表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秋の夕暮れからの記憶  作者: 茶々
21/36

第20話 学校での奏

すぐ戻りますが、途中まで主人公視点ではありません。




秋海と竜也が出ていった教室は静寂に満ちていた。

それも仕方ないだろう。

だって…えーっと?情報量が多すぎて整理ができねえ。

まずあれだ、秋海ってあんなやつだったか?

あんなに喋ったか?あんなにハキハキ喋れるやつだったか?今まではずっとおどおどしてる感じじゃなかったか?しかもその秋海が凛堂先輩を庇って事故に遭った?そしてそれきっかけで仲良くなった?名前で呼ぶほどに?そんなことありえるのか?

待てよ?秋海は最初に信じなくてもいいって言ってたよな?

いやいや、もしさっきの話に嘘があるとしても、それなら最初にわざわざあんなこと言わないだろ…

じゃあ全部事実なのか?

あぁあああああ!理解が追いつかねえええ!

はぁ…竜也は事前に色々聞かされてたのか…見舞いに行った時に聞かされたのか?

というか、思い返すと少し前に凛堂先輩が竜也を尋ねてきてなかったか…?

やべえ…さらに分からなくなってきた。


「なあ、(じゅん)

秋海ってあんなやつだったっけ…?」


俺がうんうん唸っていると、横から声が掛かった。


「やっぱり(まさ)もそう思ったか…

俺もそれは感じてたんだよな、あいつってあんなに喋るやつじゃなかったよな?」


「あぁ、それに色々と情報が多すぎて…事故の事もそうだが、秋海が凛堂先輩を名前で呼んでいたことが衝撃でな」


確かにその衝撃は大きかった。

なんたって凛堂先輩は大体の男子生徒から高嶺の花の様に扱われている。

過去幾人も告白をしたが全て断られたのが事の始まりだった。

ちなみに今話している昌も断られた1人だ。

そのうち、凛堂先輩に告白をする人は一切居なくなった。

そしてみんながみんな高嶺の花の様に見るだけになっていたのだ。

女子生徒の場合は、後輩からは憧れの存在として、凛堂先輩と同い年の女子からは嫉妬の気持ちから一歩引いて関わるが、凛堂先輩があまりに優しすぎたため、全員嫉妬する気も失せたとか…例外もいたが…。

そんな凛堂先輩に突然親しげに関わるやつが現れた。

しかもそいつは、陰という字が良く似合うほどの陰キャラだった。

そんなやつが凛堂先輩を名前で呼んだとなると、良く思わない男子が出てきてもおかしくないだろう…理不尽な話だとは思うが人間の心理的に仕方の無いことだろう。


「気になる事は多いが、秋海のやつしっかり予防線貼ってるからな…」


あいつはしっかり教室に出る前に「これ以上変に追及しないでね」と言ってきた。

しかもその後に事故のことを思い出したくないと着けて質問をしづらい方向に誘導してだ。


「とにかく、俺たちで思考を完結させるしかないってことだよなぁ…」


「あぁ…そうだな…」


教室にいる大抵の人は、凛堂先輩を名前呼びしていた事に疑問を消しきれないようだ。


教室がいつもの雰囲気に戻るまでは多くの時間を有した。

そして授業が始まる5分前に、秋海と竜也は教室へ戻ってきた。



--------------------



竜也と一緒に教室から逃げ出してきた僕達は学校の中庭に来ていた。

少し寒いけど、寒いおかげで誰も来ることは無いだろう。


「はぁ……あれで正解だったかな…」


僕は独り言を呟く。

正直やっちまったという気持ちが強い。

確実に今後クラスの人達に普通に接しては貰えなくなっただろう。

あー面倒臭い…


「まあ、良かったんじゃないか別に。

あれ以上の正解は無いだろうしな、嘘を言うっていう手もあったけど、香太としてはそれは嫌だったんだろ?」


「うん、出来るだけ嘘は吐きたくなかったね、唯でさえ記憶喪失の事を隠して嘘を吐いてるようなもんなんだし…」


そこで僕は教室で感じた違和感を思い出したので竜也に質問をしようと思った。


「そういえば、クラスの人達がざわめくのは内容的に当たり前だとは思うんだけど、なんかおかしくなかった?

事故についてのざわめきじゃなく、奏の名前に対してのざわつきというか…」


僕が竜也に対してこう質問すると、竜也は「あー…」と少し困ったようになって静かに口を開いた。


「いい機会だから説明するわ、この学校で凛堂先輩がどう思われているのかを」


そう前置きをしてから竜也は説明してくれた。


竜也の説明によるとこういうことだったの。


奏は学校で生徒達から羨望の眼差しで見られ続けているらしい。

そこまでは僕も知っていたが、驚いたのは同級生でさえそういう風に見ているらしい。

男子生徒からは高嶺の花のように、女子生徒からは目上の人と相対するように、唯一普通に奏と関わっているのは来栖さんぐらいらしい。

竜也も何故こういう風になっているのかは分からないらしい。

後輩からも奏は同じように見られているようだ。

僕達が1年の頃、要するに一年前までは奏の綺麗な外見に惹かれ告白をした男子生徒も多かったようだが、奏は全てを断り続けたようだ。

そのうち奏は後輩からも高嶺の花として見られているらしい。

そしてさらに驚いたのが、奏と名前で呼び合うほど仲が良いのは来栖さんだけらしい。

話す人は多いが、親しい友達も居ないらしい。

僕が奏と呼んで教室がざわついたのはこのせいだろう。



「それって奏はどう思ってるの?」


「そればっかりは分かんねえな、ただ俺がもしその立場になったら絶対嫌だろうな」


うん、当然だろう。

そんな扱いを受けていたら絶対嫌だ。

さらにタチが悪いのは、生徒達に悪意がない事だろう。

悪意が無いからこそ奏はやめて欲しいと言えていないでいるんだと思う。

どうにか出来ないものか…


「なあ、香太。

こういう言い方はしたくないけど、どうにかしようとかは絶対考えるなよ。

唯でさえさっきの騒ぎで香太の立ち位置は危ういのに、これ以上動いたらマジで苛められるぞ」


「うん…分かってる、分かってるけど…流石に奏が可哀想だよ…

今度、奏に現状どう思っているのかを聞いてみる、それぐらいならいいでしょ?」


「まあ、それぐらいなら大丈夫だろうけど…凛堂先輩は聞かれたくないんじゃないか?」


「確かにそうかもね。

でも、奏が独りで抱え込んでるのはなんとなく嫌だ。

せめて相談に乗るぐらいはしてあげたい」


奏が僕にしてくれたように。


「そうか…香太がそう言うなら俺は止めねえよ、頑張ってくれ」


今日の帰り聞いてみよう。

奏に嫌な思いをさせるかもしれないけどこれは聞いておかなきゃダメな問題だ。


あ、待てよ、今日の帰り…


「あのさ、今日の放課後教室に奏来るんだけど大丈夫かな…?」


「は?なんで?」


「いや、えっと、家も近いし一緒に帰ろうと言うことになってまして…」


僕がそう言うと竜也は呆れたようにため息を吐き


「まあもう約束しちゃった事は仕方ねえだろ…それにそれぐらい仲良いって見せ付けられるから、降りかかる厄介事も減るんじゃね?」


竜也はもうどうにでもなれといった様子で言葉を発する。


「まあ、何とかなるかもなぁ…」


この昼休みに色々ありすぎて考えるのが面倒になってきた。

ん?昼休み……時間大丈夫か?

そう思ってスマホで時間を確認する。

授業開始8分前だった。

危ない、気付いてよかった。


「とりあえず教室戻ろ、寒いし時間もあれだから」


「ん?ああ、ほんとだ、結構話してたんだな、戻るか」


そう言って僕達はベンチから立ち上がり校舎に入っていった。



--------------------



「起立、礼、さようなら」


「さようならー気を付けて帰ってねー」


日直が挨拶をして、その後ともちゃん先生が挨拶をする。

大半の人は部活があるのかともちゃん先生に挨拶をしてからすぐに教室から出ていく。

僕は椅子に座って伸びをする。

久しぶりの学校はなんだかんだで疲れた。


「竜也ー部活行こうぜー」


「おう、じゃあ香太また明日」


「ん、また明日ー」


そう言って竜也と田村君とほか2人が教室から出ていく。

教室から出ていくとき田村君の表情が変になっていたが何かあったのだろうか。

とりあえず奏がくるまで待つか。


「えっと…秋海君?呼ばれてるよ…」


クラスメイトの1人の女子が、教室のドアの方を指差しながら声をかけてくる。

そこには手を振っている奏がいた


「教えてくれてありがと、また明日」


「う、うん、また明日」


僕はお礼を言ってから荷物を持ち教室の出口へ向かった。

幸いと言うべきかうちのクラスは部活に入っている人が多いらしく、みんなすぐに教室から居なくなっていた。

おかげで奏が教室に来ても騒ぎにはならなかった。

昼休みの心配は杞憂だったようだ。


「ともちゃん先生、さようなら」


「ちょっと待ちなさい秋海君。

今朝までは普通に石田先生って読んでたわよね?どうしてそんな呼び方をしてるのかしら?」


「あ、すいません、つい」


「つい、じゃないわよ…まあいいわ、今更だし。

引き止めてごめんね、さようなら帰り気を付けてね」


「はい、ありがとうございます」


僕が事故に遭ったのが学校の帰りだったので先生が心配してくれた。

本当にいい先生だ。


僕は先生に軽く頭を下げてから教室を出た。


「お待たせ奏。

あ、来栖さんこんにちは」


奏の横には来栖さんもいた。


「ううん、全然待ってないよ。

というか私たちが少し早く来すぎちゃっただけだから」


「お久しぶりー秋海君。

今日奏と一緒に遅刻したんだってね?」


「ははは…」


遅刻に関しては乾いた笑いしか出ない。

遅刻の理由が説教してたからって、どんな理由だよって話だしな…


「とりあえずここで話してても邪魔になるし帰ろっか」


「ん、了解」


教室の前で話していた僕達は昇降口に向かって歩き始めた。


「香太、久しぶりの学校どうだった?」


「やっぱり久しぶりだからか疲れるね…」


「1ヶ月ぶりぐらいだもんね、授業とか大丈夫だったの?」


「授業は問題なかったかな、思ってた以上に勉強も出来るっぽかったし」


「それは良かった。

朝からずっと奏が秋海君の事心配してそわそわしてたから大変だったんだよ?」


「ちょっと綾芽!言わないでよっ!」


奏が慌てて来栖さんを叱りつける。


「心配してくれたんだ、ありがとね奏」


「うん…」


僕に礼を言われた奏は何故か下を向いてしまう。

どうしたんだろ。

来栖さんは奏を見てくすくす笑っている。

そんなやり取りをしているうちに昇降口に着いた。

下駄箱の位置が違うので一度別れる。

僕は靴を履き替えて昇降口を出る。


僕より少し遅れて奏と来栖さんが来た。


「じゃあ帰ろっか、駅までだけどご一緒させてもらうね」


そっか、来栖さんは電車が逆方向だったな。


駅までの数分間僕達は他愛もない話をしながら歩いていた。

するとすぐに駅に着いてしまう。

誰かと話しながら歩くだけで時間は短く感じるものだな。


「じゃあ私こっちだから、また明日ねー」


来栖さんが軽く手を振りながら逆のホームに歩いていく。

別れ際に奏に耳打ちをしていたが何を言ったんだろう、奏が何も言わなくなってしまったけど…

そんな時電車のドアが開く音がした。


「あ、奏!丁度電車来てるっぽい!急ご!」


僕は奏の手を掴み駅のホームへ少し小走りで向かった。

流石に階段をこれ以上のスピードで進むのは危険だろう。

電車はそれほど混んでなかった。

いや混んでないわけでは無いのだが、朝に比べると、ね。

とりあえずなんとか間に合った。

奏は何故か顔を真っ赤にしている。


「あっ、ごめん、急いでたから掴んじゃった」


奏の手を掴んでいた事を思い出し慌てて手を離す。


「う、うん、大丈夫」


急いでたからと言って急に手を掴んでいた引っ張るのはダメだよなぁ…

手首とか痛めたら申し訳なすぎる。


奏は電車の座席の横の手すりに手をかけ落ち着いたようだ。

僕はつり革を掴み奏の横に立つ。


「急に手掴んでごめんね、痛くなかった?」


「うん、大丈夫だよ、急に掴まれて少しびっくりしちゃっただけ」


良かった良かった。


電車の中というのは何となく会話がしづらい。

電車に乗り込んでまだ4分ぐらいしか経ってないが、会話が完全に途切れてしまっている。

奏に聞こうと思っていたことも内容が内容だから電車内では話さない方が良いだろう。

どうしたものか、普段ならぽんぽん言葉が出てきて話せるんだが…


「そういえば香太って成績どうなの?」


僕が会話に困っていると奏が声をかけてくれた。


「平均以上ではあるらしいよ、前から勉強の時間が多かったらしいし。

でも、体育だけは結構悪いらしい…

奏はどうなの?」


「ふっふっふ、よく聞いてくれました。

成績は体育以外最高評価でテストは毎回学年一位なのです!」


奏が胸を張ってそう言う。

まじか…ある程度良いんだろうなとは思っていたけどまさかここまで優秀だったとは…


「じゃあ今度勉強教えてもらおうかな、休んでた間のところ分からなくて困ってたし」


「教えるの下手かもしれないけどそれで良いなら教えてあげたいかな〜」


それは助かる。

一ヶ月の遅れは相当なものだからね。

ん?でも待てよ、奏って高3だよな?

受験って大丈夫なのかな?というかこれってもっと早く気付くべき問題だったよな?毎日のように病室来てた時点で聞いておくべきだったのでは?


「教えてもらえるのはありがたいんだけど、奏、受験って大丈夫なの?」


「ん?あ、言ってなかったっけ?私、指定校推薦で9月頃に大学決まってたよ〜」


おぅ…超優秀……


「す、凄いね。

予想以上の優秀さでびっくりしちゃったよ…」


「へっへーん、勉強だけは得意なのだー」


奏は勉強だけと言っているけど、奏ってマフラー編めたり、料理上手だったり、凄すぎないか…?

何となく僕も頑張らなきゃという気持ちになってくるな…


その後も適当に話をして電車での時間を過ごした。

そして北城東駅に着き駅から出る。

そこで僕は奏に話しかける。


「奏、ちょっと話したいことあるんだけど今日早く帰らなきゃダメとかある?」


「? 特に急いでるとかはないけど…話したいことって…?」


「ちょっと、学校で気になる話聞いてね、奏に関わることだから聞いておこうと思って」


「私に関わること…」


「嫌なら大丈夫だけど、僕としては出来れば聞いておきたいことだね」


僕がそう言うと少し考える素振りを見せてから


「うん、分かった」


そう言って了承してくれた。


「うーん、話すのはいいけどどこで話すか…公園とかじゃ寒いしなぁ…」


「香太の家で良いんじゃない?」


「え?」


「香太の家なら暖かいし、私の家も近いから丁度良いんじゃないって思ったんだけど…」


いや、そういう事じゃないんだけども…

僕は別に良いけどさ…

お父さんはまだ帰ってきてないだろうし、家に二人っきりということになる。

奏としては何とも思わないのだろうか。


「えっと、家誰も居ないけど…」


「? 壮太さんも関係する話なの?」


ダメだ、家で男と二人っきりという事に何も危機感を覚えてない。

僕だから大丈夫だけど、この危機感の無さは少し心配になってしまう。

まあ、今日のところは僕の家でいいか。


「いや、お父さんは関係ないんだけども…うん、まあうちでいいか」


「? じゃあ行こ?」


「うん」


そう言って家に向かって歩き始めた。

予想より文字数増えてしまって本来書こうと思ってたところまで書けませんでした…

次回短くなるかもです。


次回の更新は3/4です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ