表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/95

19.転生者チート

 アーダベルトと美虎ミトラが、俺に何か報告があるらしい。


 それってまさか……けけけ結婚!?

 い、いつの間に二人はそんな関係に──。


「ラティリアーナ様は何か勘違いされてるようですが……ご報告というのは、僕と美虎ミトラがパーティを組むことにしたということです」

「アーダベルトとパーティ組んで、ヴァーミリアの街の近郊で新発見されたダンジョンに挑むがるよ!」


 なんだ、違うのか。だけど素直に驚いた。

 これまでソロでやってきた美虎ミトラと、貴族のお坊ちゃんであるアーダベルトが、まさかパーティを組むことになるとは。二人の間に一体どんな心境の変化があったんだろうか。


「実は昨日の《 愚者の鼓笛隊フールズ・オーケストラ 》との対峙で、僕は自分の実力不足を痛感したんですよ」

「あたしも、ソロで頑張ることに限界を感じたがるよ」

「そこで、意気投合した美虎ミトラとパーティを組むことにしたんですよ。なにせ彼女は冒険者としても一流ですからね」

「アーダベルトはあたしが獣人でも気にしないと言ってくれたがるよ!」


 なるほど。Sランク冒険者との邂逅は、二人にとってこれまでの考え方を改めさせられるほどに衝撃的な出来事だったわけか。たしかにあれほどの実力差を見せつけられて、奮い立たなきゃ一流の冒険者にはなれないよな。

 感心して二人の話を聞いていると、リリスが近寄ってきてそっと耳打ちしてくる。


「ラティ。実はね──アーダベルトと美虎ミトラは、ゲームの世界でもパーティメンバーなんだ」

「……なんですって?」

「ただ、加入の流れとかはゲームと全然違うんだけどねぇ」


 まさか、この二人はリリスの知る未来でもパーティを組んでいたのか。偶然と呼ぶにはあまりにも予定調和すぎる。やはり──何か目に見えない力のようなものが働いているんだろうか。


「でも、もしシナリオの修正が入ってるんなら、他のメンバーもアーダベルトのパーティ入りするのかなぁ?」

美虎ミトラの他にも誰かいますの?」

「あのゲームは確か5人パーティだったからね。あと3人は入るはずだよ」

「……どんな物好きがアーダベルト様のお仲間になるのかしら」


 俺の問いかけに、リリスは必死に頭を捻りながら思い出そうとしている。


「うーん──実は……例のごとく記憶に制限がかかっててちゃんと思い出せないんだけど、確か″盗賊″かなにかのような人と″お姫様″が居たようながいたような気がするんだ」


 かーっ。アーダベルトにはお姫様がパーティメンバーになるってかよ! なんてうらやまけしからん。

 くっそー、いくら主人公とはいえなんて理不尽なまでに恵まれた未来なんだ。こちとら全身凶器と合法ロリしかいないっていうのに……。

 これだからイケメンは嫌いなんだ。さっさと行っちまえ!


「二人が旅立つというのなら別に止めたりはしませんわ。さっさとわたくしの目の前から居なくなることね」

「ははっ。そうおっしゃらずにお礼くらい言わせてください。僕がこんな気持ちになれたのも、ラティリアーナ様のおかげです。本当に感謝しています」

舞夢マイムのこと、お願いするがる!」

「……ふん。低レベルなもの同士、せいぜい精進することね」


 最後までラティリアーナ節が炸裂して素直に送る言葉を伝えられなかったんだけど、二人にはぜひとも頑張ってほしい。

 あれだけの技術や才能を持ってるんだ。きっと彼らならウタルダスが言っていた《 英霊の宴 》とやらにも招待されることだろう。願わくばそのまま世界の敵とやらも倒してくれると色々と楽なんだけどなぁ。


「あ。少しお待ちなさい」


 二人が立ち去ろうとしていたところで、ふとリリスとの会話を思い出して呼び止める。

 たしか美虎ミトラはBランクの魔剣《 火焔大刀かえんたいとう 》を持っていた。もし俺の《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》が武器型ウエポンタイプならば、彼女の魔剣を持つことが出来るはずだ。

 せっかくの機会だから、試させてもらおう。


美虎ミトラ、お前の《 火焔大刀かえんたいとう 》をわたくしに少しお貸しなさい」

「へ? 貸すくらいならいいがるけど……重いがるよ?」


 困惑気味に差し出された《 火焔大刀かえんたいとう 》を受け取ると、ずしんと強烈な重みが襲いかかってくる。


「ぶひっ!? お、重いですわ!」

「だ、大丈夫がるか? あたしが持って──」

「大丈夫ですわ! いいからわたくしから離れなさい!」


 一人でなんとか持ちこたえて剣を構えると、美虎ミトラが使っていた魔法言語プロトコルを思い出して口にしてみる。


「── うなれ、【 火焔大刀かえんたいとう 】!……ぶひっ!?」


 次の瞬間 ── 全身に強烈な電撃が走った。

 あまりに突然の出来事に、思わず手に持った【 火焔大刀かえんたいとう 】を取り落とす。その際、大きくバランスを崩してすってんころりんと転がって──パキン!

 あっ。壊れた。


 恐る恐るポケットに手を突っ込んでみると、先ほどポケットに入れた″リバースグラス″が、オーク令嬢おれの全体重を浴びて真っ二つに折れていたんだ。



 ◇



「んもうっ! なんでボクのメガネ潰しちゃうのさ! このドジ! デブ! オーク野郎! 悪役! イベントボス! えーっと……TS野郎ッ!」


 アーダベルトと美虎ミトラが意気揚々と出陣したあと、バキバキに壊れた″リバースグラス″を手に、リリスが俺を責め立てる。所々に意味のわからない単語が混じってるけど、察するにきっと悪口なんだろう。

 でもさ、俺だって凹んでるのよ? なにせ現状唯一の「他人とまともに会話する手段」を失ってしまったんだから。


「……わたくしとしたことが、失態しましたわ」

「何が失態だよ! これじゃあ″千眼の巫女″としてのお仕事が出来ないじゃないか!」

「マスターはサブマスターとパーティを組んだので、もう千眼の巫女の仕事はしなくて良いのですが」

「はいそこ! 冷静なツッコミありがとね! でもラティ、だからと言ってゴメンで済ましたりしないよね? ちゃんと弁償してよね、これすごい高かったんだから」

「ダンジョンのドロップで手に入れたものですが」

「モードレッドはちょっと黙ってようね!」


 弁償云々はどうでも良さそうだけど、リバースグラスの代わりとなるような魔法具マギアの入手は死活問題だ。いつまでも気を遣いながらラティリアーナ節をコントロールしてたら、そのうちストレスで胃に穴が空きそうだし。


「ぷんぷん! なにさラティ、せめて謝るとかってないわけ?」

「……幼児体形のあなたに下げる頭はないわ」

「むきーっ! 頭下げながらのそのセリフ、斬新!」


 ま、こいつには気を使わなくて良さそうなのが救いなんだけど。


 それにしても、なんで″火焔大刀かえんたいとう″を手にしたら電気が走ったんだろうか。あの反応はたぶん──拒絶だ。

 リリスの説明から、武器型ウエポンタイプなら大丈夫だと思ったんだけど、どうやらことはそう簡単な話ではないらしい。


「リリスは″千眼の巫女″なのでしょう? なにか知ってるのではなくて?」

「んー、たぶん相性なんじゃないかな? 魔法具マギアはランクが高いほど融通が利かない傾向にあるからね。むしろ″断魔の剣″のほうが例外だと思った方がいいかも」


 素直に聞いてみると、すぐに機嫌を戻したリリスが親切にも教えてくれる。こいつチョロいな。


 しかし、リリスの言う通りだとすると ── 使うことが出来る魔法具マギアかどうかは、毎回身体を張ってチャレンジしてみるしかないってことか。

 試すたびにビリビリとか魔法具マギアが壊れるのはなんか嫌だけど、当たりを探すギャンブルじみててちょっぴり楽しみかも。んー、魔力があるって楽しいな! むふふっ。


「それじゃあラティ。リバースグラスを壊しちゃったことに対する贖罪の意味でも、これからしっかり頑張ってもらうからね? ボクのあらゆる知識やチートを使ってラティをすんごい冒険者にしてみせるからさ!」


 一通り毒を吐いてスッキリしたのか、気を取り直したリリスが宣言する。

 とはいえ、あらゆる知識とチートって、具体的にはどうやるんだろうか。


「さっきは言いそびれたけど、ボクには異世界転生者に特有のチートがいくつかある。それらをフルに活用して、短期間でラティを超一流の冒険者に鍛えるんだよ」


 短期間で俺を超一流の冒険者に? そんなことが可能なんだろうか。


「もちろん可能さ! まずボクには無尽蔵の魔力チートがある。だからラティの体力が尽きたら″簡易治癒″で治療するし、魔力が尽きたら″魔力補充″で回復してあげる。これで普通の人の何倍もトレーニングできるよ。これが第一のチート」


 なるほど、休みなく徹底的に鍛え上げるってわけね。実に合理的でシンプルな手法だ。だけど──。


「なにせボクたちには時間がないからね。情け容赦はしないよ、ふふふっ」


 そう言ってこちらに向けられた目は一切笑っていない。

 俺を見る目は、そう……まるで養豚場の豚を見る目。どうやら俺の人格とかどうでも良くて、とにかく強い冒険者にすることしか考えていないみたいだ。

 こいつ、そこまでウタルダスのハーレムに入るのがイヤなのかよ。


「あとは並行して、ラティに効率的な魔力の使い方を教えるね」

「効率……的?」

「そう。魔力チートや未来ゲームの知見だけじゃない。ボクの最大のチートは『幼いときに前世の記憶を思い出した』ことにあるんだ」

「……意味が分かりませんわ」

「わかんないかな? ボクはね、前世の記憶を思い出した時から、徹底的に・・・・魔力操作をし続けたんだよ。しかもボクには──決して尽きることのない膨大な魔力があった」


 確か18万だったか。リリスの小さな身体には、一般人の1800倍もの魔力が秘められている。


「持て余すほどの莫大な量の魔力は、ボクに限りないチャレンジの機会を与えてくれた。前世の記憶を持つボクは、あらゆる時間を魔力操作に費やした。朝も、夜も。寝ている間も、ね。その結果 ── ボクはこの世界でも屈指のレベルで魔力をコントロールする力を手に入れたんだ」


 リリスが、右手に魔力を集中させる。すると、光る小さな玉のようなものが出来上がる。

 ものすごい圧迫感を感じて″魔導眼まどうがん″を発動させると、光の玉を中心に空間が歪みそうになるくらい超高濃度に集まった白い魔力が、幾何学模様に秩序立って展開されていた。


 ──す、すごい。これほどの量の魔力が完璧に制御されてる様子を、俺は見たことがない。

 なるほど自慢するわけだ。人格に難はあるものの、こいつは間違いなく天才だ。


「これで95%ってところかな。すごいでしょ?」

「……ふん。まぁまぁですわね」

「でもラティにもこのくらいのことは出来るようになってもらわないと困るからね? なにせこの魔力玉には1000程度の魔力しか注ぎ込んでないからさ」

「……どうやればいいんですの?」

「急にやれって言っても出来ないからね。……論より証拠かな、とりあえずキミの魔法具マギアを出してみて」


 言われたとおりに《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》を具現化させる。はい、″3分間の天使インスタント・エンジェル″ラティリアーナの出来上がり! もちろん服は脱げ落ちるけど、大丈夫。例の肌着は装着済さ。

 するとリリスは自分の魔法具マギアをなにやらグリグリと弄りだす。


「……んー、魔力伝道率が3%しかない! ラティはヘッタクソだなぁ」


 魔力伝道率? なにそれ? また聞いたことのない単語が出てきたぞ。


「魔力伝道率っていうのは、魔力をどれだけ上手くエネルギーに変えてるかを示す指標だよ。ラティリアーナの場合は無駄遣いが多すぎて目も当てられない」

「……ふん。意味が分かりませんわ」

「わかりやすく言うと、樽いっぱいのお水を使ってコップ一杯分しか飲めない、みたいな?」


 なるほど、そりゃ確かに非効率極まりないわ。

 じゃあ実際どうやればいいんだ? 自慢じゃないけど、こちとらウン十年も魔力なしで生きてきたんだぜ。えっへん。


「では、わたくしにやり方を教えなさい」

「それじゃあボクと手を繋いでみて」


 差し出された手をとりあえず握ってみると、リリスは少しだけ微妙な表情を浮かべた。なんだろう?


「ううん、なんでもない。それじゃあこの状態でボクが魔力コントロールをしてみせるから、身体で感じてみてね」


 ──ぐわん。

 突如、全身をうねるような強烈な違和感が突き抜けていった。なんだこれは、気持ち悪い! まるで全身に蛇が巻きついてるみたいだ!


「ラティ、心を落ち着けて。ボクの魔力の動きに合わせて」


 魔力の動きに合わせる? そう言われてすぐに″魔導眼まどうがん″を使ってみる。すると、リリスの魔力が帯状になってリズミカルに俺の身体に入り込んでくる様子を確認できた。

 なるほど。魔力を線でまとめることで、コントロールしてるのか。

 タネがわかったところで、真似してみる。魔力を綺麗に操るのはなかなか難しいけど、戸惑うとリリスが関与してくれるから、すぐにコツを掴むことができた。


「センスあるね! じゃあ次はボクのサポートなしでやってみて」


 今度は手を離して自分だけの力で再現してみる。だけど自分の身体の魔力の流れはとても見づらく、なかなか確認できない。どこかに鏡のようなものが無いかな?


「……鏡が欲しいですわ。わたくしの美しい姿を余すことなく確認できる鏡をね」

「おっけー。じゃあこの機能アプリでいいかな? ── 【 自撮りセルフィ 】 ──」


 リリスが端末タブレットを操作すると、ゔぅぅん、という音とともに目の前に巨大な姿見が出現する。おお、言ってみるもんだな。リリスの能力も案外便利じゃないか。


 鏡に映し出されたのは、いつも夜にだけ会うことが出来る天使──じゃなくてラティリアーナの姿。魔導眼を発動してみると、ちゃんと魔力の流れを視認できる。

 よし、じゃあさっそく魔力を全身に張り巡らせてみようか。イメージは──血の流れ。胸の奥に感じる暖かい力を体の表層を這わせるように、一つ一つの流れをイメージしながら拡げてゆく。


「12……20……うそ、あっさり、30%を超えてきた!?」


 リリスの声も気にならないほど、気がつくと魔力操作に熱中していた。姿見があるから、どこが上手くできててどこがダメなのかが一目瞭然だ。


 なるほど、これは面白い。

 例えるなら、これは絵を描くようなものだ。今までは適当に絵の具を叩きつけてた感じだけど、自分の輪郭に沿うように丁寧に塗るようにする。すると、これまでは雑だった″色″が、徐々に綺麗に発色するようになっていく。


 やがて、俺の全身から紫色のオーラのようなものが滲み出てくる。

 これはこの身体おれの特徴とも言える紫色の魔力だ。これまでたくさんの人や魔物の魔力を見てきた俺でも滅多に見たことない色で──あれ、そういえばこの色どこかで見たことがあるような気が……。


「サブマスター、3分を超えました」


 モードレッドに声をかけられて、はっと我に帰る。どうやらいつの間にか【 変身メタモルフォーゼ 】のタイムリミットも伸びていたらしい。

 なるほど、これが魔力をコントロールするってことなのか。むふふっ。これでマイスイート天使と会える時間が増えたぜ!


「ラ、ラティはなかなかセンスがあるね。まさか一回教えただけでここまでコントロール出来るようになるとは思わなかったよ」

「まぁわたくしは天才ですからね」

「先生が良いんだよ!」


 たしかにリリスじゃなければこんなに簡単に魔力操作を身につけることはできなかっただろう。

 感謝はしてる。してるけど、ドヤ顔のリリスはなんかイラっとするわー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ