第23話 改善に向けた準備
「石田先生、今日の放課後相談したい事あるんですけど、時間作れませんか?」
朝のホームルームが終わり、石田先生が教室から出ていこうとした所を呼び止め、声をかける。
「相談?大丈夫よ、えっと、前と同じで指導室の方が良い?」
「そうですね、出来れば他の人に聞かれない方がいい話なので…」
「分かったわ。
じゃあ放課後、ホームルームの後呼ぶわね」
「はい、ありがとうございます」
僕がお礼を言うと、石田先生は教室から出ていった。
これで今思いついている改善策は開始されたと言っていいだろう。
正直な話、先生が許可してくれるとは思っていないが、頼むだけ頼んでみよう。
これで無理だったら、また別の策を考えればいいだけだしね。
とりあえず今日のうちに、竜也にも相談しておくか、石田先生に放送室の使用許可を貰えたら、竜也の手助けも必須だからね。
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4限目が終わり、昼休みになった。
僕は前の席にいる竜也に声をかける。
「竜也、ちょっと話あるんだけど良い?」
「良いけど、ちょっと待ってくれ。
トイレ行ってくる」
「あ、了解」
そう言って竜也は教室から出る。
竜也には、どうにかしようとするなって言われてたけど、結局動いちゃった訳だが…怒られるというか呆れられそうだなぁ…
でもね、奏の辛そうな表情見ると、どうしても改善してあげたくなるんだよね。
とりあえず竜也に怒られる覚悟はしておこう。
「話ってなんだ?あ、教室じゃない方が良いやつ?」
「そうだね、お昼ご飯だけ持って中庭行こ、寒いけど…」
「了解、じゃ行くか」
僕と竜也は上着を着てから、中庭に向かった。
階段を降りている途中で、竜也が話しかけてきた。
「話って、凛堂先輩関連か?」
「まあ…そうだね」
「この前の話に関係…するよなぁ…」
「うん…」
竜也は僕の表情を見て色々察したようだ。
そこで会話が途切れて、中庭の座れるところまで来たので座った。
座ってすぐに竜也が話しかけてきた。
「で、凛堂先輩の現状を変えるために、俺に何を手伝って欲しい?」
流石と言うべきかなんと言うか…全部バレバレなのか…
「怒らないの?やめておけって言われたのに改善しようとしちゃってること…」
「いや、だってよ…香太の事だからどうせどうにかしちまうんだろうなって思って…」
「どうにか出来るかは分からないけどね…でもまあ、どうにかするつもりではいるよ」
今考えている策は、正直成功率は低い策だと自分でも思う。
でも少しは状況が変わる策でもあると思う。
「で、だ。
どういう風に改善するつもりなんだ?」
「えっと、今考えてるのは・・・・・・・」
僕は長々と今考えている改善策を竜也に説明した。
僕が説明を進めていくうちに竜也の目つきが変わっていった。
「香太…本気か?」
「本気…かな。
少なくとも冗談ではないよ」
竜也の目を見て真剣な口調で言う。
しばらくすると竜也は「はぁ……」と深くため息を吐き言葉を紡ぎ始めた。
「正直な話、正気とは思えねえ…でもそれぐらいしないと改善しないんだろうとも思う。
だけどな、香太。
一つだけ聞かせてくれ。
なんで香太はここまでするんだ?
お前は2年、凛堂先輩は3年だ。
お前はまだ来年の学校での生活が残ってる。
そして3年の凛堂先輩はもう少しで登校日が終わる。
それなのに、何でこんな事までするんだ?」
なんで、か。
確かに自分でも疑問に思う。
でも、僕は…
「奏に笑顔で卒業してもらいたいから、かな」
そう、僕は奏の笑顔が大好きだ。
そして奏が笑顔になれない学校は好きではない。
それに後少しで終わるからこのままでいいのでは無い。
後少しで終わるからこそこのままじゃだめだ。
この状態で奏が卒業式を迎えた場合、奏は幸せな気持ちになるだろうか。
奏はこの学校で過ごせて良かったと思うだろうか。
思わないだろう。
いや、思えないだろう。
だから僕は、奏を取り巻く環境を改善して、奏を笑顔で、そして幸せな気持ちで卒業させてあげたい。
そう思っているからこそ、こんなに思い切った改善策が思いついたんだろう。
「はは…すげえな…笑顔で卒業してもらいたい…か。
それだけのためにこんな策を実行するのかよ…はは…」
笑われる気持ちも分かることには分かる。
多分だが100人にアンケートを取ったら95人は馬鹿だと笑うだろう。
「まあ、馬鹿げてるかもしれない、だけど、改善する可能性もあると思わない?」
「はは、そうだな。
協力するよ。
俺も香太の馬鹿に付き合ってやる、そして凛堂先輩に笑顔で卒業してもらおうぜ」
竜也は笑いながら協力を約束してくれた。
「とは言っても先生方の許可貰えないとまず始まらないんだけどね…」
「そこは石田ちゃんを信じようぜ!」
これで、改善策の実現がどんどん近づいてきた。
後は石田先生に相談と…
来栖さんにも頼まないといけないな…
僕は今日の放課後、先生との話のあとに来栖さんと話すために、『今日の放課後少し話す時間作れない?』と来栖さんにメッセージを送った。
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帰りのホームルームが終わったタイミングでメッセージが届いた。
『大丈夫だよ、えっと奏も連れていく?』
『あ、奏に聞かれちゃダメな話だから出来れば来栖さんだけでお願い』
『了解。
えっと、このあとすぐで大丈夫?』
『ちょっと先生と話さなきゃいけないら、少し待ってて貰っても良い?』
『了解ー、じゃあ図書室で待ってるから話し終わったら来てね』
『ありがとう』
僕はそうメッセージを送ってからスマホをポケットにしまった。
来栖さんを長く待たせては悪いから早めに先生との話を終わらせないと。
「秋海くん、行きましょ」
「はい」
石田先生に声をかけられ、僕は先生の後ろについて歩く。
生徒指導室の前に着き、先生が鍵を開ける。
僕と先生は前と同じで、僕が入口側、先生が奥側という形で座った。
「秋海くん、学校の生活は大丈夫?この間クラスの子達にもみくちゃにされてたけど大丈夫だった?」
先生が本題の前に軽く話を振ってくれる。
というか、もみくちゃって…まあ間違ってないか?
「学校の生活は大丈夫ですね、勉強も3年の友達に教えて貰い、休んでいた時の分は取り戻してるので」
この間の初登校の日から毎日、帰りに僕の家に寄って、奏に勉強を教えて貰っていた。
教え方がすごく上手で頭にすんなり入ってくるから凄い。
一緒に改善策を考えたりもしていたが、一向に思いつく気配は無かった。
「3年生の友達?あ、凛堂さん?」
ん?どうして知ってるんだ?て、そりゃ知ってるよな、毎日教室まで来てたんだから。
「そうですね、教え方が上手でもう休み中の勉強は大丈夫ですね」
「ふふ、凛堂さん凄いもんね、ずっと学年トップで。
でも、凛堂さんと知り合いなのびっくりしちゃった、凛堂さんが来栖さん以外と仲良くしてるの初めて見たから…」
先生の表情が少し暗くなる。
もしかして先生も奏の現状を、良く思ってないんだろうか?
「色々あって仲良くなりましたね、奏は記憶の事も知ってるので凄く話しやすいんですよね」
「えっ?記憶の事知ってるって…自分から話したの?」
あー、このあとの相談も奏の事が関係してくるし、僕と奏の関係性を説明しておいた方がいいかもな…
「えっとですね、実は………」
僕は先生に奏と出会った時のことを話した。
事故から庇った事や、目覚めたあと病室に駆けつけてくれたことなど。
「そんな事があったのね。
それで、その、気になる事があるんだけど…」
「なんですか?」
先生が少し頬を赤らめて質問しようとしてくる。
「秋海くんと凛堂さんは、その、付き合ってる、の?」
はい?
この先生は何を言っているんだろうか。
「えっと、どういう事ですか?」
「えっ?だって、女の子を事故から庇って、その女の子が病室に誰よりも早く駆けつけて、そこでお互いに自己紹介をして、それから少しずつ一緒にいることが増えて、お互いに自分の気持ちに気づいていって…そして学校の帰り道とかに…こ、告白とかしちゃったりして……!!」
先生が早口でなにか言い出した。
この先生もしかして、これが本性か?
「先生?」
「そして付き合い始めて、勉強を教えてもらってる時とかに手が触れ合っちゃったりして、そのまま……キ、キスを………」
「あの、先生」
「そしてその後キスが止まらなくなってそのまま、そのまま………って、あれ?………あ……………………」
先生の顔色が真っ青になっていく。
そしてガクガクと震えながら机に突っ伏した。
「…す…て」
「?」
「わすれて…」
小さな声が聞こえた。
「先生」
「はい…」
先生が少しずつ顔を上げる。
「先生、安心してください」
「あ、秋海くん…」
先生が少し涙目になり、僕の名前を呼ぶ。
「大丈夫です、先生の頭の中が実は凄く乙女で、妄想を始めると我を忘れてしまうことなんて、もう完全に忘れましたから!」
「忘れてええええええええええええええ!!」
指導室に先生の声が響いた。
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数分後、先生がやっと落ち着きを取り戻した。
ちなみに先生が再起不能の間に来栖さんには『先生との話長引きそうだから、帰ってて』と送った。
すぐに返信が返ってきて『了解、もし、明日用事ないなら明日でも大丈夫だよ』と来た。
そんな感じで来栖さんとは明日話すことになっている。
わざわざ休みの日に相談に乗ってくれるとは思わなかった。
そんなメッセージのやり取りをしているうちに先生が落ち着いたわけだ。
「すいません、お待たせしました…」
先生が絶望したような表情で謝ってくる。
少し意地悪しすぎたかな。
「はい、その、僕の方こそなんかすいません…」
「いや、私が悪いの…普段から少女漫画や恋愛小説ばかり読んでるせいで、脳内が恋愛に埋め尽くされちゃってて…」
なるほどね…。とは言い、読んでるだけであそこまでの妄想がパッと出てくることは無いと思うけど…
「でもまあ、誰にも言わないので安心してください。
僕が忘れるって言うのは無理ですが…」
「あ、ありがとう…秋海くん…」
「でも正直驚きました…普段の先生からは想像でき、無くもないかな…」
「ちょっと!普段の私はあんなんじゃないわよ!
普段の私は真面目で生徒からの信頼も厚くて、凄い大人の先生って感じでしょ!」
「え?」
「え?」
「いや、その、真面目だとは思いますよ。
生徒からの信頼も厚いと思いますよ。はい」
「え…?大人の先生って感じじゃないの?」
「その…えっと…多分みんな友達みたいな、そんな感じに思っている気がします…」
僕がそう言ったら先生は「今まで苦労が…」と呟いて明後日の方向を見ている。
「でも」
「なに…?」
「先生はそのままでいいと思いますよ」
「でも、友達みたいなのって先生として…」
「いや、それでいいんじゃないですか?」
「どういうこと…?」
「だって、その方が相談とかしやすいじゃないですか。
現に僕は先生が話しやすいから相談をしようと思えたんですよ?」
まあ、今日は相談に行くまでが長すぎるけども。
もうかれこれ30分ぐらいたってるんじゃないだろうか。
「そういうものなの?」
「そういうものです。
先生は上司と友達だったらどっちに相談したいですか?」
「それは友達だけど…」
「そうですよね?そういう事ですよ」
「そっか、そうなんだ」
ん?あれ?僕、なんで先生に説教紛いな事してるんだ?
やば、謝らないと。
「すいません!ただの生徒のくせに説教みたいな事しちゃって…」
僕が謝ると先生はぽかんとしてから、微笑んだ。
「謝らないでいいよ。
というか私からお礼を言いたいぐらいかな。
秘密を守ってくれるのも勿論だし、今のままでいいって言われて嬉しかったし…」
良かった。
先生が優しい先生で。
「だから、その。
秋海くん、ありがとうね」
僕の目を見て先生がお礼を言ってくる。
面と向かって先生にお礼を言われるのは、なんと言うか、照れるな…
「えと、どういたしまして?」
「なんで疑問形なのよ…」
最後の最後に呆れられてしまった。
「あれ?そういえば秋海くん相談があったんじゃなかったっけ…」
やっと思い出したか。
30分以上ただただ話してたからな。
まあ、先生の新たな一面を知れて面白かったから、良かったんだけども。
「そうですね」
「ごめん!変に時間使っちゃって!」
「いや、急いでるわけでもないので大丈夫ですよ。
それに、先生の新たな一面を知れて面白かったですしね」
「うぅ…忘れて」
おっと、ついつい意地悪してしまった。
なんでだろう、先生の反応が面白くて、つい意地悪をしてしまう。
ほかの人達が、『ともちゃん』や『石田ちゃん』と呼ぶのはこの感覚なのではないだろうか。
「で、相談って?」
おお、そうだ、相談ね、相談。
「その、奏の事で少し相談が」
「凛堂さん?……っ!まさか!告白を!?」
「秘密バレたからって自重しなくなるのやめてください」
「すいません……。
それで凛堂さんの事で相談って?」
ほんとにこの先生は乙女だな…
「えっと、学校の人たちの奏に対する扱いについてなんですが…」
「あ…そういう事ね…」
先生の表情が暗くなる。
やっぱり良く思っていないのだろう。
「それで、その、現状を改善出来るかもしれない方法が思いついたんですけど…。
その内容で相談が…」
「本当に…?」
「はい。
ですが、それを実行するには先生の協力が必須で…」
「言ってみて。
全力で協力させてもらうから」
「ありがとうございます。
では遠慮なく…。
今考えている方法は・・・・・・・」
僕は先生に今考えている改善策を詳しく話した。
「本気で言ってるの?」
「こんな冗談は言いませんよ」
僕は先生の目を見た。
先生も僕の目を見て「はぁ…」とため息を吐いた。
竜也と同じような反応になるのは、内容が余りにも衝撃的だからだろう。
「本当に…変わったわね、秋海くん」
「そうですね、僕は変わったと思います。
でも、いい方向に変われた、と言ってくれたのは先生ですよ?」
「そうだけど…はぁ…」
やっぱり無理だろうか。
流石に諦めるか。
「無理なら大丈夫ですよ、他の方法考えるので…」
「無理なんて言ってないわ」
「え?」
「だから、無理なんて言ってないじゃない」
「えっと、じゃあ」
「そうね、私から頼んでみるわね。
あ、でも、期待しないでね。
こんなこと今まで誰もやってないだろうから許可が降りるかは、分からないわよ」
「でも、掛け合ってはくれるんですよね?」
「努力はするわ、あんなに本気の眼差しで見られちゃ断れないわよ。
それに…大事な生徒の頼みだしね」
「ありがとうございます!」
僕は椅子から立ち上がり頭を下げた。
「ちょっ…そんなお礼なんて言わないで。
先生として当たり前のことなんだから。
それに私も、凛堂さんを取り巻く現状はどうかと思ってるの」
僕は椅子に座り直し先生の話を聞く。
「凛堂さんは相談してこないけど、何度も話を聞きに言ったわ。
『大丈夫です』としか言われなかったけどね」
先生は何度も助けようとしていたのか。
「奏は、大丈夫では無かったみたいです。
この間、話を聞いたら、『辛い』と言っていました」
「そう…、それでどうにかしたいと思ったの?」
「はい、このままじゃダメだと思うんです。
このままじゃ、奏は笑顔で高校を卒業出来ないと思うんです」
「うん、私もそう思う。
学校の子達はみんな笑顔で卒業させてあげたい」
本当に石田先生はいい先生だ。
クラス関係なく助けようとして。
「だから私からもお願い。
協力できることは少ないけど、凛堂さんを取り巻く現状を、どうにか変えてあげて」
そう言って先生は頭を下げてきた。
先生は今、奏のために頭を下げている。
立場とかそんなことを気にせずに、生徒に頭を下げている。
こんな風に頼まれたらもう、後戻りは出来ない。
「絶対に改善します。
そして奏を笑顔で卒業できるようにします」
僕はそう誓い、指導室を後にした。
先生は早速、教頭に掛け合いに行ってくれるようだ。
本当に助かる。
これでほぼ準備は揃った。
後は明日来栖さんに頼み事をするだけか。
僕は明日の予定を決めるため、来栖さんにメッセージを送った。
『明日の予定だけど、どうする?』
『昼頃、福園駅で良い?』
『ごめん、知らない場所は少し怖いかも、北城東駅か、北城西駅にしてもらってもいいかな?』
『そっか、ごめん、じゃあ北城東駅にしよっか。
あ、秋海くんの家って奏の家の近くなんだよね?』
『そうだけど』
『じゃあ秋海くん家で良いんじゃない?』
『えっと、来栖さんが良いなら大丈夫だけど…』
『じゃあ決定!明日北城東駅着きそうになったら連絡するから迎えに来てね』
『了解、お昼ご飯どうする?なんならうちで適当に作るけど…』
『もしかして、秋海くんの手作り!?』
『とは言っても簡単なものだけどね』
『楽しみになってきた!いつも料理してるの?』
『元々、お父さんが仕事で忙しい時は作ってたらしい、そのおかげか普通ぐらいには料理できたよ』
『凄いね!期待しとくね』
『期待を裏切らないように頑張るよ』
『じゃあ、明日、昼前ぐらいに行くからよろしくね』
『うん、わざわざ休みの日にごめんね』
『いいよいいよ、ご飯もご馳走になるんだし』
『ありがと、じゃあまた明日ね』
『うん、また明日』
流れでうちで話すことになってしまった。
よりにもよって明日お父さんが用事で家にいない。
なんでだろう、最近家で女の子と二人になることが多い。
しかも料理をすることになってしまった。
どうしたものか…
普通に作れるが何を作ればいいものか…
とりあえず明日頑張ろう。
そういえば、あれも買っておかないとな。
今日が…8日だから、約1週間後か。
それまでに奏の現状も解決したいな。
とにかく頑張ろう。
僕は不安と緊張を胸に、家への帰路についた。
ともちゃん先生との話が想定より長くなって来栖さんとの話を今回でかけなかった…
ちなみに私はともちゃん先生が結構好きだったりします。
今回で10万文字を超えたようです。
正直途中で飽きて書くのを辞めると思っていたので、ここまで書けたのは自分でも驚いています。
ここまで来たならば完結させたいと思っているので、よろしければ最後までお付き合い下さい。
ちなみにもう終盤のつもりですが、どんどん話が膨張して長くなるかもです。
次回の更新は3/25です。




