第27話 恋の相談
昨日僕は来栖さんに告白された。
正直、一日たった今でも信じられないのだ。
昨日、家に帰った後の僕は凄いぼーっとしてたらしい。
らしいというのは、後からしずねえに指摘されたからである。
自分ではぼーっといているという事にも気づいていなかった。
それも仕方ないだろう、なんたって告白されたのなんて初めてだったのだから。
いや、記憶を失う以前ならあったのかもしれないが、以前の僕の性格から察するに無かっただろうな……。
そして今日、日曜日である。
僕は自分で起きることが出来ずにしずねえに起こされた。
「こ~うちゃ~ん~。
朝だよ~~起きて~」
「うん…もちょい待って…」
「まあ…待つけど……。
本当に昨日からどうしたの…?」
心配かけるのは悪い気がするが、さすがにこればっかりは言えない。
言ってしまうのは来栖さんにも悪いし僕も恥ずかしい。
「着替えてから行くから、先リビングで待ってて」
「はいは~い。
こうちゃんがぼーっとしてる理由は後で聞かせてね?」
「……………」
僕は返答をしなかった。
適当に答えて根掘り葉掘り聞かれるのは堪ったもんじゃない。
しずねえの事だから、どうせ聞いてくるんだけどね……。
その時はその時で、適当に嘘つけばいいだろう。
バタリ。
ドアが閉まり、しずねえが部屋から出て行った。
来栖さんと話していたときは、その瞬間のことで頭がいっぱいで、深くは考えられなかった。
だけど、家に帰ってきて、部屋で1人になった時、どうしてもいろいろ考えてしまった。
『なんで来栖さんが…』とか『いっその事OKしてしまっても良かったんじゃないか?』とか『次に来栖さんと会うときは気まずそうだなぁ』などなど……。
どうしても、ね。
でも、僕は奏のことが好きだから、さすがにOKするのは良くないだろう。
確かに付き合っているうちに、来栖さんの良い所をたくさん見つけることもできるだろう。
なんたって、知り合って間もないのに既に良い所をたくさん見つけているのだから。
……そろそろ、考えるのをやめよう。
これ以上考えてしまうと、またしずねえにぼーっとしていると指摘されてしまう。
さて、さっさと着替えてリビングに行こう。
これ以上しずねえを待たせるのも良くないしね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
リビングに入った僕にしずねえは声をかけてきた。
「おはよ~こうちゃん。
朝ごはん用意しておいたよ~」
しずねえが朝ごはん作ったのか…。
こう言っては失礼かもしれないが、しずねえが料理を作れるとは思わなかった。
だってこの歳で独身なのだし、家事とかはダメダメなものかと思ってた…。
おっと、いけないいけない、こういうことを考えてるとすぐ気付かれるから自重しないと。
「ご飯ありがとね、昨日の夜、明日の朝も作るって言ってたのにぼーっとしちゃってて」
「ううん、大丈夫だよ。
なにより、勝手にお邪魔してるのはこっちだしね」
そう言われたらそうだな。
昨日の昼と夜を作ったからか、当然のように作る気でいたよ。
「じゃあ食べようか」
そういってしずねえは懐からビニール袋を取り出した。
おいおい…嘘だろ…。
「これが私の用意したごはん、コンビニのパンだよ!」
「Oh…………」
やっぱり僕のイメージ通りで正解だったのね…。
僕は呆れながらも、パンを手に取った。
驚くべきか呆れるべきか分からないが、パンは僕の好みの物が揃っていた。
「驚いたでしょ?
これでもこうちゃんの好みは完全に把握しているんだよ?」
それは普通にすごいな。
って思ったが、僕が生まれた時からの付き合いならば当然なのだろうか。
とにかくありがたい事にはありがたいので、お礼はしっかり言っておこう。
「ありがとうね、しずねえ」
「うふふ、どういたしまして」
パンを食べ終えて、コーヒーを飲んでいる時に、しずねえがついに聞いてきた。
「それで、こうちゃんはどうしてあんなにぼーっとしちゃってたのかな?」
「えっとそれは………」
しまった、考えるのを忘れていた。
何と答えるべきか………。
ぐぬぬ、とうなっていた僕にしずねえは核心を突く質問をしてきた。
「もしかして、来栖さんに告白でもされた?」
「え………?」
「あ、やっぱり正解?
来栖さんも隅に置けないわね~…。
いずれ告白するって言ってたのに、まさか昨日してたとはね~……」
完全にばれてるじゃないか…。
しずねえは色々と鋭すぎるだろ…。
あ、でも、昨日僕の部屋で話をしてたんなら僕の雰囲気の急変で気付いてもおかしくないのかな?
「それで、なんて返事したの?」
「それは…」
答えを躊躇ってしまう。
言ってもいいだろうけど、こういうのはどうしても躊躇ってしまう。
でも、しずねえなら大丈夫かもしれない。
こういう事について、しっかりと相談に乗ってくれそうだし、親身になってくれそうな気がする。
「来栖さんには申し訳ないけど、断ったよ」
「どうしてか、聞いてもいい?」
理由か…。
単純な理由だからこそ、少し言いずらい。
でも、もしかしたら、しずねえは気付いてるんじゃなかろうか。
僕が奏のことを好きだという事に。
ここで理由をしばらく答えないでいたら、しずねえから言ってくるのではないだろうか。
「こうちゃんには別に誰か好きな人がいるとか?」
ほらね。
しずねえは話し相手が言いづらそうにしていることを汲み取って、話しやすい方向に持っていくのが凄く上手だからこうして聞いてくれると思っていた。
今まで何度、こうして話しやすくして貰った事か。
素直に尊敬できる聞き上手だ。
「そんな所だね。
しずねえの言う通り、僕には好きな人が居るよ。
しずねえの事だから、僕が誰のことを好きか気づいてるんだろうけどね」
[そりゃあねえ…。
多分だけど、壮でさえ気付いてるよ………」
まじか。
お父さんでさえ気付いてるのかよ…。
そこまで露骨だったのは少し恥ずかしいな。
「えっと………好きな人って…藤井竜也君…だよね?」
「ちげえよ!!!」
「うそうそ、冗談だよ。
凛堂さんでしょ?」
「まあ、そうだけど…。
変な冗談やめてよ……………」
まさかこの状況で冗談を言ってくるとは思わなかった。
しかも、竜也って……いやな冗談にもほどがある。
「で、どうするの?
告白するの?」
「そりゃあ気持ちを伝えたほうが良いんだろうけど、今はちょっと他にやらなきゃいけない重要なことがあるから無理かな」
「重要なこと?」
これについても相談に乗ってもらうか。
丁度話す内容に悩んでるところだったし。
「今、こういう事をやろうとしてるんだけどさ………………」
僕は、しずねえに学校での奏の現状と、僕がやろうとしている改善策について詳しく話した。
僕が話してる最中しずねえはずっと驚いた表情をしていた。
「そんなことしようとしてたんだ…」
まあそういう反応になるよなぁ…
今までこの事を話した人はみんな決まって同じ表情をする。
竜也も先生も来栖さんも、みんな呆れたような感心したような、そして、驚愕したような複雑な表情になる。
「それって学校的には大丈夫なの?」
「まだ分からないけど、一応担任の先生に相談して許可をもらえるか聞いておいてくれる事にはなってるよ」
「そっか、本気なんだね」
「まあ、本気かな」
正直、怖いけどもう今更後には退けない。
すでに、ほかの人を巻き込んでるんだ、今更怖いなど言って逃げてはだめだろう。
ないよりも、逃げる事を自分自身が許さない。
「まあ、出来ることはやらせて貰うよ。
とは言っても、内容を考えるぐらいしか力になれないだろうけどね」
「それでも十分にありがたいよ。
本当にありがとう、しずねえ」
「ふふ、どういたしまして」
今日中に内容を考えてしまいたいと思っていたので、僕としずねえはさっそく内容を考える作業に取り掛かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ひとまずこんなところかな」
「そうだね、これで大丈夫だと思うよ」
朝から考え始めて、やっと完成した。
時計を見てみたら、始めた時から6時間経っていた。
ぐぅぅぅぅ…としずねえのおなかが鳴る。
「あはは、お昼…って時間でもないけどご飯食べようか。
適当に作るね」
「ありがとう、こうちゃん」
現在時刻は16時だ。
今日の夜にお父さんも帰ってくるが、先に夕飯を食べていてもいいと言っていたので、今軽く食べても大丈夫だろう。
夕飯をお父さんの時間に合わせてしまえばいいのだから。
お父さんに『夕飯を作っておくから一緒に食べよう』とメールを入れておいた。
「昨日の昼は何作ってたの?」
「キムチのチャーハンだよ」
「へ~、来栖さんいいな~、私も食べたいかも」
しずねえが露骨に食べたがっている。
とは言い2日連続でキムチチャーハンはなぁ…。
「なにかリクエストがあるなら作るけど…」
「ほんと!じゃあ…パスタ!」
なら簡単に作れるな。
そんなに重くもないし、ちょうどいいかもしれない。
「じゃあさっそく作るね」
「ありがと~」
僕はキッチンに向かってさっそく作り始めた。
今家にあるもので作れそうなパスタソースはトマトソースぐらいだった。
フライパンにバターを敷き、ニンニク生姜を炒め始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ごちそうさまでした~」
「お粗末様でした」
そこまで多く作っていなかったので、腹5分目ぐらいだ。
これなら、夕飯が食べれないという事もなさそうだ。
「暇になっちゃったね……、コイバナでもしよっか」
「え?」
「さっき話の途中で終わっちゃったでしょ、続き聞きたいなぁ…」
「どこで話し終わってたっけ?」
全然覚えていない。
「確か、告白するのかどうか聞いていたところだったよ」
そっか、そこまで話していたか…
いっその事全部相談してみちゃおうかな。
しずねえなら良いアドバイスをくれそうな気がする。
「それじゃあ、折角だし相談乗ってもらおうかな」
「お姉さんに相談してみなさい」
そういってしずねえは胸を張っている。
お姉さんっていう歳ではないだろうけどね…。
というか相談か。
相談ってどうやればいいんだ?
「えっと、相談か、えーっと……ど、どうすればいいと思う……?」
「どうすればいいと思う?って……とりあえず告白はしたいのよね?」
「そうだね……今はあれだけど今年中にはしたいかな」
「じゃあ…ベタだけどクリスマスでいいんじゃない?」
「クリスマス……」
そっか、あったなそんなイベント。
完全に失念してた……。
確かにそれならちょうどいい時期かもな…
「まあ、もし凛堂さんに用事があったら終わりだけど…」
「そこはまあ…、無いことを願うしかないね…」
「とりあえず早めに誘ってみるといいよ、予定があるならあるで別に日に誘って告白しちゃえば良いんだし」
「う、うん、頑張るよ…」
いざ、告白のことを考えると、とてつもなく緊張するな…。
来栖さんはこんな気持ちで僕に告白をしてたのかな……。
そう思うと、胸が痛くなる…。
「どうかした?」
「…ううん、なんでもないよ」
「そう…」
告白やら改善やら色々と心に余裕が無くなりそうだなぁ。
自分1人で無理せずに、頑張っていかないとな。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ただいまー」
玄関のドアが開きお父さんが帰ってきた。
「おかえり、夕飯の用意出来てるから、着替えたりしてからリビング来てね」
「おう、ありがとう。
しずもまだいるのか?」
「お邪魔してますよ~」
「やっぱりいたのか。
香太に迷惑かけなかったか?」
「信用無いなぁ…そんなに迷惑かけるように見えるかなぁ……」
「自分の普段の行いを振り返ってから言ってくれ…」
お父さんとしずねえが話している。
少し長くなりそうだ。
「はいはい、話はそこまで。
お父さんもさっさと着替えてきて、おなかすいてるでしょ?」
「お、おう、悪い」
「ふふっ、こうちゃん楓さんみたい」
「え?」
「昔楓さんが壮に全く同じことを言ってた事があったんだよね」
「そうなんだ…」
「こうちゃんは、性格とか、顔とか全体的に楓さんに似てるから、同じ言葉が出てきたのかもね」
そっか、僕ってお母さん似なんだ…
会ってみたかったな、お母さんに。
そうだ。
「記憶が無くなってからアルバムとか見たことがないからあとで見てみよ。
何か思い出すかもしれないし、何よりもお母さんのことを知りたい」
「じゃあ夕食後に一緒に見ようか」
「うん」
という事で夕食後にアルバムを見ることになった。
いつか日記を見た時と同じで少し怖い。
だけど、それ以上に楽しみだ。
なんたって僕はお母さんの顔すら覚えていないのだから。
次回も奏は出なそうです…。
出番の少ないメインヒロイン…。
次回の投稿は4月22日です。




