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秋の夕暮れからの記憶  作者: 茶々
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第6話 奏との日々




昼食を食べ終え、病室へ戻ろうと廊下を歩いていると見覚えのある背中が見えたので声をかけた。


「奏」


「おー、香太、どこか行ってたの?」


「午前カウンセリングやっててそのままお昼ご飯食べて来た所だよ」


「カウンセリングとかもやってるんだね。」


奏が少し申し訳なさそうな表情をする。


「まあ僕の場合記憶失くしてるとは思えないぐらい落ち着いてたらしいから、回数は少なかったけどね、今日で最後のカウンセリングだったし」


奏が安心した表情をしてくれる。


「そういえば骨折の方ももう歩けるぐらいに回復したんだね」


「うん、退院ももうすぐだと思う」


退院という言葉を聞いた瞬間奏の表情がパァっと明るくなる。


「退院したら一緒の学校に通えるんだよね!」


「ま、まあそうだね。あ、そういえば気になってたんだけど、学校では奏の事先輩って読んだ方が良いかな?」


「えっ?大丈夫だよ!いつも通りの感じで、学校だけで先輩なんて変な感じじゃない。」


「うーん...まあ、確かに違和感はあるかもしれないけど、なんて言うのかな、公私は分けると言いますか。」


そう言うと奏は笑って


「部活動ってわけでもないし大丈夫なんじゃないかな?年は違えど友達なわけだし。あ、そういえば...」


「ちょっと待って」


僕はあることに気づき奏の話を遮った。


「どうしたの?」


「病室...通り過ぎてた。」


「あ、本当だ。」


お互い顔を見合わせ笑いだす。


「話に集中しすぎてたね」


「そうだね、続きは病室で話そうか」


後ろへ振り向いて2人で病室の方へと歩き出した。



--------------------




「さっき何言おうと思ってたの?」


病室に着き、さっきの話の続きをしようと奏に話を振った。


「ん?あーそういえば話の途中だったね」


椅子に座った奏はカバンを床に置いてから話を紡ぎ始めた。


「香太って部活とかは入ってなかったの?」


あー、部活か...

お父さんから聞いた話だと、部活には入ろうともしなかったらしい。

ついでに言うと委員会なども入ってはいなかったらしい。

言ったら学校生活どうでもいいみたいに思われそうだな…

言うか言わないか悩んでいると奏がゆっくりと口を開く。


「ごめんね、記憶無いんだから覚えてるわけ無いよね…。無神経な事言っちゃったかな」


「いや、そういう訳じゃなくてね?...ん?そういう訳でもあるか?でもね、覚えてはいなかったけどお父さんから学校の活動の事とかは聞かされてるんだ。でも、その...」


奏なら学校生活に興味ない僕でも友達ではいてくれるとは思う。だけどやっぱり幻滅されそうだなぁ...

なんたって奏はしっかりしている、学校でもちゃんとしてるに違いない。


「どうしたの?...言いたくないなら言わなくても大丈夫だけど。」


でもやっぱり、奏に隠し事はしたくないな。


「えっとね、幻滅されちゃうかも知れないけど、僕って学校生活に全く興味なかったらしいんだよね。部活もやらない、委員会もやらない、友達も作らない。言っちゃえば典型的な陰キャラだったって事かな」


そう言うと奏は「なるほどね...」と言い力のこもった目で僕を見つめた。


「でもね香太、香太が学校生活に興味が無かったとしても香太は香太だよ。前の香太も今の香太も本質的には変わらないはず。要するに、今の香太が好きな私は前の香太も好きなはずだよ。香太はもっと自分に自信を持っていいんだよ?私の知ってる香太はね、事故に遭っても自分と全力で向き合い、周りに心配をかけないように我慢して、人への感謝の気持ちを忘れない、そういうとっても優しい男の子なんだよ?だから幻滅されるかもとか言わないで、私は香太が思っている以上に香太の事を知ってるよ?」


奏はまだ僕の目を見ている。

僕は奏の言葉に何も言えなくなっていた。

香太は香太だよという言葉、私は香太が思ってる以上に香太の事を知っているという言葉、そして今の香太が好きな私は前の香太も好きなはずという言葉、僕の頭を奏の言葉が回る。

ずっと回り続けている。

理解は出来ている。だけど奏が僕のことを想像以上に想っているという事に泣きそうになる。

僕は...どう応えればいいんだ...


僕の目を見続けていた奏の顔が徐々に赤くなる。


「どう...したの?」


僕が心配すると奏は視線を逸らしあたふたしながら答えた。


「えっと、その、今の香太が好きって言うのは、その友達としてってことだからね、その、恋愛感情とか、そういうのではなくて、えーっと…えーっと...って何笑ってるの?」


僕は慌てる奏を見て思わず笑ってしまった。


「だって、こんなに慌ててる奏を見るのは初めてなんだもん、そりゃ笑っちゃうって」


奏が「むぅー...」と顔を赤くしながら俯く


「でも、ありがとね奏、奏の言葉を聞いて気づいたよ、僕は前までの僕の話を聞いて自信を無くしてた。でも僕の見ている秋海香太と奏の見ている秋海香太は違ったんだね。そして合っていたのは奏の見ている僕だったんだね。奏のおかげで気づけたよ、僕はこれからもう少し自分に自信を持って前向きに生きていくよ」


すると奏は最高の笑顔で


「そうだよ!香太はいつも後ろ向きな考え!もっと前を向こう!そして困難は乗り越えていこう!私と一緒にね」


「うん、前向きで頑張ってみる、そして乗り越えられなそうな困難にぶつかったら奏に相談するね」


「うん!じゃんじゃん相談乗るよ!」



本当にありがとう、奏。



--------------------




「この病院の中庭って凄い綺麗だよね」


奏が窓の外を見ながら呟く。

確かにここ北城病院の中庭は綺麗だと思う。隅々まで手入れが行き届いていて、従業員の人の良さがそこからも伝わる。


「毎朝従業員の人が手入れしてるっぽいからね、1回だけリハビリがてらに散歩したけど、落ち着く雰囲気だったからしばらくベンチでのんびりしちゃったよ」


「そうだ!今から中庭散歩してみない?香太と一緒に外歩いてみたいな」


奏が元気な声で提案してくる。

確かにずっと病室に居るのもあれだしな。

たまには外の空気も吸わねば…


「そうだね、中庭行ってみようか」


奏が「やったー!」とはしゃいでいる。

元気だなぁ...

とりあえず受付の人に中庭に行くという事だけ伝えて中庭に出てきた。

うぅ...結構寒いな。

もう少し厚着してくればよかった。


奏と一緒に中庭を少し歩く。


「結構寒いね。もう秋も終わりかな。」


「だってもうすぐで12月だもん、秋の終わりというか冬が始まってるよ?」


もう12月近いのか。

入院が長かったせいで感覚おかしくなってるな、流石に長袖シャツにパーカーだけじゃ薄着すぎたか。

今度お父さんに厚着持ってきてもらおう。

ちなみに奏は黒いコートを羽織っている。

暖かそう...


少し話しながら歩きベンチの所まで来たので座る。


「香太、寒くない?」


「うん、ちょっと薄着すぎたかも。今度お父さんに冬用の服持ってきてもらう。」


「うん、そうした方がいいと思う。そろそろ冬も本格化してくるから」


奏が口を手で覆い両手に息を当てながら言う。


「それにしても今日は凄い寒いよ。今年一番らしい」


11月下旬にしては寒いと思ったがそういう事か。多分10度無いぐらいだろう。



僕が手を擦り合わせて温めていると奏が「あ、そういえば...」と言い鞄を開けた。


奏が鞄から取り出したのは何やらふわふわした物だった。


「マフラー?」


「うん!今日の帰り香太に渡そうと思ってたんだけど、こうして外きたんだし丁度いいかなって思って」


そう言ってマフラーを僕に手渡してくれる。

薄い茶色に焦げ茶色の線が入っているマフラーだ、暖かそう。


「ありがとう奏、わざわざ買ってきてくれて、いつかお礼するよ」


そう言うと奏がちょっと恥ずかしそうにする。


「買ってきたんじゃない。」


「え?」


「そのマフラー、買ってきたんじゃなくて、私が作った。」


「えっと、それは手作りっていうこと?」


「うん...」


なんというか、凄い嬉しい。

奏から手作りのマフラーを貰ってしまった。


「凄いね奏、マフラー作れるんだ。」


「うん、初めて作ってみたんだけど、どう...かな...?」


初めての手作りでこれは凄いんじゃなかろうか。


「マフラーを貰っただけでも嬉しいのに、奏の手作りなんて嬉しくないわけがないよ、大切に使わせてもらうね」


「うん。良かった、喜んでもらえて」


こういう奏も新鮮だ。

少しドキドキしてしまう。

奏の方を見てみると、「えへへ...作ってきて良かった...」と呟いている。


その後も2人でベンチに座りながらしばらく喋っていた。


マフラーのおかげでもう寒くなる事は無かった。

長文難しい...

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