて……?」


 アスモデウスの驚きの声。

 真っ二つに切断された、大魔王ゴアティエの凶悪魔法。到底信じられない、驚愕すべき事実。

 だがその事実よりも、その事実をなしえた人物こそが、真に驚くべき存在であった。


 ティアは、自分の目の前に立つ男から視線を逸らす事が出来ずにいた。

 なぜなら──この男は……。


「お嬢ちゃん、そんな熱のこもった目で見つめないでくれよ。おじさん勘違いしちゃうじゃないか、ははっ」

「あ、あなたは……」


 ティアの問いかけに、男は少し照れくさそうに頭をかきながら答える。


「俺か? 俺は──デュカリオン・ハーシス。

 んまぁ、親しいやつなんかは俺のことを【 断魔 】デュークって呼んでるけどな!」


 ティアたちの前に現れ、ゴアティエの魔法を文字通り両断したのは──先ほどの副将戦でアーダベルトと死闘を繰り広げ、そのまま昏睡状態に陥っていたはずの【 超魔 】デュカリオン・ハーシスであった。


「超魔! デュカリオン・ハーシスじゃないか!」


 アーダベルトが警戒心もあらわに槍を構える。だがデュカリオンは戦意がないことを示すように両手を挙げた。


「あー、あんたは……アーダベルトさんだったかな?

 いやいや、あんたとやりあう気はないよ。なにせ俺は、あの女に頼まれてあんたたちを助けるためにここに来たんだからな」

「……あの女?」


 アーダベルトの問いに、デュカリオン・ハーシスは困ったような表情を浮かべる。


「あぁ、あの……高慢ちきだけど、すんげぇ美人でやかましい・・・・・あの女だ。

 ……とはいえ、ある意味で俺の恩人でもあるんだがな」


 そう言うと、デュカリオン・ハーシスは右手を前に出す。すると──まるで狙いを済ましたかのように一本の剣がその手に収まる。


 ──その剣は、かつて【 断魔の剣 】と呼ばれていたものだとティアは知っていた。

 そして、その剣を愛用していた女性のことも……。

 ということは、彼は──。


「まぁあの女にはデカイ借りがあるからな。言われた通り・・・・・・あんたらの助太刀をするぜ!

 さぁ、のんびりしてる暇はないぞ? とりあえず大魔王なんていうとんでもないやつをどうにかしちまおうや!」


 次の瞬間、デュカリオン・ハーシスの全身から膨大な魔力が吹き出す。

 圧倒的なまでの魔力それは人間離れしており、まさに【 超魔 】と呼ぶに相応しいもの。


 ……かつては敵だった。

 だが今は味方だ。

 しかも心を持ち、これ以上ないほど心強い存在としてティアたちの前に立っている。


 疑問はたくさんある。だが今のティアたちに深く話している余裕はない。

 ゴアティエに向き合うと、改めて構えるティア、アーダベルト、アスモデウスの3人に、召喚されし三体のアンデッドたち。新たに仲間に加わった【 超魔 】デュカリオン・ハーシスと共に各々の武器を構え突撃していく。



 ここに──大魔王ゴアティエとの真の決戦の火蓋が、切って落とされる。



駆けつけた、予想外の援軍。


そしてリリスは──。


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