第35話 梨の礫
少し短いです
*石田友美視点*
今まで生きてきて、上位に入る衝撃的なことが起こった。
なぜ、友人に呼ばれてきた喫茶店に教え子がいるのか…。
普通はあり得ないだろう、しかも、たまたま居合わせたとかではなく、友人の知り合いでさらに今回呼ばれたことに関係するなんて…。
「え?いや、え?どうしても何も…、え?」
驚きすぎて、動揺してしまい、雫に心配されてしまった。
私が動揺しているのを察してなのか、秋海くんが説明してくれた。
秋海くんもそれなりに驚いてはいたが、冷静に説明してくれた。
親友と教え子と一緒に喫茶店でお茶をするという、少し気まずくなっても仕方のない状況だが、思ったより楽しい時間を過ごせた。
秋海くんの相談にいい答えをできていたかは分からないが…。
「友美、意外としっかり先生してたのね。少し心配していたけど杞憂だったわ」
「そうかなあ…、普段から生徒には甘く見られている気がするし…、もう少し威厳とかあった方がいいと思うんだけど…」
まあ、これでも悪くはないかな、とは最近思っているけども…。
「友美の場合甘く見られてるというよりも、親しまれているっていう方が正しいんじゃないかしら?」
「秋海くんにもそんな感じの事言われたわ…」
「あら?そうなの?なら親しまれてるってことじゃない。不安ばかりのはずの秋海くんが友美となら普通に話せてるのもそういう事じゃない?」
「そうだといいなぁ…。というか、雫って秋海くんが目覚めたばかりの時の事も知ってるんでしょ?どんな感じだったの?」
私は、学校での秋海くんしか知らない。だから少し気になる。
「それを言っていい物なのか分からないけど…一応患者の情報ってことになるし…」
「大丈夫よ!秋海くんは私の友達みたいなものだし!」
「友達って…それ以前に教え子でしょう…」
「まあまあ、それはいいから教えてよ~」
「仕方ないわね…、最初に会ったのは初めてのカウンセリングの時だったけど、私が最初に秋海さんを見たのは、秋海さんが目覚めて二日後か三日後だったかしら…、何というか、顔に不安という文字が浮かんでいる感じだったわね…。でも、記憶を失ってるとは思えないほどに落ち着いてたわね」
「顔に不安が浮かんで見える秋海くんが想像できないわ…。というかやっぱり落ち着いてたのね…」
前から思っていたが、秋海くんは強すぎると思う。なぜ、記憶がない状況で落ち着いていられるのか。私には到底想像できない。
「初めてのカウンセリングの時は驚いたものよ…。カウンセリングの意味はあるのかっていうぐらい落ち着いてるんだもの…」
「はあ…、流石ね。でも今日は珍しく秋海くんの弱いところ見れた気がするわ。少し安心しちゃった」
「安心?」
「うん。だって秋海くんも普通の子供なんだなぁって思えて」
「気持ちはわからなくもないけど、自分の教え子にその感想はどうなのよ…」
雫はそういうけど、仕方もないと思う。だって秋海くんは大人びすぎている。まあそういう面も含めて尊敬してるんだけど…。
「ともかく、秋海くんにはうまくいってほしいものねぇ」
「そうね、大丈夫だとは思うけども、少しは心配よね」
流石の秋海くんでも、今回の件は得意ではなさそうだから、解決には時間が掛かりそうな気がする。
なので、私には私の出来ること、秋海くんが相談してきたら力になってあげることをしよう。
「ともかく、今日は急に来てもらって悪かったわね、助かったわありがとう」
「いえいえ!喫茶店の支払いもしてもらっちゃったし、私も楽しかったから大丈夫よ。次また秋海くんに呼ばれたとかあったら是非呼んで欲しいかなぁ」
「はいはい、逆にそっちが呼ばれても連絡頂戴ね、今日楽しかったから」
「了解!じゃあ、私こっちだからまた今度ね~」
「またね、友美、しっかり先生やりなさいよ」
「そっちこそ、仕事頑張ってね~」
そういって、私たちは逆方向に歩き始めた。
明日は日曜日なので一日ゆっくりできそうだ。
私は明日の予定を考えながら、帰路に就いた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
*秋海香太視点*
家に帰ってきたら、ちょうどご飯が出来たタイミングだった。
「おう、おかえり。今日はどこ行ってたんだ?」
「ただいま、とりあえず手洗ってくるから、ご飯の時話そ」
「そうだな、テーブルに運んどくから、ちゃちゃっと手洗って来いよ」
「うん」
洗面所で手を洗い、椅子に座った。
「「いただきます」」
挨拶をしてから、みそ汁をすする。
するとお父さんがさっそく言葉を投げかけてきた。
「で、今日はどこ行ってたんだ?いつも家出る前に場所言っていくのに、今日はなんも言ってなかったからな」
そっか、気が焦っていたせいか、ちょっと言ってくるとだけ言って家を出たもんな。
少し心配かけてしまっただろうか。
「ちょっとだけ人と会いに喫茶店まで行ってたんだ」
「人?」
「うん、土屋さんだけど知ってるよね?」
カウンセリングの時に、土屋さんが病院にお父さんが来たと言っていた気がする。
「ああ、カウンセリングの土屋さんな。でもまたどうして土屋さん?」
「少し難しい相談があってね、土屋さんならいい相談相手になると思って連絡したんだ」
「相談か…。どんなことだったんだ?ああ、言いたくないなら大丈夫だけど」
「まあ、軽い喧嘩の仲直り方法かな、一人で模索してても何も思いつかなくてね」
「そっか、仲直りはできそうなのか?」
「まあ、大丈夫だと思う。自分の力と相手を信じるしかないかな」
「そっか、まあ頑張れよ。力になれることがありそうだったら言ってくれ、出来る限り力になるからな」
「うん、ありがと」
お父さんは詳細を聞かないでくれた。
僕から話してくれるのを待ってくれているのだろう。お父さんには悪いけど、解決してから話したい気持ちがある。
父親に恋愛ごとの話を挟んだ相談をするのはなぜか気が引ける。僕と同じ男子高校生ならこの気持ちは理解できるだろう。
ご飯を食べ終えて自室にやってきた。
さっそく過ぎるかもしれないが、奏にメッセージを送信しておく。
『急に連絡ごめん。でも奏と話さなきゃいけないと思って。メッセージを見ていることを信じて連絡するね。明日の夕方17時ごろに北城東公園に来てほしい。僕はそこで待ってるから。大切な話だから来てほしい』
当然返信はない。
既読が付くことを願うだけだ。
そう思いながら、僕は風呂に入った。
風呂から上がり、スマホを開く。
「っ!」
既読がついていた。
返信はなかったが、見てはくれたようだ。
安心した。だが見たからといって確実にくるわけではない。
だから後は奏を信じるだけだ。
僕はスマホを傍らに置き、布団をかぶった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
*凛堂奏視点*
「奏ー、早く風呂入っちゃってー」
「うん、ちょっと待って」
最近いつも言われてからじゃないと行動出来なくなってしまっている気がする。
理由は当然香太の事だろう。
私は後悔している。だけど、話す機会が減っていくうちに話しづらくなってしまった。
結果的に避けているようになってしまっているだろう。
ブー
スマホのバイブレーションが鳴った。
誰からのメッセージなのかは予想できる。
最近無視してしまっている香太からのメッセージだろう。
いつも既読を付けないようにしようと思っているのに、返信しようって思い一度メッセージを開いてしまう。
香太からの印象は最悪だろう。
ただ無視しているようになっているのだから。
メッセージを開き香太から届いた内容を見る。
「!?」
内容がいつもと全然違った。
『急に連絡ごめん。でも奏と話さなきゃいけないと思って。メッセージを見ていることを信じて連絡するね。明日の夕方17時ごろに北城東公園に来てほしい。僕はそこで待ってるから。大切な話だから来てほしい』
今回の内容からはとても重要度を感じる。
奏は動揺した。
メッセージをただただ見ているうちに少し時間がたった。
そんな時思考を遮るように部屋のドアがノックされた。
「奏?大丈夫?」
私が明らかにぼーっとしているからだろう。
母親が心配の声を掛けてきた。
「ごめん、大丈夫。それで何か用事?」
「いや、もう結構な時間だから風呂入っちゃいなって言いに来ただけだけど…」
「あ、ごめん!さっきも言ってたよね、今から準備して入っちゃうね」
「うん…。大丈夫?何かあったらちゃんと言うのよ?」
「うん、ありがとう。まだ、大丈夫だから…」
「そう、分かったわ。じゃあ私もう寝るから、保温止めておいてね」
「うん、おやすみ」
母親が部屋から出ていく。
「はぁ…」
ため息が出てしまう。
最近は自分の事が嫌いになりそうだ。
「お風呂入ろう」
私は着替えをもってお風呂場に向かった。
明日の事を考えながら…。
次回で最終回になる予定です。
番外編や後日談なども書く予定ではありますが…。
タイトルは、連絡に対して返信がないことなどを表すことわざです。
タイトルが思い付かなかったのでことわざの力を借りました。
それっぽくなるのがすごいですよね。
次回の投稿予定日は未定です。
恐らく長く書くので遅くなるというのと、今月来月と結構忙しいからです。
気長にお待ちください。
ではでは、最終話でお会いしましょう。




