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60.【 先鋒戦 】機械人形の魂

「モードレッドッ!!!」


 一面を揺るがすほどの大爆破を前に、リリスは気がつくと大声で叫んでいた。それほどに、信じられない状況であったを

 一方、対戦相手の大将であるシドーレンも同様に衝撃を受けていた。


「そんなバカな……自爆させるなんて……僕の最高傑作が……ランスロット!!」


 シドーレンは強い口調で舞台に向かって声を張り上げる。


「お前はこの程度で壊れるのかっ!? 僕を至高の座に据えてくれるんじゃなかったのかっ!? 動け! 動かなければ……お前も破棄するぞっ!」


 ──ゆらり。

 まるでシドーレンの声に呼応するかのように、激しく燃え上がる舞台にわずかに揺らぐ影があった。

 その正体は──。


「あぁ……そんな……」


 やがて炎の中から輪郭を表すものの正体に気づき、リリスががっくりと膝をつく。対するシドーレンは、非常にご機嫌な声で高笑いを上げた。


「ふはははっ! さすがは僕の最高傑作だよ──ランスロット!」

「は──い、異世界王……様」


 巻き上がる爆炎の中からゆっくりと姿を現したのは、顔の左半分を至近距離の爆発で吹き飛ばされながらもなお健在のランスロットであった。

 しかも彼女の右手には──完全に破壊された状態のモードレッドの頭が握られていた。







 ◇◆







 ……モードレッドは夢を見ていた。

 いや、正確には夢と思しき場所に立っていた。


 機械人形は夢など見ない。見るはずがない。

 だとすると自分が立っている場所はどこだというのだろうか。機械人形に、死後の世界など存在しないはずだ。


「私は……自爆して終わったはず」


 ランスロットと対峙した時から、モードレッドは自身の旅の終焉を理解していた。

 相手はゲームマスターの最高傑作であるランスロット。戦闘力の差はおよそ七倍。言い換えれば自身が七体揃ったとしてようやく互角に戦えるような相手に、たった一体ではどう足掻いても勝てるとは思えなかったのだ。


 であれば、自分がすべきことは──たとえ破壊され消滅したとしても、マスターたち″仲間″に次への道筋を作ること。僅かでもランスロットに手傷を負わせ、相手の戦力を削ぐこと。

 それが、一度は破棄処分にされてしまった自分のやれる最大限の全て。だから彼女は、最期に自爆を選んだのだ。




 ──あなたはそれで満足なの?



 ふいに誰かが問いかける声が聞こえた気がして、モードレッドは問われた言葉の意味を考える。


 自分は、仲間たちの役に立つことができれば良かった。それが、自分の行動原理の全てだった。

 だが……満足とはなんだろうか。




 ──あなたは本当に、そんな最期を遂げたかったの?



 自分にとって、仲間たちの役に立つことが全てだった。

 そのためには、自身の破壊すら厭わない。たとえどんな手段を選ぼうとも、仲間の力になると決めていたから。




 なのに……。


 なぜ、こんなにも胸の奥が痛いのだろうか。







 ──思い出しなさい、あなたの旅を。


 声は再び、モードレッドに問いかける。その言葉に従うように、彼女は自身の旅路に思いを巡らせる。


 彼女の新たな生は、リリスの偶然の発見によってもたらされた。

 薄暗いダンジョンの薄暗い部屋。眠るモードレッドに1万を超える魔力を注ぎ込むことで、ついに彼女は新たな目覚めを迎える。

 1万という魔力は、転生チートを持つものでしか持ち得ない魔力量である。もしそれ以下の魔力を注いだ場合、モードレッドはモンスターとして相手を襲うようプログラムされていた。

 ゆえに、もしリリス以外のものに最初に発見されていれば、彼女は希代の凶悪モンスター″バイオゴーレム″として歴史に名を残していたであろう。

 だが現実にはそうならなかった。


「……おはようございます、マスター」

「キ、キミの名前は?」

「モードレッド、と申します。新しいマスター、あなたのお名前をお教えいただけますか」


 普通だったら絶対にあり得ない、奇跡的な出会い。

 この偶然の出会いにより、モードレッドの″生体ゴーレム″としての生は大きく影響を受けることになる。


 モードレッドは強かった。たとえランスロットには劣るとはいえ、通常のモンスターを歯牙にも掛けない強さを持っていた。

 対して、全く戦闘力を持たないものの高い索敵能力や補助能力に長けるリリス。そんな彼女と、自身の戦術を持たないモードレッドの組み合わせは、とてつもなく相性が良かった。

 やがて二人はダンジョンを一つ制覇し、そこで得た魔法具マギアを用いて″占い″のような商売を始める。

 これが──今から五年ほど前の出来事。


 それから二人は、世界中を旅した。

 時には占い師として、時には冒険者として、街を渡り歩きダンジョンに潜った。危険なこともあったが、力を合わせて何度も乗り越えてきた。ウタルダスたちと会った時には、パーティに勧誘され危うくハーレムルートに突入するところだった。


 そして──ラティリアーナとの出会い。

 彼女と出会い、モードレッドの胸の奥は何度も揺さぶられた。


 ラティリアーナは自身のことをいつも″人間″として扱った。機械人形であるモードレッドには理解できない取り扱い。だが、不思議と胸の奥に熱を持つような感覚があった。


「これは……バグ、なのでしょうか?」


 ティアやレオルと出会い、不思議な感覚を胸の奥に感じることが多くなった。だがこの感覚に違和感はなかった。むしろ僅かでも強くなったような気さえした。


「気がする、などというあいまいなものを私が感じるなんて……」


 異変はそれだけではなかった。

 何物にも変えがたい貴重な経験の中で、モードレッドの中に新たな思いが芽生え始める。


 それは──仲間を大切に思うこと。


 具体的にどうすれば良いかはわからない。でもモードレッドは仲間たちを守ろうと決めた。


 だから、守れたら満足なはずであった。

 満足で──。






 ──本当に?


 声は、再びモードレッドに問いかける。



 ……ぐらり。

 モードレッドの中にある何かが、大きく揺らいだ。

 それは、彼女の中にずっとあって、決して手を触れてこなかったもの。



「私は……」



 だがモードレッドは、胸の中の一番奥にある″隠された何か″に、声に導かれるようにしてゆっくりと手を伸ばす。


「ほんとうは、私は……」



 そしてついに──手が触れた。

 次の瞬間、彼女の胸の奥にある何かが一気に弾ける。

 弾けたなにかは、猛烈な勢いでモードレッドの中へと広がってゆく。

 溢れ出たのは──彼女が持つ本当の″気持ち″だった。


「私は…………みんなと一緒に……もっと旅をしたかった」


 ほろり。モードレッドの頬を涙が伝い落ちる。

 それは──機械人形であるはずの彼女からは決して出るはずのない″涙″。


「私は──″人間″に……」



 そしてついに。

 決定的な一言が、モードレッドの口から零れ落ちた。






「そう、それがあなたの本心なのね。

 ならばわたくしが──あなたに力を与えますわ」



 それまで遠くから聞こえていた声が、急にハッキリと目の前から聞こえてきた。

 ハッとしたモードレッドが顔を上げると、彼女の前には──。


「サブ……マスター?」


 鮮やかな紫色の髪と紫水晶のような瞳を持った″悪役令嬢″ラティリアーナが、かつてと同様に凛とした表情で立っていた。






 ◇





「サブマスター、なぜ……ここに?」


 モードレッドは信じられなかった。

 ラティリアーナは致命的な傷を負って、氷の棺の中で眠りについているはずだ。それがなぜ今──こうして堂々と自分の目の前に立っているのか。


「それは愚問ね。なぜなら──あなたが望んだからよ」

「私が……望んだ?」

「ええ、あなたが心の底から望んだから、わたくしはここに居るわ。

 さぁ、言いなさいモードレッド。あなたの真の望みを──」

「私の……真の望み?」


 先ほどは思わず口から溢れでてしまった、とてつもない望み。果たして機械人形である自分に口にすることが許されるのだろうか。

 一瞬の逡巡。だが目の前のラティリアーナが優しく微笑む。

 そうか──ならば──。

 意を決して、モードレッドは思いを伝える。



「サブマスター、私は──人間になりたいです。人間になって……仲間たちと旅をしたかった……です」


 だが同時にモードレッドは理解していた。その願いは決して叶わないものだと。

 なぜなら彼女はモンスター。ゲームマスターに作られたし生体ゴーレム、モードレッド。

 しかも、すでに彼女はランスロットに一矢報いるために自爆までしていた。今更もう、取り返しなど──。


「大丈夫ですわ、モードレッド。取り返しのつかないことなどなにひとつありませんわ。あなた、わたくしを誰だと思ってますの?」

「あなたさまは……サブマスター」

「いいえ、違うわ」

「その……ラティリアーナ様」

「悪くないけど、それだけではないわ。さぁ、口にしなさい。一番大事な一言を」

「あなたは──私の大切な仲間……です」


 キラン、とラティリアーナの目が輝いたかのように見えた。それはまるで、閉ざされた洞穴の奥深くに眠りしラピスラズリの鉱脈に陽の光が射したかのように。


「ええ、そうよ。そしてわたくしの大事な仲間であるあなたが、望むことは何?」

「私は──人間になりたい、です」

「わかったわ。ではわたくしはあなたの仲間として──あなたの願いを叶えましょう。

 ……これがわたくしがあなたに与える、最初で最後の奇跡ですわ」




 ──次の瞬間。

 モードレッドの耳についていた紫水晶の耳飾りが一気に輝きだした。








 ───── 因果律操作コーザリティ・モディフィケートエル変身メタモルフォーゼ】 ────







 〈クリティカル・メッセージ〉

 システムの影響範囲を超える因果律の操作を受け付けました。『紫艶の魔道書』の意思により、運命の改変を行います。




 〈クリティカル・メッセージ〉

 ユニークモンスター″生体ゴーレム″モードレッドの核は消滅し、人工生命体としての【 魂 】を生成します。


 ……──成功。

 因果律の操作により、新たな生命体が誕生しました。

 これより、生体ゴーレム・モードレッドは新たな固有生命体ユニークヒューマン魔導人間マギアヒューマン 】となります。

 また、因果律の操作により、新たにギフトを獲得します。


 ──ギフト【 神速 】獲得。

 ──ギフト【 超動体視力 】獲得。





 〈クリティカル・メッセージ〉

 生命を得たことにより、これまで獲得した経験値がすべて付与されます。

 ──レベルアップしました。

 ──レベルアップしました。

 ──レベルアップしました。

 ──レベルアップしました。

 ──レベルアップしました。

 …………

 ………

 ……

 …

 ──レベルアップしました。





 〈クリティカル・メッセージ〉

 生命を得たことにより、新たに称号を獲得します。

 ──ユニークスキル【 剣聖 】獲得。

 ──ユニークスキル【 因果律の申し子 】獲得。

 ──ユニークスキル【 邪道二刀流 】獲得。

 ──スキル【 魔力操作 】獲得。

 ──魔法【 身体強化 】獲得。




 ……以上、すべての改変は終了しました。






 ──





 何が起こったのか、モードレッドにはまったく理解することができなかった。ただ──自分の身体にとてつもないことが起こっていることだけは分かった。

 モードレッドの全身が、白い輝きに満たされている。モードレッドはゆっくりと手を握りしめる。感じられる、確かな感触。

 これはいったい──。



「さぁ、戻りなさい。もうあなたは──機械人形などではないわ」


 優しいラティリアーナの声に、モードレッドは返事を返そうとする。だが──何故か声が出ない。


「最後に──あなたに新たな名前を与えるわ。

 あなたの名は──モルド。魔導人間モルド。

 さぁ行きなさい、モルド。あなたを待つ仲間の元へ──」




 ラティリアーナの声に送られるようにして、モードレッド改めモルドの意識は、真っ白な光に包まれた──。





そして──運命はまた動き出す。


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