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秋の夕暮れからの記憶  作者: 茶々
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第19話 質問攻め



体育の時間は体育館の隅っこで座って、レポートのようなものを書くだけの時間だった。

当然、授業には参加出来ていない。

少し運動したい気持ちもあったが、流石に退院してから1週間ぐらいしか経ってないので無理があるだろう。


授業が始まってしばらくしてから、隅っこで見学している僕に黒川先生が話しかけてきた。


「秋海、相変わらずしけた面してんなぁ…」


「ははは…」


かわいた笑いしか出てこない。

恐らく以前の僕も体育の時はこんなんだったのだろう。

なんたってぼっちだったのだ。


「お前、元々運動できなかったのに、まさか怪我をして運動苦手に止めを刺すとはな…」


どうやら僕は運動が苦手らしい。

ちょっと残念だが、家でゲームと勉強ばかりやっていたのなら当然だろう。


その後も少し黒川先生と話し、記憶喪失という事をバレないように、以前の僕の情報収集をした。

話が終わると、黒川先生は他の生徒みんなに集合をかけて僕のもとから去っていった。


黒川先生の話によると、以前から僕はこうして見学をする事が多かったようだ。

基本的に体調不良を原因にしてたようだが、真偽は定かではない。

今の僕でも予想できることだが、恐らくは2人組を作る時に余るのが怖かったのだろう。

うちのクラスの男子は奇数なのだ。

竜也と組めばいいのかもしれないが、竜也は何だかんだ友達が多い。

結果的に僕は余ることになるだろう。

まあ、そのせいで体育の成績は悪いようだ。

今後は積極的に頑張ろう。


体育の授業が終わり、教室に戻り始める。

僕以外の人は着替えがあるので、僕は先に教室に戻ることにした。



--------------------



ガラガラガラ


体育館から帰ってきて教室のドアを開ける。

当然教室には誰も…居た。

次の授業の先生がもう来ていた。

次の授業は…数学か。

とりあえず先生に「お久しぶりです」と挨拶をする。


「お、お久しぶりです。

えっと。怪我はもう大丈夫何ですか?」


何故か少し動揺している。

何故だろうと思ったが、恐らくは僕から挨拶をした事が原因だろう。

先生としても、まさか僕から挨拶されるとは思えなかったんだろうな。


「怪我はもう大丈夫ですね。

で、その、今授業ってどこまで進んでいますか?教科書の何ページまで進んでいるかを教えてくだされば大丈夫何ですけど…」


「あぁ、そうだね、少し待ってくれる?」


そう言って先生は教科書を開いて「ここまでだよ」と指さして教えてくれる。

なるほど、意外と進んでるな。

家でやっておかないと…


「ありがとうございました」


僕はお礼だけ言ってから席へ戻る。

僕が席に着いたタイミングで教室のドアが開き、続々と人が入ってくる。

みんなが、次の授業の教科書などを出したあたりで、男子生徒が5人ほど僕の席にやってきた。


「秋海、久しぶりー、事故ったって聞いたけど無事でよかったな」


事故に遭ったということはクラス全員が知っているのかな?

詳細を知ってるのは竜也ぐらいだろうけど…


「うん、久しぶり。

最初は無事じゃなかったけど、今ではほぼ治ったね」


「そりゃ、良かった」


完全なる、挨拶がわりの会話が行われている。

どこか気まずい空気だ。

僕の視点から言わせてもらうと、完全初対面で名前すら分からない相手なんだから当然だけども…


「で、えっと、お前、今朝遅刻してたけどなんかあったん?」


さっき話した人とは別の人がそんな事を聞いてくる。

やばいな、迷ったって言う言い訳は使えないだろうし、なんて言い訳しよう。

まあ普通でいいか。


「ちょっとね、入院生活の時のリズムで動いちゃってて、寝坊しちゃったんだよね」


「へぇ〜…まあ、そういうもんか」


いや、絶対興味無いぞこの反応は。

というかこの人達何を話に来たんだ?

絶対こんな話をするために来た訳では無いだろう。

あ、そういえば竜也が休み時間覚悟しておけって言ってたな。

どういうことか聞いた時に、校門がなんたらって言ってたような…

あれ、もしかして、今朝奏と登校してきた所見られた?

いやでも、それだけで5人も人が集まってくるわけない…よね…?

あれ…?クラスの全員の意識が僕と5人の会話に向いてる気がするんだけど…

え?もしかして、奏ってそのレベルで人気なの?

その直後、その結論を確証づける言葉が、5人の1人から放たれる。


「てか、秋海って凛堂先輩と仲良いの?」


ほんとに奏の事だったのかよ…

竜也から有名とは聞いてたけどここまでとは思わなかったぞ。

放課後、教室に奏来るんだけど…

というか、なんて答えれば良いんだろか。


うーん……


僕が少し黙っていると、どんどん追い打ちがかかってくる。


「今朝、凛堂先輩と一緒だったよね?」


1人が質問したのを暁にこちらの様子を伺うだけだったクラスの人たちも席の近くまでやってきた。

それは驚くことに女子までもだ。


「凛堂先輩が男子と話してる所初めて見たなぁ…」


「ねえねえ!凛堂先輩って話す時どんな感じなの?」


「前から仲良かったのか?話してる所とか見たことなかったけど」


僕の周りを取り囲むようにして、人が集まってくる。

そしてみんなが口々に質問を開始する。

その数は10を超えているだろう。

聖徳太子でもこの数の質問は厳しいんじゃないだろうか。

そんな事を考えているが、現在進行形で質問がされている。

どうしたもんか、正直答えるのめんどくさいんだが…

というか少し鬱陶しい…

ふぅ…ここは一言言って鎮めるか…


「えっと、口々質問してくれてるところ悪いんだけど、そんな一気に言われても答えれないよ…

さらに言うと僕とかな…凛堂先輩の関係性とか聞かれても答える気ないし、凛堂先輩のプライベートの事とか僕に質問されても答えれるわけがないよ…

そんなに気になるなら凛堂先輩に聞きに行ったら?その方が手っ取り早いと思うよ?」


よし、これで質問は止むだろう。

というか、少し敵を作りそうな発言しちゃったな、これはやらかしたか?


後ろの方で女子たちが小さな声で『直接聞きに行くなんて恐れ多い』的な事を言っていた気がするが流石に聞き間違いだと思う。


しばらくみんなが呆然としていると教室のドアが開いた。


「何かすげえ事なってるな…みんな香太に群がってどうしたんだ?」


救世主竜也様の登場だ。

いや、ほんとに助かりました。マジで。


「竜也も見てたろ、今朝の」


「ん?今朝のって?あぁ、凛堂先輩?」


「そうそう、てか、竜也は何か知らないの?」


「え?あー…」


竜也が『どうする?』と言った目で僕の方を見てくるので僕は『任せる』と目で伝える(伝わったかは分からないが)。

竜也が少し困った顔をするが、その時思わぬ所から助け舟が来た。


キーンコーンカーンコーン


「ほらみんなー、授業始めるから座ってー」


チャイムが鳴り響き、先生がみんなに声をかける。


「10分休みじゃ埒が明かなそうだから、昼休み話聞かせてくれよ?」


竜也と話していた生徒が僕と竜也にそんな事を言ってくる。

昼休み逃げるか…

いや、逃げ場が無いな。


「おうおう、分かったからさっさと席戻れって田村(たむら)


授業開始のおかげで、やっと静かになった。

ふぅ…こりゃキツイな。

質問攻めが怖くて記憶喪失の事隠してるのに、結局質問攻めにあってるなぁ…

まあ内容的に質問攻め自体は辛くないんだが、普通に人に囲まれるのがキツイ。


「竜也、助かった…」


「まあ、こうなる事も予想は出来てたからなぁ…想像以上だったが」


「朝言いかけてたのってやっぱりこの事?」


「この事だな。

とにかく、昼休みにどういう風に言うか考えておけよ?

俺はそれに合わせるから」


「ん、了解」


一応授業中なので早めに会話を終わらせる。

昼休みどうしようかな、一層の事全部話すか。勿論記憶喪失の事以外。

事故から救ったと言えばみんなも仲良くなった理由として納得してくれるだろう…

どうせ放課後、奏が教室まで来て少し騒ぎが起きるだろうから、その前に面倒な絡まれ方しないようにしておきたいしね。



--------------------



2時間の授業を終えて昼休みがやってきた。

久しぶりに頭を使ったせいか凄くお腹が空いていたのですぐに鞄から弁当箱を取り出す。


「お、相変わらず香太は弁当か。

朝壮太さんが作ってくれてるんだっけ?」


竜也の言う通り弁当は朝、お父さんが作ってくれていた。

忙しいはずの朝に作ってくれていたのには驚いた。

弁当の中身は冷凍食品と朝御飯や昨日の晩御飯の余りが大半なので、明日からは僕が作ってもいいかもしれない。

ただ入れるだけだしね。

そんな感じで僕は弁当を食べ始めた。

ほかの人達は、僕のように弁当の人もいるが、大半はコンビニの袋からパンかおにぎりを取り出している。

クラスにいない人は恐らく購買に買いに行ったのだろう。

ちなみに竜也は鞄からコンビニの袋を取り出していた。


昼食を食べながらこの後、みんなが食べ終わった後にあるであろう質問攻めの作戦会議をする。


「で、香太。

どんな風にするつもりだ?」


竜也がパン片手に後ろを振り返ってきてそう問うてくる。


「面倒だからある程度事実話しちゃおうかなって思ってる。

勿論あれ以外ね」


あれというのは記憶喪失の事だ。

クラスには人が多いので言葉にはしない。


「なるほどな。

という事は事故の概要も話すってことか?」


「そうだね、庇ったって言えば誰も文句は言わないでしょ。

助けられたなら病院に見舞いに来るのも当たり前だと思うし。

その流れで仲良くなったって言えば、みんな納得するんじゃないかな」


これでもなお、面倒な絡まれ方した時には、最終手段『ともちゃん先生に相談』を使おう。

ともちゃん先生の人望があれば何とかなるだろう。多分。


「まあ、それなら何とかなりそうだな。

俺の方は、適当に香太の病室行った時会ったって言っとくか、事実そうだし」


「そうだね。

ふぅ、これで面倒事も減るかな…」


作戦がある程度纏まったので僕は食事に集中した。

本当にお腹が空いてたからね。

弁当うまいなぁ……昨日の晩御飯が酢豚だったからその余りが入っているのだが、それが本当に美味しい。

というか思い返してみると、お父さんって凄く料理上手だな。

毎朝毎晩美味しいご飯を食べてる記憶がある、幸せ者だな僕は。

そんな事を考えてるうちに弁当の最後の一口を食べ終えてしまった。

弁当箱を片付けて机を軽くティッシュで拭き、口元もティッシュで拭く

そして僕と竜也は質問攻めにやってくる人たちを机で待っていた。



--------------------



「で、秋海。いつ、凛堂先輩と仲良くなったんだ?」


弁当を食べ終えて少し経ったあとにクラスの人達約10人が僕と竜也の席の周りに集まってきた。

そして一言目からいきなりぶっ込んでくる、今質問して来たのは多分竜也の友達の田村君だろう。


「えっと、先に一つだけお願いあるんだけど、これを聞いてくれたら答えるね」


僕の言葉にだいたい全員が頷く。

とりあえず今後の面倒な絡みを減らすために予防線を立てておこう。


「今から話すことは事実だけど、信じても信じなくてもいいよ。

だけど、今後今回の件について質問されるのは正直鬱陶しいから出来ればやめて欲しい、どうせ答えないしね。

あ、凛堂先輩に変な質問するのもやめてね、僕のせいで迷惑かけたくないから」


これだけ言っておけば大丈夫だろう。

ちょっと強く言いすぎたかもしれないけどこういう事は強く言っておかないとダメだよね。

みんなの顔色を伺って話し始められるタイミングを待っていた。

少しすると田村君が代表して「分かった、話してくれ」と言ってきたので話し始めることにする。


「まず、前提として僕が事故に遭ったのは知ってるよね?」


「まあ…一ヶ月近く入院してたからみんな知ってると思う」


「じゃあ説明するね。

僕が遭った事故がトラックに撥ねられたっていう内容なんだけども………実は、本来はかn…凛堂先輩が事故に遭うはずだったんだよね」


僕がそう言うとみんなすぐには理解できないのか「え?」といった戸惑いの声を上げている。

というか、凛堂先輩って呼ぶの凄く違和感ある。


「じゃあなんでかな……凛堂先輩は事故に遭ってないかって言うと、そこで僕が出てくるわけなんだよね」


僕は軽く深呼吸をしてから次の言葉を吐く


「簡単に言うと、奏を庇って僕が事故に遭ったって事だね。

ここまで言えば流石に理解できると思うけど、その後僕は病室で目を覚ましてそこに奏が来たって事」


「えっと…凛堂先輩を庇ったていうのは具体的にどういう…」


田村君がさらに詳しく説明を求めてくる。

あまり具体的に話して思い出したくはないんだが…


「横断歩道を渡ってる時に、香太と凛堂先輩はすれ違って、その直後信号無視したトラックが凛堂先輩の方向に突っ込んで、その瞬間、香太は凛堂先輩を突き飛ばして代わりに撥ねられたって事だな」


僕の心境を察してくれたのか、竜也が代わりに説明してくれる。

助かった…


「うん、今竜也が言ったことが事実だね。

それで奏が僕の病室謝りに来て以来、話すようになったって感じかな」


僕が最後まで話終えると、教室内はなんとも言えない空気になっていた。

まあ、仕方ないか。

質問してきたみんなもまさかこんなきっかけだったなんて思ってなかっただろうしな。

こりゃ、事前に今後今回の件に触れないでって言っておいて正解だったかもな。

言ってなかったら誰かしら真偽を疑って奏に聞きに行ってしまっていたかもしれない。


みんなやっと頭の整理が出来てきたのか、少しざわつき始める。

でも、ざわつきの内容は僕が思っていたのとは少し違っていた。


僕の机の周りに来ていない女子生徒2人組が小さな声で「凛堂先輩の事名前で呼んでたよね?」「うん、呼んでた…あの凛堂先輩を」など話している。

聴こえないように話しているのだろうけど、教室は割と静かなので普通に聴こえてしまう。

その2人の会話を風切りに、ほかの人達も口々に話し始める。

内容はみんな「あの凛堂先輩を…」など、まるで奏を神のように扱っている様な会話だ。

そんな意味不明な空気の中で取り残された僕に横から声が掛かる。


「あー…香太。

トイレ行こうぜ」


「あ、うん。

ちょうど行こうと思ってた」


竜也がこの空間に居づらいのかトイレに行こうとしている。

僕も同じ気持ちなのでとりあえず教室から出る口実にトイレを使う。


「じゃあ、話は終わりだからこれ以上変に追及しないでね。

事故のことそんなに思い出したくないから…」


教室から出る前に、田村君にそう声をかける。

田村君は軽く頷くだけだった。

主人公のクラスの人達はとてつもなく好奇心旺盛です。

憧れの存在の奏と朝一緒に登校してくる主人公の事が気になりすぎて質問しまくっています。

悪い人たちではないのですが面倒な人達ですね。

主人公の奏の呼び方が途中から凛堂先輩ではなく完全に奏になったのは面倒になったからです。



次回の投稿は2/25です。



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