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18.断魔の剣

ここから第4章です!


 ウタルダスたち《 愚者の鼓笛隊フールズオーケストラ 》一行が帰った翌日。


「ラティリアーナ、さっそく今日から特訓を始めよう! 」


 握り拳を天に突き上げたリリスの宣言によって、ついに『ラティリアーナ改造プロジェクト』がスタートした。

 この場にいるのはラティリアーナ、リリス、モードレッドの三人だけ。俺は″リバースグラス″を借りてズボン姿になっているけど、リリスとモードレッドは特注の「ジャージ」とかいう動きやすそうな服に着替えている。

 ちなみに俺たちが居るのは、広いマンダリン侯爵邸宅でも人の出入りが少ない樹木園だ。トレーニングの場として確保したここなら、多少おかしなことをしても平気だろう。


「ねぇねぇ。ラティリアーナって呼びにくいから、ラティって呼んでもいいかな? もちろん″悪役令嬢″の未来ラティリアーナと区分けするって意味もあるけどね」

「……どうぞご自由に、リリス」


 ラティ、か。

 なんだろうか、この不思議な感覚。なんだか気恥ずかしくて胸の奥がムズムズする。


「じゃあさラティ、改めまして──ボクのあらゆる知識とチートを使って、キミを一流のキャラにしてみせるからね! 名付けて『リリス・チートキャンプ』の開始だっ!」

「気合いが入ってるのは構わないんだけど、モチベーションが上がらないんだよねぇ……」

「ええっ!? キミはボクの貞操がどうなってもいいっていうのっ!?」

「リリスの貞操なんてどうでもいいんだけど?」

「がーん」


 気恥ずかしさからつい冷たい態度を取ってしまったんだけど、ガチで落ち込んでいるリリスを見て、意地悪しすぎたかなと少しだけ反省する。

 仕方ない、ちょびっとだけフォローするか。


「んー、なにか他に俺のやる気が出る要素が欲しいかな」

「……何か報酬が必要なの?」

「ふーん、何かくれるの?」

「ん〜〜、ボクの操? きゃっ!」


 い、いらねぇ……。マジでいらねぇ。


「えー、もしかしてモードレッドの方がいいの? 胸小さいよ? ロリのほうが良くない?」

「マスター、勝手に私を売るのは如何なものかと」

「安心してくれ、どっちにも興味ないから」


 だいたい俺だって女の身体なんだから、貰ったってどうしようもないだろうに。


「えー、女だけの百合展開とか超イケてない? あぁ、禁断の愛……そこに痺れるぅ、憧れるぅ」

「……勝手にやっててくれ」

「マスター、私には理解不能です」

「ちぇっ、二人ともノリ悪いなぁ〜」


 おいこら、ノリで言ってたんかい!


「んまぁ冗談はともかくとして、ラティは″最強″には興味ない? もしくは──己の限界ってものに挑んでみたくない?」


 ──最強。それに限界突破。

 興味はある。大有りだ。

 何せ前のときは″限界″ってやつに随分と苦しめられてきた。今回ある意味で生まれ変わって、どこまで行けるのか試したい気持ちは大いにある。

 頂点は──はるかに高い。なにせSランク冒険者であるウタルダスはあれだけの超絶能力を持っていた。はっきりと突きつけられた、圧倒的なまでの実力差。


 だけど俺だって魔力を持っている。であれば、かつての身体で辿り着けなかった場所まで行けるはずだ。

 頂上まで登れるかはわからない。でも、歩き出す前から諦めるなんて馬鹿げてる。

 俺は──もう一度、この山を登り始めるのだ。


「もちろん、最強に至るまでには一人では限界があるよ。だけど幸いにもキミのパーティは、とても頼りになる存在だ」


 リリスが胸を張り、モードレッドが恭しく頭を下げる。


「モードレッドはともかく、リリスは役に立つのか?」

「失礼なっ! こう見えてボクたち二人は『ダンジョン攻略者』なんだよ!」


 ……は? 二人がダンジョン攻略者?

 そんなの初耳なんだけど?


「あーそう言えば言ってなかったね。ボクが《 千里眼情報板ラブリィ・タブレット 》を手に最初に挑んだダンジョンでモードレッドと出会って、そして二人でクリアしたんだよ」

「……マジで?」

「うん、マジで」


 こいつ、こんなナリでかつての俺ですら挑めなかったダンジョンをクリアしてたのかよ……。

 リリス曰く、前世の記憶を元に鍛え上げた自分の力を試したくて、たった一人でダンジョンに挑んだらしい。ただ、意気込んで飛び込んだはいいが、魔物を倒すことができずに最初は逃げ回っていたんだとか。


「はぁ? リリスはすごい魔法具マギアと化け物じみた魔力を持ってるんだろう? それがなんで敵を倒せなかったんだ?」

「あのね……実はボクね、攻撃魔法が使えないんだ」

「へっ?」


 おい。こいつ今、なにげにとんでもないこと言ったぞ?


「前に魔法具マギアの相性の話をしたでしょ?覚えてる?」

「えーっと……″神代魔法具ディバイン・デバイス″はEランク以下じゃないと他の魔法具マギアを拒絶するってやつ?」

「そうそう、でもそれって厳密には正確じゃなくて、正しくは──Dランク以上の魔法具マギアについては、相性が(・・・)悪いものを(・・・・・)拒絶するってことなんだ」


 相性?

 つまり、″神代魔法具ディバイン・デバイス″が気に入ればDランク以上の魔法具マギアでも装備可能ってこと?


「そうそう。魔法具マギアはね、いくつかの系統に分類できるんだよ。たとえばボクの《 千里眼情報板ラブリィ・タブレット 》は″支援型アシストタイプ″なんだ」

「アシストタイプってことは、なにか仲間を支援するような魔法が使えるってこと?」

「うん。敵を足止めしたり目くらまししたりとか、索敵とかカモフラージュとか。ダンジョン探索に有用な魔法は相当数使えるんだけど、そのかわり……攻撃系はサッパリなんだ。せいぜい種火を点けるくらいかな? 治療系だって簡易治癒くらいしか使えないしね」


 それでも俺を全身筋肉痛から救ってくれたから有り難かったんだけど、それにしても──


「それって、せっかく膨大な魔力があるのに無意味じゃね?」

「う、煩いなぁ! ほっといてくれよ!」


 あ、拗ねちゃった。気にしてたんだな、こいつ。


「サブマスター、気に病む必要はありません。いずれにせよマスターは生体を・・・殺めること(・・・・・)が出来ませんので」

「あっ! モードレッドそれ言っちゃダメ!」


 生物を殺めることができない?

 それって……もしかしてこいつ、敵を倒すことが出来ないのか?

 俺が疑いの眼差しを向けると、観念したのか──リリスが頬をぷーっと膨らませる。


「……だって、怖いんだもーん」

「なんですって?」

「そりゃラティみたいにこの世界に生まれ育った人たちはいいよ? 平気で魔物とか倒せるからさ。だけどね、ボクは……ダメなんだ。血を見るのが苦手なんだよ」


 なるほど、こいつはそういうタイプなのか。

 たまにいるんだよなー、生物の命を刈り取ることがダメな奴。しかもそういう奴に限って″命は尊い″とか言いながら肉食ったりしてんだよな。

 しかしこいつ、魔物を倒せないとかどう考えても冒険者失格じゃないか。マジで使えないな。よくウタルダスのやつらこんなの仲間にしようと思ったもんだよ。

 くっそー、こんなポンコツ押し付けやがって──いや待てよ。魔物を倒せないリリスがどうやってダンジョンを制覇したんだ?


「そこは、私の力ですサブマスター」


 シャキーン。剣と化した右腕を見せつけるモードレッド。

 なんでもリリスが必死に逃げ回って偶然入った部屋で、機能停止状態だったモードレッドと出会ったらしい。そこで前世の知識と膨大な魔力を使ってモードレッドを目覚めさせることに成功したリリスは、ちゃっかりモードレッドの主人マスターになるように手を加えて、仲間にしたのだとか。

 そしたらモードレッドはとてつもなく強いゴーレムで、あっという間に魔物たちを蹴散らしてダンジョンクリアに成功したらしい。


「それって……洗脳じゃね?」

「人聞き悪いなぁ。違うよ、眠ってたモードレッドを起こしただけだよ」

「本当に? 問題はないのか?」

「ないない、全然ないよ。ねー、モードレッド?」

「はい、問題ありません。マスター」


 なんだろう。聞けば聞くほどリリスのことが胡散臭く感じてくる。しかも話を聞いた限りだと、実質モードレッド一人でダンジョン制覇したようなもんじゃないのか?


「だーかーら、ボクの支援魔法と組み合わせてクリアしたんだってば!」

「はい、マスターの魔法は素晴らしいです」


 ふーん、ほんとかねぇ。




 ◇



「ま、まぁボクたちの話はいいよ。それよりも今はラティのほうだ。推測にはなるけど、キミの魔本はおそらく──武器型ウエポンタイプなんじゃないかなぁ?」


 リリスのことを白い目で見ると、劣勢を感じたのか慌てて話題を変えてくる。

 この本が、武器型?  読書型ってなら分かるけど、なんで武器型だと分かるんだ?


「だってキミ、魔剣が使えてるじゃん」

「魔剣? 魔剣ってこれ?」

「うん。その魔剣は──Bランク、ウルトラレア級だよ。だけどなぜか《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》は受け入れている。たぶん、系統が合ってたんだね」

「ってかこの剣Bランクだったのかよ!」


 驚いている俺を尻目に、リリスが《 千里眼情報板ラブリィ・タブレット 》を操作する。

 すると、俺の目の前に愛剣の情報が表示された。


 ──


 名称:『断魔の剣』

 種類:細身剣

 ランク:B

 効果:『不壊』、『軽量化(大)』、『危機感知(中)』、『魔力制御(大)』、『天翔』


 ──


 うっわー、マジでBランクじゃないか。ずいぶん雑に扱ってたけど、まさかこんな高級品だったとは。


「なにこれ。『断魔の剣』なんて恥ずかしい名前が付いてる」

「Cランク以上の魔法具マギアには銘が入るからね。ちゃんと名付けなかったから、勝手についたんじゃないかな?」

「そ、そうだったんだ。こんなことになるなら、ちゃんと『魔王抹殺剣』とか『天中殺エクスカリバー』みたいな立派な名前を付けてあげればよかったなぁ」

「……ボソッ(ボクはそんな名前じゃなくて心の底から良かったと思うけどね)」


 あと、説明のところに書かれた″効果″って何だろうか。たぶんこの剣に与えられてる力なんだろう、不壊や軽量化は心当たりがあるし。

 ただ、残りがよく分からない。いやなんとなくは分かるんだけど、最後の『天翔』なんてさっぱりだ。


「……なんだか聞いたことない効果ばっかりだね。少し調べてみようか」


 ──


『危機感知(中)』

 所有者の危機を察知して知らせる(中程度)。


『魔力制御(大)』

 魔力を制する力。他人の魔力にも介入することができる。


『天翔』

 天を駆けるが如く、宙を舞う。


 ──


 ははー、長年の謎が一つ解けたよ。

 どうして俺が相手の魔力を断つことが出来るのか不思議だったんだけど、実はこの魔剣のおかげだったんだな。

 知らなくてごめんな。そして──これまで俺のことを助けてくれてありがとう、″断魔の剣″。


 だけど、一つ教えて欲しい。

 ……「天を駆けるが如く、宙を舞う」って何なんだよっ!!


「なんだろうね?」

「リリスにも分からないのか?」

「ボクの能力は調べることはできても、意味までは分からないからね」

「ちっ、使えねぇ」


 あ、言っちゃった。思わず出た言葉にリリスは深く傷付いたようで、あからさまに凹んでいる。

 だってさー、膨大な魔力はあるのに戦闘には使えない。そもそも敵と戦えない。おまけに能力もたいしたことない。こんなのただの″役立たず″じゃあ──。


「ちょ、ちょっと待ってよ! その判断はまだ早いってば! ボクにだってちゃんと他にもすごいチートが……」

「お、ラティリアーナ様たちはここにいたがるか!」

「ラティリアーナ様、今日もお邪魔しております」

「お嬢様、アーダベルト様とミトラ姉さんが来ておりますワン!」


 ふいに声をかけられて振り返ると、舞夢マイムがアーダベルトと美虎ミトラを連れてやってきた。慌てて″リバースグラス″を外してお嬢様モードにシフトする。

 それにしても舞夢マイムはよくこの場所が分かったな。


「お嬢様の匂いをたどってきましたワン!」


 疑問を察したのか、舞夢マイムが嬉しそうに教えてくれた。クンクン。そんなに臭う? 確かにちょっぴり甘酸っぱい臭いはするかもしれないけど……。


「それで、あなたたちはわたくしに何用ですの?」


 舞夢マイムに手渡されたタオルで顔を拭きながら二人に問いかけると、アーダベルトはキラキラした笑顔で、美虎ミトラはニヤリと笑いながら答える。


「実は──今日はラティリアーナ様にご報告があって来ました」

「そうがる!」


 ほ、報告!?


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