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11.ディバイン・デバイス

 いよいよ千眼の巫女リリスの口から解析結果が知らされる。果たして、石化した俺の身体はどうなっているんだろうか。


「まずはこちらの石化した英雄様についてです。私の所有する《 千里眼情報板ラブリィ・タブレット 》にて解析の結果──『石と化した人間』となりました」


 ずるっ。思わず椅子からずり落ちそうになる。なんだよそれ! 見たとおりのまんまじゃんか! 見かねたパパ侯爵が確認のため質問をする。


「巫女様、それは一体どういう意味なんじゃ?」

「言葉通りの意味なのですが、注目すべきポイントは──私の《 千里眼情報板ラブリィ・タブレット 》が石化した英雄様を″石像″ではなく″石と化した人間″と解析したことです」


 ん? その二つの何が違うっての?


「私の持つ《 千里眼情報板ラブリィ・タブレット 》は 【 神代魔法具ディバインデバイス 】です。解析結果にウソはありません。つまり──」

「なるほど! わかったぞ! つまり、英雄様は生きているということじゃな!」


 パパ侯爵が大きく手を打つのと同時に俺も理解する。なるほど、魔法具マギアが″石″でも″死体″でもなく″人間″と解析したってことは、たしかに生きていると解釈できるだろう。

 そうなると問題は、どうやったら石化が解けるかってことだよな。


「それで、どうすれば英雄殿の石化は治療できるのじゃろうか?」

「それは──わかりません」

「へっ?」「えっ?」「は?」


 思わずパパ侯爵、俺、舞夢マイムが変な声を漏らしてしまう。


「残念ながら私の《 千里眼情報板ラブリィ・タブレット 》で可能なのは″解析″までです。解決策までは分かりません」

「ふん、使えませんこと」

「お、お嬢様……」


 残念だと伝えるつもりが、このざまよ。ごめんね、巫女様。

 でも生きているって分かっただけすごい進歩だと思う。これから解決策を探していけば良いわけだしね。元に戻るかどうかはその時に考えればいいし!


「そ、そうであるか……まぁ仕方ないことではあるが、解決策が見つかるまではこのわし、マンダリン侯爵デルファイが責任を持って管理しよう!」

「当然ですわ」


 きゃー、さすがお父様! ステキー! その調子で俺の身体を壊さないように大切に管理してくださいね? と言ったつもりが「当然ですわ」だもんなー。もういいけどさ。パパ侯爵も気にしてないみたいだし。

 気を取り直して次いってみよー。


「英雄様については以上です。続いてラティリアーナ様ですが……」


 さぁ、いよいよ俺の番だ。いったいどんな解析をされたんだろう。どきどき。


「まず、全身に激しい筋肉疲労が見られましたので、私の方で少し痛みを和らげる処置を施しました」

「……わ、悪くないわね」

「そして、気になることがあります。実は──」


 実は……なになに? どきどき、どきどき。


「ラティリアーナ様のことをうまく解析できませんでした。ラティリアーナ様はもしや、強力な力を持った魔法具マギアをお持ちではありませんか?」


 ガクッ!

 なんとここでも《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》が邪魔してくるのか!

 このヤキモチ焼きやさんったらぁ〜、なーんて言ってる場合じゃないよなぁ。実際パパ侯爵もこっちを驚きの目で見てるし。


 まぁいつまでも秘密にしとくわけにはいかなかったし、ちょうど良い機会かな。皆さんにネタバラしでもしますかね。



 ◇◇



「なんと! ラティリアがその魔法具マギアの主人となっていたのか!」


 俺が《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》を具現化したとき、一番驚いたのはパパ侯爵だった。なんでもこの本は、パパ侯爵が昔ダンジョンに潜っていた頃(!?)に手に入れたものであるらしい。


「お、お父様は昔、冒険者をされていたのですか?」

「うむ、知らなかったか? 侯爵家を継ぐ前は色々なところを旅しておってなぁ。こう見えてわしは昔″剛爆″の名で知られておったんじゃよ。わはは!」


 ご、″剛爆″だって!?

 いやいや、知ってるも何も″剛爆″ったら一昔前の超有名な冒険者じゃないか! たしか最終的にはゴールドランクまで上り詰めた戦士で、いくつものダンジョン攻略に参加したとか。

 まさかパパ侯爵がダンジョン攻略するほどの上級冒険者──しかも伝説の男″剛爆″だとは夢にも思わなかったよ。

 でも噂じゃ″剛爆″は細身の貴公子だったと聞いたんだけど、目の前にいるのはオーガばりのデブいオッサン……まぁ噂なんてそんなもんだよな。


「よくそのだらけきった身体でダンジョンなどに潜れましたわね? 」

「ラティリアは相変わらず手厳しいのぅ……こう見えても昔はスタイリッシュだったんじゃよ? 実際に一つ攻略しておるしな。その際に手に入れたのがこの【 蟻蛾豚ギガトン 】じゃ!」


 パパ侯爵が自慢げに取り出したのは、自身の身体と同じくらいの大きさがある巨大な黒光りする斧。ってかどこからそんなデカいの出したのよ!?


「こいつは非戦闘時は小さくなるんじゃよ、便利じゃろう? がはは!」

「どうせならその無駄に大きな身体も小さくして欲しいですわ」

「どっひゃー、ラティリアってばいけずぅ」


 こんな感じでパパ侯爵と父娘毒舌漫才を交わしている間、千眼の巫女リリスは鈍色の板をずっと操作していた。どうやら【 蟻蛾豚ギガトン 】の解析をしていたみたいだ。


「さすがはダンジョン攻略魔法具マギアですね。これはBランク──ウルトラレア級ですね」

「むふふっ、その通りじゃ。一目で気づくとはさすが千眼の巫女様よのぅ。この斧はダンジョン攻略時にクリア報酬としてゲットしたものじゃが、一緒に手に入れたのがその──″赤い本″じゃよ。もっとも、使えるものがおらず、そのまま宝物庫にしまっておったんじゃがなぁ」


 なんとこの本は、ダンジョン攻略時にゲットすることができると言われている極上の魔法具マギアのうちの一つだったらしい。


 千眼の巫女リリスは、パパ侯爵の持ってる魔法具マギアを″ウルトラレア級″と言った。俺は魔力を持ってなかったからあんまり正確には覚えてないけど、魔法具マギアはいくつかのランクに分かれていたはずだ。


 ・Gランク──別名ジャンク

 ・Fランク──別名ノーマル

 ・Eランク──別名スペシャル

 ・Dランク──別名レア

 ・Cランク──別名スーパーレア

 ・Bランク──別名ウルトラレア

 ・Aランク──別名レジェンドレア


 こんな感じだったかな?

 その中でパパ侯爵のは″ウルトラレア″だから、上から二番のBランクだ。お店に売ったら一体いくらになるのか見当もつかないくらい貴重な魔法具マギアだ。


「しかし、巫女様がお持ちのそちらの魔法具マギアAランクレジェンドレアの上をいくS級── 【 神代魔法具ディバインデバイス 】じゃ。その力をもってしても解析できないとは、いったい……」

「おそらくラティリアーナ様がお持ちの赤い本は、私の持つと同じ 【 神代魔法具ディバインデバイス 】であると思われます」

「は?」「ひっ?」「ふっ!?」


 またしても三人同時に変な声を出してしまう。

 でも仕方ないだろう? そもそもAランクの上があったことに驚きだっていうのに、まさか《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》が同じS級だっていうんだからさ!


「ラティリアの持つ魔法具マギアが【 神代魔法具ディバインデバイス 】じゃというのか……」

「はい。私の《 千里眼情報板ラブリィ・タブレット 》の解析を拒むだけの力を持つのは、同格の魔法具マギアしか考えられません。それで、ラティリアーナ様。あなたのお持ちの本はどのような力をお持ちなのですか?」


 ぐいと身を乗り出して尋ねてくる千眼の巫女リリス。パパ侯爵や舞夢マイムまでも興味津々の目で見つめてくる。

 むふふ、天使となった姿を見ても驚くなよ?

 重い身体を震わせながら立ち上がると、舞夢マイムに視線を向ける。


舞夢マイム、わかってますわね?」

「はいですワン! 肩口を手で押さえさせていただきますワン!」


 準備が出来たところで、俺は《 紅き魔導書スカーレット・グリモア 》のページをめくり、例の文字を指でなぞる。


 ── 能力発動スキルアクティブ── 【 変身メタモルフォーゼ


 能力発動とともに、″オーク令嬢″から一気にやせ細った美しい少女の姿へと変身していく。服がずるりとズレ落ちそうになるが、今回は舞夢マイムが支えてくれてるから安心だ。

 さぁ、どうよ!


「あ、あわわわ……る、る、る、る……」


 完全に変貌を遂げた娘の姿を前に、マンダリン侯爵は意味不明な言葉を口走っている。仕方ない、ウインクくらいサービスしてやるか。


「どうなさいましたの? お父様」

「る、る、る、ルミナ!!」

「はい?」


 次の瞬間、膨大な量の涙を流しながらパパ侯爵が飛びついてきた。さながらオーガの襲来だ。

 殺されるっ!?

 全神経を集中して、ギリギリのところでマンダリン侯爵の体当たりを躱すと、侯爵はそのままつんのめって壁に激突した。


「お父様、なにをなさるのです? さては魂まで魔獣に成り果てたのですの?」

「す、すまん! あまりにもルミナに似ていたので思わず……」


 ルミナ? ルミナって誰よ?


「わたくしは亡くなったルミナリアお母様ではありませんわ」

「そ、そうじゃったな。すまなんだ」


 ルミナってラティリアーナのお母さんのことだったのか。そういえばもう亡くなってるんだっけ? 変身後のラティリアーナに似てるってことは、きっとすごい美人さんだったんだろうなぁ。


「それで、ラティリアーナ様は他にどんな能力がおありなんですか?」


 他の能力? なにそれ?


「そんなものありませんわ」

「えっ? 無い? その……痩せるだけ、なんですか?」

「ええ、そうですわ」

「た、たとえば──″魔力無効化″や″衝撃波″などは……?」

「そんなもの、使えませんわ」


 なんでわざわざあの悪霊の能力なんかを例に出して聞いてきたのかは分からないけど、残念なことにマジでこの能力しか使えないんだよねぇ。

 自信満々にそう答えたら、リリスはものすごく微妙そうな顔をした。ご、ごめんよ。こんな能力しかなくて。

 個人的にはこの能力すごく気に入ってるんだよ? だけど普通はそういう反応になるよねー。




 ◇◇




 ″千眼の巫女″リリスによる解析は、結局これでお開きになった。リリスはまだ何か聞きたそうにしていたけど、最後までなにも聞いてこなかった。もっとも聞かれたところでパパ侯爵の前で話せるようなネタは無いんだけどさ。


 この日、千眼の巫女リリスと従者のモードレッドは、遠方からわざわざ来てもらったこともあるので、パパ侯爵が願い出て、邸宅内にお泊まりしてもらうことになった。


 二人を交えた夕食も終わり、いよいよ寝る時間となる。ちなみに今日はまだ前日の疲れが完全に癒えてなかったので、日課の魔力トレーニングはお休みだ。


 異変が生じたのは、ベッドに潜り込んで、いよいよ眠りにつこうかと思ったときのことだった。


 ──トントントン。

 静かに聞こえるドアをノックする音に気づいて、ベッドから起き上がる。こんな時間に誰だ? 舞夢マイムかなぁ?


「誰? 入って構わないわ」


 重量級の巨体をなんとか起こして入り口にそう声をかけたものの、返事が返ってこない。おかしいなぁと思いながらも渋々起き上がり、ドアを開ける。

 そこに立っていたのは──。


「夜分遅くに恐れ入ります、ラティリアーナ様。少しお話しさせていただいてよろしいでしょうか?」


 なんと″千眼の巫女″リリスが、寝間着姿で入り口に立っていたのだ。

 完全に予想外。どうしたってんだろう、こんな夜中に。


「話、ですの?」

「ええ、そうです。ラティリアーナ様……いいえ」


 リリスが俺に向かって丁寧に頭を下げながら、ゆっくりとかけていたメガネを外す。

 その瞬間、リリスの雰囲気が一気に変わった。


「キミはいったい誰なんだい? ボクに教えてくれないかな。──″悪役令嬢″ラティリアーナさん」



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