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第2話 ソルト2

「ちょ、ちょっと待ったー!!」


 あわてた気持ちが声になった。困惑した次郎じろうの声を聞き届けてくれたのか、ドアを開いた人部は動きを止める。

 そして開いたドアの隙間から顔をのぞかせ、次郎を見つめてきた。

 ドアの向こう側から顔を出したのは女性、年齢は次郎とさして変わらないくらいか。


「そ、そう! そのまま! そのままならいいから。部屋の中に入らないでくれ。色々おかしいとは思うけど、今部屋の中に入られるのはホンットまずいんだ。信じられないかもしれないけど、黙って話を聞いて欲しい」


 次郎は女性に右の手のひらを向け、必死に押しとどめようとする。左手に持ったプリントに目線を走らせるようとした時、次郎の視界内で新しく点灯するナニかがあった。

 新たに現れた光源に目線を向けてみると、机の上にあったライトが点灯しているではないか。点灯したのは赤・黄・青の順で並んでいるライトのうち赤色だけ。プリントに書かれている内容を信じるなら、これは『次郎が1回目の発言権を使っている』ということを表しているのか。


「あのさ! 今光った……机の上に赤黄青で並んでるライトがあるの見えるよね? アレが俺の発言権を表してるらしくてさ。今赤だけがいてるから、1回目の発言権を使ってるってことらしい。この発言権なんだけどアナタがしゃべった時点で強制終了らしくて、もう一度俺がしゃべるには発言権を消費しないといけないっぽいんだ。だから俺の話を黙って聞いて欲しいんだ……」


 さらにこのプリントの内容を信じるなら、発言権を消費しないためには1分以上間を置かないようにしゃべり続けなければならない。

 頭の中で必死に考えをまとめながら、次郎は話を続ける。


「聞いてて意味が分からないだろうけど、実は言ってる俺もよく意味分かってない。ただこのプリントにはそう書いてあるし、実際にこの発言権うんぬんを必死に守ってたおじさんがこの部屋にいてさ……この部屋の中に用があったからこんな所まで来たのかもしれないけど、今はホンット話を聞いて欲しいんだ」


 彼女がうかつに発言しないように釘をさしながら、次郎はなんとか考えをまとめようとする。

 しかし頭が回らない。ぐるぐるぐるぐる視界が回り、まっすぐ立っていることすら困難になってきた。


「俺も今さっき知ったんだけど、どうやらこの部屋に入れる人数は1人だけみたいなんだ。実はアナタがこの部屋の前に来る前は、俺がアナタが今いる場所にいてさ。その時この部屋の中に男が1人居たんだよ。でも今は俺以外誰もこの部屋の中にはいないだろ?」


 ついに次郎は立っていられなくなり、床に膝をついてしまう。ぐらぐら揺れる視界の中、女性を見つめながらこう言う。


「なんでかっていうと、俺がこの部屋の中に入ったら、その男がいなくなっちゃったんだよ……まあ信じられないよな」


 次郎の中から余裕が消え失せていく。ほほをつたう汗すらぬぐう余裕がない。


「それでさ。このプリントに書いてある内容によるとさ、どうやらこの部屋の中の人数が2人になった瞬間、どっちかが転移させられるみたいなんだよ。魔法自体は珍しいモノじゃないけどさ、街中では使用の制限厳しくかかってるし、転移魔法なんて今まで見たことなくて、最初信じられなくてさ」


 いつの間にか次郎は、自分より前にこの部屋の中にいた男性のようになっていた。切羽詰まった表情で必死になって、見知らぬ相手に現状を理解させようとしている。


「でも実際目の前に居たおっさんが消えたし、たぶんホンモノの転移魔法なんだと思う……ってアレ? たしか転移って一般人が無許可で使っていい魔法じゃないよな!? 街中で使ったら捕まるくらいの危険な魔法だったはず……そうか!」


 女性に向かって話している内に、思考の整理がうまくいったようだ。

 次郎は手に持ったプリントを投げ捨て、机の上を注視した。先ほど発言権を表示しているライトの方を向いた時、視界の端に目当てのものが映っていたことを思い出したのだ。


「そうだよな、なんで考えつかなかったんだ! これがホントに転移魔法なら警察に通報すればいいんじゃないか!」


 運がいいことに、机の上には電話がある。次郎は電話に飛びつくと、緊急通報電話番号を入力した。

 迷惑魔法めいわくまほう対策課たいさくかに通報したのは初めてだったが、こんなに待たされるモノだとは思わなかった。コールが5つほど鳴っても、話し相手に繋がらない。


「いやホント一人で舞い上がっちゃってすみません。俺魔法の才能まったくなくて、何が迷惑魔法案件なのか全っ然知らなくて……」


 自分が注意を他に向けたことで、女性が話し始めてしまわないようにしないと。

そう思った次郎は電話をかけつつ、女性の方へ向き場を繋ぐ話をした。


「俺じゃこの状況をどうしたらいいか分かんないからさ。警察に通報してるからちょっと待ってね? とりあえずこれで状況は変わると思うから……あ、もしもし! なんか俺転移魔法関連の事件に巻き込まれちゃったみたいで……場所? ええとですね…………」


 女性に話しかけているうちに、やっと電話が繋がった。次郎はできるかぎり簡潔に状況を伝えようとする。部屋の前に女性が来た時はどうなることかと思ったが、どうやら上手くいきそうだ。


「…………はい、はいそうです。今まで見たことないんでホントにそうかは分からないんですけど、実際に目の前で人が消えたんで。転移魔法に間違いないと思います。はい…………」


 次郎が話し相手に意識を向け、会話に集中しようとした時。

 ひらり、と女性の手からナニかが落ちた。

 落ちたナニかは風に乗り、部屋の中に入ってくる。視界の中で動くモノを見つけた次郎は、無意識にひらひらと風に乗ったナニかを目で追う。どうやら写真のようだ。

 そして宙を舞う写真ナニかが室内の床に落ちた瞬間


「あっ!」


 女性が驚いたように声を上げた。


「あー!」


 オウム返しのように次郎も発言してしまう。急いで机の上にあるライトを見ると、赤だけではなく黄色のライトが点灯していた。


「ああああしまったこれで2回目の発言権使っちゃったよ……ってなんでしゃべったの!? もうちょっとで上手くいくみたいだからさ……ナニコレ写真? なんで写真なんて持って、って……」


 次郎の言うことに従い黙ってくれていた女性が突然叫ぶなんて。一体なんの写真を落としたたのか気になり、次郎は女性が落としたナニかを注視した。

 目線を動かし右往左往。写真を視界に捉え、何が映っているのか把握した瞬間――次郎の思考が止まった。


「なんで……」


 何が映っているのかは瞬時に理解できた。それは見慣れたものだったから。

 だがなぜそれが映っているのか理解できなかった。それは次郎には理解できないものだったから。

 次郎は写真を見つめ、そして写真を持っていた女性を見つめる。

 次郎にとって、とても不可解な写真を持った女性。こうして女性を注視してみても、次郎はこの女性にまったく見覚えがない。


「なんで俺が映っている写真を持ってるんだ……?」


 だが彼女が持っていた写真には、たしかに次郎の姿が映っていた。


「俺はアナタと会った覚えなんてないッ! なのになんで、こんな写真が?」


 写真の中心に映っているのは間違いなく次郎だ。この顔を見ない日はないくらい、毎日毎日見ている顔だ。次郎を標的して撮られた写真であることは疑いようがない。

 しかし次郎にはこんな写真を撮られた記憶がない。自分が撮られた覚えのない写真である以上、この写真は盗撮写真なのだろうか。なぜそんな写真を、見知らぬ女性が持っていたのか。

 しかもなぜこのタイミングで、手に持っていたのか。


「アナタは、一体……?」


 次郎は女性に不審の目を向ける。手に持って詳しく確認するために、少しずつ床に落ちた写真に近付いていく。

 そんな次郎を見て

「その写真に近付かないで! 私が自分で取るから!」

と女性は叫んだ。

 これには次郎も黙っていられない。


「ああああああ! なんでしゃべるんだよ!? しかもこの写真を自分で取る!? 部屋の中に入らないでって言ったよね俺? なんなんだよもう意味分かんないことだらけだよ。ああもう、俺がとって渡すから! 絶対に部屋の中に入らないでくれよ!?」


 次郎は泣き出しそうな顔で女性に向かって叫び返した。次郎の叫び声が届いたのか、手に持っていた電話から、何やら声が漏れ出している。

 だが、今は構っていられない。

 次郎は今にも部屋の中に入ってきそうな女性から目を離せない。

 次郎はなるべく女性を刺激しないように、そろりそろりと写真に歩み寄っていく。


「……ほら、別に変なことしたりしないから。たしかになんで自分が映ってる写真を持っているのかは気になるけど、それは後回しでいいから。だから頼むから、部屋の中に入らないでくれえええぁああああ!?」


 しかし彼女は、次郎の希望をたやすく打ち砕いた。

 次郎の静止に耳を貸さず、彼女は部屋の中に飛び込んできてしまったのだ。


「なっ――」


 次郎は気付いていなかった。自分が初めてこの部屋の中に入ろうとした時に、先に部屋の中にいた男性と。

 今叫んでいる自分が、同じ表情をしていることに。


「なんでだよおおおおおお!?」


 彼女の動作を見て、次郎が大声を上げた直後――大きくジャンプした女性が、部屋の床に着地した。

 その瞬間に、部屋の中に光が走る。突如発した閃光から間髪をいれず、室内に轟音が響き渡る。直後室内は黒に染まり、何も見えなくなった。 


「…………はぁ。今回のは面倒だったなぁ」


 真っ暗な空間に響いたのは、女性の声だ。

 そして何秒ほど経っただろうか。

 真っ暗だった部屋の中に、再び明かりが点いた時には。

 部屋の中に次郎の姿はなかった。

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