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共夢

作者: A.kujou

振り続ける雪は、僕含めて周りの人間を魔法使いにさせる

口から白い息を吐く魔法使い

寒く、肌は痛い

それでも僕は歩く、家に向かって

待つ人がいるから


途中、ふと立ち寄った模型屋さんに三菱の新しい飛行機の模型が売っていた。

ここの店員とは仲が良い、あいつがよく来るから僕も顔を覚えられている

店員いわく、今日は来ていないらしい

この模型は今日発売、つまりまだ買っていないということか....よし


諭吉を出し、あいつの笑顔を手に入れる

店員から誂われたが悪い気はしなかった。


白い自慢の我が家、ガレージに止まるBMWの後ろのウッドデッキ、その後ろの窓の方を覗くとキッチンの方でエプロン姿のあいつがいる

少しニヤつきながらも玄関のドアを開ける


「ただいま〜」


と家の中へ、あいつに向けて話す

おかえり〜という言葉が遠くから響く

....たまには玄関に来てくれてもいいんじゃないか

旦那様が帰ってきたぞ....


靴を脱ぎ、家に上がりリビングへの扉を通る。


「おぉ、おかえり眞」


手を拭きながらポニーテールを揺らしてキッチンから僕の方へ駆け寄る

その笑顔はとても可愛く、今すぐ抱きしめたいと思う


「ただいま〜遍、これ、プレゼント」


「ん、なんだい....うぉっ!!今日発売のやつだ!!おぉまじかまじか」


袋から取り出し箱をまじまじと眺める

その目は輝き、ポニーテールは不思議に揺れている


「ありがとう!嬉しいよ」


「おう!、今日の僕は魔法使いだからな」


「そうか、いいなぁかっくいいっ...」


といいながら僕の方は一度も見てくれない


「よぉし、じゃあ今日はYES?」


「いやいや、ひこーき作りたいからNOだよ」


「え、えぇ....」


遍はよく、徹夜する

なのに翌日はくまもなく、とても元気だ

一体こいつはいつ寝ているんだ....



かれこれ、結婚して早3年

僕と遍はたまにする些細な喧嘩も含め

仲良く過ごしている。

彼女は素晴らしい女性だ。

環境への対応が早く、それでいて気が利く。

一緒にいて、苛々などしたことは無い。

夜、スタンドライトの明かりの下で飛行機を作る彼女の背中を布団に寝転がりながら眺める。


「もう寝たら?」


「まだデカールを貼っていない、貼らねば」


まったく、彼女の飛行機への愛情は半端ない

飛行機に使うお金も半端ないが

そこは彼女らしい、パソコンのアルバイトで稼いでいる。

それに、余ったお金は我が家に投資

そのおかげもあり、我が家はまぁまぁ維持できている。


「かっくいい...」


「お、出来たの?」


思ったより早い完成、遍は完成した飛行機を両手で持ち天に掲げる。


「おぉかっこいいな、すごいな遍、作るの早い」


「私が早いんじゃない、造形が素晴らしいのだよ」


「かっこいいな...ねる?」


「.....いや、一回バラす」


彼女の衝撃の言葉に僕は驚いた。


「え、え、どうしてさ?」


「なんか、羽が気になるんだよ....デカールも少し...」


「ふ、ふーん...」


やはり、彼女の飛行機の想いは良くわからない

きっかけを聞いたことがあるが


君は、なぜ生きている?


と返されて話をやめた。


僕はそのまま、彼女を見ていたが気がつけば寝てしまっていた。



次の日、ベッドは昨夜と変わらず僕一人だ。

リビングへと行くと朝ごはんが用意されていた。

玄関からは金魚に餌をやる遍が見える。


「おはよう、遍」


「おはよう、眞、今日も元気にお勤め頑張ろー」


「お、おぉー!」


毎朝の挨拶は変わらない


僕はなぜか堪らなくなり、遍に後ろから抱きついた。


「うぉ...なんだい」


「...幸せだなって、僕さ...君とこうして結婚できてよかった」


「...結婚なんてただの約束、私もあなたも何も変わっていないよ」


「ううん、君とこうして朝何気なく挨拶するような日が、とても幸せなんだ...毎日が幸せ」


「ありがとう...眞」


振り向く彼女の、その、潤しい、唇に





時計の針は深夜二時を指していた。

時計の秒針の音が何故か虚しく聞こえる。


みると、いつもの部屋

遍が飛行機を作っているわけでもない、ちらかった我が部屋だ。


「ゆ、ゆめ...」


最近、よくこういう夢を見る

現実が、嫌になる夢。





少し重たい足取りで学校へ向かう。

とてもとても、帰りたい気分だ。


下足室に入ると、見慣れた後ろ姿。

あ、遍ちゃんだ。


彼女が靴を履き替えるさい、横を向いたとき僕と目が合う。

彼女は何も言わない、というか、向こうを向いてしまった。

なんだ...いつもどおり、冷たいなぁ


「おはよう、遍ちゃん」


僕が声をかけると、少し赤面した遍ちゃんが

僕の方を見てこういった。



「おはよう、眞くん、今日も元気にお勤め頑張ろー」


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