第24話 プレゼント選び
途中で視点が変わります。
ぶるるぶるる
机に置いてあるスマホが震える。
来栖さんからのメッセージが届いたのだろう。
『あと10分ぐらいで北城東駅着くよ〜』
『了解、東口で待ってるね』
さて、駅に向かうか。
来栖さんから、家を出るタイミングでもメッセージが来ていたので準備は終わっている。
普通に歩いていけば8分ぐらいで駅まで着くから今出れば丁度だろう。
ちなみに、怪我はもう完全に治っているので杖は持ち歩きもしていない。
手荷物が減るのは助かる。
正直邪魔だったしね。
僕はコートを来て、家に鍵をかけて家を出た。
お父さんは朝から仕事に行っていた。
帰ってくるのは明日らしい。
なんでも別の県まで行ってくると言っていた。
どんな仕事をしているか忘れてしまっているので、今度聞いてみよう。
「今日も寒いなぁ」
もう本格的に冬になってきている。
当然と言えば当然か、もう12月なんだから。
のんびり歩いているうちに駅に着いた。
おそらく来栖さんが乗っているのは2分後に到着予定の電車だろう。
丁度の時間に来たのは正解だな…なんたって寒いのだから。
正直この時期に10分前行動とかは苦行だ。
そんな事を考えているうちに電車が着いたようだ。
少しずつ人が改札から出てくる。
ちなみに、東口で待っていると言ってあったが、改札を出たすぐの所で待ってる。
何故かと言うと、改札付近は風が通りにくいからだ。
もしかしたら僕は寒がりだったのかもしれない。
そんな時、後ろから声が掛かった。
「お待たせ、寒い中待たせちゃってごめんね」
「来栖さん、おはよう。
そんなに待ってないから大丈夫だよ」
「ふふ、なんか初デートみたいな会話だね」
来栖さんが悪戯っぽい笑みを浮かべてそんな事を言ってくる。
僕は少し恥ずかしくなり、目を逸らしてしまった。
「ごめんごめん、冗談だよ。
でも、その様子だと今まで女の子と付き合った事とか無かったのかな?」
「そうなのかなぁ、まあ、根っからの陰キャラだったらしいから無かったんじゃないかな…」
「そっかぁ…秋海くん結構モテそうなのにね」
「そんな事ないよ…。
というか、立ち話もなんだし、そろそろ行かない?」
来栖さんが来てから、改札から少し外れた位置でそのまま話していた。
「あ、そうだね。
じゃあ、案内よろしくね」
そう言われた時、ふと思い出した。
「あ、ちょっと聞きたいことあるんだけどいい?」
「? いいよ?」
「奏の誕生日って12月14日であってる?」
「あってるけど、なんで確認?」
「えっと、奏のメールアドレスの後ろに数字が付いてるけど、それが誕生日であってたのかなって思ってね」
「なるほど、サプライズで誕生日プレゼントを渡そうってことね」
確認もそうだったが、もう一つ来栖さんに頼みたいことがあった。
「それで、ちょっとプレゼントの買い物に付き合ってもらってもいい?
奏の親友に聞きながら選んだらハズレはないだろうし…」
正直、女の子に渡すプレゼントなんて想像もつかない。
強いて言うなら…手袋とか…?
「そういう事なら任せて!
とは言っても、秋海くんに貰ったものならなんでも喜びそうだけどね」
「ありがとう、じゃあえっと、とりあえず少し歩いたところにショッピングモールがあるらしいからそこ行ってみていい?」
「おっけー!ちなみにどういうの買おうとしてるの?」
まあ聞かれるよな。
今考えてるのは手袋だが…サイズが分からないしな…
「今考えてるのは手袋なんだけど…サイズが分からないから別のものにしようと思ってる」
「あ、それなら大丈夫だよ!奏と私、手の大きさほとんど同じだから」
「それなら、手袋でも大丈夫かも。
来栖さんに合うサイズの物、探せば大丈夫って事だもんね」
「うん、そうだね。
でもなんで手袋?」
理由か、気になって当然だよな。
まあ簡単な理由なんだけども。
「じゃあ、歩きながら話すね。
とりあえずショッピングモール…いや、手袋にするって決まったから、ショッピングモールまで行く必要ないか。
ちょっと近くで手袋買えそうなところないか調べてみるね」
「ん、了解。
じゃあ調べながら、手袋にした理由聞いてもいいかな?」
「分かった。
えっと、簡単な理由なんだけど、僕がまだ入院してた時に1回だけ、奏と病院の中庭を歩いたことがあったんだよね」
「あ、その話奏に聞いた」
本当に色々話したんだな、奏。
「聞いたなら知ってるかもだけど、その時奏にマフラーを貰ったんだよね」
「うんうん、言ってたなぁ…」
来栖さんが何かを思い出しているのか、軽く頬を緩めている。
ちなみに僕の手はスマホを操作している。
「その時、奏、マフラーは着けたけど、手袋はしてなかったんだよね。
その後一緒に登校した時も着けて無かったから、持ってないのかなって思って」
「それで手袋、ね」
「うん、誕生日でもなんでもない時のプレゼントの、マフラーのお返しみたいな感じになっちゃうけど…」
「そっか、うん、いいと思うよ!
ていうか凄いね」
「ん?何が?」
今の会話に何か凄いと言われる要素があっただろうか。
「自覚してないのね…。
そういう『手袋をしてなかった』、とか細かい事に気付けるのが凄いなって思って」
そういうものだろうか。
正直普通に過ごしていたら気付ける気がする。
まあ、来栖さんがそう言ってくれるということは、プレゼントとして全く問題ないだろう。
「あ、近くに手袋買えそうなお店見つけたよ、丁度僕の家に近づく方向だし、ここ寄っていくね」
そう言って僕はスマホの画面を来栖さんに見せた。
「良さそうだね、このお店行こっか」
僕達は駅から出て、お店の方向へ歩き始めた。
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私と秋海くんは秋海くんが見つけたお店に向けて歩いている。
横を歩いている秋海くんの横顔を見て、ふと思う。
(奏が好きになるのも分かるなぁ)
奏は少し前に、秋海くんを好きになったと言ってきた。
正直、私からすると、やっと自覚したか、といった具合だったけど…
でも、奏は秋海くんを好きなって当然だったと思う。
というか奏は1年以上も秋海の事を好きなんじゃなかろうか。
だって、2年にあがった春、奏は秋海くんに助けられている。
そしてその時から、たまに奏の口から秋海くんの名前が出るようになっていた。
その時は本当に驚いた。
あの奏が他人に興味を抱いたのだから。
そしてそのままここまで来てしまったのだから本当に凄いと思う。
というか、こう言っては秋海くんに悪いけど、あの事故は運命の悪戯としか思えない。
奏が気になっていた人が、奏を事故から救うなんて…。
事故の次の日の奏の、心ここに在らず具合と言ったら凄かった、話しかけても気付かないぐらいだったからね。
そして秋海くんが目覚めて、奏と友達になった時の奏と言ったら…凄い喜んでたな。
その後ほぼ毎日病院に通ってたもんね。
毎日、奏の秋海くんトークが凄かった。
それで秋海くんの退院後、最初の登校日の通学中の話を奏から聞いて、奏が恋してる事に気付いた事に納得した。
聞いた話によると説教だったらしいが、内容が凄く的を射ていて心に来るものだったらしい。
正直、これで好きにならない方がおかしい。
もし私が奏の立場だったなら、秋海くんの事を好きなっていただろう。
最近奏は、帰りに秋海くんの家に行っているらしい。
なんでも勉強を教えているだとか。
奏はいつも『香太と一緒にいるだけで今は満足』と言っているが、本当にそうなのだろうか。
奏は秋海くんと好き同士になりたいとは思わないのだろうか。
そんな事を考えて、つい口から言葉が出てしまった。
「秋海くんは、奏の事をどう思っているんだろ…」
「え?」
あ、声に出てしまった。
仕方ない、この際だし聞いてみよう。
「秋海くん、1つ質問してもいい?」
「う、うん」
「秋海くんは、奏の事、どう思ってる?」
「どう思ってる、かぁ…。
まず凄いなって思う。
勉強も出来るし料理も上手だし、マフラーを作ったりも出来るって事は器用なんだろうしね。
そして、凄く大切、かな。
奏には笑顔でいて欲しいっていつも思ってる。
たまに塞ぎ込んでる時あるけど、すぐに助けてあげたくなる。
笑顔に戻って欲しいからね」
え…これって……
『大切』『笑顔でいて欲しい』って…好きって事なんじゃ…
「えっと…来栖さん?」
「あ、ごめん。
えっと、そっか、大切、か」
「うん、大切だよ」
「へぇ〜…ふふ…」
「来栖さん?どうかした?」
「いや、何でもないよ、ふふ」
「?なんでも無いなら良いけど…」
これは、秋海くんが自分の気持ちに気付いちゃったら、2人の関係は進展しちゃうんじゃないだろうか?
あれ?進展しちゃう?
2人の関係が進展することは、嬉しいことだよね?
「あ、ここかな」
そんな私の思考を遮るように、目的の店に着いてしまった。
「あ、うん、ここだね。入ろっか」
「うん」
私は考えるのをやめてから、秋海くんに付いていくようにお店の中に入った。
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僕達はお店に入った。
こういうお店に来るのは初めてだから、少し緊張する。
というか、他に複数人お客さんがいるけど、全員恋人同士だよな…?
場違い感が凄いんだが…
「秋海くんどうかした?」
僕がお店に入ってすぐに停止していたから、来栖さんが声を掛けてきた。
「いや、えっと、他のお客さんみんな恋人同士だなって思って」
「あはは…確かにそうだね。
でも傍から見ると私達もそう見えてると思うよ?」
言われてみればそうだ。
今日は来栖さんと2人で来てるんだもんな。
まあ、僕なんかが来栖さんの彼氏を務められるとは思えないが。
っていうか、来栖さんと歩いてると僕が見劣りするだろうな…
「とりあえず、選ぼ?」
「あ、うん」
僕達は手袋がある棚の方へ向かった。
「奏ってどういうのが似合うかなぁ」
「うーん、どうだろうね」
確か奏はいつも制服の上に黒のコートを着ていた。
そしてマフラーの色は…あれは何色というんだろうか、薄い茶色のような…
って、こういう事は来栖さんが知ってるかもな。
「奏のマフラーの色ってあれ、何色なの?」
「えっと、確かベージュだったはずだね」
「そっか、じゃあそれに近い色のがいい気がするなぁ、何となくだけどその方が合いそう」
ファッションについてなんて考えたこともないから大変だ。
来栖さんがいて良かった。
「それに奏、いつも黒のコートだから茶色系統が合いそうだね」
「茶色系統は決定で良いかな。
後は素材か、ニットで良いかな?」
1番最初に目に入ったのがニット素材の明るめの茶色の手袋だった。
その手袋を手に取り来栖さんに見せる。
「良いんじゃないかな?ニットだと着けやすいし、奏も好きだったはずだから」
ぱっと手に取った割には、いい物が見つけられた。
これに似たので決めよう。
「あ、でも、これじゃあ着けたままスマホ操作とか出来ないね」
「そっか、スマホ使えないと不便だよね。
スマホ操作可能見たいなやつあるのかな?」
「この辺のとか良いんじゃないかな?」
僕が悩んでいると、来栖さんが声を掛けてきた。
「あ、確かにこれなら操作も出来るね」
来栖さん指を指している所には、カバーを着けるとミトン風の手袋になりカバーを外すと指なしの手袋になるという便利な手袋が置いてあった。
「こんなのあるんだ、凄い便利だね」
僕はこの2way手袋の所を見回す。
そこで目に入った物があったので手に取る。
「これ、どうかな」
僕が手に取ったのは、奏のマフラーの色よりは少し暗めのブラウンのニット素材で出来ている、2way仕様の手袋だった。
「うん、いいと思う。
何より、秋海くんが考えて選んだ物だしね。
絶対喜んでくれると思う」
「そう言ってもらえて安心したよ、これにしよう」
そう言って、来栖さんの手に合うサイズの物を選び、レジに持っていった。
「あ、プレゼント用のギフトラッピングお願いします。
それとこれも追加でお願いします」
そう言って僕はレジの傍らに置いてあった物を定員さんに渡す。
「承りました」
レジの横に、ギフトラッピング出来ますと書いてあったのでしてもらう。
こういうのって凄い助かるね。
お会計を済ませて手袋と小さな紙袋を受け取る。
これで奏への誕生日プレゼントはおっけーだ。
「来栖さんお待たせ」
出口付近で待っていた来栖さんに声を掛ける。
「お、ちゃんとギフトラッピングしたんだね。
あれ?そっちの小さな紙袋は?」
僕が、奏へのプレゼントとは逆の手で持っている小さな紙袋の事を聞いてくる。
「えっと、これは…とりあえずお店から出よっか」
「?うん」
僕達はお店から出る。
「で、それは?……って、え?」
僕が来栖さんに小さな紙袋を渡すと驚いた顔でこちらを見てくる。
「えっと、今日、プレゼント選び手伝ってくれてありがとね。
それは、お礼…かな」
今日、わざわざ僕の最寄り駅に来てくれたのもそうだし、急に言い出したプレゼント選びにも、一切の文句も言わずに付き合ってくれた。
本当にありがたかった。
だから、感謝の言葉だけではなく、物も贈りたかった。
「えっと、中身見てもいい?」
「うん、いいよ」
来栖さんが袋を開けると、小さな熊のぬいぐるみが入っていた。
カバンなどに付けられるように紐もついている。
「来栖さん、カバンに熊のキーホルダー着けてたから、好きなのかなって思って選んだんだけど…」
「……………ふふ、ありがとう秋海くん!」
「お礼を言いたいのはこっちだよ。
1人じゃきっと、いい物選べなかったと思う。
本当にありがとうね来栖さん」
僕がお礼を言うと来栖さんは笑顔を浮かべてから後ろを振り向いた。
「来栖さん?」
「…ず…いな…、奏」
「ん?ごめん、よく聞こえなかった」
「ううん、何でもないよ。
えっと、秋海くんの家こっちだよね?行こう?」
「あ、うん、そっちだね。
じゃあ、行こっか」
来栖さんが少し前を歩くので後ろをついていく。
そして来栖さんは少しの間、僕の方を振り返らなかった。
今回で、来栖さんとの話し合いの筈だったのですが、気付いたらプレゼント選びに行ってました。
こんなはずじゃ無かったのに…
次回の更新は4/1です。




