第8話 シュガー1 笹目 (ササメ) の応答
いつかの時、どこかの場所に停車したトラックの中で。
トラックの運転席に座ったササメが、助手席に座っている◯◯◯の問いに答えていた。
「シュガー&ソルトに入った動機?」
2人が乗るトラックの貨物部外面には、大きな文字で『宇土精肉店』と表示されている。
「そうだな……元からモノを運ぶ仕事してたし、別に嫌なところもなかったしな」
運転席に取り付けられたハンドルへもたれかかりながら、ササメは◯◯◯の問いに答えていく。
「むしろ表ざたにできない危ないモンばっか運んでたから、こりゃくたばるのも早そうだって覚悟決めてた頃によ、リーダーに誘われたから。まあ断る理由ねえしなぁー、って今に至った感じだな」
ササメは後部座席に積み込んだナニかの方を向き、指先に光を灯した。
「リーダーの趣味かしらねえが、メンバーみんな、変なヤツらばっかしだしよ……いろいろおかしなコトもできるし……まあ、飽きることはねえな。楽しくやらせてもらってるよ」
どこからともなくポン、と。ササメの光る指先に、小さな小人が現れた。
現れた小人がササメの指先からトラックのハンドルへ飛び降りると、ササメの指先から新たな小人が現れた。
「接客なんてガラじゃねえし。おれの魔法はモノを運ぶのに適してるからよ……こうして運転手兼宅配人やってるくらいでちょうどいいんだよ、おれは」
小人の小隊はササメがもたれかかるハンドルの上に整列した後、運転席内部の床へ飛び降りた。ポコン、と2度3度跳ねた後、後部座席へと歩いていく。
「おれがやる仕事と言えば最後だけだからよ。接客・梱包が済んだ対象を依頼人のところに届けるだけ。だから『接客班』や『梱包班』の苦労は、イマイチ分からねえんだわ」
小人が歩き向かった先には、白く大きな布にぐるぐる巻きにされた、ナニかがあった。
「後ろに転がってるアイツ、見えるだろ?」
ササメは後部座席に乗せたナニかを指差した。◯◯◯が指示された方を向くと、ちょうど小人もササメが指差すナニかを目指して進行している最中だ。
「アイツが今回依頼された対象。聞いた名前は……『コショー』、だったかな? なかなかウチのチームにピッタリな名前だろ?」
小人は白い大布に巻かれ『コショー』と呼ばれたナニかの上に登る。
そして登り終えると小さな身体を思いきり広げ、ササメに向かって手を振った。
「梱包される前にどんなに暴れたか知らねえけど、今となっちゃ静かなもんだ」
白い大布が何重にも巻かれたコショーはピクリとも動かない。
「コイツが普段どんな生活してたのかとかは知らねえけど。依頼人たちはニッコニコ笑ってたな……まあ、ウチに依頼してくるヤツらはみんな嬉しそうに笑ってるけどな」
物言わぬ置物と化したコショーを見ながら、ササメは口元に笑みを浮かべた。
「対象と直接顔を合わせることもねえし、こうやって対象を依頼人の元に届けた時、どんな依頼人だって満面の笑みで迎えてくれる。自分でも美味しいポジションだと思うわ」
◯◯◯はササメに、依頼人はどんな様子だったか問いかけた。
「ウチに依頼しにきた時、か……そうだな、今回の依頼人たちは、本気で嬉しそうにしてたなあ」
そしてササメは後部座席に横たわるコショーに向かって笑いかけながら、こう言った。
「……アイツよっぽど、普段の行いが良かったんだろうよ」
――◇――◇―― シュガー1 → Anotherシュガー ――◇――◇――
一般人からの通報と、自らの助手である塩見 凛からの連絡を受け。
現在カケルは右近と共に、次の事件現場へと移動している最中だ。
「いやーカケルさんのおかげで、案外早く清掃終わって助かりました。お礼というほどでもないんですが……ソレ、食べちゃってください」
カケルがいるのはトラックの中。右近が運転するトラックの助手席に座りながら、カケルはぼんやりと窓の外を流れる景色に目を向けていた。
「清掃を手伝ってもらえたのは助かりましたが……先に行かなくてよかったんですか?」
右近はトラックを運転しながら、隣で空を眺めているカケルに話しかける。
本来ならカケルはヤスと並んで事件現場に向かうハズだったのだが、カケルは突然『清掃を手伝ってから事件現場に行く』と言い出した。
結局ヤスと警官隊だけが先行し、カケルは清掃業者さんの手伝いをしてから事件現場に向かうこととなった。
「ヤスさんたちが先に行ってるからいいんですよ。やる気ある人たちの邪魔したくないですし」
「アハハ……カケルさんって、思っていたよりクールなんですね」
「今回の事件に対してやる気がないだけですよ……」
至って真顔で、カケルは助手席においてあった袋を手に持った。
そして手に持った袋の中から唐揚げを1つ取り出し、口に運んだ。
「あ、どうですそれ? 今街で噂の『宇土精肉店イチ推し魔法の粉トッピング唐揚げ』なんですよ、それ」
「……マズくは、ないですね」
口ではそう言うものの、唐揚げを食すカケルの手は止まらない。手に持った唐揚げをあっという間に食べ終わるや、すぐに手を袋の中へ伸ばす。そして2個目の唐揚げを食べはじめた。
「いやー気に入ってもらえてなによりです。みなさんが捕物している間、待機してるだけなのもアレかと思いまして、近くにあった宇土精肉店で買っておいたんですよ」
「なるほど。それであんまり冷めてないんですね……」
唐揚げを食べるカケルのペースが落ちない。右近からもらった唐揚げをすべて平らげてしまいそうな勢いだ。
「それに宇土精肉店で接客してる女の子が結構かわいくてですね、しかもなんだか良いにおいがしててラッキーって感じでしたよ」
「良いにおい? 唐揚げの?」
「いや肉のにおいじゃなかったような……なんだか花の香りに近かったような……」
「はあ」
「いやー店員カワイイしい良いにおいするし。アレなら人気出るのもうなずけるなー」
「へー……(この唐揚げならみんな気に入るだろうか……手間のかかるバカ助手やゴマさん用に、後で宇土精肉店に寄ってまとめ買いしてみるか)……なら、今度寄ってみます」
「ぜひぜひ。オススメですよアソコ」
カケルが唐揚げをいたく気に入っている最中にも、右近は運転を続けた。
「あー……ここの奥みたいですね」
右近が警官隊の指示を受け、徐々にトラックを減速させる。
辺りを見回せば警官たちが複数集まり、一所を目指して移動しているではないか。カケルが警官たちを注視すると、辺りを進む警官たち全員が、ヤス率いる一団のマークを付けている。ヤス率いる、先行した警官隊で間違いないだろう。
カケルは事件現場が近いことを察した。
「これは……停めたら邪魔にしかなりませんね」
トラックを徐行させつつ、右近がカケルに話しかけてくる。
「ちょっと他の広い場所に停めてくるんで。カケルさん先行っててください」
「了解です……あ、そうだ」
「なんです?」
「唐揚げご馳走様でした。また今度おごりますね」
そう言い残し、カケルは飛び降りるようにトラックを後にした。
カケルはトラックから飛び降りると付近に入る警官たちへ話しかける。どうやらヤスやタカは先に通報があった店内へ向かったらしい。
カケルは早足で裏路地に入ると、件の現場へと――シュガー&ソルトへと、向かっていった。
――◇――◇――◇登場人物紹介◇――◇――◇――
笹目。
シュガー&ソルトのシュガー1。
元々はフリーの運び屋を営んでいたが、リーダーに勧誘されシュガー&ソルトの一員となった。運搬を主とし、基本的には裏方に徹している。
複数魔法発現者。魔法名:『こちら小人宅配便』『ただいま直通準備よし』。