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32.不死の王

 ルクセマリア王女がエレクトラス侯爵家の嫡男アーダベルトと手を組み、新規発見された《 キューティー・アンデッド・ダンジョン 》を制覇した。

 その驚くべきニュースは、瞬く間に王都ヴァーミリアを駆け抜けた。


 冒険者ギルドに帰還した彼ら一行を、街中の人たちが大歓声で迎え入れた。

 槍の天才《麒麟児》アーダベルト

 元ソロの冒険者 《レディ・タイガー》美虎ミトラ

 有能なダンジョン探索のプロ《忍び足》クラヴィス

 イシュタル王国騎士隊長《鉄壁》ダスティ

 そして……《イシュタルの睡蓮花》ルクセマリア王女


 今回の成果を経てAランク以上への昇格を決めた新たな英雄たちの誕生を、ヴァーミリアの民衆たちは大いに歓迎し祝った。特に、甘く研ぎ澄まされたルックスを持つアーダベルトと、可憐で庶民的なルクセマリア王女の組み合わせの人気は絶大で、熱狂的なまでファンが大量発生する事態となった。


 だが──渦巻く歓喜の輪の中でただ一人、アーダベルトは今ひとつ浮かない表情を浮かべていた。ラティリアーナとの勝負に勝ったことに浮かれるルクセマリアがその様子に気づき、声をかける。


「どうしたのアーダベルト? なにか気がかりでも?」

「あぁ、ルクセマリア……なんというか、最下層にいたぬしについてちょっと気になっててね」

「あの骸骨の魔法使い──″不死の王″のこと?」


 既に気軽に呼び合う間柄となったルクセマリアからの質問に対し、アーダベルトは自身が感じた疑念を正直に伝える。


「うん。上手く言えないんだけど……手応えが無さすぎたんだ。弱すぎるというか……」

「弱すぎる? あたしたちが強すぎるんじゃなくて?」

「もちろんそれもあるかもしれない。特にあなたの神代魔法具(ディバイン・デバイス)月下氷人の杖(キス・アンド・デス) 》はとても強力だった。だけど──なんというか

 、心に訴えてくるものが無さ過ぎるんだ」


 少し不服そうな表情を浮かべるアーダベルト。彼の肩を軽く叩いたのは盗賊シーフのクラヴィスだ。手にはなにやら紋章のついた護符(アミュレット)を持っている。


「でもよ、ダンジョンクリアの証拠品はこのとおり──アミュレットを手に入れたぜ? おまけにボスのドロップした魔法具マギアを三つもゲットしたしよ! しかも全部(・・・・・)Bランク(・・・・)だ!」

「……うーん」

「アーダベルトさんよ。せっかくめでてぇんですから、ここは気持ちよく祝いましょうぜぃ!」


 全身騎士鎧に身を包んだ巨漢のダスティにそう言われ、アーダベルトは曇った表情を和らげ、素直に頷く。


「……うん、そうだね。今は祝うとしよう! 」

「おっしゃ! そうとくりゃ早速冒険者ギルドで宴会と行きましょうぜぃ!」


 大騒ぎを始めたダスティたちを横目に、パーティの一員である美虎ミトラは、ただ一人ダンジョンがある方向を振り返る。実は彼女も、アーダベルトと同じような疑問を感じていた。


「ラティリアーナ様……」


 美虎ミトラは、今もまだダンジョンの奥深くに挑んでいるであろうラティリアーナの名を口にする。あの″紫水晶のようなひと″ならば、自分たちが解決できなかったことも分かるのかもしれない──そう思いながら。




 ◇◆



しゃっ!」


 鋭い突きを放つと、ピンク色のリボンをつけた可愛らしい包帯男マミーが爆散する。新しく手に入れた──紫陽花あじさい──という名の小太刀は、背筋が凍るほどの威力を秘めていた。

 まず防御無視で貫通というのが凄い。剣の性質上、ほぼ″突き″しか出来ないんだけど、抵抗感なくモンスターの身体に突き刺さる。さらに追い討ちの形で″風の刃″が──まるで花弁が散るように放たれるから、モンスターはこの通り爆散するのだ。

 たとえ直撃しなくても、このダンジョンに出没する程度のモンスターであれば″風の刃″だけでほとんど倒すことが出来るから、極端に言うと『剣を前に出して突進する』だけでモンスターの群れを粉砕することが出来るのだ。


 いやー、やばいよAランク魔法具マギア。あまりに楽すぎて、自分が強くなったと錯覚してしまうわ。


「だいぶ新しい武器にも慣れてきたみたいだね。次で最下層の″第十層″だし、そろそろボスにチャレンジしてみよっか?」

「ボス?」

「うん。ダンジョンの最後にはだいたいボスがいて、倒すと高ランクの魔法具マギアが手に入るんだよ」


 そういえばリリスとモードレッドは二人で未登録ダンジョンをクリアしたんだっけ。


「ボクたちが挑んだダンジョンのボスは巨大なミノタウルスだったなー。もちろんモードレッドがあっさりと粉砕したけどね」

「はい。戦闘に14秒かかりましたが、52撃目で破壊しています」

「そのときボスが落としたのが、このダンジョンでも使ってた″お泊まりセット″と、モードレッドが着てるメイド服。あと例のメガネ──リバースグラスとかだったかな」


 えっ? そのメイド服ってリリスの趣味じゃなかったの?


「違うよ! ボクの趣味はナース服なんだからねっ! まぁメイド服も悪くないけど……ほら、セクシーさが足りないと思わない?」

「意味不明です、マスター。理不尽な指示は断固拒否します」

「……ゴホン。こ、こう見えてこのメイド服もAランクなんだよ? でもまぁモードレッドの存在そのものが神代魔法具ディバインデバイスみたいなものだと思ってるけどね」


 たしかに、モードレッドみたいな存在は他に変えがたいと思う。少なくとも俺は彼女を″人間″だと思ってるけどね。


「……モードレッドはモノ・・ではありませんわ。わたくしたちの──パーティメンバーですのよ」

「……ありがとうございます、サブマスター」

「いいのよ。だって当然のことですもの」


 ほんの一瞬、モードレッドの顔に感情が灯ったように見えたんだけど……気のせいかな?



 最下層のモンスターは、これまでに増して巨大で……可愛らしかった。

 ハートの形の骨を投げてくるスケルトン。魔法を使ってくるピンクリボンをひらひら付けたマミー。通路いっぱいを塞ぐ巨大で、中にキラキラ光る星が混ざったピンクスライム……。


 だけど、この層まで一週間近くかけてノンストップで挑んできた俺たちにはまるで手応えのない相手だった。


「モードレッド! 右は任せましたわ!」

「はい、サブマスター」

「ラティ! 後ろにピンク肉ゾンビが湧いたよ! うわぁ、切ったら桃の匂いがするよぉ!」

「どうも刀だと効率が悪いですわね。せめて火系の魔法が欲しかったですわ」

「燃費が悪いですが手はあります。マスター、使用許可を」

「モードレッド、やっておしまい!」

「はい。参ります── 【 ドラゴン・バーナー 】」


 モードレッドの口から火炎放射が放たれて、正面にいたモンスターたちを焼き尽くす。マジか、こんな飛び道具まで持ってたのかよ。

 おかげで一気に視界が開け、先の方まで見渡せるようになる。すると──突き当たりの壁に、これまで見たことないような立派な扉があるのが目に入った。


「どうやら到着したみたいだね。あれが──ボス部屋だよ」




 ◇



 ボス部屋の前でリリスが結界魔法を貼り、最後の休息を取る。むしゃむしゃパンとお肉を食べているモードレッドを横目に、俺はリリスに確認を取る。


「ボスを倒すと──どうなりますの?」

「いくつかパターンがあるみたいだけど、たとえばボクたちが以前クリアしたダンジョンはオンリーワンタイプだったね。一回クリアしたらおしまいで、ダンジョンは消滅しちゃうんだ」

「……他にはどんなものがありますの?」

「ボスが復活するパターンもあるね。ただそういうのは大体初回クリア特典があって、2回目以降はドロップアイテムの質が落ちるんだ」

「ここはどのタイプのダンジョンになりますの?」

「ボクの予想だけど、ここはたぶん──″オンリーワンタイプ″だね。ボスが復活するタイプのやつは、長年存在しているダンジョンに多いんだ。ここは突然出現したから、まず間違いないと思うんだけど……」


 ということは、現時点でダンジョンから弾き出されたりしてないから、おそらくボスはまだ討伐されてないんだろう。

 であれば、クリア第一号になってやるかね! ヒャッハー!



 意気揚々と扉を開けると、広い部屋の中央に大きなピンク色の椅子が見えた。椅子に座るのは、大きなフード付きのマントに身を包んだ人物。

 俺たちが部屋に入ったのを確認して、その人物がゆっくりと立ち上がる。はらりとはだけたフードから覗いた顔は──骸骨だ!


『よく来たな、愚か者どもよ。ここでしかばねとなって永遠に彷徨うがよい……』

「……ふーん、″不死の王″だって。データを見る限りたいしたヤツじゃないな。ラティやってみる?」


 リリスに問われて、俺は即座に頷く。こいつをタイマンで倒せるようなら、きっと目指す高みへと近づくことができるだろう。

 なんの恨みもないが、くたばれモンスター!


「──【 変身メタモルフォーゼ 】」


 ここまで使用してこなかったメタモルフォーゼを解禁すると、身体が一気に軽くなった。まるで羽が生えたかのようだ。勢いのまま、″不死の王″に向かって突っ込んでいく。


『──暗黒魔法── 【 ブラックフレイム・ピラー 】』


 目の前に黒い炎の柱が一気に乱立する。だけど″断魔″の力の前では魔法など恐るるに足りない。魔刀″紫陽花あじさい″を構えると、進路的に邪魔になる柱だけを切り裂いてゆく。


『──暗黒魔法── 【 ブラック・バーン】 』


 目の前に黒い炎が広がる。だけど炎が形となる寸前、断魔の力が魔法を打ち破る。黒い魔力が霧散して消えた。


『胸の中央だよっ!』


 念話で飛び込んできたリリスの声に従い放たれた突きが、″不死の王″の胸元に吸い込まれる。すっ……と、まるで抵抗感なく突き立った刀は、勢いそのままに反対側の背中に突き抜けていた。


 ──たった一撃。

 急所を的確に貫いた結果、″不死の王″と呼ばれた存在は、たったの一撃で光の粒子と化していった。


「さすがです、サブマスター」

「うっわー、雑魚いね」


 ぶっちゃけ弱すぎる。いや、魔法を使ってきたまでは良いよ? だけどいくら急所を突いたとはいえ、一撃で倒すとかちょっと手応え無さすぎないか?


 ボスが消え去った後に残されたのは、二枚のカードと……あれは″護符アミュレット″かな?

  カードの方を見てみると、ピンクのイラストとともに『C 仮装用かつら(金)』と『C マジカルワンピース(サイズフリー)』と書かれていた。相変わらず使い道のイマイチ分からないドロップアイテムだ。


 実体を持ったままドロップしたアミュレットの方はどうな感じなんだろうか。拾い上げようとすると「ラティ、触っちゃダメ!!」とリリスが鋭い声を上げた。


「……なんなんですの?」

「いまそのアミュレットを【 簡易検索 】したんだ。そしたら──こんな結果が出たんだよ。見て」


 リリスに示されて端末タブレットの画面を見ると、こう表示されていた。



 ──


 名称:『 ワーグナーのアミュレット 』

 種類:護符

 ランク:C

 効果:『ウィザードロゥのイベントアイテム』


 ※不死の王ワーグナーを倒すことで手に入るアイテム。これを王城に返却するとウィザードロゥはエンディングを迎える。


 ──



 ……なんだこれは。意味がさっぱり分からない。書いてある説明が意味不明すぎるのだ。

 だけど一人だけ違う反応をする者がいた。

 リリスだ。


「もしかしてこれは……ウィザードロゥ?」

「なんですの? それは」

「ウィザードロゥは、ダンジョン探索型RPGの原点にして原典、そして頂点たるゲームだよ」


 だめだ、何言ってるかさっぱりわからない。だけどリリスはなぜか妙に興奮していた。


「そうか、わかったぞ!」

「何が分かったんですの?」


 得意げな顔どやがおをしたリリスが無い胸を張る。


「このアミュレットはね、ウィザードロゥにおいてゲームクリアの判定をするためのキーアイテムでありフラグなんだ。ラスボスである″ワーグナー″を倒し、このアイテムを手にするとシステムがゲームをクリアしたと判断する。だけどそれは──罠だ」

「罠? ……穏やかではありませんわね」

「罠といっても命の危険があるわけじゃない。単にボス──″不死の王″ワーグナーとの戦闘が出来なくなるだけなんだ。だけど、それはすなわち──この部屋に(・・・・・)二度と・・・入れなくなる・・・・・・こと・・を意味している」


 ボス部屋に入れなくなる? そのことが何の問題なんだ?


「普通の人には何の問題もないと思う。だけど──ボクたち・・・・は別だ。これは……ボクたちに宛てられた隠しメッセージなんだよ」

「隠しメッセージ? わたくしたちへの?」

「ラティたちじゃないよ。これは、ウィザードロゥを知ってる人──すなわち転生者だけが・・・・・・わかる仕掛けなんだ」


 そう言うとリリスはタブレットを操作してボス部屋の探索を始める。


「思えば──前の階層に比べて最下層が狭いことには気づいてた。でもそれはボスの居る階だからだと思ってた。だけどそれがもし、隠しエリアだとしたら──」


 ピコン。タブレットが可愛らしい音を立てる。


「ビンゴだ、隠し扉を見つけたよ。このダンジョンにはまだ──先がある」




 ◇




 俺たち三人は、細心の注意を払いながら《 キューティー・アンデッド・ダンジョン 》の隠しエリアを探索していた。

 リリスの読みによれば、このエリアにはリリスと同じ″転生者″が関わっているという。敵が味方かは分からないが、『転生者チート』と呼ばれる超能力を持っているから決して油断できない。


 だが──隠しエリアにはモンスターが出てこなかった。かなり広いにも関わらず、あらゆる存在の気配が感じられなかったのだ。


「モンスターの気配は感じられません。ですが──濃密な魔力を感じられます」


 モードレッドが珍しく警戒心を露わにしている。彼女がこれほどに警戒しているのは、Sランク冒険者のウタルダス・レスターシュミットたちと対峙したとき以来だ。


 ──ピロリン。


 ふいに、リリスの持つタブレットが小さな音を奏でる。


「……レーダーが反応したよ。30メートル先に生物の気配。これは──敵でも味方でもない?」

「不意打ちを仕掛けますか? マスター」

「……地理的に少し開けた場所の中央に位置してるから難しいかも。こちらの存在がバレないように警戒しながらいこう」

「はい、マスター」


 進んでいた道は途切れ、途中から大きく広がっていた。どうやらそこがリリスの言う″少し開けた場所″なんだろう。


「ギリギリ、ボクのタブレットの範囲外だから確認できないや。仕方ない、覗き込んでみよう」


  俺たちは息を殺して広場をのぞき込む。するとそこでは──。


『~~♪』


 透き通った声とともに、白銀色シルバーブロンドの髪が宙に踊る。真っ白な肌が、暗いダンジョンの中でひときわ輝きを放つ。

 零れるような大きなアイスブルーの瞳を持つ美少女が、小声で歌いながら広間の中央で踊っていた。


「あれは……人間? いや違う、それ以前にあれは──」


 美少女を遠目で眺めながら何かをつぶやいていたリリスが、ふとバランスを崩して足元にあった小石を蹴ってしまう。カラン──静かな音が聞こえた瞬間、白銀色シルバーブロンドの美少女の体が大きく揺れた。


『っ!?』


 声にならない声を上げると、美少女はそのまま広場の奥のほうに駆け出して行った。


「あっ! 待って!」


 素早く追いかけ始めるリリス。続けて俺とモードレッドも後を追いかける。それにしてもこいつ、急に駆け出してどうしたってんだ? 超慎重派のリリスらしくない行動じゃないか。


「あの子──あの子のことをボクは知ってる気がするんだ!」

「あなたの前世に関係あるってことですの?」

「うん、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。あの子とちゃんと話したら記憶が──」


 やがて俺たちは、大きな扉の前にたどり着く。直前に閉じた気配があったことから、どうやらさきほどの美少女はこの扉の奥に逃げ込んだらしい。俺たちは迷うことなく扉に手をかける。


 ──ぎぃぃぃぃ。

 鈍い音とともに扉が開き、俺たちは勢いよく中に突入する。


 中には、先ほどの美少女がいた。

 ただ、誰かの陰に隠れているようだ。

 その人物は──つい先ほど戦闘した”不死の王”に似たマントをつけていた。そして目のある場所に怪しく光る赤黒い光。あいつは──まさか。


 僅かに光が差し、これまで暗くて見えなかった相手の顔が照らし出される。そこに映し出されたのは──骸骨の顔!


 次の瞬間、これまで見たことのないようなスピードで、モードレットが厳戒態勢を取った。両腕を武器に変身させ、いつでも飛びかかれるように重心を低くする。


「いけません。あれ・・は──」


 モードレッドが静かな声で告げる。


「あれは──″魔王級″の力を持っています」






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