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秋の夕暮れからの記憶  作者: 茶々
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第5話 カウンセリング




今日は初めてカウンセリングという物を受ける日だ。

正直、何を聞かれるか、何を話せば良いのか不安が少しある。

でもなんとか上手くいくだろう。

元々僕は記憶喪失になった割には平常な方なんだ。


車椅子に乗りながらそんな事を考えてるうちにカウンセリングするための部屋に着いた。


ノックをして返事をもらってから部屋に入る。


部屋には椅子から立ち上がった女性がいた、二十代前半ぐらいだろうか、ショートカットの綺麗なお姉さんだ。


「えっと、秋海 香太さんですよね?」


「あ、そうです、今日カウンセリングする事になっている秋海です。宜しくお願いします。」


「私は秋海さんのカウンセリングを担当する土屋 雫(つちやしずく)と申します。」


軽く頭を下げてお互い挨拶をして土屋さんは椅子に座る。

僕も車椅子で対面に移動する。


「早速なんです、記憶喪失になって大変な事や不安に思うことなどありませんか?」


うお、いきなりその事か、いやそれ以外聞くことないよな。


「勉強の内容や基本的な物の使い方などは覚えていますので生活での不安は少ないんですが、やっぱり退院したあとの学校が怖いですね。どういう風に他の人と接していけば良いのか分かりません。」


「ですが割と学校の友達などがお見舞いに来ることは多いですよね?」


その通りだ、竜也はまだ2回ぐらいしか来てないけど、奏はほぼ毎日学校の帰りに寄ってくれる。だけど奏は一応先輩で同学年ではない。だから同じクラスの人とどう付き合っていけば良いのか分からないんだ。


「同じクラスの友達、えっと竜也って言うんですけど、竜也の話では僕はクラスでは凄い静かな方で竜也とぐらいしか話してなかったらしいんですよね。」


だから記憶喪失になった事で周りの人に話しかけられるだろう。そんな時の対処を考えるだけで凄い不安だ。


「要するに、関わりが薄かった人から記憶喪失の事を聞かれたくないって事ですか?」


流石はカウンセラーだ。ちゃんと理解してくれている。


「そうですね。今はその事が1番不安ですね。」


興味本位で記憶喪失の事を色々聞かれるのは気分のいいものじゃない。


「ではいっそのことクラスの皆さんには記憶喪失の事を言わないというのはどうでしょうか。」


そっか、その手があったか。

トラックにはねられ骨折をしたというふうに伝われば興味本位でいじってくることも少ないだろう。


「その竜也さんはもうクラスの人に記憶喪失の事を言ってしまっているのでしょうか?」


「多分、言ってないと思います。」


竜也は僕の嫌がることを今まで全くしていない。

だから言ってはいないと思う。

一応後でメールで確認しておこう。


「では、クラスの人には記憶喪失の事は隠すということにしましょう。その方が多少は気持ち的に楽でしょう。」


そう言われて心のつっかかりが取れた気がした。

退院してからの不安は少し減ったかな。


「他に怖いことなどはありますか?例えば家族や親戚の事など」


「家族との関わり方は正直まだ怖いです。うちの家族は父と僕の2人だけなんですけど、相手は僕の過去を知っているけど、僕は自分の過去も相手の過去も知らない。普段の生活での食い違いなどが起こりそうで怖いです。」


お父さんは3回ほどお見舞いに来てくれて色々話はしたけどやっぱり少しよそよそしくなってしまう。

その壁を取り除きたいけど、僕から距離を詰めるのは怖い。


「あなたのお父さんも距離を掴みきれてない感じですか?私がもしあなたのお父さんの立場なら息子に何を言われようと笑顔で返しますけどね。」


そうなのかな。

お父さんと話す時はどうしてもお父さんが無理して笑ってるように見えてしまう。


「お父さんに無理をさせてるんじゃないかって話す度に思ってしまうんですよね。」


僕が記憶喪失になったせいでお父さんに精神的苦痛を与え続けてるんじゃないか、ずっと不安に思わせてしまってるんじゃないか、そんな考えが消えない。


「秋海さん、あなたは子供です。子供は父親に苦労をかけて当然です。あなたのお父さんはいつまでもあなたのお父さんですよ。時間をかければ普通の家族に戻れるはずです。」


戻れるのかな。本当に。

元々の関係も覚えていない僕が元通りの家族に戻れるのかな。


すると土屋さんがちょっと笑って


「今から話すことはお父さんには内緒にしといてくださいね?」


内緒にしてくれ?

何のことだろう。


「この間あなたのお父さんはカウンセリング担当の私と話したいと言ってきて少しだけ話をしたんです。」


お父さんが僕に言わずに病院に来てたんだ。


「その時、こんなことを言ってましたよ。」



『私は香太と話す時に無理をしています。多分香太も無理して話していることに気づいています。だけど私は父親として家族である香太を全力で支えたいんです。なので香太にカウンセリングをする時家族の事で悩んでいたら言ってあげてください。香太の父親はいつまでも香太の父親だ』


お父さんがそんな事を...

お父さんが無理していることに気付いてるという事にも気付いてたんだ。

それなのに苦労を承知で支えたいんだ。


「あなたのお父さんには私と話した事は内緒にしといてくれって言われてたんですが、やっぱり話した方が良かったですよね?」


「はい、お父さんとどう関わっていけばいいか分かった気がします。お父さんが僕を支えてくれるのなら、僕もお父さんを支えていきます。息子として、そして家族として。」


こうして初めてのカウンセリングが終わりリハビリをしてから病室へ戻る。

そしたらお父さんからメールが届いていた。


『初めてのカウンセリングどうだった?ちゃんと抱えてる不安は言えたか?これからも何度かカウンセリングはあるだろうがちゃんと話すんだぞ、お父さんも仕事の休み作って出来るだけ会いに行くから一緒に頑張ろうな。』


返信を書く。


『ちゃんと不安は言えたよ、カウンセラーの人も凄い話しやすい人で、胸のつっかえが取れた気がする。不安の中にお父さんとの事もあったから話したけど、カウンセラーの人と話してるうちにお父さんとの関わり方は分かった気がしたんだ。だからお父さんも無理せずに気楽に僕と話してね。僕は何があってもお父さんの息子だから』


送信。



--------------------



僕が事故に遭ってからもう何日たっただろうか。

なんだかんだで治療は順調で、杖があれば歩くことも可能なぐらいに回復している。

退院ももうすぐだろう、そしたら学校か。

色々と大変だろうけど、まあなんとかなるだろう。

そう考えていると奏からメールが届いた。


『今日休みだから昼から病院行っても良い?』


そういえば今日は日曜か。


『了解、13時以降なら大丈夫だよ。』


送信。


今日は午前にカウンセリングをする事になっている。

ちなみに今日が最後のカウンセリングらしい。


カウンセラーの人が待っているところへ歩いている途中石川さんとすれ違った。


「おはようございます、石川さん」


「おはようございます、だいぶ回復したようですね。リハビリを見てくれている医師から秋海さんの話をよく聞きいていましたが、頑張っているんですね」


「はい、早く治して父や友達を安心させてあげたいですから」


石川さんは感心した顔をして


「記憶も失くして大変なはずなのに、凄いですね、秋海さん」


「いえ、これも医師の皆さんのおかげです。感謝してもしきれませんよ。」


「その言葉は他の方にも聞かせてあげてください。今日でカウンセリング最後でしたよね?」


「はい、土屋さんにも凄く感謝しています」


土屋さんは僕を担当しているカウンセラーの人だ。

いつも優しく僕の心を傷付けないように話を聞いてくれている。


石川さんとの話が終わり少し歩くと土屋さんのいる部屋へ着いた。

ノックをすると「どうぞ」と声が聞こえてくる。


「失礼します。」


「おはようございます、秋海さん、今日も宜しくお願いします。」


いつも通りの挨拶をして、いつも通りのカウンセリングが始まる。


いくつか質問などをされてそれについて話を聞いてもらい、カウンセリングは終わりだ。


「では秋海さん、これでカウンセリングは全て終わりというわけですが、もう不安等はありませんか?」


「はい、もう大丈夫です。今まで本当にお世話になりました。」


心からの礼を土屋さんにする。


「はい、今までのカウンセリングお疲れ様でした。秋海さんは心の強いお方なので大丈夫だとは思いますが。また何かありましたらいつでも病院の方へいらしてくださいね。」


土屋さんが優しい笑顔で言ってくれる。

やっぱりこの病院の人達は優しい人ばかりだ。

一番不安な時に周りにいる人たちが北城病院の人たちで良かった。

今なら心からそう思える。


僕は立ち上がり一礼をして部屋から退室する。


この後は、そういえば奏が来るんだったな。

奏は毎日のように僕の病室に来てくれるけど、なんでこんなに僕に優しくしてくれるんだろうな。

そう思いつつ食堂へ向かった。




実際にカウンセリングやった事ないでの完全妄想です。

変な点あっても温かい目で見てください...

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