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秋の夕暮れからの記憶  作者: 茶々
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第17話 初めての登校日



「う…う〜ん…」


カーテンの隙間から入ってくる朝日に目元を照らされ目が覚める。

身体を起き上がらせ、寝ぼけ眼をこする。

傍らに掛けてある時計には6時30分と表示されていた。

目覚ましをかけたのは7時だったはずだけど、目覚ましよりも先に起きてしまったようだ。


「自分で思ってる以上に緊張してるのかもな…」


昨日の夜も布団に入ったのは早かったが、寝るまで時間がかかってしまっていた。

学校というものを楽しみにはしているが、いざ目前に迫ってくると緊張が上回ってしまう。

まあ、仕方ないだろう、緊張しない方がおかしいんだ、きっと。

なんたって学校の人には記憶喪失の事を隠し通さなければいけない。

朝、少し早く登校して職員室に行き、担任の先生に事情説明をするが、その説明でさえ少し怖い。

昨日寝る前に覚悟は決めたが、そう簡単に割り切れるものでも無いな…


「考えてても仕方ない、とりあえず顔洗ってスッキリしよう」


ベッドから立ち上がり洗面所に向かう。

冷たい水で顔を洗い、濡れた顔を鏡越しに見る。


「なんか、無理してる顔だなぁ…」


自分の顔を見て、そんな感想を抱く。

ダメだ、どんどん不安が湧いて来てしまう。

知らない人が30人以上居る場所に行かなければならない恐怖。

事故で、記憶を失った事を追求されたくないが為に記憶喪失について隠すが、隠し通せるか分からないという恐怖。

過去の自分と今の自分が変わってしまっていて、クラスの人に違和感を感じられるのではないか、その違いが気持ち悪がられるのではないか………


「はぁ…ダメだ、これ以上考えると動けなくなる。

落ち着こう」


思考が悪い方向に傾いてきていたのを止めるために、もう1度冷たい水で顔を洗う。

顔をタオルで拭き、自分の頬を両手で叩く。


パシンッ


いい音が洗面所に鳴り響く。

少し痛かったがその痛さで思考を止めることが出来た。


「よし、頑張ろう」


小さな声で自分に言い聞かせるように声をかけてから、リビングに向かう。

リビングには朝食の準備をしているお父さんが居た。


「おはよう」


「ん?ああ、おはよう、香太」


普段と変わらない挨拶を交わし僕は椅子に腰掛ける。


「はぁ…」


昨日、奏に電話で楽しみが多いとか言ったが、今では楽しみという感情が、緊張と恐怖で埋め尽くされてるな。


「はぁ…」


家を出るのは7時半、7時50分に出ても間に合うが、朝職員室に行かなければならないので少し早い。

家を出る時間が近づけば近づくほど、行きたくないという気持ちが湧いてきてしまう。

頭では行かなきゃと思っているが、身体が行きたくないと言っている。


「はぁ…」


「香太、朝ごはんできたぞ」


考え事をしていると、気付かぬうちに朝食の時間になっていた。

僕はキッチンに置いてある朝食をテーブルに運ぶ。

朝食は食パンと目玉焼きとサラダとスープという、THE・朝食というメニューだ。

お父さんも向かい側の椅子に座り、食べ始める準備が出来たので、朝食を食べ始める。


「いただきます」


どこか気の抜けた声で挨拶をした僕に、お父さんが声をかける。


「香太、大丈夫か?」


「え?何が?」


「いや、さっきからずっとため息ついてたし、どこかぼーっとした雰囲気だし…」


ため息出てたのか。

完全に無意識だったな。


「心配かけてごめん、いざ、学校が目前に迫ってくると、怖くなってきちゃって気持ちが憂鬱になってきたんだよね」


「そうか…でもまあ、仕方ない事だとは思うぞ。

俺も香太の立場だったら恐怖で動けないだろうし。

でも、父親っていう立場だからこそ言えることもあるぞ」


そこまで言って少し言葉に間を開ける。


「お前なら、絶対大丈夫だ。

久しぶりの学校なんだ、はっちゃけて来い」


そう言って笑いかけてくれる。


「でも、変に思われないかな…前までの僕と今の僕とじゃ性格も変わってそうだし…」


日記を見ると確実に性格が変わっていたことがわかる。


「あのな、香太。

こう言っちゃあなんだが、俺は前の香太より、今の香太の方が好きだぞ?」


「え?」


「多分だが、クラスの人たちも前までの香太より絡みやすいって思うはずだ」


そっか、そうだよな。

なんたって前までの僕は日記から分かる通り陰キャラだったんだ。

それに比べれば今は割と積極的に人と絡むようになってきている。

この変化で、変だと思われると思っていたが、むしろ逆なのか。

いい言い方をすれば人当たりが良くなったんだ。

あれ、こう考えると気が楽になってきた。

クラスの人たちが怖いというより、友達を増やすチャンスなのでは?


「お、吹っ切れたか?」


僕の表情の変化を読み取ったのかお父さんがそんな事を言ってくる。


「うん、変わった事が駄目って思ってたけど、そうじゃないんだね。

僕はいい方向に変わったって思ったら気が楽になってきたよ」


「そりゃあ良かった、朝からため息ばっかりついてて心配だったが、もう大丈夫そうだな」


「うん、ありがとうお父さん」


「俺は特に何もしてないぞ、ただ話しをしただけだ」


お父さんはこう言ってるが、気が楽になったのは本当だ。

自分ひとりで解決しようとしたら、悪い方向に突き進んでたけど、少し第三者と話すだけでここまで変わるんだな。

あ、そういえば昨日奏に『一人で抱え込むのは禁止だよ?』って言われてたな。

ほんとダメだな僕は。

また一人で抱え込んじゃったな。

もし、お父さんに指摘されてなかったら、ずっと考え事しながら学校行くことになっちゃってたかもな。

一人で抱え込むのが癖なのかもなしれない、出来るだけ治すように頑張ろう。

今後は不安があって少し考えても解決出来なかったら、誰かに相談しよう。

相談相手はいっぱいいるんだ。

奏にお父さん。

しずねえや病院の人たち。

僕の周りは相談に乗ってくれる人が多い。

それなのに僕は一人で抱え込んでしまってたのか…

今後は人の好意甘えよう。

一人で考えるよりは絶対良いはずだ。

そんな事を考えてるうちに朝ごはんを食べ終えていた。


「ごちそうさまでした」


「あ、食器はキッチン置いておいてくれ。

今日は家出るの少し早いんだろ?」


「了解ー、そうだね、職員室寄らなきゃだから七時半には家出るよ」


「おう、わかった。

忘れ物しないようにしっかり準備しとけよ?」


「昨日念入りに準備したけど、出発前にもう一回確認しておくよ」


そう言ってから、キッチンに食器を置き、洗面所で歯磨きなどを終わらせてから自分の部屋に戻る。

クローゼットに掛けてある制服を取り出し、着る。

制服を着終えてから鞄の中身を確認する。


「んー…大丈夫かな。

よし、準備完了!行くか」


僕は鞄を持ちリビングに向かう。


「じゃあ行ってくるね」


「おう、行ってらっしゃい。

頑張れよ香太」


「うん、ありがと。

行ってきます」


リビングに居るお父さんが少しほくそ笑んだ気がしたが、恐らく気のせいだろう。


リビングを出て玄関に向かう。

玄関で靴を履き、一応杖を持ち、玄関の扉に手をかける。


「大丈夫、何も心配することはない。

頑張ろう」


小声で自分に言い聞かせてから扉を開ける。


「ん、来た来た。

おはよー!香太!」


扉を出た先には見慣れた格好の奏が立っていた。


「え?奏?」


僕は驚き動けなくなってしまった。


「どうしたの?香太。

あれ?もしかして壮太さんに何も言われてないの?」


どういう事だ?なんでここでお父さんの名前が出るんだ?


「言われてないみたいだから説明するけど、さっき壮太さんから連絡あってね『今日、香太のこと迎えに来てもらってもいい?』って言われて…」


「全く聞いてないね…」


奏に来てもらえるのは嬉しいけど、不意打ちすぎた。


「まあでも、壮太さんも香太の事心配してたみたいだし、1人で学校向かわせたくなかったんじゃないかな?」


あ、もしかして…


「連絡きたのっていつごろだった?」


「確か7時頃だったかな?朝ごはん食べ始めた頃だったはずだし」


やっぱりか、ということは僕がため息ばっかりついてて、僕にご飯出来たって声かける前に連絡してたのか。


「なんかごめんね、登校時間少し早いのに付き合わせちゃって…」


「全然気にしてないよー!

確かに家出るのはいつもより少し早いけど、香太の家は学校行く時の通り道だしね」


「とにかく来てくれてありがとね、そしてお父さんが突然連絡したみたいでごめん…今夜叱っとくよ…」


心配してくれるのはありがたいけど、流石に今回の件は言っておいて欲しかったな…


「ふふ、大丈夫だよ。

というか壮太さんから連絡来なかったら20分後ぐらいに香太の家来ちゃってたかもしれないし…

むしろ連絡してもらえて助かったかな」


「え?どういう事?」


「元々一緒に学校行こうって思ってたってこと!」


そう言って奏はくるりと回り道を進み始めた。

僕はそんな奏をぼーっと眺めてしまっていた。

奏が少し進んだところで僕の方を振り返り


「どうしたの香太?早く行かなきゃ行けないんでしょ?」


「あ、ごめん、じゃあ行こっか」


僕は少し小走りで奏の横まで歩を進めた。



--------------------



奏と他愛のない話をしながら駅への道を進み始めて5分、駅が近くなってきて僕は奏に一つ断りを入れる。


「ごめん、少し遠回りになっちゃうけどこっちから駅向かっていい?」


「いいけど、どこか寄るところでもあるの?」


奏が最もなことを言う。

まあ、わざわざ遠回りするとなると普通そう思うよな…


「えっと、寄るところとかは無いんだけど…駅前の横断歩道を避けていきたいんだよね…」


わざわざ隠す事でも無いので言うが、案の定奏の表情は少し暗くなってしまう。

言わなければ良かったと少し後悔した。


その後お互い無言で少し歩いて路地の中心あたり、人が誰もいない静かな所で奏は小さな声で呟いた。


「私のせいで…ごめんね…」


「大丈夫だよ、ほんの少し遠回りになるだけだしね」


「そうだけど…」


奏がどんどん暗い顔になっていく。

僕がどんなに気にしないでって言ってもそう簡単に割り切れるものでは無いのかな…

どうしようかな、奏に暗い顔は似合わないから、気にしないようにしてもらいたいけど…


「奏」


「どうしたの…?」


突然、真面目なトーンで名前を呼ばれて動揺している奏に僕は素直な気持ちを伝える事にした。


「奏が僕に謝る時、奏がどんな顔になってるか知ってる?」


「謝ってる時の顔…」


「すっごい暗い顔してるんだよ?」


「でも!それは!香太に一生償っても返せないような事をしてもらって…しかもそのせいで香太が辛い思いをして…私のせいだから…」


奏が気にしすぎてしまう理由が分かってきた。

良い機会だし、訂正しておこう


「奏、償って欲しいなんて僕が1度か言ったことあった?」


「え……」


「僕と奏が初めて話した病室で奏は『償わせてください』って言ったよね、僕は気にしないでいいって言ってるのに」


「でも、それは常識として…」


「うん、最初はそうだったね、初対面なんだから当たり前だと思う。

けど、今はもう初対面じゃない。

それどころかこんなに仲良くなれた、それなのに奏は“償い”なんて言ってる」


「………」


「僕はね、償ってほしいなんて思った事無いんだよね。

最初の『話し相手になってほしい』って言うのもその場しのぎの言葉だった。

正直、二日もしないうちに奏は来なくなると思ってた。

だけど奏はずっと来てくれた。

僕と話してくれた。そして笑顔を見せてくれた。

そのうち僕は思うようになってたよ、『奏を助けて良かった』って。

確かに記憶を失くしてて、助けた自覚もなかった、だけど僕は、『助けて良かった』って全力で思ったよ。

だから奏は『助けられて良かった』って思っててくれないかな?

そして、償いという気持ちを完全に決して、僕と唯々仲良くしてくれないかな?」


「でも、それじゃ…」


「奏の心にある、『罪悪感』は消えない?」


「………っ!」


「奏、今から奏とって辛いこと言うね」


僕は奏に嫌われるかもしれない。

この言葉を言うことで仲違いしてしまう可能性も考えている。

でも言わなきゃダメだ。

それじゃないと、僕たちの関係は変わらない。

僕は胸いっぱい深呼吸をしてから口を開いた。


「奏が罪悪感を感じて暗い顔になる度に僕は奏を『助けなければ良かった』って思ってるよ」


「…………………え……」


喉から息が漏れただけのような声が奏から発せられる。

僕は胸が締められるような痛みに耐えながら言葉を紡ぐ


「僕が助けたから奏は辛い思いをする、僕が助けなくても奏は無事だったかもしれない。

そうなっていれば奏は罪悪感を感じることもなかった、暗い顔になることもない何も変わらない奏だったはずだ。

それなのに今僕は奏に辛い思いをさせて暗い顔をさせている。

そして僕は暗い顔をしている奏が『嫌い』だよ」


「…………」


「だけど、僕の前で笑ってくれる奏は『好き』だよ」


「っ!」


「だから奏、償いとか罪悪感、すぐに無くすのは無理だと思うけど、暗い顔をするのはやめよう」


「………」


奏の目からは涙が流れている。


パンッ!


「!?」


涙を流しながら俯き、何も喋らない奏の目の前で、手を思いっきり叩く。


「奏、僕の目を見て」


そう言って僕は奏の両頬に手を当てて目を合わせる。

そして親指で流れている涙を避けてあげる。


「泣き顔似合わないよ?」


「だって…香太に嫌われたって思うと…涙が止まらなくて…」


言い過ぎちゃったかな…

でも少し強めに言わないと、気持ちそのものを変えるなんて出来ないだろうし。

どうしたもんか、奏の事が嫌いなんて微塵も思ってないんだが…

そういえば、いつか病室で奏が僕にこうしてくれた時があった気がする。

両頬に手を当てて『私の目を見て(・・・・・・)』って…あの時奏は僕にどうしてくれたっけ…


その時のことを思い出しながら僕は奏に同じ事をする。


「こう…た…?」


僕は奏の事を抱きしめた。

奏の顔が僕の胸に埋もれる。


「僕が奏の事嫌いな訳ないよ。

奏にはいつでも笑顔でいて欲しいって思ってるだけだよ?」


「………っ!……ごめんなさい…!ごめんなさい…!私ずっと香太にお返ししなきゃって…ずっと…それを一番に考えちゃってた…でも、そのせいで逆に香太に辛い思いさせて…!!それに…香太に言われるまでその事にも気付かないでずっと…ずっと…!私の罪悪感を無くすために香太に辛い思いを…ごめんなさい……」


「奏は優しすぎるよ…」


「優しくなんて……だって…私は…自分の罪悪感を無くすために香太を利用してたんだよ…最低だよ…私は…」


「奏…」


奏はずっと僕の胸で泣きながら謝っている。

その時僕はとある事に気付いた。


「奏、ごめん。

さっきの会話の中で訂正がひとつある」


「な…に?」


奏は泣きながら上目遣いで僕の目を見てくる。


「僕の前で笑ってくれる奏は『好き』って言ったけど、違った」


「え……………」


「僕は奏の笑顔が『大好き』らしい」


「………………っ!?」


「さっきから奏の暗い顔だったり驚いた顔だったり泣いた顔、色んな顔を見たけど…今、僕は奏の笑顔が見たい、いつものように僕に笑いかけてほしいな」


そう言うと奏は僕に胸から離れ、制服の袖で思いっきり涙を拭く。

そして後ろを振り返り…


バシンッッ!!


自分の頬を両手で全力で叩いた。


バシンッッッ!!


そしてもう1回、一回目より強く叩いた。


そして奏は深呼吸をしてから僕の方に向き直した。


「迷惑かけてごめんなさい」


奏がそう言って謝りながら思いっきり頭を下げる。


「そして香太、ほんとに…ほーんとうに!

ありがとね!」


奏はそう言ってくしゃくしゃの笑顔で僕にお礼を言ってくれた。

目元は涙で赤くなり、頬も叩いた跡で赤くなっていたが、僕はそんな奏の笑顔を見て、奏と出会えて良かったと思った。

説教の所満足いってないので書き換えるかも知れません

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