第31話 改善策実行:後編
約一か月ぶりの投稿になります…。
遅れすぎてすいません。
書けなかった理由はあとがきで…。
「えーと、二年A組の秋海香太です。
今日は、全生徒に伝えなければいけないことがあり、先生方の許可を貰い、放送させてもらっています」
僕は放送室のマイクに向かって話し始める。
マイクを通して話しているからか、全校に自分の声が響いているという実感がなく、不思議と心は落ち着いている。
僕はさらに言葉を続けた。
「突然の放送で驚かせてしまって申し訳ありません。
ですが、皆さんにも関わる大事な話なので、しっかりと聞いてくださればありがたいです」
今頃、学校中がざわついてるんだろうなぁ…。
本当…、凄い事しでかしちゃったよ…。
「まず、前提として一つ聞いておかなければならない事があります。
皆さんは、凛堂奏という人をご存知でしょうか。
この北城高校の三年の生徒です。
1年生の方々は知らない方もいるかもしれません。
知らない方々は、今回の放送を聞き流してしまっても構いません」
奏を知らない人は、聞くだけ無駄だろう。
「さて、本題に入ります。
凛堂奏先輩を知っている方々なら、あの人の周りを取り巻く環境もご存じなのではないでしょうか。
周囲の人達が凛堂奏を特別視し、同い年であっても、敬意をもって接せられる、そんな環境の中、日々生活しているという事を」
「今、皆さんは、『そうするべきだからそうしているだけだ』や『良いと思ってやっている』と思ったでしょう。
そう思った方々に聞きます。
どういう経緯で、凛堂奏を特別視するようになったんですか?
『先輩から話を聞かされたから』『周りの雰囲気に流されて』とか、そんな理由ではないでしょうか。
私は、その理由の中に凛堂奏の意思が入っていないように思います」
僕の予想で全てを語っているから、見当違いだったら終わりだ。
今、生徒たちの反応はどうなのだろうか。
僕にとって一番良いのは、様々な人たちが図星を突かれ、周りの友達などと意見を言い合っていてくれているのが最良だ。
逆に最悪なのは、何もかも見当違いで、こいつは何を言っているんだ?となっていることだ。
そうなっては、正直積みだ。
この策は大失敗と言えるだろう。
だが、生徒の反応が気になるからと言って、放送を止めることは許されない。
僕は現在、生徒達の反応を見る手段はないのだから。
だから僕は、用意してある台本を読むことしかできない。
「そろそろ、こういった疑問を抱く方々が出てくるのではないでしょうか。
『急に放送で偉そうに言って、お前は凛堂先輩の何を知っているんだ』と。
そういう方々に言います。
確かに私は凛堂奏の事をあまり知らないのかもしれない。
だけど、知る努力はしました。
そこが決定的に皆さんと違う点です。
そして私は知ることが出来ました。
凛堂奏が今の状況を嫌っているという事を。
凛堂奏は私に言ってくれました、『嫌だ』と。
今にも泣きそうな声、泣きそうな表情で話してくれました。
それを聞いた私はすぐに、このような放送をすることを思いつきました。
そして実際に今、放送をしています。
今の話を聞いて尚、『お前如きが何を言っているんだ』と思うなら、思っていてください。
ですが、私の今の話を聞いて、『この人は本気なんだ』と思ったのなら、この後の私の話にも耳を傾けて下さい」
今の発言は一種の賭けに見えるが、そんなことはない。
僕は何のために、竜也と来栖さんに協力を仰いだのか。
『生徒達が僕の意見に同意しやすいようにしてもらうため』だ。
先ほどの発言をした後、おそらく教室は静まり返っていただろう。
そんな中、一定以上に人望のある人が意見を言ったとしたら?
みんなその意見に乗っかるのではないだろうか。
だからこれは賭けではない。
完全な作戦だ。
策がうまくいっていることを信じて、言葉を紡ごうとしたが、続ける前に、一度後ろを振り向いた。
ともちゃん先生と教頭先生の反応を見るためだ。
確かに台本は問題なかったと思う。
だけど、どうしても不安は残っていた。
なので僕は、第三者の反応を確かめた。
後ろを振り向いた僕に、教頭先生は、深く頷いてくれた。
分かりにくいが問題ないという事だろう。
ともちゃん先生はというと、僕が目線を合わせると、何とも言えない視線で見てきていた。
これは問題ないってことなのかな?
目を合わせながら首を傾げて、ともちゃん先生の反応を確かめる。
首を傾げた途端、壊れた機械が動き出したかのように、カクカクと首を縦に振ってくれた。
これは問題なしという事で間違いないだろう。
第三者の反応を確かめたところで、僕は言葉を紡ぐ。
「私の話を聞く気になったくれた方は、どれぐらいいるでしょうか。
多かったらうれしいです」
「さて、私は先ほど、凛堂奏の意思を考えていないと言いました。
そして、凛堂奏の意思というのが『みんなに普通に接してほしい』というものです。
その意思を聞こうともせずに、ずっと『あの人は特別』という風に扱い続ける。
それでいいんですか?
逆に考えてください、自分がそういう風に扱われていることを。
良い気持ちがしますか?
しないでしょう?
そういう事ですよ。
皆さんは自分のやられて嫌なことを人にやっているんですよ。
気付かぬうちに、ね。
そんなの、嫌ですよね?」
生徒たちが、お互いの意見を交わす時間を作るために、少し間を開ける。
基本的なことを憶測で言っているので、実際はそんな時間いらないのかもしれないが…。
心の中では、頼むからうまくいっててくれとしか思えない…。
さて、そろそろいいかな。
「今、嫌だと思った方は考えを改めてください。
凛堂奏と同級生の方々は、普通の友達として。
凛堂奏の後輩、つまり二年生と一年生の方々は、普通の先輩として。
凛堂奏は、普通を求めています。
今のような境遇ではなく、皆さんのような普通の境遇を求めています。
なので、急にとは言いませんが、出来るだけ早く、変えていきましょう。
そして目標は、凛堂先輩含むすべての先輩方に、笑顔で『この学校に居てよかった』と思って卒業してもらう事です。
この目標のためには、皆様の協力は必須です。
なので、私の言葉を聴いてくれた皆さん、ぜひ協力を…お願いします!」
そういって僕は見えもしないのに深々とお辞儀をした。
こうしなければ気持ちが伝わりきらない気がしたから………。
少しの間お辞儀をして、放送を止めた。
「お疲れ様、秋海くん」
「はい…本当に疲れました…、主に精神的に…」
僕は軽く深呼吸をして、横に置いてあったお茶をごくりと飲む。
5分程度だったが声を張り、しゃべり続けるのは意外と喉に来る。
よく噛まずに読めたものだ。
我ながら凄い。
「お疲れ様、秋海君」
教頭先生が立ち上がり僕の方へ歩いてくる。
「私の思った通りだったよ。
いや、むしろ予想以上かな。
君は人の心に残る演説というものが得意なのかもしれないな。
きっと生徒達は意識を変えることだろう」
「そうですかね……そうだといいですが…」
「大丈夫だと思うわよ、今の放送を聞いて何とも思わない人はまずいないでしょうしね」
先生二人がここまで言ってくれるならきっと大丈夫なんだろう。
というかそう思っていないと怖すぎる…。
竜也と来栖さんは大丈夫だったかな…。
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*藤井竜也視点*
※時間軸が少し戻ります
ざわざわと教室内が騒がしくなっている。
理由は香太の放送が始まったからだ。
騒がしくなる気持ちはわかるけどな…。
急にクラスメイトが放送でしゃべりだしてるんだからな。
「な、なあ、これどういうことだ?」
横から明らかに困惑している顔の田村が話しかけてきた。
田村の傍らには、田村の友達の佐藤がいる。
「まぁ、聞いてりゃ分かるよ」
「………そうか」
少し時間が経ち、香太の話が続く。
驚いたことに、クラスの人達は真剣に話を聞いていた。
『今、皆さんは、『そうするべきだからそうしているだけだ』や『良いと思ってやっている』と思ったでしょう。
そう思った方々に聞きます。
どういう経緯で、凛堂奏を特別視するようになったんですか?
『先輩から話を聞かされたから』『周りの雰囲気に流されて』とか、そんな理由ではないでしょうか。
私が思うに、その理由の中には凛堂奏の意思が入っていないのではないでしょうか』
クラスがざわつく。
女子たちは、完全に図星を突かれているようだ。
ひそひそと友達同士で話している。
香太の目論見通りに進んでるな。
「あのさ、竜也。
俺、前から思っていたことがあるんだよ。
なんで凛堂先輩を特別視してしまうんだろうって…」
「おう、俺も元々そんな感じだったからわかる」
「だけど、秋海の言う通り雰囲気に流されて、特別視したまま今まで来ちゃったんだよなぁ。
凛堂先輩の事なんて二の次にして…」
「俺もそうだったよ…凛堂先輩と話すようになるまでは」
「今は…違うのか?」
「そうだな、話して分かったよ。
あの人だって、普通の人なんだって。
特別視する必要なんてないただの女の子なんだってな。
面白ければ笑う、恥ずかしければ照れる…、知ってるか?凛堂先輩の笑顔めっちゃ可愛いんだぜ?」
俺は最初病室で凛堂先輩と話した時、初めて凛堂先輩の笑った顔を見た。
香太をからかい、いたずらぽっく笑い、楽しそうにしていた凛堂先輩を。
俺はその時初めて、凛堂奏という人を知ったのかもしれない。
病院の帰り道、少し凛堂先輩と話す機会があった。
あの時凛堂先輩はこっそりメールを送っていた、おそらく相手は香太だったのだろう。
凛堂先輩がメールの返信を見て頬を赤らめていた。
その時思った、凛堂先輩は特別な存在ではない。
ただ一人の女の子なのだと、だからメール事をからかってやった。
からかった途端顔真っ赤にして否定するんだから、本当に見てて面白かった。
「それは、素直に見てみたいな…」
「だろ?でもこのままじゃ見れないぜ?」
そんな時放送の続きが流れた。
『そろそろ、こういった疑問を抱く方々が出てくるのではないでしょうか―――。
―――――ですが、私の今の話を聞いて、『この人は本気なんだ』と思ったのなら、この後の私の話にも耳を傾けて下さい』
多分、いや、確実に…、ここがみんなの意見を香太側に動かすチャンスだろう。
香太の放送に加え、さっきまでの俺と田村の会話もある。
クラスが静かだったこともあり、俺たちの会話は全体に筒抜けだったのだ。
今ならいける、そう思い俺は、声を大にしてしゃべった。
「クラスの全員に聞く、今の放送どう思った?」
俺がそういった途端、全員が一度黙り込んだ。
俺は追い打ちをかける。
「みんなは自分の意思で特別視していたのか?
今一度考えてみようぜ、凛堂先輩の気持ちを」
「自分の意思じゃない…」
誰かは分からない、だけど誰かが声を発した。
そう、今はその一歩が大事だ。
「俺も違った…と思う。
特別視してた立場だから何も言えないけど…」
田村が言う。
「秋海くんの話を聞いた後だから言えるってのが少し悔しいけど…、秋海くんの言う通り。
私、ううん、私たちは知る努力すらしなかった。
聞いた話と場の雰囲気だけで凛堂先輩を特別視してた…」
香太に質問攻めしていた一人の女子生徒が言う。
さらに何人もの生徒が意見を変えていく。
ついにはクラス全体が一つの意思にまとまっていく。
そして香太の最後の一言で完全に意見が同じになった。
『今、嫌だと思った方は考えを改めてください―――。
――――目標は、凛堂先輩含むすべての先輩方に、笑顔で『この学校に居てよかった』と思って卒業してもらう事です――』
「秋海香太に協力する気のあるやつ声を上げろ!」
「「「笑顔で卒業してもらいたい………!」」」
クラスの女子達が言う。
「「「凛堂先輩の笑顔を見るまでは三年になれねえ!」」」
クラスの男子達が言う。
「ふぅ…何とかなったかな…」
そう呟いて俺は教室を出ようとする。
「どこ行くんだ?」
「別のクラスも協力してもらわないと意味ないからな。
協力を仰ぎに行く」
「おいおい、何一人で協力の第一歩やろうとしてるんだよ…」
「俺らも行くよな?」
「「おう!」」
佐藤の発言からクラス全員のやる気スイッチが付く。
まあ、手伝ってもらわない選択肢はないんだが…。
「よし!ほかの教室に知り合いがいる奴はそこに行け!
いない奴は俺についてこい!」
もはやリーダーかのように発言する。
だけどみんなのスイッチが入っているおかげで否定の声は出てこない。
そのまま思い思いにいろんな教室に行く。
協力を仰ぎに…。
俺は香太の想像を超える成果を出しただろう。
なんたって二年、果ては一年までも香太の意見に賛同させたのだから。
さすがに三年の教室まで行く勇気のあるの奴はいなかったけど…。
三年は来栖さんに任せよう。
昼休みが終わり、授業開始直前になり香太が帰ってくるまで騒動は続いた。
香太は教室に帰ってきたとき、何とも言えない顔になっていた。
とにかく俺はやり切ったよな。
お疲れ様、俺。
まず最初に、遅れてしまって申し訳ありません。
少ないですがブックマーク登録してくださっている方がいるというのに…。
理由というか言い訳なんですが…、理由はこの通りです。
まずは、書く暇はあったけど、その暇を別の趣味に費やしてしまっていました。
更に言うと、毎週土曜あたりに書いてたんですが、30分で200文字しか書けないという驚異の記録を連発してました。
物語を読みまくってす創作意欲を出したらやっと書けました。
今後も突然創作意欲が消え去ることがあるかもしれないので、一か月ぐらい休むこともあるかもです…。
ですが、何があってもこの話は完結させるので、だらだら待っててくれたら嬉しいです。
次回の更新予定は6/17です。
はい、予定です。
信じるだけ無駄な予定です。
頑張って書きます。
プロット作ってから書き始めればよかった…。
※タイトルを中編から後編に変えました。




