第25話 反対意見
「ここだよ」
僕の家の前についたので、来栖さんに声を掛ける。
来栖さんは相変わらず、僕の前を歩いていた。
「ふふ、本当に奏の家と近いね」
本当にそう思う。
奏の家の場所を知っている来栖さんなら尚更思うだろう。
「じゃあ入ろっか」
「うん、お邪魔しま〜す」
僕が鍵を開けて、ドアを開ける。
来栖さんは後ろについて入ってくる。
さて、昼も過ぎてしまっているので、ちゃちゃっとご飯作っちゃいますか。
「ご飯先に作るけど、部屋で待ってる?リビングで寛いでも大丈夫だけど」
「じゃあリビングで寛いでるね。
お昼ご飯期待してるね」
そう言ってから、来栖さんはソファーに腰掛けて寛ぎ始めた。
さて、作りますか。
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とりあえず棚からフライパンを取り出したところで来栖さんに聞いておかなければいけないことを思い出した。
「来栖さんって嫌いな食べのもってある?」
「んー?特に無いかな。
基本なんでも好きだよー!」
「了解ー」
よし、じゃあ大丈夫か。
気にせずに作ろう。
僕はフライパンに油を敷き豚肉を炒め始めた。
ジューといい音がなってくる。
この音いいよね。
少し豚肉に色がついてきたところで、細かく切ったウインナーと溶き卵を入れる。
更に炒めたところで、キムチを冷蔵庫から取り出し、入れて具材を混ぜ合わせる。
そこで解凍したお米を投入!
冷凍庫に保存してあったお米があって良かった。
まあここまで作れば誰にでも分かると思うけど、作ってるものはキムチチャーハン。
ほんとに簡単なものだけど、すぐ作れて、美味しい。
無難だね。
ご飯に白い部分が無くなったところで、塩コショウ、マヨネーズ、胡麻油、醤油の順番で適量入れ、よく混ぜ合わせる。
そして完成。
うん、すぐ出来た。
今日は寒いし、ちょっと辛いものもぴったりだろう。
盛り付けてから、刻んだネギを散らばらせた。
我ながら美味しそうにできたと思う。
僕はお茶とコップとチャーハンを盛り付けたお皿をトレーに乗せ。リビングのテーブルに持っていく。
「おー!美味しそー!」
ぱちぱちぱち、と来栖さんが褒めながら拍手してくれる。
褒められると嬉しいものだね。
「作ってから聞くのもあれだけど、これで良かった?」
「いいよ!チャーハン好きだし!」
「良かった…」
女性に料理を作るのなんて初めてだったから、不安だったけど気に入ってもらえたようで良かった…
一安心。
「冷める前に食べちゃおう?」
「あ、そうだね。
食べよっか」
僕が少し黙り込んでいると、来栖さんがそわそわしながら食事を促してくる。
「「いただきます」」
スプーンでチャーハンをすくい上げて、口に入れる。
ふむ、あんな短時間で作った割には美味しい。
キムチのピリ辛のおかげで体が芯から暖まる感覚もある。
冬にいいね。
「んー!美味しい!秋海くん料理上手だね!」
「そうでもないよ。
簡単なものしか作れないし」
実際、記憶が戻ってから作ったものは、チャーハンだったり、目玉焼きとか卵焼き 、誰でも作れそうなものばかりだ。
「いやいや、男の子で料理ができる人ってそんなに居ないと思うし、私だって料理出来ないし…」
そういうものなのかな?同い年ぐらいの男の子もこれぐらいの料理ならできる気はするが…
「料理ってレシピ見ながらやってみたら、結構出来るものだよ」
「えっとね、昔料理した事があるんだけど…」
やった事はあるのか。
「完成したら、料理とは呼べないような黒い物体が出来てたんだよね…」
「おぉ…それは…」
想像以上にやばそうだなぁ…
というか黒い物体って…何をどうしたらそうなるんだろ…
「だから、料理できるの凄いと思うなぁ…」
会話の合間にぱくぱくとチャーハンを口に運び、「んー!」と声を上げている。
美味しそうに食べるなぁ。
自分の作ったものをこうして美味しそうに食べてくれると凄い嬉しい。
誰かに料理を作るっていうのは初めてだったけど、いいね。
「えっと、どうかした?さっきから私の顔見てるけど…」
「あ、ごめん。
来栖さん、美味しそうに食べるなぁって思ってね」
「だって、秋海くんの料理凄く美味しいんだもん…」
「そう言ってもらえると本当に嬉しいよ。
正直、今日料理作るってなって結構緊張してたから、上手く作れて良かった…」
「緊張してたんだ…」
「そりゃね…女の子に料理を作るのなんて、初めてだったし…」
「あれ?そうなの?てっきり奏とかに作ってると思ってたよ」
「作る機会も無かったしね」
そもそも奏は料理上手だから、僕の料理を食べるぐらいなら自分で作るだろうな。
「へえ…ふふ、そっか…」
「どうかした?」
「ううん!何でもないよ〜。
ごちそうさまでしたー!」
いつの間にか、来栖さんのお皿に乗ったチャーハンが無くなっている。
早いな。
僕もぱくぱくとチャーハンを口に運び始める。
「ごちそうさまでした」
僕は、そう言ってから、来栖さんの皿と自分の皿を重ねて、トレーに乗せてキッチンに持っていく。
「あ、片付け手伝うよ!」
そう言って、来栖さんがついてくる。
「じゃあ、手伝ってもらおうかな」
僕達はキッチンで片付けを一緒にやった。
僕が食器を洗剤で洗い、来栖さんが泡を流し水切りかごに置いていった。
2人でやったおかげですぐに片付けは終わった。
さて、次が本題だ。
来栖さんに改善策の事を相談しよう。
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僕と来栖さんはリビングで向かい合って座っている。
来栖さんは僕が話を始めるのを待っている。
「えっと、今日は、相談なんだけども…」
「ほいほい、じゃんじゃん聞くよ〜」
「ありがと。
相談っていうのは奏の事なんだけど…」
「奏?」
ここに居ない人の名前が出て来栖さんが戸惑いの表情を浮かべている。
「奏の学校での現状が良くないって思ってて…」
「それで、改善したいって事?」
「うん…」
「それは奏にも言った?」
「改善しようとしてる事は言ったよ。
でも、今実行しようとしている改善策については言ってない」
「ちなみに今実行しようとしている改善策って言うのは?」
そう言われて僕は、竜也や先生に言ったような説明を来栖さんにもした。
来栖さんは神妙な面持ちで聞いている。
僕が話を終えたらすぐに来栖さんが口を開いた。
「こうは言いたくないけど、辞めておいた方がいいと思う」
「え?」
否定されると思ってなかったからか、戸惑いが大きい。
そうだ、当然反対意見も出るだろう。
竜也や先生が了承してくれて、当たり前のように来栖さんも協力してくれると思っていた。
だけど、それは違った。
「理由を、聞いてもいいかな?」
僕がそう問いかけると、来栖さんは静かに口を開いた。
「私もね、1年の時に変えようと思ったの。
だけど全部無駄だった。
私がした事は、ほかの人と奏の仲を取り持つ程度の事だったけど…
だけどね、それをしてる内に、私も奏程ではないけど奏と似たような感じになってた。
少ししたら、普通に戻ってたけど、改善しようとして良いことは1つもなかった。
奏の現状は悪化するし、私も嫌な目にあった。
だから、秋海くんにはこうはなって欲しくない。
それに、奏はもうすぐ卒業する。
だけど秋海くんはまだ1年ある。
言いたいことは分かった?」
……………………。
来栖さんに言われた事は凄く理解できる。
来栖さん自身の実体験もあるから尚更だろう。
そして来栖さんは来栖さんなりに僕を思ってくれている。
このまま、来栖さんの忠告を無視して改善策を実行してしまったら、来栖さんはどう思うだろうか。
それで、改善できず奏の現状は更に悪化して、僕も周りから遠ざけられるようになったら…
来栖さんは僕を許してくれないだろう。
だけど、ここで保身のために何もしなくていいのか?
確かに、奏の現状が悪化する可能性もある。
だが、それは少ないんじゃないかと思う。
なんたって、奏は嫌われている訳では無い。
だから、もし失敗しても悪くて現状維持なのでは無いだろうか。
奏の現状は善意から来ている。
そこで僕が勝手に改善しようとしたとなると、奏を庇護しようとする人も出るだろう。
僕という邪魔者から。
大勢の人が僕の行動をどう思うかは予想もつかない。
だけど、奏の現状が悪化することはない。
悪化するとしたら、僕の現状だけだろう。
奏が僕の事を庇ったら分からないが…
こんな事をしたら、自己犠牲野郎と言われるかもしれない。
「だけど、僕は…奏に笑顔で卒業してもらいたい」
例え僕が、周りから避けられるようになっても。
例え僕が、来栖さんや奏に嫌われたとしても。
先生にも頼まれた。
竜也とも誓い合った。
『奏の現状を変える、と』
ここで、自分の保身のために逃げてはダメだ。
「来栖さん、ごめん。
来栖さんの言ってることはもっともだと思う。
確かに僕の現状が悪くなるかもしれない。
でも、来栖さんの忠告は聞けない、ごめん」
僕が来栖さんの目を見て強く言うと、来栖さんは呆れたような、だけどどこか嬉しそうな顔で答えてくれた。
「そう言うだろうと思ってたよ。
ごめんね、ちょっと意地悪しちゃって。
この事を言って諦めるようだったら、改善なんて夢のまた夢だと思ってたんだ。
だけど、秋海くんは逃げないんだね。
………私と違って。
……分かった。
出来ることなら協力する。
秋海くんの意志の強さは分かった。
分からざるを得なかった。
だから、秋海くん。
変えようね、現状を。
そして奏に笑顔で卒業してもらおう」
驚いた。
来栖さんは最初から反対という訳ではなかった。
ただ、僕の決意を確かめていただけだった。
少しだけ、してやられた感はあるが…
だけど僕は、来栖さんを納得させられたのだろう。
今はそれだけで大丈夫だ。
「じゃあ、早速だけど、来栖さんに協力して欲しい事なんだけど…………」
僕は来栖さんにしてもらいたいことを説明した。
「え…?それだけでいいの?」
「うん、小さな事だけど、大事なことだから」
「…。分かった、絶対に…成功させようね」
「うん、失敗なんてしない」
僕と来栖さんは目を合わせて、決意を確かめるように、頷きあった。
そんな時突然インターホンが鳴った。
「あれ?誰だろ」
「出てきても大丈夫だよ」
僕はインターホンの近くへ行き、ボタンを押した。
「どちら様ですか?」
『あ!香ちゃん!しずだよ〜!』
しずねえ?どうしたんだろう。
「しずねえが来たみたい、入れても大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ〜」
来栖さんの許可も貰ったので、しずねえを招き入れるため玄関に向かう。
ガチャリ、とドアを開けてしずねえを家にいれる。
「お久しぶり〜と言ってもそんなに経ってないかな?」
「久しぶり、今日はどうしたの?」
前にしずねえと会ったのは学校が始まる前だったから、凄く久しぶりに感じる。
「今日、壮が出張で居ないでしょ?1人で寂しいかなぁって思って」
なるほど、確かにずっと1人だったら寂しかったかもしれない。
まあ来栖さんが居るんだが…
「あれ?誰か来てるの?……あ、お邪魔しちゃった?」
しずねえが、玄関に置いてある靴を見て、そんな事を言ってくる。
話は1通り終わってたから、お邪魔では無いんだが。
「来栖さんが来ててね、会ったことあったよね?」
「あ、来栖さんなんだ。
てっきり凛堂さんとお家デートしてたのかと」
お家デートて…付き合ってもいないのにそんなことするわけが無い。
「まあ、とにかく入ってよ。
お茶入れておくから、手洗ってからリビング来てね」
ずっと玄関で話すのもあれだろう。
リビングには来栖さんも待たせているし。
「ん、了解〜」
そう言って靴を脱いでから、洗面所の方へ歩いていく。
僕もリビングに戻るか。
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という訳で、リビングには来栖さんとしずねえと僕になっていたわけだが、何故か今僕は1人でリビングにいる。
何故こうなったかと言うと…………
10分前。
「来栖さん、久しぶり〜」
「あ、お久しぶりです」
来栖さんとしずねえは普通に挨拶を交わしていた。
そこでしずねえがいつもの様にニヤけた顔で爆弾発言をした。
「んで、今日、来栖さんは香ちゃんとお家デートをしてたの?」
「「ぶふぅ!」」
僕と来栖さんは揃って吹き出した。
「ち、違いますよ!秋海くんが相談があるみたいで、話すなら秋海くんの家で良いんじゃないかってなって!」
来栖さんがそう言っても、しずねえのにやけ顔は戻らなかった。
「ふぅ〜ん…そうなんだ〜へぇ〜」
「な、何ですか…?」
しずねえが来栖さんをじろじろ見ながらにやけていた。
「来栖さん!ちょっと女同士の話がしたいからこっちきて!」
そう言ってしずねえは来栖さんの手を掴んで、連行して言った。
「え?あっ!ちょっ!えぇぇえええ!?」
来栖さんの叫び声を聞きながら僕は、来栖さんとしずねえを見ることしか出来なかった。
「というか、そこ、僕の部屋…」
という事があった。
そういう訳で僕はリビングでひとり寂しくゲームをやっている。
「女同士の話ってなんだ…?」
少し気になってしまう。
とにかく、出てくるまで待ってよう。
そして来栖さんとしずねえが僕の部屋から出てきたのは、40分後だった。
長過ぎるだろう…。
しずねえ…久しぶり。
しずねえはやっと出たけど、奏の出番がしばらく来なそうなんですよね。
どこかでだそうかな。
次回の更新は4/8です。
新生活が始まり、忙しくなってきたので遅れるかも知れません。
現に今回、ぎりぎりで書き上げました。




