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秋の夕暮れからの記憶  作者: 茶々
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第28話 アルバム

 


 さて、しずねえと一緒にアルバムを前にしているわけだが……日記と同じで緊張する。

というか、日記よりも何とも言えない気持ちなる。

何といっても記憶がないのだから、自分の写っているアルバムという気持ちがない。

 しずねえは僕の心情を悟っているのか、僕がアルバムを開くまで待っていてくれている。

お母さんがどういう人だったのかを見るのは楽しみだが、自分を見るのがちょっと怖い。


「よし、見るか…」


「お、やっとだね」


 なんだかんだ5分ぐらいは無言でアルバムを見つめてしまっていた。

おかげで、しずねえを待たせていたようだ。


 ぺら……とアルバムのページをめくる。

ちなみに家族アルバムなので、お父さんとお母さんが結婚する前の写真も少しあるようだ。

さっきお父さんに「一緒に見る」と言ったら「いや、恥ずかしいからいい」と言われてしまった。

まあ、僕もお父さんの立場なら同じことを言っただろう。


 ページをめくって最初に出てきたのはお父さんとお母さんが一緒に写っている写真だった。

場所は明らかに見覚えのあるところだ。

だって写真に写っている場所は家の前なのだから…。

写真の下に【同棲開始記念写真】と書いてある。

結婚の少し前からこの家に住んでいたようだ。


 そしてお母さんの外見は、黒寄りの茶色の髪色で、綺麗な長髪に軽くウェーブがかかっている。

お母さんに言う感想ではないと思うが、綺麗よりかわいい系だ。

写真ではお父さんに寄り添って、凄く優しい笑顔を浮かべている。

見た目だけの印象になってしまうが、ぽわぽわしていそうな人だ。

写真が20年以上前の写真なので二人とも凄く若い。

お父さんもなかなかにかっこいい。


 これを見れば分かるが確かに僕はお母さん似だ。

雰囲気の事なので自分では分かりにくいけど、まずお父さんには似ていない。

そして髪色が近い。

お母さんほどではないけれど、僕も茶色かかっているのだ。


 ぱらぱらとページをめくっていく。

お父さんお母さんの写真がたくさん貼ってある。

そしてついに、結婚式の写真が出てきた。

お父さんとお母さんは凄く綺麗に着飾り、とても幸せそうだ。


 結婚式の写真のしばらく後に、お母さんのお腹が大きくなっている写真があった。

妊娠したようだ。

凄く嬉しそうなお父さんを、お母さんが優しい表情で見ている。

このお腹の膨らみを見る限り、2人は、もうすぐで生まれそうだという事で写真を撮ったのだろう。


 次の写真で、お母さんが赤ちゃんを優しく抱き、お父さんが感激している写真があった。

僕が生まれたようだ。

お父さんとお母さんは感無量といった具合だ。

なんだか心が温まる。


 そして、写真が進むにつれて僕が成長していく。

子供の成長は早いなぁ…。


「あ、この写真……」


「ん、どうかした?」


 しずねえが、1つの写真を指差して呟いた。

その写真には僕としずねえが写っている。


「この間公園行ったときに話した『私と香ちゃんが初めて遊びに行った』時の写真だよ」


 確かに、しずねえに周辺の案内してもらった時の公園と同じだ。

という事はこの写真はお母さんが撮ったのか。

というか僕、凄いしずねえに懐いてるな……。

しずねえの顔もデレデレだし……しずねえ変わってなさすぎるだろう…。


 そしてまたしばらくページをめくっていると、写真の中の僕とお父さんの年齢が急に進んだ。

それ以降の写真にお母さんは写っていない。

僕は何も言わずにページをめくり続ける。

めくってめくってめくってめくり続ける。


 アルバムに水滴が落ちてきた。

どこから落ちてきたのかは探るまでもない。

水滴の正体は涙なのだから。

当然涙の出所は僕の目だ。

写真からふっとお母さんの姿が無くなり、しばらくの期間、写真が無くなった。

それが意味することはただ1つだろう。

それは『お母さんが亡くなり、お父さんの気が落ち込んでいる』という事だろう。

その事実は僕の心に深く突き刺さった。


 僕は俯き泣いていた。

音を一切立てずに泣いていた。

そんな時後ろから、温もりに包まれる感覚がした。

その温もりは、僕に大きな安心感を与えてくれた。

そして、耐え切れず声を上げて泣いてしまった。

泣き続けてしまった。

心の奥底から溢れ出てくる感情を、放出するかのように…。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 泣き止んだ時、後ろから優しく抱かれていた事に気が付いた。

誰に抱かれているかは……まあしずねえだが…。


「ありがとうしずねえ、もう大丈夫だよ」


 実際、しずねえに抱かれていたおかげで、思いっきり泣けたので感謝は必要だろう。


「そう…?無理はしないでね?」


「うん、ありがとう」


 悲しい気持ちにはなったけど、アルバムを見れたのはよかったと思う。

お母さんのことを話以外で知れたのも嬉しかったし、お父さんがどれだけの苦労をして、どれだけ大変な思いで僕を支えてくれていたのかも分かった。

いつかお父さんに恩返しをしたい。

しずねえにもね。


「というかしずねえ、まだうちにいて大丈夫なの?」


時計を見るともう結構な時間になっていた。


「あ!明日仕事なんだった!あ~…もうちょっと一緒にいたかったなぁ…」


「まあまあ、いつでも会えるんだから今日のところは帰りなよ」


「うん…。そうだね、今日のところはお暇するよ」


「うん。しずねえ、今日は色々ありがとうね、本当に助かったよ」


「どういたしまして!凛堂さんとうまくいくといいね!」


「う、うん……最善を尽くします…」


 僕がそういうとしずねえは部屋から出てリビングへと向かった。

お父さんに声をかけてから、帰っていったようだ。


「さて、気持ち切り替えないとな…」


 明日から、本格的に改善策の準備をしていかなければならない。


「よし、頑張るか」


 僕はそう意気込んでからお風呂場に向かった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「おはよう香太」


「お、おはよう奏」


「?どうかした?」


「え?いや、何でもないよ」


「そう?とりあえず行こっか」


「うん」


 朝、奏がいつも通り僕の家に来た。

そして、いつものように挨拶を……出来なかった。

どうしても意識してしまう。

奏が僕の好きな人だという事を、奏の仕草一つ一つが魅力的に見えてしまう。

気付いた途端こんな事になるなんて、恋ってやつは本当に恐ろしいな。


 だけど、言動が可笑しくなってしまったのは最初だけだった。

登校中はいつもと何も変わらずだった。

いつも通り駅まで歩いて、いつも通り電車で押し潰されそうになって、いつも通り電車から降りて学校に向かう。

そう、登校中(・・・)はいつも通りだった。

いつもと変わったのは、学校に着いてからだった。


「おっはよー!香太ー!」


 元気な挨拶と同時に後ろから何かが飛び付いて来る。

その正体は…………


「えっ!?綾芽!?」


 そう、奏が言った通り来栖さんだ。

来栖さんはなんと、校門から昇降口への途中で僕に飛び付いてきたのだ。

当然周囲の目は僕たちに向く。

ちょっとこれはきつい。

主に来栖さんの距離感が…。


 そんなことを考えていた時、突然耳元で囁かれた。


(私はまだ諦めてないからね)


「…っ」


 諦めてないって……要するに…そういう事だよな…?


(えっと…来栖さん…?とりあえず離れてもらえないかな…?)


(綾芽)


(え…?)


(名前で呼んでくれたら離れるよ?)


(えっと…それは……)


(早く……早くしないと奏に誤解されちゃうよ…?)


(うっ…分かったよ…綾芽、離れてくれるかな?)


 結局呼ばされてしまった。

こう、ガツガツ来られると了承せざるを得ない。

というか、さっきから耳元で囁かれてこしょばゆいんだけど………


 来栖さん…じゃなくて綾芽が僕の背中から離れる

周りの視線がきつかった……そして何よりも奏の何とも言えないような視線が……。


「えっと、とりあえずおはよう、来s…綾芽」


 名字で呼びかけた瞬間、鋭い眼光に射抜かれてしまった…。


「おはよー香太、奏もおはよう」


「え?あ、う、うん、おは、よう」


 とてつもなく歯切れが悪いな。

まあ当然か、先週までとは、僕と綾芽の距離感が違いすぎるにも程がある。


 キーンコーンカーンコーン。


 予鈴が鳴り響いた。


「やばっ、早くいかないと!」


 逃げに近い態度で僕はその場を離れる。

追いかけるように奏と綾芽も昇降口までくる。

ちゃちゃっと靴を履き替えて階段を上る。


「じゃあまた放課後!」


「う、うん」


「またねー」


 僕は二人と別れてさらに階段を上る。

ギリギリ間に合ったが、教室に入った途端、様々な視線に晒される。

その視線の大半が、興味によるものだろう。

まあ、朝っぱらから、校門付近であんなことしてたんだから…。


 とりあえず、気にしないように席に向かう。

 

「なあ香太……お前問題起こすの好きだよな……」


「好きで起こしてる訳じゃないよ…」


 そういいあった所で先生が教室に入ってきた。

これはまた昼休みが面倒な事になりそうだ…。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「秋海くん、ちょっと職員室まで来てくれる?」


 午前の授業が終わり、昼休みになった所でともちゃん先生に呼ばれた。

おそらくは放送室の使用許可が下りたかどうかの話だろう。

これでもしダメだったら…また1から考えるか…。


「あの話か?」


「そうだろうね…」


「許可、下りたらいいな」


「うん…」


 そんな会話を竜也としてから、僕は職員室に向かう。

 

「失礼します」


 職員室のドアをノックし、扉を開ける。

えーっと、ともちゃん先生の机は……あ、居た。

何だかんだで、内容考えたり色々と準備をしたから、許可が下りていて欲しいなと思いつつ、僕は先生の机までゆっくりと歩いた。


「先生」


「早かったね、秋海くん。

お昼ご飯食べてからくると思ってたよ」


「すいません、どうなったか気になってしまって…」


「まあ、気持ちはわかるけど、焦った所で結果は変わらないんだから少しは落ち着きなさい」


 自分では分からないけど、結構焦ってしまっていたのかもしれないな。


「それで、どうでした…」


「言わないと落ち着かなそうね…、じゃあ結果から言うわね」


先生は息を吸ってからゆっくりと口を開いた。


「使用許可は、下りたわよ」


「え…?」


「どうして戸惑うのよ…、自分から頼んできたことでしょ…」


「え、いえ、あの、正直無理だと思っていたので…」


 最初に思いついた時から、完全なダメもとでの頼みだった。

それが、まさか、本当に許可が下りるとは…。


「私も無理だと思っていたわよ…、だけど教頭先生が妙に乗り気でね…」


「え?教頭先生が乗り気?」


「ええ、私が『こういっている生徒がいるんですが…』って秋海くんの改善策の説明をしたら『なんと!今どきの生徒が、先輩のためにそこまでするなんて!私感激しました!許可しましょう!』って感じで一発OKだったわ…」


「え、ええ?それは…凄いですね…」


「私も驚いちゃった…、それで1つだけ条件があるんだけど…」


「条件?」


 難しいものじゃなければいいけど…。

テストの成績で学年10位以内とかだったら終わりだぞ…。


「条件っていうのはね…、教頭先生が秋海くんと話をしたいらしいわ」


「話?」


「うん、どういう人か気になるって言ってたわよ」


「それだけですか?」


「それだけね」


 まじか、話すだけでいいのかよ。

いや、まてよ、教頭先生とマンツーマンで話すって普通はなくないか?

そう考えるとちょっと緊張してきたな。


「緊張しなくても大丈夫よ、教頭先生結構気さくな人だから」


「そ、そうですか…」


「まあ、緊張するなっていうのが無理な話よね…」


「はい…、それで、日時は…」


「今日よ」


「はい?」


「だから、今日。今日の放課後」


「マジですか…」


 今日の放課後教頭先生と話すのか。

急すぎないか?


「まあ、そういう事だから、頑張ってね」


「最善を尽くします…」


 僕はそう言ってから職員室を後にした。

放課後まであと3時間弱…はぁ、気が重い…。


 当然というべきかそのあとの授業は集中できなかった。

先生に指摘されても全く治らず、そのまま授業が過ぎていった。


 そして放課後。

僕は教頭先生と向かい合って座っている。


アルバム鑑賞シーンが思ったよりも難しかった…。

結構時間がかかってしまった。

奏がやっと出てきたけど、出番が少なすぎた…。

奏が多く出てくるのはもう少し後になりそうです。


次回の投稿は4月29日を予定してます。

最近時間が取れないことが多いので遅れるかもしれません。

読み直しをする時間が無かったため、誤字脱字が多いかもしれません。

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