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10.千眼の巫女

 うぎぎ、全身が痛い……。


 アーダベルトとの決闘から丸一日経過しても、全身の筋肉痛は一向に良くならなかった。いや、むしろ悪化してるかもしれない。指を動かすだけで激痛が走るんですけど。あまりに辛すぎて寝てるか、今みたいに椅子に腰掛けるのが精一杯だ。


 そして、もう一つ厄介なことがある。


「お身体の具合はいかがですか? ラティリアーナ様」


 横にいるのは、キラッキラの笑みを浮かべた金髪のイケメン。なんでお前がここに居るんだよ、アーダベルト!


「いえ、あなたのことが心配だったからですよ」

「……ご心配には及びませんわ。それに、わたくしもこう見えて淑女、弱った姿をお見せするのははばかられますわ」

「そうですか、それは失礼しました。ご無事な姿が確認できただけで良かったです」


 お、言ってみるもんだな。案外あっさりと引き上げてくれるようだ。もしかしてこいつ、本気で俺のことを心配してくれてたのかな?


「……ただ、落ち着かれたら昨日の″力″のこと、僕にも話してくださいね?」

「……」


 どうやらアーダベルトにある意味でロックオンされてしまったらしい。

 ぐぅぅ、その猛禽類みたいな目で俺を見つめるのはやめてくれぇ!



 ◇



 アーダベルトが立ち去ったあと、なんとか体を起こして食事を取ることにする。身体がろくに動かないので、今日は舞夢マイムに手伝ってもらう。


「はい、お嬢様。あーん、ですワン」

「……あーん」


 なんなのこの羞恥プレイ。犬耳美少女に食べさせられるとか、他の人に見られたらなんと言われることか。


「美味しいですか? お嬢様」

「悪くないわ」

「それは良かったですワン」


 ……まぁでも舞夢マイムが嬉しそうだから良しとするか。守って良かった、この笑顔。なーんちって。

 犬耳美少女との赤ちゃんプレイを堪能したいたところ、部屋の外からどすどすという音が徐々に近づいてくる。この足音はマンダリン侯爵だな。


「ラティリア! ここにおったか!」

「煩いですわ、お父様」

「くうぅ、第一声から手厳しいのぅ! それはそれでまた堪らんというか……」

「そんなことより、どうして慌ててらっしゃいますの?」

「ああ、そうじゃった! 来たんじゃよ!」


 来た? 誰が?


「″千眼の巫女″様が、到着されたんじゃよ!」


 ″千眼の巫女″? って何だったっけ……。

 あ、思い出した! 確かラティリアーナがあまりに目覚めないから、心配したパパ侯爵が呼び寄せた超すごい魔法使いだったわ!

 この時をどんなに待ち望んだことか。頼む、俺を元に戻して──いや、魔力が使えて美少女になれるなら戻らなくてもいいかな?

 ……あれれ、俺ってば本当はどうしたいんだろう?



 ◇



 客間に招待されて座っていたのは、二人の女性だった。

 一人は真っ白な髪に赤い瞳の二十代半ばくらいに見える美女。すらりとした身体は、″変身″したときのラティリアーナにも匹敵するくらいだ。ただ残念ながら胸は……ゲホンゴホン。まぁ完璧な人間なんてそうそう居ないしな。雰囲気から察するに、この人がたぶん″千眼の巫女″なんだろう。

 そしてもう一人は、メガネをかけた10歳くらいの少女。この子も可愛らしいんだけど、それよりもピンク色というとても珍しい髪色と大きな赤いリボンのほうに目がいってしまう。この子はなんだろう? もしかして巫女さんの娘、とか? それにしてはずいぶん若いお母さんってことになるけど。


「初めまして。私は千眼の巫女様の従者を務めております、モードレッドと申します。姓はございません。以後お見知り置きを。そしてこちらにおわしますのが──」

「リリス・アマテラスと申します。世間では″千眼の巫女″と呼ばれています。よろしくお願いいたします」


 なんとびっくり、実は少女の方が″千眼の巫女″様でした! 確かに言われてみると、話し口調なんかにすごく気品を感じる。巫女っていうくらいだから、何か神聖な役割でもあるのかな? でも本当にこんなチビッコが超すごい魔法使いなの? ただの大人しそうな画家にしか見えないんだけど。

 一方、従者のモードレッドのほうにはなんとなく機械じみたものを感じる。アーダベルトとはまた違う感じで、彼女の場合はそもそも感情そのものが感じられない。ただ、会話そのものはモードレッドさんと進めていく形みたいだ。


「ラティリアーナ・ファルブラヴ・マンダリンです。父の申し入れを受諾いただき、まことにありがとうございますわ」

「さっそくですが、私どもをお呼びいただいた御用向きをお教えいただけますか? たしか、ラティリアーナ様が昏睡されているとお聞きしていたのですが」

「おお! その件じゃがな、ラティリアはこのとおり目覚めておるのじゃ! その代わりと言ってはなんじゃが、別の依頼事項があってのぅ」


 マンダリン侯爵が太ったアゴを揺らしながら、二人に説明する。まずはラティリアーナの身体に異変がないかの調査の依頼。そしてもう一つは、石化した″英雄殿″の調査だ。


「──かしこまりました。大変申し訳ないのですが、巫女はお調べすることを生業としておりますので……」

「おお、従者殿! わかっておるとも! ここに100万エル用意しておる! これで如何だろうか?」


 どしゃっ、という鈍い音とともに、大量の金貨が入った皮袋が巫女様の目の前に置かれる。いやんパパ、ステキー! この金銭感覚のおかげでどれだけ助かっていることか。やっぱ金に執着しない男ってイケてるよなぁ。

 一方、巫女たちのほうは反応なしだ。ぴくり、と巫女の頬が揺れたような気がしたけど、もしかして無礼すぎて怒った?


「……巫女様、もしや不足しておりましたか?」

「いえ、巫女様はこちらでかまわないと申しております。さっそくですが調査を始めさせていただきます」


 ああ良かった、気を悪くしたわけじゃなかったみたいだ。さぁこれでついに色んなことが解明するぞ!



 ◇



 舞夢マイムの先導の元、巫女様一行と俺とマンダリン侯爵の四人は、石化した俺が祀られた宝物庫にやってきた。

 正直、俺は今でも元に戻りたいのか自分の心を決めかねている。でもとにかく元の身体が今どうなっているのかを知ることを先決することにした。だって前提が分からないと何も決められないからね。


「……これがお話にあった″英雄様″、ですか」

「はいですワン。魔力無効化・・・・・爆発の力・・・・を持った悪霊と相打ちになられたんですワン」

魔力無効化・・・・・衝撃波・・・、ですね」


 舞夢マイムの説明に、なぜか引っかかる″千眼の巫女″リリス。だけどなんだろう、俺は逆に巫女の発言の方が気になった。なんだろう、妙な違和感を感じる。


「巫女様は、何か心当たりでもあるのですかワン?」

「……いえ、なんでもありません。ところで舞夢マイムさん、あなたはまだ・・ラティリアーナ様の元で働いていたのですね?」

「ふぇ? マイムはずっと・・・ラティリアーナ様の元で働かせていただくつもりですワン」

「それは失礼なことをお聞きしました。今の質問はお忘れください」

「は、はいですワン?」


 もしかしてリリスは、俺とアーダベルトが舞夢マイムを取り合ったことを知ってるのかな? あの決闘はほとんど世間には知られてないはずなんだけど……どうやって知ったんだろうか。そこはさすが″千眼の巫女″と言ったところか?

 ただ、やっぱり何か言い方に引っかかる部分がある。この言い方だとまるで──。


「それではお待たせいたしました、術式を開始させて頂きます」


 俺が違うことに気を取られてる間にも、″千眼の巫女″リリスの儀式が始まった。ぶぅん、という鈍い音とともに、突如″千眼の巫女″の手に大きな鈍色の板が出現する。


「こ、これはもしや″空間魔法″!?」


 驚きの声を発したのはマンダリン侯爵。その言葉の意味を理解して、俺も軽い衝撃を受ける。

 聞いたことがある。空間魔法という、異空間に物を収納する魔法があることを。ただ、その魔法は伝説的なものだとも聞いていた。なにせ、物語以外で・・・・・使える者が・・・・・確認されて・・・・・いない・・・魔法だったから。


「── 起動スタートアップ ── 【 神代魔法具ディバインデバイス 】──《 千里眼情報板ラブリィ・タブレット 》」


 瞬時に、目の前の空間に七色の魔法陣が展開された。まるで何もない空間に光の花が咲いたかのようで、光のコントラストが映し出す光景に思わず見惚れてしまう。


「おお、【 神代魔法具ディバインデバイス 】! 噂は本当じゃったのか!」

「……噂?」

「うむ。千眼の巫女様は、世界で8つしか確認されていない最上位のSランク魔法具マギア神代魔法具ディバインデバイス 】の使い手である、とな!」


 幻の″空間魔法″に、最上位のSランク魔法具マギア

 普通の子供じゃないとは思ってたけど、もしかしてこの子、もの凄い使い手なんじゃないのか?


「 ── 魔法発現スペルオン ── 【 全文検索フルサーチ 】」


 魔法言語プロトコルに併せて巫女が鈍色の板を指でなぞると、出現した七つの魔法陣が石化した俺の石像の頭上に重なるように縦に並んでゆく。続けて、一気に上からなだれ込むように石像を包み込んだ。


「おお、すごい! さすがは千眼の巫女と呼ばれるだけあるわい! きっとあの魔法で解析しているんじゃろう!」

「解析?」

「うむ。千眼の巫女様の二つ名の由来は、その『解析能力』じゃと聞いておる。彼女の手にかかれば、解析できない情報はないとな!」


 おお、それはすごいじゃん! だったら石化した俺がどうなっているかも判明するかな?

 その間、千眼の巫女リリスは手に持っていた鈍色の板を指でタッチしながら、何かをブツブツ呟いている。どうやら先程の魔法陣で分析をしていて、その結果が板に表示されてるみたいた。


 しばらくすると、石像を包み込んでいた魔法陣が消え、巫女リリスも板から指を離す。


「こちらの解析は終了しました。ただ、これだけでは情報が不足していますので、ラティリアーナ様も調べさせてください」

「えっ!?」


 うそっ、今度はラティリアーナこっちを調べるの!? ちょっと待て、そいつはマズイんじゃなかろうか。

 だって、千眼の巫女は『解析できない情報はない』んだろう? だったら、もしかして俺の心がラティリアーナの体に入ってることがバレるんじゃ──。


「ご安心ください。巫女の解析は身体には影響ありません」


 いや、心配してるのはそこじゃなくて解析されちゃうことなんだけど……ってちょっとモードレッド、なんで俺の手を掴んでるわけ? もしかして逃げないように捕捉してる!?


「それでは、ラティリアーナ様の解析を開始します」


 うわわ、マジかよっ!? しかもモードレッドにがっしりと掴まれた腕はビクともしないし。どんだけ馬鹿力なんだよ、この美女は!

 ふと上を見ると、複数の魔法陣が折り重なるように俺の頭上に展開されている。


「 ── 魔法発現スペルオン ── 【 全文検索フルサーチ 】」


 次の瞬間、なだれ込むように魔法陣が俺に向かって一気に落ちてくる。

 七色の魔法陣に包まれたものの、別に変な感覚に襲われることはなかった。多少はピリピリしたりするかと思って心の準備をしてたんだけど拍子抜けだ。本当にこれで解析できてるのかな?


 しばらく俺の周りを魔法陣がくるくる回ったあと、光の粒子となって消えてゆく。同時に、それまで俺の全身を苛めていた筋肉痛が少し和らいだ。あれ、なんでだろう? もしかして巫女様がなにかしてくれたんだろうか。


 魔法陣が消え去ってからも、千眼の巫女リリスは難しそうな顔をして鈍色の板を操作していた。指でタッチしたり、二つの指を広げたり、縮めたり。何やってるんだろう? ちょっとだけ楽しそうだな。


「──解析が終了しました」


 マンダリン侯爵とテーブルについて舞夢マイムが用意してくれたお茶に口をつけたころ、ようやく千眼の巫女リリスが口を開く。いやー、待ちわびたよ。


「ふん、ずいぶん時間がかかったわね。日が暮れるかと思ったわ」

「お時間がかかり申し訳ありません。それでは、解析結果はお伝えいたします」


 相変わらずのラティリアーナ節にも気にした様子もなく、千眼の巫女リリスはメガネをくいっと指で持ち上げたんだ。


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