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秋の夕暮れからの記憶  作者: 茶々
33/36

第32話 失念していた言葉

遅れてすみません。

 *来栖綾芽視点*

 ※時間軸が少し戻ります。

 

 『えーと、二年A組の秋海香太です。

今日は、全生徒に伝えなければいけないことがあり、先生方の許可を貰い、放送させてもらっています』


 香太の放送が始まった。

そろそろ奏が騒ぎ出すだろう。

まずそれを止めるのが私の仕事だ。


 教室がざわめきだし、奏は私の横でぽかんとしている。

まだ、香太は放送の理由を話していないからぽかんとしているだけだが、すぐに騒ぎ出すだろう。


『――――皆さんは、凛堂奏という人をご存知でしょうか――

――――――――――放送を聞き流してしまっても構いません』


「え…………」


 横から小さな声が漏れる。

奏が漏らした声だ。

相当驚いているようだ、声が出なくなってしまっている。


「さて、本題に入ります。

凛堂奏先輩を――――

――――――日々生活しているという事を」


 香太が核心に迫ることを言った。

奏は、少し理解したようだ。

香太が何をしようとしているのか。


「綾芽、知ってた?」


 知ってた?というのはこの放送の事だろう。


「うん、知ってた」


「そっか、綾芽には相談してたんだ。

私には何も言ってなかったのに…」


 奏が俯いている。

思ったよりも、取り乱してはいないようだ。

取り乱してはいないが、私にはわかる。奏は怒っている。

というより悲しんでいる…か。


 香太の放送は続いていく。

放送が進んでいくうちに、奏の表情は暗いものに変わっていく。


「私、香太と一緒に、改善策考えてたのに…。

香太はいつも一人で何でもやっちゃう…。

言ってくれればいいのに…」


 奏は一人でぶつぶつ言っている。


「でも、奏は香太から、この改善策を相談されたら止めてたでしょ?」


「それは…だってこんなことしたら香太が…」


「香太はそうならないためにもいろいろ準備してる。

このために教頭先生と一対一で話したりもしてたんだよ?」


「え…、で、でも、だからって、香太の立場が危ういことには変わりないよ…!」


「それは、この放送を最後まで聞いてから決めようよ」


「…………分かった…」


「私は少しやることがあるから席を外すね」


「やることって…………いや、うん、わかった」


「ごめんね、奏」


 私はそういって、別の教室に向かった。

私は一度危うい立場になりかけたが、今では全然普通だ。

だから、別教室の友達だっている。

その人たちに、香太の意見に賛同してもらえるようにしよう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ひとまず、大体のクラスを回って香太の意見に賛同しやすいように誘導をしてきた。

自分のクラスはしていないが、奏と同じクラスだし問題ないだろう。

少し二年の教室をのぞきに行ったが、凄いことになっていた。

いろんな教室から叫び声が聞こえるのだ。

藤井君は何をしたんだろう…。


 ともかく教室に戻って奏の様子を見よう。

そう思って私は教室へ入った。

慣れた足取りで自分の席に戻ろうとしたが、ある事に気が付き、足を止める。


「あれ?奏は?」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 *凛堂奏視点*

 ※時間軸が少し戻ります

 


 私は香太の放送を聞いていた。

 ただただ聞いていた。

 心に湧き上がる気持ちに耐えながら。

 

 綾芽が教室から出て行った。

やることがあるらしい。

聞きたいこともまだあるから引き留めようと思ったが、やめた。

今、綾芽と話しても、何もいいことはないだろう。


 ふと思う。

なんで香太は今放送をしているのか?と。

香太と一緒に改善策を考えることは何度もあった。

だがまだ一個も策は浮かんでなかったはずだ。

なのになぜ?

いや、それはわかっている。

さっき綾芽も言っていた、こんな策を私に言ったら間違いなく止めると。

だから私には隠し続けていた、と。

だけど、だけど…。

なんなんだろうこの気持ち。

私は怒ってるのかな…。

それとも…、悲しいのかな…。


 私が席に座って呆然としていると、誰かが話しかけてきた。


「凛堂さん…。この放送って、凛堂さんの事について話してるんだよね…?」


「そう…だね…」


「その、なんて言ったら分からないんだけど…本当にごめんなさい!私、凛堂さんの気持ちを考えてなかった…。普通に考えれば、同級生から敬われるのなんて嫌に決まってるのに…」


 初めて、謝ってもらえた。


「ううん…。大丈夫、気にしてないよ。それよりも、普通に友達としてこれから関わってほしい…かな」


 複雑な心境の中、精いっぱいの笑顔で、気持ちを伝えた。


「う、うん!ありがとう!」


 相手も笑顔を浮かべてくれた。

えっと…この人は確か…。


「改めてこれからもよろしくね、近藤さん」


「え…、うん!よろしく!」


 近藤さんが、他の子たちの方へ向かっていく。

そこでは、みんなに笑顔が浮かんでいた。


 凄いな…、香太は…。

ほんとに解決しちゃいそうだよ。


 だけど、なんでだろう。

香太が私に何も相談せずに、こんなことをしていたという事実に、心がもやもやする…。

香太は私を思ってやってくれたはずなのに。

こんな気持ちになるのは、我儘すぎる。


 それなのに…なんで、私の足は、放送室に向かっているんだろう…………。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 *秋海香太視点*



 放送が終了し、少しずつ心が落ち着いていく。

何だかんだで気を張りっぱなしだったからなぁ…。


 この後どうするか…。

教室に戻るのもなんかあれだし、放送室まだ残っててもいいのかな?


「あの、昼休み終了近くまで、ここいていいですか?」


「いいんじゃないかしら?特に誰が使う訳でもないだろうし。大丈夫ですよね?」


 ともちゃん先生が、教頭先生に問いかける。


「ああ、問題ないよ、秋海くんもいきなり教室戻るのは、気まずいだろうしね」


 良かった…、流石に今の状況で、教室にはいきたくない。


「ありがとうございます」


 まだ居てもいいとのことなので、ともちゃん先生と雑談しながら時がたつのを待つ。

とは言っても話すことはないんだが…。


 そう思っていたら、驚くことにともちゃん先生から話しかけてきた。


「あのさ、秋海くん…、一つ聞いてもいい?」


「いいですよ」


「秋海くんは、凛堂さんのこと好きなの…?」


 横に教頭先生が居るにも関わらず、そんな質問を投げかけてくる。

気になったので、教頭先生の方を見てみたら、興味深そうにこちらを見ていた。

まじかよ…、人生で担任と教頭先生と恋バナをすることになるとは…。


「えっと、はい、自覚したのは最近ですが、好き、ですね」


 僕がそう答えると、ともちゃん先生は、はわわ~といった具合できょどっている。

やはり脳内お花畑か。

 対照的に教頭先生は、ほう、と言い顎に手を当てている。

この反応はこの反応で恥ずかしくなってくるなぁ。


「でも、まだ付き合ってないんでしょ?」


「そう、ですね。ベタですがクリスマスに告白しようとは思っていますが」


「は~…、青春してるわね~」


「そうですかねぇ…」


 少しの間こういった感じで会話していた。

気持ちが落ち着いてきていたからだろうか、来栖さんからのメッセージに気づかなかったのは。

後になって思うと、あの時メッセージに気づけていれば、少しはいい方向に進んでいたかもしれない。


 放送室のドアがノックされた。

僕と、ともちゃん先生が話していたからか、教頭先生がドアを開けてくれた。

 するとそこには、いつもとは少し雰囲気の違う奏がいた。

僕は息をのんだ。

奏の表情を見て、何も言えなくなってしまったからだ。

 僕が黙っていると、教頭先生が最初に口を開いた。

 

「どうやら私たちはお邪魔なようだね、石田君、職員室に戻ろうか」


「えっ!は、はい、分りました」


 そういって教頭先生と、ともちゃん先生は放送室から出ていく。

ともちゃん先生は出ていく前に心配そうな顔でこちらを見ていたが…。


 がちゃん、と放送室のドアが閉まる。

室内に静寂が訪れる。空気がきつくなった僕は、ゆっくり口を開けた。

 

「え、と、奏どうかした?」


「……………」


 奏は口を開けずにこちらを見つめている。


「奏…?」


 明らかに様子の可笑しい奏に再度声を掛ける。

僕の中に不安の渦が巻き起こる。

もしかしたら、策は大失敗していて、奏に凄く嫌な思いをさせてしまったのかもしれない、と思い。

そうだとしたら今の奏の様子にも納得がいく。


「なんで…?」


「え……?」


 奏が小さな声で疑問の声を漏らした。

この状況で疑問が来る理由が分からない。


「なんで、何も言わなかったの…?」


 そこまで言われてやっと理解した。

奏は、僕が何も言わなかったことに怒っているんだと。


「それは、だって「止められると思ったから?」え…?」


 僕が言おうとしたことをそのまま言われてしまった。


「綾芽から聞いたの、私に言ったら絶対止めるだろうから内緒にしてたって」


「そう、だね。止められると思ったから言わなかった」


「確かに私は止めると思う。だけど、私にも言ってくれれば香太だけが苦労することはなかった。なんで、全部一人でやっちゃうの…?なんで一人で危ないことするの…?なんで、なんで相談の一つもしてくれないの…………」


「…………」


 奏の言葉はどんどん弱くなっていく。

そんな奏に僕は何も言えずに俯いてしまった。

言葉が思い浮かばないからだ。


「そっか…何も言ってくれないんだ…」


「…………」


 まだ僕は俯いている。

 

「あの時香太は言ってくれたよね。『奏は今まで1人で戦っていたよね?でも今は、僕もいるよ』って。なのに、どうして香太が一人で戦っちゃうの…?見てるだけの私の事も考えてよ…。一緒に頑張ろうよ…」


 奏は涙を流す。

あの日、奏と改善策を考えようと話した日。

確かに僕は言っていた、『一緒に頑張ろう』と。

どうして忘れていたんだろう。

こんなの一緒に頑張ってないじゃないか。

全部僕じゃないか、奏は何もできてないじゃないか。

奏の立場を考えてみる。

一緒に頑張ろうと言われた矢先に、相手が一人で、しかも危険な策を実行してしまう。

もし、奏が僕に何も言わずに放送をしていたら?言ったら止められるから言わなかった、と言われたら?

怒りではなく、悲しみが強いだろう。

 僕は、何をしてるんだ。

放送では偉そうに、奏の意思も考えろって言ってたくせに、一番考えられてないのは僕じゃないか。

こんなの、最低だ。


 僕は、口を開く。

 

「ごめん」


 こんな謝罪意味がないだろう。

そんなので許される程度ことをしたのではないのだから。

だけど謝った、そうしなければ、僕の気は収まらない(・・・・・・・・)から。


「そっか、うん、そうだよね。謝るよね。そうだよね。香太はそういう人だもんね。だけど、その“ごめん”は自分のためのごめんだよね?」


「……っ!」


 僕は顔を上げて、動揺してしまった。

顔を上げて見た奏の顔は今までに見たことのない顔だった。

怒っているような、それなのに涙を流し悲しそうにもしている。

 僕はそんな奏を見て、心臓が締め付けられるような錯覚をした。


「図星、だったんだね…」


「…………」


「私ね、少し悔しかったんだ」


「え?」


 悔しい…?

 

「私が頑張っても解決できなかったことを、香太は簡単に解決しちゃった。私の扱いが普通になりそうなのは嬉しいよ。だけど、私は何もしていない。香太が一人で簡単に解決しちゃった。凄いって思った。でもそれ以上に悔しかった。これは私のワガママだと思う。だけどね、そう思うぐらい悲しかったの。香太が一人で全部やっちゃって」


 僕は心のどこかで安堵してしまった、改善策は成功だろうという事に。

だけど、その安堵した表情がダメだったのだろう。


「なんで…?なんでそんな顔するの?私は…!香太が心配だったの!放送が流れてる最中、ずっと思ってた。もしかしたら香太は今後の学校生活で苦痛を強いられるかもしれないって。それなのに、どうしてそんな安心した顔するの…!?」


「それは…、奏はこれで普通に過ごせるから…」


「なにそれ…」


 奏は一層悲しい表情になる。


「だって、これで奏は笑顔になれる。いつも僕に見せてくれていたような笑顔を、学校でもできるようになる…」


「………もう、やめて…、笑顔になんて…なれないよ…」


 奏は、僕を恐れたような眼で見る。

なんで、そんな眼で見られるんだ…。


「なんで、笑顔になれないの…?僕は、奏に笑顔になってもらいたくて…」


「もうやめてっっっ!!少しぐらい…………、少しぐらい自分の事も考えてよっっ!」


 奏に怒鳴られ、僕は委縮してしまった。

こんなに感情的になっている奏を見たことはなかった。

しかも、感情的にさせたのは僕だ。

 どうして、こうなった……。

 

「じゃあね、香太……」


 そういって奏は放送室から出ていった。

出る直前に僕の顔を見ていたが、僕は目を合わせることが出来なかった。


 がちゃん、とドアが閉まり再度静寂が訪れる。

放送室には僕が一人残された。

 床に膝をつく。

 

 しばらくの間、僕は放送室の中一人で、何も出来ないでいた。

またまた遅れてしまいました。

本当に申し訳ない…。

ひと月以上は開けられないと思い頑張って書きました。

その割には自分的に納得いってませんが。


奏に放送室まで来させるか、奏と香太に喧嘩をさせるか、ずっと悩み続けていましたが、結局こうしました。

プロットもなしで書いているので、自分でも今後どうなるか想像もできません。

自分でもこの物語を楽しみに書いていこうと思います。

読んでくださる方も楽しんでいただければ幸いです。


次回の投稿は未定ですが、一か月以内には投稿したいと思っています。

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