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秋の夕暮れからの記憶  作者: 茶々
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第3話 親友




事故のあと目覚めてから3日が経った。

落ち着いてきたら医師と話すという事になっていたので医師を呼んだ。

昨日と一昨日で、奏やお父さんと話したことでだいぶ心は落ち着いたと思う。


だけどやっぱりこれからの事を考えてしまうと不安が湧いてくる。

心を落ち着かせるために1度深呼吸をしていると医師が病室に入ってきた。


「おはようございます、秋海さん」


笑顔で挨拶をしてくれたのでしっかり挨拶を返す。


「おはようございます。えっとすいません名前を教えて貰っても良いですか?」


名前を知っておかないとこれから呼ぶ時に不便だから一応聞いておいた。


「すいません自己紹介がまだでしたね。私はこの北城病院で務めさせてもらっている石川 健 (いしかわけん)と申します。」


石川さんが丁寧に答えてくれる。

ここの病院は北城病院というのか。


「それで秋海さん、やっぱり記憶の方は完全に無いのでしょうか?」


「そうですね、物の名前などは覚えているのですが、人の名前や家族との思い出でさえも忘れていました。」


「そうですか...さぞお辛いことでしょう。」


少し会話に間が出来てしまったので僕から話を切り出してみる。


「えっと、僕の身体の怪我って結構酷いんですかね?」


「秋海さんのお怪我はこう言ってはなんですが、トラックにはねられたとは思えないぐらい軽い症状です。左腕と右腕に骨折だけで済んでいるのは奇跡とも言えるでしょう。」


確かにそうだ、トラックにはねられたのなら最悪死んでいてもおかしくない。

不幸中の幸いというやつか。


「ですがやはり記憶のこともありますのでしばらくは入院という形になるでしょう。」


「やっぱりそうですよね。」


ということはしばらく家には帰れないのか。

僕がどんな所に住んでいたのか気になるんだけどな。


「とりあえず入院しながらリハビリをしてもらいある程度は生活できるようになれば退院出来るでしょう。」


リハビリ...か。まあそうだよな、頑張って早く歩けるようにならないとな。


「それと秋海さんの場合、記憶も無いとのことで定期的にカウンセリングも受けてもらうことになると思います。」


確かに必要かもな。

正直今でもまだ不安で泣きたくなる時があるしな。


「ですが秋海さんの場合記憶を失ってるとは思えないぐらいの落ち着きが見られますので、カウンセリングの回数はそこまで多くないと思います。」


「僕、そんなに落ち着いて見えますかね?」


「はい、記憶喪失の人を今まで数人見た事ありますが、ここまで落ち着いている人は見た事ありませんね。正直凄いと思います」


そうか、落ち着いてるのか、もしかしたら奏のおかげかもな。


「すいません石川さん、確認したい事があるんですがけど、良いですか?」


「はい、何でも聞いてください」


優しい笑顔で答えてくれた。


「事故の時僕が庇った女性って...」


「はい、凛堂 奏さん、秋海さんが目覚めてすぐに駆けつけてくれた方です。凛堂さんは秋海さんとお友達と言っていましたが以前からのお知り合いで?」


「すいません、覚えてないので分かりませんが、奏も僕のことを全然知らないみたいだったので多分関わりは無かったと思います。」


「でもお友達と言ってましたが...」


「僕が目覚めてからしばらくして奏が僕の病室に強引に入ってきたのは知ってますよね?」


「はい、ほんとに驚きましたよ、まさか受付も通さず病室に来てしまうなんて。」


「その時奏に僕から言ったんですよ。僕と友達になってくださいって」


僕は照れながら奏に友達になってくれと言った時のことを思い出しながら話した。


「なるほど、それであの時はもう友達だったというわけですね」


はははと石川さんが笑う。


「記憶がなかったんでね、1人でも話せる人が欲しかったんですよ。」


「いい事だと思いますよ。凛堂さんと話したあとの秋海さんはいつも楽しそうですから。」


やっぱり僕は奏と話をするのが好きなのかな。

そういえば今日も奏来るって言ってたな、まだかな。


すると病室のドアをノックする音がして病室のドアが開いた。

ナースさんが入ってきて石川さんと何か話している。


「秋海さんのお友達が来てくれたみたいですので今日のお話は終わりにしますね。また今度リハビリの予定などを話に来ますのでその時は宜しくお願いします。」


石川さんが頭を下げてから病室を出ていく。


友達って奏かな、来る時メールするって言ってたけど忘れてたのかな?


すると病室のドアがノックされた。


「どうぞ」


と答えるとドアが開いた。


「ちーっす香太元気?」


そこには見知らぬ男が立っていた。


あれ?

誰だ...?


病室に入ってきた男は僕と同い年ぐらいの爽やかなイケメンだった。

僕が戸惑っていると男は


「どうしたん?香太、誰だお前みたいな顔して」


全くもってその通りなんだが。


僕は戸惑い続ける中、恐る恐る口を開く


「えっと、すいません、どちら様でしょうか...?」


そういうと男は驚いた顔で


「中学の時同じクラスだった藤井だよ!藤井 竜也(ふじいたつや)だよ!!覚えてないのか?」


そこで理解する。

この人は僕が事故に遭ったということは知っているが、記憶を失くしたことは知らないんだろう。


「ごめん、藤井くん。僕事故で記憶喪失なっちゃったんだよね。だから何も覚えてないんだ。」


僕の口から事実を述べる。

藤井くんは何も言えず固まっている。


「マジで、記憶無いのか?」


「うん、ごめん」


何とも言えない気まずい空気になる。

そんな時藤井くんは笑顔になって言い出した。


「俺は藤井 竜也、お前、いや、香太とは中学の時から親友だよ。そして今も親友だ。」


僕は驚いた。

記憶を失って自分の事を何も覚えていない相手なのに今も親友と言ってくれることに。


「でも、僕はもう記憶がなくて藤井くんのことは何も覚えてないんだよ...」


すると藤井くんは


「そんな事関係無いんじゃね?ずっと仲良くしてたんだから、これからも仲良くする。それだけじゃん?」


ははは...こいつ凄いな…

僕に気を遣わせないためにこう言ってくれてるのかも知れないけど、この善意に甘えよう。


「うん、分かった。これからも僕と藤井くんはずっと友達だ!」


そう言うと藤井くんは少し嫌そうな顔になった。


「あのさ香太...その藤井くんってのやめてくんね?なんかむず痒くなってくる。」


頬を掻きながら藤井くんが言っている。

僕は笑って。


「うん、そうだね、竜也!」


「おう!香太!」


こうして僕は竜也ともう1度親友になれた。




--------------------




竜也と少しだべっているとスマホにメールが届いた。

奏からだ。


『今から病院向かうんだけど大丈夫?』


『大丈夫だよ、待ってるね』


と返信。

すると竜也が


「ん?誰かからメール?」


「うん、友達から、今から来るってさ」


「俺居ても大丈夫?」


竜也なりの気遣いだろう。


「どっちでも大丈夫だよ、多分竜也の知らない人だから初対面になっちゃうかもだけど」


多分竜也と奏が知り合いということは無いだろう。


「あーじゃあ俺帰ろっかな、邪魔しちゃうのも悪いし。」


「ん、了解、あ、そうだメアドと番号教えてくれない?」


「あ、そっか前のスマホ壊れたんだっけ。」


と言いながら竜也がカバンからメモ帳とペンを取り出し何かを書いていく。


「これメアドと番号だから後でメール送っといて」


そう言って紙切れが渡される


「了解、今夜にでも送っておくね。」


「おう、よろしく、んじゃまた今度な」


「ん、またねー」


そう言って竜也が病室から出ていく、その数秒後に奏が入れ替わりで病室に入ってきた。


「こんにちは、香太」


「ん、こんにちは」


挨拶を済ませ隣の椅子に座る。


「今、この病室から出てきた人友達?」


竜也のことか。


「うん、友達っていうか親友かな、藤井 竜也って言うんだけど...」


僕が最後まで言う前に病室のドアが鳴った。


返事をする前に勢い良くドアが開き竜也が入ってきた。


「あれ、竜也どうしたの慌てて?」


「いやいやいや、どうしたのはこっちのセリフだよ、なんで凛堂先輩がお前の病室に入っていくんだよ!」


そう言われて僕は奏と顔を見合わす。


「奏、竜也と知り合い?」


「いや、私は知らないけど…」


どういう事だ?

ていうか凛堂先輩って...


「竜也、ちょっと説明求む。」


「あーそうだよな、覚えてないんだから仕方ないよな、今お前の横に座っているその人は俺とお前の通ってた北城高校の3年の先輩で、生徒みんなの憧れの的なんだよ!」



マジですか?


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