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秋の夕暮れからの記憶  作者: 茶々
23/36

第22話 奏の過去

終始主人公視点ではございません。



私は今でも昔の事をよく思い出す。

今日、香太の家で話をしていて、原因を聞かれた時も巡り巡って自分の過去を思い出してしまった。

忘れたいけど忘れられない中学時代。

私は香太にこの事を話すべきか悩んでいる。

今まで綾芽にしか話していない中学時代の事。

そして他にも香太に内緒にしている事がたくさんある。

例えば、高校2年生の春の事とか。

香太は気づいてないだろうけど、私は香太と面識があった。

香太は記憶を失くし、忘れてしまったけど、私にとっては凄く大きな、絶対に忘れられない出来事だった。

尤も、記憶を失くす前から香太は私のことを覚えていなかったようだけど。

だけど今日、香太には悪いけどこっそり日記を確認して確信した。

あれは香太だった。

私の勘違いでは無かった。

そうなるとやっぱり香太は私を救ってくれたことになる。

二度(・・)も。


私は香太に相談すれば、中学時代のトラウマを乗り越えられるのでは?と思ってしまう。

香太は優しいから親身になって相談に乗ってくれるはず。

だけど良いのかな、こんなに香太を頼っても。

相談するという事はあの出来事を全て話すということ。

話すべきなのだろうか……

そう考えている内にまた、いつものように過去の事を思い出してしまった。

思い出したくもない、私の過去の出来事を。



--------------------



私は小学校を出るまでは今も住んでいる北城市に住んでいた。

そして綾芽は幼稚園、小学校とクラスが離れたことの無い腐れ縁だった。

それなのに、小学校6年生の2月、お父さんから告げられた。


『奏、来月末、引っ越すことになった』


私はお父さんにこう言われた時は最初、理解が出来ていなかった。

そしてお父さんに詳しく説明されていくうちに理解した。

私は北城市から離れる事になるのだと。

そして、綾芽や他の友達と離れ離れになるのだと。

私は全力で抵抗した。

今思うと子供だと思うが、その時は小学校6年生だったのだ、仕方ないだろう。

仕事の都合での転勤なのに、当時の私はそんな事知るかと言わんとばかりにお父さんを怒鳴りつけた。

今思えば完全なる八つ当たりだったと思う。

だけどお父さんはずっと謝ってくれた。


やがて私は、泣き疲れ布団にくるまって眠った。

その次の日は学校をサボってしまっていた。

お母さんの心配する顔を今でも覚えている。


だけど小学生という事もあり思考は単純だった。

1日置いてお父さんともう1度話した時は特に悲しいという気持ちは無かった。

どちらかと言うと楽しみという気持ちが増えていた。

不安はあるけど、それ以上に新天地が楽しみだった。

こう思えるようになったのは、お父さんにこっちの友達とは電話で話せると言われたからだろう。

さらに携帯電話も買ってもらえるという話にもなっていた。

その結果私は楽しみという気持ちになった。


そして引越しの日が来た。

綾芽や他数人の友達が見送りに来てくれた。

私は綾芽と抱き合い、泣き続けていた事を覚えている。

その時綾芽が『お父さんに携帯電話買ってもらえるようにオネダリする!』と言っていた。

その結果か、数日後電話で携帯電話を買ったと綾芽に言われた。

その時は凄く嬉しかった覚えがある。


私は引越し先の中学校である唐沢(からさわ)中学校に通うことになった。

その中学校は正直言って、田舎の学校そのものだった。

クラスは1クラスのみ。校舎も木の造り。

そもそも引越し先が、都会の北城市に比べると明らかな田舎だったから仕方ないだろう。


学校初日、私は緊張していた。

当然だろう、事前に職員室に手続きをしに行った時に聞いた話では、私以外全員が小学校から同じらしい。

馴染める気がしない。

それが私が最初に抱いた気持ちだった。

そしてそれは外れていなかった。

というか馴染む以前の話だった。

何故なら私は学校が始まり1ヶ月が経った頃に苛めにあっていたからだ。


事の発端はなんだったのだろう。

その時は分からなかった。

だけど今なら分かる。

それは学校が始まってから1ヶ月の間にクラスの男子が私に何度も告白をしてきていたことにあるだろう。

そしてそれを全て断ったことも原因だろう。

そうなれば、女子達は当然腹が立つだろう。

突然都会から引越してきた女が、男にちやほやされているのだから。

私としては理不尽もいい所だけどね。

とにかく私は、そんなくだらない理由で苛められていた。


とは言っても小さな事だった。

わざとらしくぶつかってきたり、陰口を聞こえるように言ってきたり、靴箱に嘘のラブレターを入れられたり。

だけど、人の心は小さな事で簡単に崩壊に向かっていくのだ。

ギリギリ壊れていなかったのは綾芽のおかげだろう。

少なくとも週に一回は電話で話していたのだから。

綾芽には私の様子がおかしい事は簡単に気付かれた。

隠していたのに何度も『大丈夫?』と聞かれた。

それなのに私は、嘘を吐き続けてしまった。

今思うと、苛めが始まった時にすぐ相談していれば良かったと思う。

そして親にも綾芽にも相談しないまま中学二年生になっていた。

苛めはなくならない。

学校の先生はずっと見て見ぬ振りだ。

三者面談でも苛めの事には絶対に触れない。

気付いているくせに。

苛めの内容もずっと同じようなものだが、人の心は思った以上に弱いのだ。

私は毎日布団で泣いていた。

そして気を紛らわすように全力で勉強をした。

良い成績を取って、クラスの人たちを見返すという意味も込めて。

結果的に私は学年で一番の成績になっていた。

それどころか、成績表は毎回全教科最高評価。

これでクラスの人達も私の認識を改めるだろう、そう思っていた。


だけど苛めは悪化(・・・・・)した。


その時だろう。

感情を失くしたのは。


中学二年生の時の私は周りから気持ち悪がられていた。

苛めが悪化した事で直接的な苛めが増えたが、私は全てを軽くあしらっていた。

悪戯のラブレターは文字から、差出人を特定し、その人の机に返してあげた。

私は勉強の復習がてら毎日家でその日のノートを別のノートに書き写していたので、学校で使っているノートがビリビリに破られた時も問題が無かった。

靴に画鋲を入れられて足の裏を怪我した時は、無言で外してポケットから絆創膏を取り出し貼り付けていた。

バレないように遠くでその様子を見ていた生徒は面白くなそうな顔をしていた。


その結果どんどん苛めは悪化していった。

だけど私は学校には通い続けた。

これで学校をサボってしまっては親に心配かけることになる。


そして私という人間は壊れた(・・・)


綾芽から電話が来ても出ないことが増えてきた。

時々電話に出ると凄く心配した様子で話してくれる。

だけど私の心はそんなことじゃ治らなくなっていた。

そして中学三年生の冬。

私は家族と一緒に北城市に来ていた。

両親は私の異変に勘づいてはいるが、確定できる情報を手に入れられてない。

私が全く情報を出さないから。


そして北城市で2年半ぶりに綾芽に会った。

綾芽は凄く美人になっていた。

その時綾芽を見た衝撃は今でも覚えている、小学校の時は男の子にも間違われていた綾芽が、ポニーテールでスタイルも凄く良い、誰がどう見ても美人になっていたから。


そして綾芽と会って言葉を交わした瞬間私は泣いてしまった。

限界が来たのだろう。

今までずっと1人で抱え込み、誰にも相談せずに自分を壊していったのだから。

そして綾芽という存在に私の心が緩んでしまったのだろう。

綾芽は何も言わず私を抱き締めてくれた。

綾芽は私の異変の原因が苛めだと勘づいていたのだろう。

だから敢えて何も言わないでくれた。

泣き止むまで安心できるようにしてくれた。

私は綾芽の胸で30分ぐらい泣いていた。

泣き止んだ後綾芽に引越した後の事を聞かれた。


最初は苛めの内容を口に出すのが怖くて喋れないでいた。

その時綾芽に言われた言葉は今もハッキリと覚えている。

綾芽は私の両頬に手を当てて『私の目を見て(・・・・・・)。大丈夫。私は味方(・・・・)だよ』と言ってくれた。

この言葉は今でも一番好きな言葉のまま。


その言葉を言われた私は、何もかも包み隠さずに話した。

話してる最中、自然と涙が溢れてしまった。

綾芽はずっと私を安心させてくれる言葉をかけてくれていた。

お陰で全てを話すことが出来た。

話し終えた後、綾芽は『気付けなくてごめん…奏はこんなに大変だったのに…本当にごめんね……』と謝ってきた。

綾芽が謝る必要は無いのに。


その後もしばらく綾芽と話し続けた。

そこで綾芽が入る予定の高校の名前を聞いた。

私は決めた。

お父さんに無理言って一人暮らしをさせて貰って、綾芽と同じ高校に通うと。


そして家に帰った後お父さんに北城高校を受ける事と、一人暮らしをしたい事を伝えた。

そしたら予想外の答えが返ってきた。


『春から北城市に引越すことになってるから丁度いいな』


一人暮らしをするまでもなく北城高校に通えるという事実に私の心は湧き上がった。

直後、綾芽に電話でこの事を伝えた。

この時の私は受験に失敗する事なんて考えてもいなかった。

何故かと言うと私の成績は、どんな難関校でも合格可能な成績だったから。


それからの私は、高校に入った後、中学の時のような失敗はしないようにと、全力で準備を始めた。

そして北城市への引越しの日。


私は解放されたという気持ちで、それまで住んでいた地を去った。

そして今も住む家に引越した。


それから数日後、高校が始まった。

クラス分けで綾芽と同じクラスと知った時はとにかく嬉しかった。

私は入試試験で一番成績が良かったようで新入生代表に選ばれていた。

だけど、そんなこと怖くもなかった。

それ以上にクラスに馴染めるかが怖かったからだ。

綾芽が居るから大丈夫だろうと思っていたが。


私は緊張しながら教室に入った。

中学時代のような失敗はしないと思いながら。


それなのに、どうしてこうなってしまったのだろう。


中学時代の苛めの原因だった、男子からの告白はしっかり対処した。

中学時代のように雑に断るのではなく、しっかりとした理由をつけて。

それなのに女子達からは嫉妬の目が向けられた。

なので私はクラスの女子達に全力で優しくした。

その結果、何故か一歩引いて関わられるようになった。

もう意味が分からない。

綾芽に相談して対処しようとしたが変わらなかった。

普通に男子とも仲良くしようと思ったが、何故か男子も一歩引いて関わってくる。

綾芽からどういう事か聞かされた時は衝撃だった。

なんでも私は男子の間で高嶺の花と呼ばれてるらしい。


だけど中学時代のように苛められる事は無い。

しかも綾芽という友達もいる。


その結果私は、現状維持でいいのではないかと思い始めた。

確かに特別扱いされるのは凄く辛かった。

だけど高望みはしなかった。

悪化するのが怖かったから。


そしてそのまま二年生になり、新入生が入ってきた春の日の学校の帰り道、不良に絡まれた。

ガラの悪い男3人組だ。

怖かった。

とにかく怖かったことを覚えている。

助けを呼ぼうと叫びたかったが、口が押さえられた。

その時、私は思った。


(もう、嫌だ)


と。


全てを諦めて力を抜いた時だった。

場に似合わない腑抜けた男の子の声が聞こえた。


『あの〜……警察呼んだんでそろそろ来ますけど、そのままで大丈夫ですか?』


そこには私と同じ高校の男子生徒が立っていた。

ネクタイの色からして1年だろう。


そして、私の口を押さえる手が離れた。


『誰だ?手前(てめえ)


と不良の一人が声を発する。

それを拍子に喋っていない2人が男子生徒に殴りかかった。

男子生徒は『やっべ……君!表通りにさっさと逃げちゃって!』と私に逃げるように促してくれる。

私は言われるがままに表通りに向かって走った。

男子生徒は私が逃げやすいように敢えて逆に走っていったようだ。

大丈夫かな…と思った時警察の人が来た。


『あのっ!この路地の奥に私を不良から庇ってくれた人が…!』


『教えてくれてありがとう、一応事情とか聞きたいからここで待っててね』


と言って警察の人は路地の奥に向かって走って行ってくれた。

これで大丈夫だろう。


安心はしたけど、気になってしまって少し路地の奥の方へ歩いてみた。

そこには走ったせいで落ちたであろう生徒手帳があった。


その生徒手帳には〈秋海香太(・・・・)〉と書いてあった。

諦めかけた時に助けてくれた男の子。

私はこの時、秋海香太に初めて救われた。




数日後、生徒手帳を届けるために1年の教室を訪ねた。


『秋海香太って人、このクラスに居る?』


『えっ!凛堂先輩!?え、えっと居ますよ、あの人です』


ドアの近くに居た女子生徒に声をかけたら驚かれてしまった。

私のことは既に下級生にも知られているらしい。

とにかく秋海くんの席を教えてくれたので向かう。


『えっと、秋海くん?』


『あ、はい、そうですが…何か?』


『えっと、これ』


そう言って生徒手帳を渡す。


『あ、この間無くしたやつだ。

拾ってくれたんですか?ありがとうございます』


『あ、うん。

もう無くさないようにね』


この時私は驚いた。

私のことを覚えていなかったことに。

驚きのせいかお礼を言いそびれてしまった、いつかお礼を言わなければならないだろう。

あの時、“あのまま救われなかったら”と考えると恐怖しか浮かばない。

さらにその後、もっと驚く事になった。

私が秋海くんの席から離れたあと、秋海くんの横に居た男の子が『おい…あれ凛堂先輩じゃねえか』と言っていたのに対し、秋海くんが『誰?竜也知り合いなの?』と言っていたことだ。

新入生とはいえ、私の事を全く知らないという事実に驚いた。

そして私はこの時から秋海香太という男の子が気になり始めていた。



そしてつい最近の11月8日。

私は体調不良の中、学校に行っていた。

そのせいで帰り道ふらついていた。

電車を降り、家の方向に歩き始めて、横断歩道を渡っていたその時だった。

突然誰かに突き飛ばされたのだ。

その直後……


ドカンッ!


聞いたこともない爆音が真後ろで鳴り響いた。

少し周りを見渡すと、男の子が倒れていた。

そしてその男の子は、秋海香太という男の子だった。


私はこの時、秋海香太という男の子にもう1度救われた。



--------------------



私は香太と仲良くなるにつれて、香太と一緒にいる時間が好きになっていた。


だけど時々罪悪感に蝕まれる。


私のせいで記憶喪失になったのに、私が楽しんでいていいのか、やっぱり何か償いをするべきなのではないか、と。


そして今朝、そんな罪悪感を感じていた時、香太が真面目なトーンで私の名前を呼んだ。


そして私は、香太に説教をされてしまった。


その説教中に言われた『嫌い』という言葉。

この言葉を聞いた瞬間、今までに感じたこともないほど、辛い気持ちになった。


だけど、その後に言われた『好き』という言葉。

説教中の言葉の綾ということはわかっている。

それなのに、『好き』という言葉が頭をぐるぐる回る。


そして香太に抱き締められた。

そして『大好き』という言葉を言われた。


その時、私は自覚した。


(あぁ…私、香太の事、好きなんだ)



香太を想うだけで、過去の事を忘れられそうな気もする。

香太を想うだけで幸せな気持ちになれる。


明日、綾芽に相談しよう。


私は秋海香太が好きだという事を。


そしていつか、香太に伝えよう。


この気持ちを。

ここに来て初めて奏視点を書いてみました。

書き始めの当初から奏視点を初めて書く時は過去と決めていたので、今までの視点変更は他のキャラだったんですよね。


正直かなり書くのが難しかったので、変な所も多いと思います。

次回からは普通に主人公視点に戻ります。


次回の更新は3/18です。

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