48.解明
「水に濡れるだけで寄生虫に感染するの?」
アトリーの確認にリリスは頷く。
「うん、そうだよ。……あぁ、一度思い出したら記憶が溢れてくる……。そうだよ、ボクたちは習ったじゃないか」
「習った?」
「うん。あれば生物の授業だったかな? メガネをかけた爺さん先生──バイオ爺だ! バイオ爺が教えてくれたんだよ、覚えてない?」
「……思い出したわ。いいえ、この感覚は違う。封じられていた記憶が蘇る感覚だわ」
リリス程ではないものの、アトリーにも前世に関する記憶の欠如が伴っていた。だが一度蘇ると、堰を切ったように一気に記憶が溢れかえってくる。
「確か普段は絶対質問しない彼が、わざわざバイオ爺に聞いてたわよね?」
「彼? 彼って一体誰だい?」
「えー、思い出せないの? ほら、あの──」
そこまで口にして、アトリーは口ごもる。
「……どうしたの?」
「思い出せないのよ。ここまでイメージは湧いてるのに思い出せない。なんなのこの気持ち悪さは」
これまで何度も2人が味わってきた感覚。記憶が封じられている感覚。とはいえ今はそのことにこだわってる場合ではない。
「今はしょうがないよ。それよりも思い出したことを整理しよう。あのときボクたちはバイオ爺から寄生虫の話を聞いた。その中に──水で感染する″風土病″の話があった。覚えてる?」
「ええ、覚えてるわ。畑仕事や漁で感染するって聞いてぞっとしたもの」
「あぁ……だから湖のそばの住人や畑仕事の人たちが全滅してたのか……なんてことだ」
リリスががっくりと項垂れる。
「ねぇ、アトリーは覚えてない? あのときバイオ爺は、その寄生虫の″中間宿主″は何って言ったかを」
「中間宿主? ってなに?」
「もう……ちゃんと授業聞いてたの? 寄生虫が最終宿主に寄生する前に滞在する生物のことだよ。『黒死蝶病』は、たぶん水の中で皮膚からヒトに感染する。だけど水の中に出てくる前に、どこか別の生き物の中に潜んでいるんだ。それが──中間宿主だよ」
「あぁ、そういえばバイオ爺が何か言ってたわね。たしか……あぁ、思い出したわ」
そしてついにアトリーは、思い出した生物の名を口にする。
それは、数百年に渡り獣人たちを苦しみ続けた伝説の病が、ついに人々の手に届くところに降りてきた瞬間であった。
「貝よ。小さな巻貝って言ってたわ」
◆◆
その日の夕方、リリスに緊急で呼び出されとき、俺はソファで死んだように意識を失っていた。
「ラティ! 寝てる場合じゃないよ!」
能力解放の反動もあってウトウトしてるときに叩き起こされたから一瞬ぼーっとしてたけど、リリスの次の一言で眠気が一気に吹き飛んだ。
「″中間宿主″が分かったよ! ついに……感染ルートが解明できたんだ!」
──ぶるり。
俺は全身に鳥肌が立つのを感じた。
リリスはついにやってのけたのだ。こいつにしかできない、だけど地獄のように苦しい道のりを、とうとう歩き切ったのだ!
感動のあまり胸の奥がギュッと熱くなる。だけど素直じゃないラティリアーナはそんな気持ちを表に出すことはない。口に出たのはやっぱり皮肉。
「それは……本当ですの? リリスの勘違いではなくて?」
「勘違いなんかじゃないよ! これから『黒死蝶病』の解明された謎について説明するから、ついてきて!」
わずかな仮眠は取れたけど、ほとんど体力や魔力は回復していない。だけど不思議と精神は高揚していた。
「ええ、分かりましたわ!」
にこり、リリスが微笑む。
その笑顔はとても晴れやかで、まるで天使のように美しいと俺はふいに思ってしまったんだ。
リリスに引き連れられてやってきたのは、ガルムヘイム湖畔だった。
現場には既に声をかけられていたのか、関係者のほぼ全員が集まっていた。
獣人族からは″獣王″邪雁や″聖獣″江来座たち。獅子王レオルや寝込んでいた舞夢、それに野蒜の姿もある。
Sランク冒険者からは、四つのチームのリーダーおよび各メンバーがほぼ全員参加していた。俺が失神させたバッカスも、首に包帯を巻いて不貞腐れた顔で参加している。死んでなくてなによりだ、ギリギリのところで手加減したからね。
そして信頼すべき俺の仲間たち──ティアとモードレッドの姿もあった。二人は俺たちの姿を確認すると、すぐに駆け寄ってくる。
どうやらこれで全員のようだ。リリスは一歩前に出ると、一同を一通り見渡したあと口を開く。
「皆さま、わざわざお集まり頂いてありがとうございます。ボクはラティリアーナが率いる冒険者チーム《 紫水晶の薔薇 》に所属する″千眼の巫女″リリスです。
これからボクと″聖獣″江来座さん、それに──多大なる獣人の皆様の犠牲と貢献により解明することが出来た『黒死蝶病』の全容をお伝えします」
しん──。
それまでざわめいていたこの場が一気に静まり返る。
「これからボクがお話しすることには仮説も含まれます。場合によってはこの場で皆さんに検証してもらう必要があるかもしれません。ですが──ボクは″千眼の巫女″。解析における世界最高峰の神代魔法具『千里眼情報板』の使い手です。その点においては信頼してもらえると助かります」
リリスにしてはすごく慎重な物言いだ。
たぶんこいつも、これから話すことにガルムヘイムの命運がかかっていることが分かってるんだろう。
そして、ついにリリスの口から『黒死蝶病』の全容が語られる。
それは、人間の理解を超えた──生物の不思議と過酷で残酷な運命の物語でもあった。
「まず『黒死蝶病』の原因についてですが、既にラティ……ラティリアーナから聞いている人も多いかと思いますが、ある特殊な″寄生虫″が原因です。ここに生体サンプルがあります」
リリスは小瓶に入った″寄生虫″ををいくつか取り出して他の人たちに渡していく。中には魔法を使って解析とかしている人もいるみたいだ。所々から悲鳴のような声が上がっている。
「この寄生虫は、一度体内に入ると血管を通って内臓に到達します。そこで内臓を食い荒らしながら成長し、やがて身体中に卵をばら撒きます。その卵は、血管を通って外界に放たれるため体の表層付近に集まります。それが──全身に発症する黒い斑点の正体です」
『黒死蝶病』の特徴的な症状とも言えるあの黒い斑点は、とてつもなく悍ましい原因で発生していた。
「原因寄生虫によって内臓を食い荒らされた患者は、やがて腹水が溜まって衰弱し、そのまま死に至ります。死の瞬間に″黒い蝶″のような魔力を放つのは、おそらく寄生虫の断末魔だったり卵たちに対する合図だったりするのでしょう」
宿主の死によって、寄生虫の卵たちはまた外の世界へ解き放たれる。こうして原因寄生虫は、自身の生命の輪──ライフサイクルを作っているのだ。
「この原因寄生虫は、恐らくはとてつもなく長い時を経て独自のライフサイクルを完成させ、現在まで生き伸びてきた生物なのでしょう。とはいえ──この寄生虫の存在自体は、自然界ではさほど特別な存在ではありません。おそらく他の地域でも似たような存在する可能性はあるでしょう。
事実、ボクは似た種類の寄生虫による風土病の発生を知っています。だからこそ今回、『黒死蝶病』の正体を見抜くことが出来ました」
そうか、リリスは前世の知識で似たような寄生虫や病気の存在を知ってたんだな。だからこそこの短期間でここまで相手の正体に肉薄できたのか。
「現在発生している『黒死蝶病』の恐ろしさは、そのスピードと致死率の高さにあります。そのうち致死率の高さの理由は明確です。『黒死蝶病』は内臓を食い荒らします。それが結果的には宿主に致命傷を与えて死につながるからです。たとえ寄生虫が全滅したとしても、一度食い散らかされた内臓は元には戻りません」
「患者は……生きながら内臓を食われていたというのか」
呻くような声がどこからか上がり、リリスは応えるように小さく頷く。
「ええ、そうです。ただ、元々過去から発生していた『黒死蝶病』と、今から10年ほど前に突如再発生した『黒死蝶病』……便宜的に『新・黒死蝶病』と言いますが、こちらは実は大きな違いがあります。それは、病の進行スピードと特効薬の存在の有無です」
そう。その事実こそが『黒死蝶病が突然変異して悪質化した』と判断され、Sランク冒険者たちに対するガルムヘイム浄化依頼が発生する要因となったのだ。
「元来の『黒死蝶病』の潜伏期間数年、発症後の致死率は5割ほどでした。これは伝承からも明らかです。潜伏期間の長さもあるから、たぶん……知られていない患者も含めれば、本当の致死率は2〜3割くらいじゃないかと推測されます」
「過去の伝承についてはこの″聖獣″エライザが保証しますみゃあ!」
江来座さんが追従し、リリスの説明を補強する。
「そしてもう一点、ここにいる彼女──″聖獣″と呼ばれる一部の獣人には、この寄生虫に対する免疫がありました。免疫とは──体内に入った寄生虫を異物として攻撃し死滅させる仕組みです。このため、″聖獣″の血を飲めば同様の免疫を手に入れることができ、以降の獣人たちは『黒死蝶病』に侵されることはありませんでした」
″聖獣″という特効薬の存在こそが、獣人たちがこの地に住むことができた理由。だが──。
「しかし、『新・黒死蝶病』にはこの″聖獣″の血が一切効かなかった。おまけに潜伏期間など皆無に等しく、感染したあと一週間以内という極めて短期間で内臓を食い荒らされて亡くなります。しかも致死率は……黒点発症後は誰一人助かっていません」
しん──。『新・黒死蝶病』の恐ろしさを突きつけられ、静まり返る一同。
「致死率10割。これは信じられない数値です。そう──まるで、強い意志で皆殺しに来ているかのように」
「……そ、それこそ、突然変異じゃないのか?」
「それはありえません。
いいですか、先ほども言った通り、この寄生虫は数千年、いや数万年という長い時を経て完成されたライフサイクルを持つ生物です。それが、いとも簡単に生態系自体が突然変異することなんてありえないのです。そもそも『新・黒死蝶病』は致死率が高すぎます。宿主を皆殺しにしていたら、彼らのライフサイクルも崩壊してしまうでしょう。そんなこと、自然界ではありえないのです。
もしあるとすれば、それは──人為的なものでしょう」
リリスの言う通り、もし寄生虫の突然変異が人為的に行われたとのであるとすれば──そいつはいったい何者で、何が目的だったのだろうか。
しかもそいつは、この寄生虫の生態を知っていたということになる。知っていて、使ったのだ。
とてつもない──底なしの悪意を感じて吐き気がする。これをやったやつは、絶対にまともなやつじゃない。
「ボクはおそらく何らかの″人工的な手″が入ることで、『黒死蝶病』はここまで悪魔的な病に変貌を遂げたのだと考えています。そうでなければ、このような事態にはなりえないでしょうから。
誰が、何の目的でやったのかは分かりません。なにより証拠はありません。あくまで仮説になります。さっきはあり得ないと言いましたが、証明ができない以上、自然界での突然変異である可能性も完全には捨て切れません。本当のところは分かりません──でも! それでも!」
リリスは、強く言葉を切る。
きっとあいつも悔しいんだろう。寄生虫を突然変異させ獣人を死滅させようとする底なしの悪意に、心底腹が立ってるんだろう。
しかし、今やるべきことは犯人の追求じゃない。ガルムヘイムを救うことなんだ。
そのことを一番よく分かってるのはリリスだ。だからあいつは大きく深呼吸すると、感情を押し殺して言葉を続ける。
「致死率がいくら高まろうと、特効薬が効かなかろうと、寄生虫そのものの基本的な生態は変わっていません。だから、やつらのライフサイクルを断つことで『黒死蝶病』は根絶できると──ボクは考えています」
そう。リリスの言うとおり、『黒死蝶病』の侵食スピードは劇的に上がっているものの、それ以外には特効薬が効かないくらいしか変化は見られない。
であれば、確かに彼らのライフサイクルを断つことが出来れば──。
「さて、ここで肝心なのは『黒死蝶病』の感染ルートを特定することです。
残念ながら″寄生虫″が一度体内に入ってしまったら、現時点ではもはや為すすべはありません。内臓を食い破られて死に至ります。
でもどこで感染しているのかが分かれば、そのルートを断つことで『黒死蝶病』を根絶することが出来るとボクは考えています」
「じゃあ……その感染ルートはどこだと言うバウ?」
″獣王″邪雁の問いかけに、リリスは頷きながら答えた。
「それは──ここだよ」
リリスが指差したのは、目の前に広がる湖──ガルムヘイム湖だった。
「なっ!? この湖だというのかバウ!!」
「寄生虫は、人の体の中だけでその人生を全て終えるわけじゃない。成長過程に応じて住処を変えるんだ。
『黒死蝶病』の場合はね、人の体から排出された寄生虫の卵はこの水域に帰ってくる。その卵は食物連鎖を巡ってこの水の中に生息するある生物──″中間宿主″の中に取り込まれて、その体内である程度の大きさまで成長する。
そして、ある程度大きくなったところでまた水中に放たれ、″最終宿主″──すなわち人の体内に皮膚を食い破って侵入してきて、体内を食い荒らし成虫となって卵を産む。それが、『黒死蝶病』の原因である寄生虫のライフサイクルなんだ」
「それは、真実バウか?」
「うん。真実だよ。さっきここの水の中をボクの神代魔法具で鑑定して、原因寄生虫と同じ遺伝子を持つ幼体──わかりやすく言うと″子供″を発見したよ。『黒死蝶病』はね、この地域の水に触れることで感染するんだ」
まさか、水に触れることで感染していたというのか。
衝撃の事実を前に、全員が言葉を失う。
「そんな……ではこの地の水を全て消滅させない限り病は消えないということか? どちらにしろこの地は終わりではないか!」
「必ずしもそうではないよ」
獅子王レオルの言葉に、リリスは首を横に振る。
「さっきも言った通り、この原因寄生虫には″中間宿主″が存在している。そしてつい先ほど、その″中間宿主″が特定されたんだ。それが──ここにいる小さな″巻貝″さ」
リリスの指差す先には、水の中に多数の小さな巻貝が見える。大きさは、ほんの指先ほど。ごく平凡な、どこにでもいる巻貝に見える。
あんな──小さなただの貝が、ガルムヘイムを滅ぼそうとしている『黒死蝶病』の中間宿主だというのか。
「うん、そうだよ。ボクの【 千里眼情報板 】でも体内に寄生虫がいることが確認できた。
原因寄生虫はね、この貝の中で幼体にまで成長する。そして一定程度成長すると、水中に飛び出して最終宿主──人を探すんだ。
だからその貝を撲滅させることができれば、この寄生虫は自身の生命のライフサイクルを崩されて、二度と大人になることはできなくなり、やがて死滅してしまう。それが──『黒死蝶病』を滅ぼす、現時点では唯一の方法となるんだ」
ついにリリスが見つけた、『黒死蝶病』の死滅方法。
なるほど合理的だ。もちろん、小さな貝とはいえ死滅させるのは簡単ではないだろう。でも──間違いなくリリスは方法を見つけてみせた。こいつは本当にやり遂げたんだ。
であれば、次はこちらの番だ。
リリスに負けてはいられない。
「皆様方。リリスが言った通り、『黒死蝶病』はその正体とライフサイクルがついに解明されました。もはや『黒死蝶病』は──未知で原因不明の病ではありませんわ!
″独眼竜″グレイブニル・サンダース! これでもまだガルムヘイムは浄化するに値する場所だとおっしゃいますか?」
グレイブニルは押し黙って返事をしない。何かを考えているようだ。
「″聖騎士″スレイヤード・ブレイブス! あなたはこの方法をもってしても『黒死蝶病』は滅ぼせないとお思いですの?」
「……なるほど、至極論理的で納得感があるように聞こえるね。だけど、まだ肝心なことが証明されてないよ」
……やはり気づいたか。俺は心の中で舌打ちをする。
こいつ、本当に嫌な奴だな。
「確かにこの寄生虫が『黒死蝶病』の原因なんだろう。そしてこいつの幼体とやらが水の中にいるのだろう。
だけど、こいつが水中で人に感染するという根拠がない」
「……」
「水中からじゃあ感染しないのかもしれない。本当は違う感染経路かもしれない。獣人だけが感染しているのかもしれない。
根拠が無い以上、安易な協力はできない。天秤にかけるのは私たちの仲間であり、この世界の未来だからね」
「……わかりましたわ。では、証明すればよろしいのですね?」
もうとっくの昔に覚悟は決めていた。
みんなを巻き込んだのは俺だ。救うと決めたのは俺だ。
であれば、俺が証明しなければならない。
ただ、一つだけ心残りがあった。
仲間を──ラティリアーナのことを守ろうとしていたリリスの気持ちを踏みにじってしまうことだ。
だから俺は心の中で謝りながらリリスに近寄ると、その小さな身体をそっと抱き締める。
──ごめんね、リリス。
「ごめんなさい、リリス」
ラティリアーナの口から初めて出た、素直な謝罪の言葉。
それは、俺とラティリアーナの気持ちが重なった瞬間に起こった奇跡。
囁くような言葉は、驚き戸惑うリリスの耳に吸い込まれてすぐに消えてゆく。その時には既に俺はリリスから身を引き離していた。
「ちょ、ラティ? それってどういう──うわあっ!?」
「ティア、リリスのことを押さえつけておきなさい。──【パープル・ヘイズ】」
俺は自分の体に【パープル・ヘイズ】をかけることで、リリスがかけてくれていた【 拒絶結界 】を消滅させる。これで俺の身を守るものは何もなくなった。さぁ、準備完了だ。
俺は仲間たちに背を向けると、そのまま振り返ることなく、湖の中に一気に飛び込んだ。
──ざぱん。
ガルムヘイム湖の水が跳ね飛び、足元を冷たく濡らす。
へー、思ってたより冷たいなぁ。そんなことを思っている時点で、俺は案外落ち着いていたみたいだ。
「っ!?」「ラティ!?」「お姉様っ!!」「ラティリアーナ様っ!?」「ラティリアーナ!!」
完全に無防備な状態で湖に飛び込んだラティリアーナを救おうと、多くの人たちが動き出そうとする。だけど──。
「来るなっ!!」
俺は大声を上げてその行動を阻止する。ラティリアーナらしからぬ粗雑な言葉遣いに、全員が足を止める。
「さぁ皆様! わたくしがこれから『黒死蝶病』に感染しますわ! あなたたちの中には【解析】などの魔法や能力を持つ人もいるでしょう? だから──わたくしを【解析】なさい! それが、リリスの仮説の証明となるでしょう!!」
ちくり。足元にわずかな刺激が走る。
同時に、体内に何か異物が入ってくる感覚……。
あぁ、これが『黒死蝶病』の原因寄生虫の″幼体″が身体の中に入ってくる感覚なんだな。
さすがはリリス。すべてお前が看破した通りだったよ。
「wWooooooowW!!!」
獅子王レオルがとてつもない雄叫びを上げると、全身から黄金色の覇気を爆発させ、そのまま勢いよく水の中に飛び込んできた。おいおい、こいつ水の中に入ってきて大丈夫なのかよ?
周りの水を覇気で蒸発させながら、レオルは水の中から俺を抱き上げる。この時、なぜか俺は全身に力が入らなくなったいた。
だが代わりに、リリスが看破できなかった一つの事実を理解する。
あぁ……この″寄生虫″は、宿主の魔力を吸い取って成長しているんだ。
それこそが、『真・黒死蝶病』が猛烈な成長スピードを手に入れた要因であり、″聖獣″の血の効果がなくなった理由。
そして──この寄生虫に与えられた、底なしの悪意の正体。
……このことをリリスに伝えなきゃ。
だけど気持ちとは裏腹に、あっという間に意識が遠のいていく。そういえばずっと寝不足で、おまけに能力解放で魔力も枯渇気味だったからかな。
情けないことに獅子王レオルにお姫様抱っこされて、湖の中から運び出される。リリスたちが涙を流しながら近寄ってくるのが見えた。
あぁ──ごめんよ、みんな。でも仕方なかったんだ。だから……泣かないでくれよ。
俺が意識を完全に手放してしまう直前、最後に見たのは──″聖騎士″スレイヤード・ブレイブスが、すらりと剣を抜いてこちらに駆け寄って来る姿。
あれ、もしかして《 聖十字団 》に成敗されちゃうの? そんな酷いことしたかな?
だけど最後まで確認することはできずに、俺の意識は──暗闇の中に一気に暗転したんだ。




