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5.アーダベルト


ここから、第2章になります(≧∀≦)


 ガタンゴトンと馬車に揺られて向かうは、ラティリアーナ嬢の婚約者であるアーダベルト・バルファス・エレクトラスのもと。

 およそ20分ほどで、大きな古い屋敷の前に馬車は到着した。


「着きましたワン。ここがエレクトラス伯爵家ですワン」


 来る途中に馬車の中で正面に座っていた舞夢マイムに聞いたところによると、エレクトラス伯爵家は「今でこそ金銭面で苦労してますが、もともとは古くから続く名家なのですワン」とのこと。

 つまり、マンダリン侯爵家の豊富な財産が欲しくて″オーク令嬢″と婚約したわけだな。よくある金と権力の婚姻ってやつだ。そうでもなきゃ、″オーク令嬢″と結婚しようとは思わないだろうしなぁ。


 でも、俺は……俺だけは知っている。

 ラティリアーナが『痩せたらとんでもない美少女』だってことを。



 ◆



 昨日、3度目の失神をした後、目を覚ますとやはりベッドで眠っていた。しかもちゃんと夜着に着替えている。誰がやってるんだろう、これ? 小柄なマイムちゃんが抱えられる巨体とは思えないんだけどなぁ。マンダリン家の七不思議の一つだ。


 左手を確認すると、赤い宝石のついた腕輪がしっかりと嵌っていた。

 どうやら昨日の出来事は夢ではなかったらしい。そっと触ると、ポンっという音とともに大きな赤い本──《緋き魔道書スカーレット・グリモア》が具現化する。


 朝食の準備ができるまでの間に一通り確認したところ、こいつについてわかったことは以下の通りだ。


 ・現時点で読めるのは一項目のみ。他は白紙。

 ・一項目は題名に「赤の章」と書かれている。

 ・使える力は【 変身メタモルフォーゼ 】のみ。

 ・しかもこの魔法は消費魔力が尋常じゃなく、すぐに魔欠──魔力欠乏して失神してしまう。


 はっきりいって使えない。一般的に見れば。

 だけど今の俺にとっては史上最高の魔法だ。なにせ、一日にわずかな時間とはいえ、理想的なまでの超絶美少女に出会えるのだから。


 先ほども1分ほど使ってみたものの、しみじみ美しい。まるで地上に舞い降りてきた天使みたいだ。しかもその天使を自由に動かすことができる。

 俺は強く力説したい。これ以上ファンタスティックな魔法が他にあるだろうか!? いやないっ!! あるわけがないっ!! これこそ史上最高の魔法ではないかっ!!


 はぁはぁ、失礼。柄にもなく興奮してしまったよ。

 でもさぁ、ほんっとに可愛いのよぉこの子。少し髪の毛をかき上げる仕草なんかするだけでドキドキしちゃうし。

 さーて、今日はどんな風に可愛くしてみようかな。お、貴重品ケースの中にあるこの薔薇を形どった髪飾り、なんか可愛らしいじゃん! 早速つけてよう。ん〜可愛い! なんか薔薇と相まって棘を隠し持つ美少女みたいな? なーんつって!


 ……いかんいかん、またもや少し取り乱してしまった。これ以上続けるとまた魔力切れを起こしそうなんで、今日はこのあたりでストップしておこう。


 だけど、俺の気持ちはもはや定まった。

 そう、俺は──美少女になるために死力を尽くす!


 いやいや違うだろうという突っ込みたい気持ちはわからないでもない。

 せっかく魔力を持つ身になれたわけだから、本来であれば様々な魔法具マギアを手に入れて使いこなしたい、強くなりたいと思うところだ。実際それが今までの俺の夢だったわけだしな。それに変化を遂げた魔導眼のことも気になる。


 だけど今は、それよりも優先事項がある。今の俺のマイブームは「美少女変身」だ。

 だってさ、自分が美少女になって可愛いポーズが取り放題なんだぜ? こんなの夢中になるに決まってるだろう!


 ……と、力説したところで誰も聞いてくれないので、俺は朝食をとりながら今後の作戦を考えることにする。

 まずはなによりラティリアーナを美少女にすることが最大の目的であり、一つのゴールだ。

 そのために取りうる手段は二つ。痩せるか、【 変身メタモルフォーゼ 】の持続時間を延ばすことだ。


 だから俺は両方を試みることにした。

 そうすれば、美少女で居られる時間も長く伸びるわけだしな……ぐへへ。


 まず痩せるほうに関しては、食事を減らすことと運動をすることをセットで開始した。運動に関しては元冒険者である俺は大得意なわけだから、問題は食事量の方だけど……これがなぜか異様に多い!


「わしはお前が幸せそうに食べる姿が好きなんじゃよ」


 と嬉しそうにのたまうのは、目の前でまさにオーガのごとく朝食を喰らう父親のマンダリン侯爵。

 だーかーら、あんたのせいで本来は可憐な美少女のはずのラティリアーナがこんなデブデブになっちまったんだよ! という怒りの気持ちをぐっと抑えて、襲いくる圧倒的な食欲を我慢するのに全神経を注ぐ。マイムちゃん、頼むから次から食事量をもっと減らしてくれ。


 あともう一方の魔力の方については、正直専門外すぎてよくわからない。これは誰か良い師匠なり先生なりを見つけるのが先決だろう。


 俺は、痩せるためにベストを尽くす。

 やれることは、すべてやる。

 かつての俺の戦場は、ダンジョンや深い森の中だった。だけど今は違う。俺の今の戦場は──ここなんだ。


「お嬢様、そろそろ出発のお時間ですワン」


 気持ちも新たにしたところで、部屋の入り口に立つ舞夢マイムに声をかけられる。

 あぁ、そういや今日は舞夢マイムが売られないようにするために、婚約者のアーダベルトのところに交渉に行くんだったよね。痩せることに夢中ですっかり忘れてたよ。あはは〜。



 ◆



 エレクトラス伯爵家は、外観だけでもはるかにマンダリン侯爵家に劣っていた。

 貴族としての格は伯爵家の方が上。だけど立場はマンダリン侯爵の方が上。それはつまり、エレクトラス伯爵家が財政的に困難な状況にあることを意味している。一介の冒険者だった俺でも簡単に想像がつく構図だ。


 そんな貧乏伯爵家の長男であるアーダベルト君というのが、ラティリアーナの婚約者の名前だ。

 しかし、貧乏すぎて”オーク令嬢”との政略結婚をしなきゃいけないというのに、なんでまたマイムを買い取ろうとするんだろうか?

 やっぱりマイムが獣人とはいえ美少女だからかな? 確かに俺が男だったら、こんなにも可愛らしい子は放っておかないだろう。いや男だけどさ。


 まぁいい。会えばなんとかなる。

 きっとちゃんと話せばわかってくれるはずだ。

 ──この頃は、安易にそう思っておりました。


 案内された客間に現れたのは、びっくりするくらいのイケメンだった。


「ようこそラティリアーナ様。お元気になられたようでなによりです」


 エレクトラス伯爵家の嫡男アーダベルトは、サラサラの金髪が目を引く、絵に描いたような貴公子だった。

 おいおい、こんな美男子がラティリアーナの婚約者だって? せっかくイケメンに生まれたのに、いくら政略結婚とはいえ″オーク令嬢″と結婚させられるとは……。


 アーダベルトについて気になるのは、目が死んでいることだ。口元は微笑んでいるものの、感情が全く見えない。

 さすがの俺でも、彼が自分ラティリアーナに対して良い感情を持ってないことは一目瞭然だった。しかし貴族の婚約者同士って、こんなにも冷め切ってるもんなの?


「今日はどうなさいました? いつもは私を呼びつけなさるのに、わざわざお越しになるなんて」

「アーダベルト様、今日はお願いがあって参りました」

「……今回はどんなお願い? 高価なドレス? それとも宝石のついたネックレス?」


 せっかく普通に話しかけられたというのに、なんか返事にトゲがあるな。ラティリアーナってば、アーダベルトにこれまで何をしてきたんだ? どう見ても敵意むき出しじゃないか。


「違いますわ。あなたにお売りする手筈になっていた舞夢マイムですが、撤回させていただきますの」

「なっ!?」


 初めてアーダベルの顔に浮かんだ表情、それは驚きだった。だがすぐに元の無表情に戻る。


「……それは、またいつものあなたの気まぐれですか?」

「違いますわ。舞夢マイムはわたくしのもの。手放すつもりなどなかったのですけど、私が意識を失っている間に父が勝手に手続きをしてしまったのですわ」

「き、きみは……彼女を道具か何かだと思っているのか?」

「マイムはマイム。わたくし以外のものが自由にする権利なんてありませんわ」


 ぐっと、アーダベルトが唇を噛む。

 あかん。なんとなく会話が悪い方向へ進んでいる気がするぞ。


「ラティリアーナ様。いくらあなた様とはいえ、一度は成立した取引です。そう簡単には……」

「だからその話は無かったことにしてほしいと言っているのです」


 アーダベルトの目に、ぱっと炎が宿った……ような気がした。横に立つ舞夢マイムが、手をぎゅっと握る気配を感じる。

 もしかしてこいつ、そんなにも舞夢マイムが欲しかったのかな? こんなイケメンに毎夜毎夜イチャイチャされる舞夢マイム。あぁ、なんというけしからん!

 だいたい世の中間違ってる。イケメンばかりがモテるのなんて許せない! だからこんなイケメンに、舞夢マイムちゃんみたいな美少女を渡すわけにはいかんなぁ!


「ラティリアーナ様、あなたは自分がおっしゃっていることの意味がおわかりですか? 貴族は、その名において交わした約束を簡単に反故にすることはできないのですよ?」

「ですから、こうしてわたくし自ら乗り込んで来ているのですわ」


 乗り込んできてるって……せめてお願いに来てるって言ってくれないかな? こんなの宣戦布告みたいじゃないか。


「……じゃあ、ラティリアーナ様はすべての覚悟を決めてお越しだと?」

「ええ、そうですわ」


 そりゃ土下座くらいしろと言われればしますが?

 さっそくそうしようと頭を下げたとき、髪につけていた赤い薔薇の髪飾りがポトリとテーブルに落ちる。あらま、ちょっと刺しが甘かったかな?

 だけど、その髪飾りを目にした瞬間、アーダベルトの顔色が目に見えて変わった。相変わらず無表情、だけど雰囲気が別人のよう。例えるなら──そうだな、戦闘前の冒険者みたいな感じだ。


「……わかりました。あなたからの″薔薇の招待状″、お受けします」


 へ? 薔薇の招待状? なにそれ?

 意味がわからずにぽかーんとしていると、後ろに立つマイムが息を飲むのがわかった。


「では、決闘は一週間後に。場所は王立競技場で。お待ちしておりますよ」


 アーダベルトはそれだけを口にすると、すっと立ち上がってそのまま部屋を出て行ってしまった。


 え? 決闘? なになに、意味わかんないんだけど?

 えーっとどうなってるの?

 だーれーかー、おーしーえーてーくーれー!


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[気になる点] 言葉遣いが強制されるのは嫌だな。何で強制されるの?自分の言葉で自由に喋って欲しい。
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