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秋の夕暮れからの記憶  作者: 茶々
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第2話 再開、そして優しさ


奏と友達になった次の日の午前僕の父親だという人が尋ねてきた。

医師から僕の怪我の状態などは聞いていたようだが実際に目にするまで信じられなかったようで、僕を見ると泣いていた。

僕は声もかけられずただ泣き止むまで待っていた。


10分ほど経ち父親がやっと話しかけてきた。


「ほんとに、何も覚えてないのか。」


「ごめん、何も覚えてないんだ。」


「そんな...」


記憶喪失という事実に絶望を感じているお父さんを前にしてもやっぱり何も言えない。

だから家の事とか色々聞くことにした。


「ねえ、お父さん、僕って家ではどんな感じだったの?」


できるだけ普通を装って話しかける。

それを理解したのかお父さんも普通に話してくれる。


「家での香太はね、結構静かで活発的ではなかったけど、何も言わなくても手伝いとかをしてくれるいい子だったよ...」


「そう、なんだ...」


「高校に入ってからは学校で友達が全然できないって言って家でゲームと勉強ばかりやってたけど、お父さんとは普通に話してくれて一緒に笑ってくれて...仲が悪いとかは無かったからこれからも普通に話しかけてね。」


「うん...いきなりは難しいけど少しずつ普通に戻せるように頑張るから、何かあったら教えてね。」


お父さんのためにもしっかりしないとって思っているとお父さんが「じゃあ...」と言葉を紡ぎ始めた。


「お母さんの事も覚えてないんだよね...」


お父さんが病室に来てから疑問に思ってたことを言ってくれるのかと思い、話を聞く。


「そういえばお母さんは今日は来れなかったの?」


お母さんのことを聞くとお父さんは悲しい顔をする。


「お母さんはね、香太が6歳の時に事故で亡くなってるんだ。」


僕はお父さんの言葉を聞いてもしばらくは理解が出来ず無言だった。

お母さんがいない?

事故で亡くなってる?

そのお母さんの記憶を僕は完全になくしたのか?

もう思い出せないのか?

お母さんとの思い出はもう作れないってことか…


僕は何も言えずしばらく泣いていた。



泣き続けている僕にお父さんは声をかけてくれた。


「記憶を失くしたばかりなのにこんな事言ってごめんな。でもやっぱり言っておかなきゃ行けないと思ったんだ。」


僕はまだ何も言えない。


「お父さんはね、香太が事故に遭ったって聞いた時はまた家族を亡くすのかって思ってすぐに病院に走ったよ。」


「だけど香太は生きていてくれた。意識は無かったけど生きていてくれた、お父さんと家族で居てくれた。そして今日こうして話せてる。」


「だからこれからもずっと家族でいるためにはちゃんと言わないといけないと思ったんだ、本当の事を。だから許してくれ。」


僕はやっと言葉が見つかった。


「そう...だね。記憶を無くしてもお父さんは家族なんだ。その家族の間でお母さんの死の事を隠すなんてありえないもんね。」


僕はまだ泣いている。

涙が止まるわけがない。

記憶を失い、母が死んでいたことを知り、そんな事実に心が追いつくわけがない。


だけど泣いてばかりはいられない。

これを伝えるお父さんも辛いはずなんだ。

たったひとりの家族の記憶がなくなり、悲しい事実を自分の口から話さなきゃならない。

お父さんも同じぐらい辛いはずなんだ。

だから僕は涙を拭ってお父さんに言った。


「言ってくれてありがとう。今後も悲しい事が何度もあるかもしれないけどお父さんの前では泣かない。だからお父さんも僕の前では泣かないで一緒に頑張っていこう。」


これを聞いたお父さんは泣きながら


「香太は強いな...お父さんよりも辛いはずなのに。ありがとうな。」


そう言ってお父さんは涙を拭いた。



午後になってお父さんは仕事にいくといい帰っていった。

お父さんの前ではあんな事言ったけど正直まだ泣きたい気持ちでいっぱいだ。

だけど頑張ると決めたんだ。

とりあえず今は気持ちを落ち着かせよう。

そう思い布団を被った。



--------------------



トンッと何かを置いた音が聞こえた。

目を開けると日の光が眩しく1度、目を瞑ってしまった。

少しずつ目を慣らしていき、音の鳴った方を向くと女性が座っていた。


「奏?」


「あ、起こしちゃったかな?ごめんね」


横には奏が座っていた。

僕は起き上がり奏の方を見て


「来たんなら起こしてくれればよかったのに...」


と、ちょっとムスッとした表情で言った。

すると、


「ごめんごめん、気持ちよさそうに寝てたから起こしちゃ悪いかなって思ってね」


あははと笑いながら言ってくる。

そんなぐっすり寝てたのか僕。


「いつごろから来てたの?」


「んー、30分前ぐらいかな、りんご剥きながら待ってたからすぐだったよー」


横の机を見ると皿にりんごが乗せて置いてあった。

さっきの音はこれを置いた音か。


「りんご剥いてくれたんだ、ありがと」


「うん、食べて食べてー」


りんごを1つ摘んで口に入れる。

うんおいしい。

りんごを食べていると奏が俯きながら口を開けた。


「それで...目元赤いけど何かあった?...あっ!答えたくないなら別に大丈夫だよ!」


あーそっか、お父さんと話してる時すごい泣いちゃったもんな。

そりゃ赤くなるわ。


「まぁちょっとね、今日の午前お父さんが来てて色々話を聞いて泣いちゃったんだ」


はははと笑いながら言う。


「そ、っか…お父さんと...。記憶失くしたってなると色々ありそうだもんね。ごめんね変なこと聞いちゃって」


「んん、大丈夫、むしろ1人で抱えこんじゃってたから聞いてくれた方がありがたいかも、ちょっと話聞いてもらっていい?」


奏が頷いてから今日お父さんに聞いた話をした。

お母さんが事故で亡くなっていたことや、お父さんに言われたことを全部。


話終わったあとに奏が泣いていることに気づいた。


「あっごめん!重い話しちゃって。」


「んん、香太が話してくれて良かった。こんな事を1人で抱え込んでたらきっと苦しいままだもん。」


涙を拭きながら奏が言ってくれる。

正直嬉しかった、まだ会って間もないのにこんなに親身になって考えてくれて。


「あれ?香太なんで泣いてるの?大丈夫?」


え?僕泣いてる?

手で目を拭くと確かに泣いていた。

はは...お父さんの前では泣かないとか言った矢先にこれかよ...情けないな...


涙を完全に拭き取ってから


「ごめん、もう大丈夫、なんか急に涙出てきちゃって、ははは、何だろうね。」


僕が無理に笑っていると、奏は心配そうな顔で僕の顔を覗き込んできた。


「ねえ香太。私の目を見て(・・・・・・)。」


奏が僕の両頬に手を当て、目を見ながらそう言ってくる。


「どう...したの?奏?」


「ほら、やっぱり無理してる。」


奏が僕の目に手を当てる。

奏の手には涙がついていた。


「香太、今は無理しなくてもいいよ?私の前では思いっきり泣いても良いよ?」


涙が溢れてきた。

女の子の前で泣くなんて。

情けないなぁ…


すると奏が僕の頭を抱きしめてくれた。


「今は泣いていいんだよ。無理しないでね。」


奏が優しく声をかけてくれる。

しばらくは涙が止まらず奏の腕の中で泣き続けていた。



しばらく泣いたあと、自分が奏に抱かれながら泣いているということに気付きものすごい羞恥心に見舞われた。


「あっごめん!もう大丈夫だから!うん!泣き止んだ!」


無理やり奏の腕から抜け出し布団で顔を隠した。


「ふふ、香太顔真っ赤だったよー可愛いなー」


奏が布団で顔を隠している僕を見ながらいたずらっぽく言う。


くそぅ、恥ずかしいなぁ!

話題を変えようと思い布団から出て話を切り出す。


「そういえば今日お父さんにスマホ渡されたんだけど奏持ってる?」


「むぅ、話題を変えたな?」


うっ、なかなか鋭い。


「まあいいや、持ってるよー」


「じゃあメアドと番号交換しとかない?これから来る時とか連絡くれた方が助かるし。」


「そだね、んじゃメアドと番号教えてくれる?」


そう言われた僕はメアドと番号を教えた。

ちなみに事故の前に使っていたスマホは壊れていたらしい。

スマホの使い方も忘れていたがお父さんに聞いたからある程度は大丈夫だ。


「試しにメール送ってみるね」


テロンッ


「おっ届いたよー、メールの送り方覚えておきたいからこっちからも送ってみるね。」


「送り方分かる?」


「一応お父さんから聞いてあるから多分大丈夫...よし、送ったよ」


「ん、大丈夫だね届いてるよ」


よかった、これで届いてなかったらまた恥ずかしかったからな。


「電話は今日帰ったあとかけてみるね」


「了解、待ってる。」


正直病室で1人は暇で仕方ない。

だから電話で話せるのは普通に楽しみだ。


その後、しばらくは奏と他愛もない話をしていた。


気付けば面会の時間はもう終わりだ、早かったな。


「じゃあ今日はもう帰るね、帰ったら電話かけてみるからちゃんと出てね?」


「うん。了解、じゃあまた今度、次いつごろ来れる?」


「んー明日も多分来れるかな、出来るだけ香太とも話したいしね」


ちょっとドキッとしてしまった。

奏が僕と話をしたいと思っていることに。


そんな気持ちに気づくはずもなく奏は


「じゃあまた明日、来る時メールするね」


「あ、うん、また明日」


病室のドアが締まり、一瞬感じた気持ちの意味を考えるがわからなかった。

これも記憶を失ったせいなのだろうか。

家族との会話って難しい。

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