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21.運命に抗うもの

 

 アーダベルトと美虎ミトラが旅立ったその日から、俺とリリス、それにモードレッドを交えた徹底的なトレーニングが開始された。

 基本、午前中に体力トレーニングやモードレッドとの模擬戦を行って、午後に魔力トレーニングと座学。夕食後は寝るまでの間に自分の能力の解析を行う、といった感じだ。

 体力切れと魔力切れに関しては、リリスの魔法が役立った。筋肉痛なんかには″簡易治癒″、足りなくなった魔力をほんの僅かだけど補充する″魔力補充″の魔法を駆使して、簡単にはギブアップさせてくれない。


 容赦無く繰り広げられる徹底した基礎訓練。

 リリスは嬉しそうに「これがリリス・チートキャンプの真髄だよ!」と熱弁していたが、気持ち悪いので無視している。



 魔導眼と魔創の能力、そしてリリスの分析能力に基づく″魔法の力″の解析も順調に進んでいった。

 検証と分析の結果、魔法を発動させるプロセスをおおよそ解明することに成功したんだ。


 俺たちが発見した真実は、基本的に魔法は二つのプロセスを経て発動してるってことだ。

 まず第一ステップで使用する魔力の色を決定し、第二ステップで選んだ魔力を様々な形状に形作る。この二つのステップが噛み合った結果、魔法は一定の効果を発現するのだ。


 そういう意味では、魔法は絵を描くことによく似ていた。色を混ぜ合わせることで練り上がった魔力を上手に描くことで魔法は完成するのだ。


 例えば″身体強化″の場合は、黒と白の魔力を混ぜたあと、全身に薄く塗ることで発動する。

 一方で″簡易治癒″は、青と白の魔力を格子状に組み合わせ、患部に貼り付けることで効果を発動していた。

 ちなみに、この二つの動作を自動的に実現するのが″魔法言語プロトコル″の存在だ。リリスを含めた普通の魔法使いは、魔法言語プロトコルを唱えることで、一定の効果を持つ魔法を自動的に生成していることも判明した。 



 そのほかにも、魔力の色が持つ効果について、徐々に解明が進んでいった。


「白は……やっぱり″補助″系の効果ってことで確定だね」

「逆に黒は破壊の力ですわね。だいたい黒を混ぜると攻撃系の魔法になりますわ」

「んー。そしたら色のイメージからして、青色の魔力は水かな?」


 こんな感じでワイワイ検証を重ねた結果、いくつかの色の効果を見極めることができたのだ。

 たとえば黄色の魔力は″電気の力″、青色の魔力は″水の力″といった具合になる。ちょっと変わっているものでは、白色の魔力は″補助の力″、黒色の魔力は″破壊の力″と判明した。

 色の違う魔力を、時には混ぜ合わせ、組み合わせたうえで、上手に描くことで魔法が発動する。これが、俺たちが解明した魔法の効果の仕組みだ。



 ──だけど、魔法を作り出す『魔創』の研究はここで頓挫することになる。

 なぜなら、俺とリリスの魔力の持ち色が違いすぎて、リリスの魔法をひとつも再現できなかったからだ。


「ラティの魔導眼によると、ボクの使う支援型サポートタイプの魔法はほとんど青、黄色、白の魔力を使ってるんだね?」

「ええ、そうですわ」


 リリスの問いかけに、俺は頷く。


「一方、ラティは紫と黒、白の3色しか使えない、と」

「そして私は白と黒しか使えないそうです」

「三人に共通する魔力の色は白と黒のみ。この色で可能な魔法は″身体強化″だけなんだね?」

「……そのようですわね」

「そっか、じゃあこれ以上は『魔創』の検証をできないね。残念だなぁ、せっかく面白そうな裏設定を見つけたのにさ」


 心底残念そうに頭を抱える″狂信的科学者マッドサイエンティスト″リリス。


 しかし、のちにより致命的な問題が発覚する。

 どうやら俺は″魔石から魔法を覚えることが不可能であるらしい″というショッキングな事実が判明したのだ。


「……ダメみたいだね。全部《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》が拒絶してるよ」


 目の前に粉々になっている魔石たちを眺めながらリリスが呟く。あぁ、これで幾ら分の魔石が失われたのだろう。せっかくパパ侯爵にねだって買ってもらったのに……勿体ない。


「マスター、これは相性の問題なのですか?」

「うーん、ちょっと違うかなぁ。ラティの魔本はね、魔石に触るだけで拒絶してるんだ。だからイメージ的には『他の女の子と話している姿を見るだけで浮気扱いしてキレる厄介な彼女』って感じかな」


 なんだよそのイメージは、怖すぎだろ!

 だけど、完全に主人として一体化している《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》をいまさら手放すことなんて出来ない。だから、魔石から魔法を覚えるのは諦めるしかなさそうだ。

 あーあ。なんか、とんでもなく美人だけどヤキモチ焼きでメンヘラな彼女を手に入れた気分だよ……トホホ。




 ◇




 失敗はこの他にも続いた。

 リリスやモードレッドに新たな魔法を創り出してもらう試みも、まったく上手くいかなかったのだ。


「ほら、そこで白と黄色と青の魔力を混ぜて見るのですわ」

「申し訳ありません、サブマスター。おっしゃっていることの意味が分かりません」

「……色が見えてないのに、魔力を混ぜるなんて出来ないよっ!」


 魔眼を持たない二人は、魔力の色の違いを見ることが出来ない。見えないものを操作するのは至難の技だ。だから魔力操作の達人であるリリスでさえ、魔力を色別にコントロールすることが出来なかったんだ。


「ふんっ、下手くそですわねぇ」

「むむっ! ラティってば最近少し痩せてきたからって調子に乗ってー!」

「落ち着いてくださいマスター」



 ──このように失敗したり手詰まりになることも多かったけど、得られたこともたくさんあった。

 俺の魔法具マギアである《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》 が、なぜにSランクなのか。検証を繰り返す中で、その片鱗が見えてきたのだ。


 一般の魔法使いが魔法を使用する場合、魔石を手に持って心に念じることで魔法が発動する。これは、魔石が″色の合成″と″絵を描く″という2つの作業をシステマチックに行ってくれるからだ。

 一方で俺の場合は、自力で『混ぜる』『描く』の動作をやらなきゃ魔法を発動できない。だから、ものすごくめんどくさいし、よく失敗したりもする。


 ところが、このめんどくさい手順を省く画期的な方法が判明した。なんと、一度覚えた魔法は 《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》のページに記載されており、文字を指でなぞるだけで自動起動してくれたのだ!

 ただし、使用する際には該当のページを開いたままにしていなければならない。だから──。


「へぇ、ラティは片手に本を持ったまま戦うんだね。なんか厨二っぽくてカッコいい〜! ……ニヤニヤ」

「……五月蝿いですわ」


 リリスにはさんざん小馬鹿にされたけど、背に腹はかえられぬ。結局は《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》 を片手で開いたまま戦闘するというスタイルに行き着いたんだ。


 見た目はアレだけど、名より実。これなら最短スピードで魔法を使うことが出来る。

 といっても、この時点では″身体強化″しか使えないから、将来魔法がいっぱい使えるようになった時の布石なんだけどさ。



 ◇



 ″身体強化″と言えば、この魔法についても大きな発見があった。

 ふと閃いて″身体強化″のブレンド──すなわち魔力の配分を変えてみた。きっかけはアーダベルトと美虎ミトラの″身体強化″を思い出した時、魔力の厚みが違っていることを思い出したからだ。

 いつもは白と黒を1:1の割合で配分するところを、あえて1:2くらいに変えてみる。得られた効果は──驚愕すべきものだった。


 ギィィィィンッ!

 鈍い音と共に、剣と化したモードレッドの右腕が弾き飛ぶ。これまで何度打ち付けても微動だにしなかったのに、だ。


「サブマスターの攻撃が、初めて私の″身体強化″を突き抜けました」

「へぇぇ、すごいね! ようやくトレーニングの成果が出てきたのかな?」


 驚く二人を尻目に、俺はある可能性に気づいていた。その状態のままモードレッドに攻撃を促す。


「モードレッド、攻めて来なさい」

「はい、わかりました」


 次の瞬間、モードレッドの強烈な剣戟を受け、俺は木の葉のように吹き飛ばされる。これまでなら耐えれたはずの一撃に耐えきれず、頭から気に激突する。


「ぶっひぃぃぃ!」

「だ、大丈夫?」

「サブマスター、頭部から出血が見られます」

「今はいいわ、ほっときなさい。それよりもモードレッド、もう一度同じ力で攻めて来なさい」

「はい、わかりました」


 血が目に入ってくるし頭はズキズキする。だけど今は痛み以上に喜びが上回っていた。

 治療しようとするリリスを押しのけ、再びモードレッドの一撃を受ける。その際、白と黒の魔力の割合を今度は2:1に変更してみた。


 ずしんっ、と重い一撃が襲いかかってくる。だけど今度は吹き飛ばされることなく、余裕すら持ってモードレッドの一撃を受けきることができた。


「あれ? 今度はモードレッドの攻撃を受け止められたね?」

「モードレッド、攻撃の強さは変えてませんわね?」

「はい、先ほどと全く同じにしています」

「……そう。分かりましたわ」


 これはすごい発見だった。

 俺は、白と黒の魔力配分を変えることで″身体強化″をより攻撃力を高めたり、逆に防御力を高めることができることを発見したんだ。


 しかも不思議なことに、《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》 はブレンドを変えた″身体強化″を複数記録することができた。

 だから俺はいろいろ試した結果、効率の良さそうな″身体強化″のブレンドパターンを数パターン記録させて、臨機応変に使えるようにしたんだ。

 この結果、俺の戦闘バリエーションは多彩さを手に入れることになる。




 ◇




 だけど、俺にとっての最大の収穫はさらに別にあった。

 それは、ラティリアーナが持っている″紫色の魔力″に関することだった。


 ラティリアーナが紫色の魔力を強く発色していることに気づいてから、ずっと心に引っかかってることがあった。それは、紫色の魔力にデジャヴがあったことだ。

 その日俺はお風呂に入りながら、どこで見たんだろうと思いふけっていた。たしか、かなり差し迫った状態だったような──。


「お、思い出しましたわっ!」

「ひゃんっ!? どうしましたワン、お嬢様?」


 いきなり大声をあげながら立ち上がったせいか、浴槽の横で控えていた舞夢マイムが驚きの声を上げるものの、もはや気にもならない。

 俺はようやく思い出したのだ。

 紫色の魔力は── 俺がこの身体になるキッカケとなった″女悪霊レイス″が発していたものだってことを。


 そうだそうだ。どんどん思い出してきたぞ。

 あのとき悪霊レイスは、確か二つの魔法を使っていた。一つは『魔力無効化』、そしてもう一つは『衝撃波』だ。

 あいつはどうやって魔法を使っていたか?

 たしか、こうやって……。


「お、お嬢様? ボーッとなさって大丈夫ですかワン……って、はわわっ!?」


 狼狽える舞夢マイムを尻目に、俺の目の前に紫色の霧状の魔力が広がってゆく。

 次の瞬間、脳裏に″システムの声″が響き渡った。


 〈 ラティリアーナは禁断魔法 ──″パープルヘイズ″を創出しました。自動的に《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》に記述されます〉


 なんてこったい……本当に出来ちまったよ。


「お、お嬢様? そ、その霧は……」

舞夢マイム、大至急リリスを裏の果樹園に呼びなさい」

「は、はいっ! かしこまりましたワン!」


 半分夢の世界に旅立っていたリリスを叩き起こしたときはずいぶんとご機嫌斜めだったけど、目の前で″不穏なる紫霧″を発動させると、目ん玉が零れ落ちそうになるくらい驚いていた。


「う、うそ? これは……イベントボス″悪役令嬢ラティリアーナ″が使ってた魔力を打ち消す魔法【 パープルヘイズ 】じゃないか!」

「マスター、この魔法は危険です。私が効果範囲内に入ると機能停止してしまいます」

「ちょ!? そ、それはマズイよ! ラティ、魔法を止めて!」


 慌てて魔法を止めようとしたものの、すぐには紫の煙が消えない。リリスなど必死の形相でふーふー息を吹きかけてるし。最終的には″断魔の剣″を使って魔法を散らすことで、ようやく紫の霧は消え去った。

 ふぃー、驚いた。どうやらかなりヤバイ魔法だったらしい。たしかに″魔創″したときに禁断魔法とか言ってたしな。

 ──でもさ、だったらやっぱりもう一つの方も試してみたくなるよね?


 ぎゃーぎゃー喚いているリリスを横目に、我慢できなくなった俺はもう一つのほうの魔法もチャレンジしてみることにする。今度は紫と黒を混ぜてみて……と。


 〈 ラティリアーナは破壊魔法 ──″ヴァイオ・ショック″を創出しました。自動的に《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》に記述されます〉


 あ、やっぱりできた。

 だけど掌に現れたのは、衝撃波ではなくて紫色の爆弾のようなもの。しかもよく見ると、導火線みたいなのがついていて徐々に短くなっているではないか!

 あかんこれ、爆発するやつだ。慌ててすぐ近くの木に向かって放り投げる。


 ── 【 ヴァイオ・ショック 】 ── 3・2・1……BLUST!!


 ボグンッ! という鈍い音とともに、紫色の爆弾が破裂した。その威力はかなりのもので、巨木がたった一撃でへし折れる。

 ……おかしいな、再現したつもりなのに別の魔法が出来ちゃったぞ?


 ところが魔眼を持たない二人には、どうやらこの紫色の爆弾が見えないらしい。「うわ、今度は衝撃波だよ……」とリリスが青ざめた顔で呟く。


「……あわわ、やっぱりラティってば″悪役令嬢″に目覚めちゃったのかな? どうしよう、いきなりボス戦とか無理ゲーなんだけどっ!?」


 確かにリリスが知る未来では、俺は敵キャラになると言っていた。実際、″悪役令嬢ラティリアーナ″と同じ魔法を使えるようになっているわけで……。ここまで来るとさすがに俺も、リリスが言う『ゲームの未来』というのを信じていた。

 だけど同時に、そんな未来には絶対にならないぞ、という強い思いも芽生え始めている。

 ──定められた運命なんてクソ喰らえだ!


「わたくしはわたくし、なにも変わってませんわ」

「マスター、私にはいつも通りのサブマスターに見えますが」


 そう、俺の本質は何も変わってない。


 俺の本質、それは冒険者だ。

 とはいえ、かつては自身の限界を前に挫折した経験がある。


 だけど今は違う。俺は確かに強くなってきている。正確には、強くなるための手札が揃いつつあるって感じだ。

 特に″禁断魔法″と言われた【 パープルヘイズ 】の方は、反則的なまでに強力だ。超絶魔法具マギアを持つ相手──たとえばウタルダスなんかと戦うときに、おそらく核心的な武器になるだろう。


 Sランク冒険者に、手が届くかもしれない。

 リリスの望み通りになりつつあるのは不本意だけど、目の前にこんな可能性えさをぶら下げられて、奮い立たないわけがない。



 悪役になるという未来が定められた運命なのだというのなら、俺は徹底的に抗ってみせる。

 そのためにも俺は、手に入れた力で強くなる。

 ──運命に、打ち勝てるくらいに。


「……そんなことよりリリス、わたくしは明日からもっと色々な戦術を試したいですわ」

「そんなことよりって、ラティがボス技使えるようになったことは大問題だと思うんだけど ……でも確かに戦闘術の幅はものすごく広がるだろうね。これは──本当にラティは化けるかも」

「今のサブマスターは大変危険な存在となりました。私も本気で対処法を検討する必要があります」

「ふふふっ、当然ですわ。わたくしはラティリアーナ、唯一無二の存在なのですから」


 調子に乗った俺は、胸を張りながら腰に差していた魔剣を抜くと、宙に放り投げる。

 すると″断魔の剣″が──ふわりと浮いた!


「「ええーっ!?」」


 ふわふわと中空を漂う″断魔の剣″を眺めながら、俺は一つの真実に至る。

 天翔って、ホントに宙に浮くことだったんだ!



 でもさ、これどうやって使うわけ?





 ◇





 こんな感じで、リリスとモードレッドによるトレーニングの日々が続いていった。この状況は当面の間──ある程度ダンジョンにチャレンジしても良いとリリスが判断するまでは続く予定であった。


 ところが、訓練を始めて1ヶ月ほどが経ったある日のこと。

 まったく予定外の方面から横槍が入ることになる。


「ラティリア。お前、ちょっと王女様の舞踏会に参加してくるんじゃ」


 ──はい? お父様、今なんとおっしゃいましたか?





 〜 第4章 完 〜

第4章 修行編はこれにておしまいです(^.^)


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