第1話 記憶喪失からの出会い
初めての長文ゆえ至らぬ点も多いと思いますが、温かい目で見守ってくださるとありがたいです。
時は五日前に遡る。
僕はいつも通りの学校からの帰り道を歩いていた。
友達も少なく部活にも入っていない僕は早く家に帰ってゲームをしようと少し急ぎ足で歩いていた。
「あ、お茶買って行かなきゃ」
お父さんに買い物を頼まれていることを思い出して駅前のスーパーの方へ歩き出した。
スーパーでいつも買っているお茶を買ってスーパーから出て家の方向に歩き出した。
ちょうど信号が青になったので渡っていると体調の悪そうな女性とすれ違った。
大丈夫か?あの人、と思いつつ信号を渡り切ろうとしたその時、赤信号のはずの道路をスピードも緩めず走り抜けようとしているトラックが来たのだ。
そのトラックはあろう事かさっきすれ違った女性の方へ突っ込んでいった。
その直後、僕はその女性を突き飛ばしトラックにはねられていたのだ。
何で助けようとしたかは分からない。
でも体が勝手に動いていた。
「大丈夫ですかっ!!大丈夫ですかっ!!しっかりしてくださ.............」
意識が薄れていく中女性の叫び声だけが耳に届いてきた。
そして僕の意識は消えていった。
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医師らしき男に事故にあったと告げられ、やっと理解が追いつく。
おそらくここは病室だろう。
そして左腕と左足が動かないのは骨折でもしたからだろうか。
記憶が無いのも多分そのせい。
「とりあえず覚えてる事とかはないかな、どんなに小さいことでもいいんだ。」
「すいません、何も分からなくて...しばらく頭の整理をする時間をください...」
医師は下を向き少し考え込んでから顔を上げた。
「分かった。話せるぐらいに落ち着いたら呼んでください。その時にゆっくり話そう。」
「はい。」
その後医師は僕の名前などを行ってから病室を出ていった。
2時間ほど頭の整理をしたががすぐに落ち着くのは無理だった。
不安がどんどん出てくるのだ。
医師の人に聞かされていたので名前や年などは分かっていたが、それ以外は分かっていない。
僕の名前は秋海 香太と言うらしい。
年は16だ、高校二年生だったらしい。
全て聞かされただけなので不確かではあるが。
「これからどうなるんだろうな...」
窓の外を見ながらそう呟いてると病室の前が騒がしいことに気付いた。
女性がナースの人と何か言い合ってるようだ。
「私を庇って怪我した人ってここの病室ですか!?お願いします!中に入れさせてください!」
「さっきから言ってるじゃないですか、まだ目が覚めたばかりで精神が不安定かもしれないから会わせる訳にはいかないと。」
「それは分かってます!でも私は会って謝らなきゃいけないと思うんです!」
「そうは言われましてもね...」
「もう良いです、分かりました。強引にでも入ります。」
「ちょっとそれはダメですよ!」
ナースさんの言葉なんて聞かずに僕の病室のドアが開く。
ナースさんは呆れた顔で誰かを呼びに行った。
部屋に入ってきた女性は僕と同い年ぐらいの女性だった。
黒髪ロングで顔立ちも整っていて僕は思わず見惚れてしまっていた。
なぜこんな子が僕の病室に来たんだろう。
そんな事を考えていると女性は僕の近くに来て急に頭を下げた。
「すいませんでした!私を庇ってあなたはトラックにはねられて入院するほどの怪我をしてしまって...」
ん?私を庇って?
どうゆう事だ?
そこでやっと理解した。
目覚めてすぐに医師に言われた「女性を庇って事故に遭った」という言葉を思い出して。
「えーっと間違ってたら謝るけど、僕が庇ったっていう女性が君ってこと?」
女性は頭を下げたまま言った。
「はい、私がトラックにはねられそうな所を、私を突き飛ばしてまで助けてくれました。」
「そう...だったんだ...」
記憶が無い僕は当たり前だけど何も覚えていない。
目の前の女性にも見覚えは無いし、ましてや庇ったなんて覚えてるわけもない。
「本当にごめんなさい、私のせいでこんな事に...」
謝っている女性に僕はなんて言えばいいのか悩んでいた。
正直覚えてないのだから謝られる自覚がないのだ。
だから僕は引きつった笑顔でこう言うしかなかった。
「そんなに謝らないでください、僕はこうして生きてるわけですから問題ないですよ!」
「でも...やっぱり何か償わせてください!何かしてあげないと、申し訳なくて。」
そう言われた僕は迷わずこう言った。
「じゃあ僕の話し相手になってくれませんか?」
目の前に立っている女性は理解が出来ないような顔できょとんとしている。
僕は自分の説明不足を理解してちゃんと話した。
「実は僕、事故で頭を打ったらしくて記憶が無いんだよね。」
「え...」
記憶喪失と言われて女性は言葉を失っている。
だけど僕はそのまま説明を続ける。
「記憶が無くて、友達も家族も何もかも覚えていない。だから気軽に話せる人とかがいないんだよね。」
「だから私を話し相手に...」
「うん、歳も近いだろうし丁度いいかなって思ってね。」
「そんな事でいいの...?」
「そんな事でいいんだ、だから、まあ、その...」
何となく照れ臭くなってしまい歯切れが悪くなってしまった。
女性は首を傾げていた。
僕は照れながら勇気を出して言ってみた。
「その、僕と友達になってくれません...か?」
僕が俯いて照れていると女性は笑顔で
「はい!喜んで。」
と言ってくれた。
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病室に医師の人が入ってきて女性に言葉をかけた。
「急に部屋に入ってはダメですよ、言ってくだされば秋海さんに確認を取ったのに。」
「すいません。でも、すぐに謝りたかったんです。」
医師は呆れた顔でため息をつき
「まあそのご様子だと秋海さんの方も問題は無いみたいなので今回は大目に見ますけど、今後はちゃんと受付を通して会いに来てくださいね。」
「分かりました。」
医師が女性との話を終えて僕と女性に目配せしながら話しかけてきた。
「だいぶ落ち着いたようですね。これはこちらの方のおかげでしょうか?お二人は以前からのお知り合いで?」
医師が女性に尋ねる。
「秋海さんは私の命の恩人です。そして友達です。」
女性が笑って医師に答えた。
医師も色々理解したようでほっとした顔になった。
「そうなんですね、宜しければ今後も秋海さんの話し相手になってあげてください。友達と話す事でだいぶ心も落ち着くでしょうから。」
「もちろんです!」
「ありがとうございます、ですが今日はもう面会時間を過ぎていますのでまた明日にでもお話に来てあげてください。」
「分かりました。じゃあ秋海くんまた明日ね」
少し名残惜しそうにこちらに手を振りながら病室を出ていく女性に声をかける。
「あの!名前を教えてください!」
そしたら女性がこちらに振り返り。
「...奏。凛堂 奏、これが私の名前だよ!君の名前も教えてもらえるかな?」
「秋海 香太、これが僕の名前だよ!よろしくね奏!」
いきなり名前で読んだからか奏が驚いた顔をしている。
「うん...よろしくね、香太!」
こうして奏と友達になった。