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49.全てを終えて……

第7章のラストになります( ^ω^ )


 


 ──俺は夢を見ていた。

 それはたぶん、ラティリアーナが幼い時の様子。


「ラティリアーナ、あなたは美しい子。さぁ……その顔をよく見せてちょうだい」


 たぶん母親であろうか。顔は逆光でよく見えない。

 だけど何となくラティリアーナによく似て美しい人のように思えた。


「あなたは清く気高くありなさい。それが──侯爵令嬢のあり方なのだから」


 確かラティリアーナのお母さんは、彼女が小さい時に亡くなってるんだっけ。

 ごめんよ、お母さん。ラティリアーナは侯爵令嬢とはかけ離れた冒険者になってしまいました。


 だけど夢の中のラティリアーナは母親の言うことをよく聞き、素直に頷いている。

 あー、この頃のラティリアーナはきっと素直だったんだな。


 もしかした母親を亡くしてしまったときから彼女は変わってしまったのだろうか。

 だけど俺は知っている。本当のラティリアーナは心優しくて気高くて誇り高い、素敵な侯爵令嬢であることを。


 現に今回、ラティリアーナは獣人たちを救うために命を投げ出した。

 ガルムヘイム湖に飛び込んだのは俺の意志だけじゃない。彼女も同意したからこそ、なし得た行動だった。


 あぁ、もっとラティリアーナと分かりあいたかったな。

 生きていれば──。



 ……って、生きて!?





 ◇





「っ!?」


 一気に意識を取り戻して、俺はベッドから身を起こした。

 ここは──どこだ? 俺は何をしてた? どうしてこんなところで寝ている?


 胸元に重みを感じて見てみると、舞夢マイムが突っ伏するようにして眠っていた。これは一体……どういうことなんだろうか。


「……お目覚めになられましたか? ラティリアーナさん」


 声をかけてきたのは、濡れたタオルを手に持った、見たこともない少女だった。

 栗色の髪に愛嬌のある笑顔。──いや、覚えてるぞ。確かこの子は……スレイヤードが団長を務める《聖十字団クルセイド 》のメンバーの一人、″聖女″ファルカナだ!


「なぜ……あなたが?」

「ラティリアーナさんの治療をしていたんですよ。でももう大丈夫、あなたは丸二日間も眠っていたのですよ」


 丸二日!? 俺はそんなに眠っていたのか!

 ってか、黒死蝶こくしちょう病はどうなったんだ!?

 それ以前に確か俺はガルムヘイム湖に飛び込んで病に感染した挙句、スレイヤードに斬りかかられて……。


「お姉様!」


 部屋の扉が開いて、水桶を放り投げながら飛びついてきたのはティアだった。


「ティア……」

「お姉様、ティアは心配してました! ずっと目を覚まさないんだもの!」

「ティアさんと舞夢マイムさんはずっとあなたのそばを離れないで看病してたんですよ? 舞夢さんは力尽きて眠ってしまいましたけど」


 そうだったんだ……それは二人には悪いことをしたな。

 俺は眠る舞夢マイムと涙を流しながら抱きついてくるティアの頭を優しく撫でる。ってかティア、どさくさ紛れに首に嚙みつこうとしないでくれる?


「わたくしは……生きてますの?」

「ええ、生きてますよ。あなたに感染した寄生虫もスレイヤードが″駆除″しましたからね」


 駆除!? 一度体内に入った原因寄生虫に対しては打つ手がないってリリスが言ってたんだけど、そいつをどうやって駆除したってんだ?


「相手の正体が判明していれば、スレイヤードであれば対処できます。彼の持つ″神代魔法具ディバイン・デバイス″《 断罪の聖剣 》が持つ固有能力【 ジャッジメント・ストライク 】は、彼が指定した″一部概念を含むあらゆる存在″を両断することができるのです」


 そうか……俺が気を失う寸前に見た光景は、スレイヤードが俺に対して能力を発動する瞬間だったんだな。

 俺は、あいつに助けられたのか。


「って、そんなことよりもガルムヘイムはどうなったのですの!?」

「……ふふふっ。あなたは自分の身体のことよりもガルムヘイムのことが心配なのですね。私よりもよっぽど聖女みたいですよ。気になるなら、見に行ってみますか?」


 見に行く? それってどういう意味だろうか。


「その前に、少し身なりを整えて行きましょうかね。ティアさん、そろそろ舞夢マイムさんを起こして頂けますか? そうしないと後で怒られそうですからね」

「……そうだね、分かったよ」


 いつの間にやらファルカナとティアは随分仲良くなったみたいで、気さくな感じで言葉を交わしている。俺が寝ている間に、本当に何があったんだろうか……。





 ◇




 目覚めた舞夢マイムにひとしきり泣かれたあと、彼女に手伝ってもらって身なりを整えた俺は、ファルカナに引き連れられて外に連れ出される。

 本当は身なりなんかどうでもよくて、すぐにでも外に出て状況を確認したかったんだけど、舞夢マイムが「絶対ダメですワン!」といつになく強引に引き止めたのだ。Sランク強制依頼発動のタイムリミットが近づいているっていうのに、そんなにのんびりしてて大丈夫なんだろうか……。


 まだ少しフラつく身体をティアと舞夢マイムに支えられながら″聖光園″から外に出ると、ガルムヘイムの街の様子が少し変わっていることに気づく。

 なんというか──活気が感じられるのだ。人通りが皆無だった大通りには獣人たちが行き交い、ときおりSランク冒険者チームの面々の姿も見える。

 しかも、なぜかこちらに気づくと驚いたような顔や泣きそうな顔をしてガン見してくる。……なんだよこれ、気持ち悪いな。


「……どういうことですの?」

「すぐに理由は分かりますよ」


 ファルカナは微笑みながらそう言うだけでなにも教えてくれない。ティアと舞夢マイムは俺の両腕を奪い合っててそれどころではない。くっそー、美少女に取り合われるなんて夢のような光景だってのに、まったく堪能できる気分じゃないや。


 そのまま連れてこられたのは、ガルムヘイムの街の外れにある高台の上。そこに簡易の小屋のようなものとやぐらが建てられている。

 街の住人や冒険者たちが、なぜかぞろぞろと後ろからついて来ていた。こいつらが何をしたいのか分からないけど、こんなに注目を浴びるんだったら素直に身なりを整えておいて良かったよ。いや、もしかしたら舞夢マイムは今のこの状況を察して──。


「サブマスター、お目覚めですね」

「ラティ、起きたんだ!」


 声をかけてきたのは、黄色いヘルメットを被って地図を手にしながら他の冒険者や獣人たちになにやら指示を飛ばしていたリリスと、その補佐をしていたモードレッドだ。こいつらどこの土木作業員だよ。


「……あなたたち、そんなところで何をしてますの?」

「目覚めて第一声がそれってのがラティらしいね。ってかまだ後ろ・・気づいてない・・・・・・の?」


 後ろ? それはどういう事だ?

 ティアたちに引きずられたり、ぞろぞろついてくる人たちのせいで後ろを確認するどころじゃなかったんだけど。


 リリスに言われて後ろを振り返った俺は、目の前に広がる光景に──完全に言葉を失ってしまった。




 視界に飛び込んできたのは、どこまでも茶色い大地。


「──ガルムヘイム湖が、消えてますわ……」


 そう、ガルムヘイム湖が完全に・・・消え去って・・・・・いた・・のだ。





「あははっ、ラティが心底驚いてるところを初めて見たかも」


 いや、そりゃ驚くさ!

 だってさ、それほど大きくないとはいえ湖が一個丸ごと枯渇してるんだよっ!? いったいどんな事をしたら湖を消し去ることが出来るのさ!


「ラティリアーナ! 目を覚ましたんだね!」


 騒ぎに気づいて小屋から出て来た元婚約者のアーダベルトが、驚いた様子で近づいてきた。俺の手を握ろうとするものの、すぐにティアと舞夢マイムに威嚇されて断念する。ぷぷぷ、残念だったな色男さんよ。

 遅れて、他のSランクチームのリーダーたちも小屋から出てきた。″愚者の王″ウタルダス・レスターシュミットや俺を救ってくれた″聖騎士″スレイヤード・ブレイブス、それに直前の議論では反対意見ばかりだったグレイブニル・サンダースまでいる。

 事情を飲み込まないでいる俺に、ファルカナが教えてくれた。


「ラティリアーナさんの証明を受けて、原因と感染ルートを特定したと判断した全Sランク冒険者チームは、それまでの任務を一度見直すことにしました。協議の結果、総力を結して″黒死蝶こくしちょう病″を撲滅する手助けをすることにしたんですよ」


 マジかよ……こいつらが動いてくれたのか。

 たしかにSランクチームが本気を出せば、湖を枯渇させるくらいは出来るだろう。だけど正直俺は、こいつらの『ガルムヘイム浄化作戦』を阻止することに精一杯で、まさかそこまでやってくれるとは思わなかったんだ。


「それもこれも、みんな貴女たちの行動に心打たれたからですよ、ラティリアーナ」


 アーダベルトが、普通の女の子なら蕩けてしまいそうな甘い笑顔を浮かべて教えてくれる。すぐ横ではルクセマリア王女が「王女として当然のことをしたまでよ!」と巨大な胸を張っている。


「ま、あんだけのもの見せられて心が震えなかったら冒険者じゃないしな」


 ウタルダスがウインクしながら応える。その横には、サムズアップをするアトリーの姿が。


「君の行いは素晴らしかった。きっと双子の女神エルエーレもお認めになることでしょう」


 スレイヤードが十字を切りながら天を仰ぐ。あぁ、こいつはやっぱり変わらないな。


「……俺たちは合理的な判断をしただけだ。今回の病はSランク指定される規模の風土病。それを阻止するのは冒険者として当然の行いであるからな」

「俺はお前に負けたわけじゃないからな! だから今回は協力してやったぜ!」


 グレイブニルの言葉に、背後にいたバッカスが睨みつけながら答える。ははっ、こいつも手伝ってくれたのか。戦ってる時から根っからの悪人とは思わなかったんだけど、本当に素直じゃないやつだ。


「現在、彼らは三つのチームに分かれて活動してるんだ。第1チームは水の浄化と生態系の保護。第2チームが中間宿主となる巻貝の殲滅。第3チームが病人の保護と治療。もちろん、獣人たちも全員が参加して一体となって対処してるよ」


 リリスが嬉しそうに教えてくれる。どうやら獣人と冒険者たちが手を取り合って問題解決に取り組んでいるらしい。なんて……ありがたいことなんだ。


 たぶん、俺たちのチームだけではここまでのことはできなかっただろう。この調子なら、きっと短期間で″黒死蝶こくしちょう病″を撲滅出来るはずだ。


「……ありがとう」


 自然と口に出たのは、感謝の言葉。

 ラティリアーナの口から、他人への感謝の言葉が出るなんて、夢にも思わなかった。


「何を言うておる。感謝をするのはワシらのほうバウ」

「そうですみゃあ!」


 今度声をかけて来たのは、作業着姿の″獣王″邪雁ジャガンと″聖獣″江来座エライザだった。その横には、ウタルダスのパーティにいる猫獣人の女の子──野蒜ノビルちゃんだったかな? の姿もある。顔がよく似てるから、もしかして二人は親戚同士だったりするのだろうか。


「ラティリアーナよ。おぬしたちは我らが獣人族およびガルムヘイムのために、本当によくやってくれたバウ。おぬしらがいなければ、こうはなっていなかったバウ。本当に……感謝するバウ。獣人族を代表して礼を言うバウ」

「私たち獣人族は、あなたたちによって命を救われましたみゃあ。あなたさまは、私たちの英雄ですみゃあ。この恩は、ガルムヘイムが存続する限り忘れないみゃあ!」

「……別に。わたくしたちは、当然のことをしたまでですわ」


 照れ隠しなのか、ラティリアーナの口から出る言葉にもいつものキレはない。たぶん、ラティリアーナも本当に嬉しいんだろう。


「えーっと……取り込み中のところ申し訳ないんだけど、ラティリアーナたちに一つ報告があるんだ」

「あら、なんですの? ″愚者の王″ウタルダス」

「今回の『黒死蝶こくしちょう病』に関する出来事は、俺たちの報告を受けた冒険者ギルドによって正式に【 Sランク級災害 】に認定された。すなわち──国家レベルの危機と判断されたんだ」


 国家レベルの危機……。そりゃそうだろう、こんなものが蔓延したら、あっという間に人類なんて滅びてしまうからね。


「それほどに重篤な災害を、きみたちは原因を突き止めるだけではなく、撲滅までの道筋までつけた。これらの所業を、俺たちは『Sランク災害対策の高度達成』と認定したんだ」


 高度達成。それは予定された依頼を高レベルで達成した時に与えられるものだ。ところでこいつの言う「俺たち」っていうのは誰を指しているんだろうか。


「そしてここからが本題だ。今回の結果を受けて、俺たち・・・四つのSランク冒険者チームは、ラティリアーナたち《 紫水晶の薔薇(アメジスト・ローズ) 》を『Sランク冒険者』に推薦することにしたんだ」



 ……は?

 今ウタルダスはなんて言ったんだ?

 俺たちが、Sランク冒険者に認定?


 確認するようにリリスに視線を向けると、こいつも知らなかったみたいで口をパクパクとさせている。


「これだけのことをやってのけたんだ。ラティリアーナなら当然だよ」

「双子の女神は貴女の立派な所業を見ています。神の祝福に値する行いと言えるでしょう。きっと女神様方もお喜びに違いない」

「うちの将来有望な若手を破ったんだ。低ランクでおられちゃ恰好がつかないんでな」


 アーダベルト、スレイヤード、グレイブニルがそれぞれの言い方でウタルダスに追従する。


「Sランク認定には、基本的に各国の国王からの推薦、もしくはSランク冒険者チーム三つ以上の推薦が必要だ。今回君たちは四つのSランクチームから推薦を受けるわけだから、ギルドには問題なく受理されるだろう。おめでとう、ラティリアーナ。君たちは──Sランク冒険者だ!」


 どわっ!!

 ウタルダスの宣言を受けて、それまで黙って様子を伺っていたギャラリーたちが一気に歓声を上げる。


「おめでとうバフ!!」「我らの英雄ばんざーいがう!!」「ラティリアーナ様、素敵キャン!!」「綺麗!! 触らせてむーん!!」「リリス様、しゃぶりたいワオーン!」「モードレッド様、ぶってくださいハム!」「ティア様、うちの娘にしたいキャイーン!」


 ……なにやら意味不明な声も混じってるけど、どうやらみんな俺たちのことを祝福してくれてるみたいだ。他のSランク冒険者たちも、態度は個人差こそあれ、みな受け入れてくれているみたいだし。

 そして同時に、獣人たちは俺たちを祝福するために後について来てくれたんだってことを理解する。えもいえぬ感情が、胸の奥に広がっていく。


 ──ラティリアーナ、君にも伝わってるかい?

 みんな、君のやったことを祝福してくれてるんだよ!


 返事の代わりに、爽やかな気持ちが心の中を吹き抜けていった。


「ラティリアーナ、あなたもついにあたしに追いついたわね!」

「ルクセマリア王女、別に望んだわけではありませんわ。わたくしにとってはどうでもいいことですもの」


 まるで憎まれ口のようにそう返したけど、実は俺にとってもラティリアーナにとっても、ガルムヘイムが救われたことのほうがよっぽど嬉しかったというのが本音だった。

 今回の昇格話はあくまで副産物的なものに過ぎない。だからSランクと言われてもピンとこないし、正直以前ほど望んでるわけではなかった。

 だけど──獣人たちの喜んでいる顔を見ると、これは良いことなんだと素直に受け入れることができた。彼らが喜んでくれるなら、まぁよかったかな。




 ──そのとき。

 大騒ぎしていた獣人たちが、急に静まり返った。取り囲むようにしていた人の輪が、一気に左右に分かれていく。


 理由はすぐに分かった。″獅子王″レオルが現れたのだ。

 レオルは悠然と歩み出てくると、俺の前で立ち止まる。目には燃えるような炎を灯したまま、ゆっくりと語りかけてきた。


「ラティリアーナよ」

「……なんですの? 獅子王レオル」

「かつてオレは、この地において『黒死蝶こくしちょう病』によって妻子を亡くした。そのときオレは、命をかけてこの病を撲滅し、ガルムヘイムを救う術を見つけてみせると誓ってこの地を離れた。だが──10年近く彷徨った挙句、なにも出来なかった」


 始まったのは、レオルの昔語り。

 獅子王の、悲しき過去。


「オレは、ガルムヘイムを救うためなら命など惜しくないと思っていた。全てを賭けて、絶対にこの国を守ってみせると思っていた。それこそが、死んでいった妻や子供に報いることだと信じていた。

 だが『黒死蝶こくしちょう病』は、そんなオレを嘲笑うかのように情け容赦なくこの国を襲い、そして滅ぼしかけた。

 正直オレは絶望していた。もはやこの地と共に朽ち果てようと決意までしていた」


 強く握りしめた拳に、獅子王レオルの想いの強さが伝わってくる。


「だが! お前たちは最後まで諦めなかった。それどころではない。全てを賭けて憎き『黒死蝶こくしちょう病』の秘密を解き明かし、この国を守ってみせた。

 お前たちは、オレに出来ないことをやってみせたんだ。心から、感謝している。

 本当に──ありがとう」


 あの獅子王が、個人でSランクに到達した、至高にて孤高たる最強の獣人である彼が、俺たちに頭を下げた。

 それは、とてもではないが信じられない光景だった。


「そんなこと、別に気にする必要はありませんわ。わたくしは──わたくしの心の赴くままに動いただけですもの」

「心の赴くままに……か。なるほど、良い言葉だ。ではオレもその言葉を使わせてもらおう!」


 ドンッ!

 獅子王レオルが握りこぶしで自らの胸を強く打った。

 しん──その場にいた全員が静まり返る。


「ラティリアーナよ。オレはこれまでガルムヘイムを救うためにこの命を捧げてきた。だがお前が、お前たちがこの国を救ってくれた。お前たちによって、このオレの生涯の誓いは果たされたのだ!」


 強く、雄々しい声。

 獅子王レオルの言葉は、俺の魂に直接語りかけてくるように響いてくる。


「お前たちは、命を懸けてこの国を救ってくれた!

 これを大恩と言わず、なにを言わんや!

 だから次は、この恩を──オレに返させて欲しい」


 ごうっ。

 レオルの全身から、黄金色の覇気が溢れ出る。


「ラティリアーナよ。紫水晶の乙女よ。

 オレは、オレの守るべきものを守ってくれたお前のために、今後はこの命を燃やし尽くしたい。

 お前が進むべき道を、今度はこのオレに守らせてほしい。

 どうかオレを──この獅子王レオルを、お前の臣下に加えてもらえないだろうか」


 そう一気に言い切ると、獅子王レオルは俺の前に片膝をついたんだ。



 なんが……どえらいことになっちまったぞ。

 あの獅子王レオルが、俺の部下にして欲しいと言ってきたのだ。

 しんと静まり返って、状況を見守る観衆ギャラリーたち。チラリとリリスの方を見ると、その目は「ラティの好きにしていいよ」と言っている。


 そうか。

 わかったよ。

 じゃあ俺も……″心の赴くままに″返事させてもらうとするかな。俺は獅子王レオルの目をじっと見つめ返す。


「……獅子王レオルよ。あなたの気持ちはわかりましたわ。

 ですが、もしあなたがわたくしの部下になりたいというのであれば──丁重にお断りさせていただきますわ」


 ザワッ!

 予想外の言葉に、観衆たちが騒めく。


「──ですが!」


 続けてそう口にすると、一気にまた静まり返る。

 俺は、真っ直ぐに獅子王レオルの瞳を見つめながら言葉を続ける。


「ですが、もしあなたがわたくしたちのパーティに参加したいというのであれば。

 わたくしは喜んで──あなたを受け入れますわ」


 極力微笑みかけるつもりで、笑顔を返してみる。俺は上手に表情を作れてるだろうか。


「そうか。──では改めて問おう。ラティリアーナよ、ぜひオレを、お前たちのパーティに加えてもらえないだろうか」


 ニヤリと笑いながら右手を差し出してくる獅子王レオル。

 俺はその手を──ちょっとだけ偉そうに踏ん反り返りながら握りしめたんだ。


「ええ。結構ですわ。

 ようこそ、獅子王レオル。我らが《 紫水晶の薔薇アメジスト・ローズ 》へ!」


 うぉぉぉおおおぉぉおぉぉぉっ!!


 二人の手が握り締められた瞬間、固唾を飲んで見守っていた観衆たちが一気に沸き立った。

 レオルやラティリアーナ、リリスの名前を連呼しながら泣き叫ぶ獣人たち。彼が獣人たちから絶大な人気を誇ることを、このとき初めて理解した。

 それまで厳しい顔をしていた獅子王レオルが、獣人たちの歓声に応えて表情を崩す。あぁ、こいつ笑うとこんないい笑顔になるんだな。


 適当に歓声に応えていると、いきなりレオルの肩に担ぎ上げられた。おまけにリリスも反対側の肩に担がれている。

 美少女二人を担ぎながら、獅子王レオルが愉しそうに声を上げる。


「ふははっ! ラティリアーナにリリスよ、お主たちとおると退屈しそうにないな! これからも、よろしく頼むぞ!」


 俺はレオルの頭に手を置きながら、こう答えたんだ。


「当然ですわ。わたくしはラティリアーナ・ファルブラヴ・マンダリン。Sランク冒険者チーム《 紫水晶の薔薇アメジスト・ローズ 》のリーダーですわよ!」





 ◆






 ──この日。

 獣人たちの王国ガルムヘイムに、新たに二つの名所が誕生した。




 一つは、街の中心にある白き治療院『リリス園』。


 そしてもう一つは、ガルムヘイムの街を象徴する静かな湖畔。

 その湖は、獣人たちによって──『ラティリアーナ湖』と呼ばれるようになった。





 〜 第7章 完 〜





これにて第7章は完結となります!


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