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捨て身神官の恋愛事情 8

神殿に帰った俺を待ち受けていたのは、ジジイのきつい一言だった。


「なんじゃ、そんな息を切らして気持ち悪いのぅ。これから夕食だというのに、食欲がなくなるわい」

「っ、……はぁ、はぁ、気持ち悪い……って、なんだよ」


普通に走って帰ったら疲れました。

というか、歩いててもそんな時間変わらなかった気がする……。


「運動音痴舐めんなジジイ」


ある程度息が整ってきてから吐き捨てた言葉は、あっさりとジジイに鼻で一蹴された。

つーか、アンジェラたんどこ。ジジイの出迎えとかいらない。


そんな事を思っていた俺の元に天使が降臨しました。


「マリオン兄様!おかえりなさい!」

「アンジェラたん……!」


ああああ、もう癒し!俺生き返ったわ。


じゃなくて。


「アンジェラ。チェスターから聞いたのですが、デズモンドを振ったというのは本当ですか?」

「ええ、本当よ。マリオン兄様。わたくしあの人の事、元々どうでも良かったもの」

「えっ」


それまで黙っていたジジイがコホンとわざとらしく咳払いして、俺達の視線を集めた。


「それに関しては儂から説明しようかの。結論から言うと、マリオンの予想通りじゃった。アンジェラはデズモンドの国の上層部と繋がっておった神殿の者に、デズモンドを籠絡するよう命令されたそうな。まるで神殿の総意かのようにな。マリオンを支持しておる神殿の中心の者じゃったから、儂も油断しておったわい。かなり信頼しておったんじゃがのぅ」


豊かな顎髭を撫でて、ジジイは少し切なそうに瞳を細める。

味方が必ずしも味方であり続ける訳じゃないのが、この世界だ。尤もそいつは、俺の為を思ったのかもしれないが。


すぐに表情を切り替えたジジイは続ける。


「そやつはもう罰しておいた。アンジェラの誤解も解いておる。その上で、アンジェラはデズモンドを振った」

「……俺の知らない所でなんか話進んでませんかね?」

「ふははははは。まだまだじゃのう、青二才が。儂もまだまだ引退出来そうに無いわい」

「くっそ!!!」


高笑いしながらジジイは俺達を置いて去っていく。

俺は1つ溜め息をついて、額を押さえた。


本当、まだまだだ。

教主になんざ全くなりたくないが、ジジイには長生きして欲しいと思ってるし。


「マリオン兄様」

「は、はいっ!」


名を呼ばれて慌てて顔を上げると、アンジェラは頬を少し染めて俺の袖を少し引いた。


「あのっ、マリオン兄様。わたくし、これからもマリオン兄様の傍にいてもいい?」

「勿論ですよ」


即座に俺は返事した。

アンジェラたんの希望は叶える。そんなの当たり前じゃないか。


「お祖父様がわたくしとマリオン兄様の婚約をもう一度考えてるって仰ってたの。あの……兄様もしよければ、もう一度私と……っ」


アンジェラが全て言う前に、俺はアンジェラの頭に手を置いて、そのまま勢いよく彼女の頭を撫で回した。

何が起こったのか分からない顔をしたアンジェラに俺は微笑みかけた。


「デズモンドの事はいいのですか?あんなに落ち込んでいたのに……」

「あれは落ち込んでいた訳ではなくて、あのわたくしを捨てやがった下半身王子にどう報復しようかずっと考えていたの。神殿にも王城にも迷惑掛けずに穏便にどう復讐してやろうかって」

「……ん?」

「マリオン兄様、どうしたの?」

「いえ、なにもありませんよ」


どうやら俺の耳はちょっとおかしいらしい。

…………明日にでも病院行くか。


それはともかく、デズモンドの事好きじゃないのなら、俺にもまだチャンスはあるって事だよな?

自然と震えた手を気合いで抑える。


いつも一緒にいたからずっと麻痺していたけど、彼女が隣にいた日常がどんなに大切なものだったか気付いたから、俺はもう諦めたくはなかった。


「正直婚約破棄して欲しいと言われた時、すっごく傷付きました。でもその後私はすごく後悔したんです。ちゃんと言っておけば良かったって」


俺は彼女に向かって、手を差し出した。

自己保身に走って、一歩踏み込む勇気が持てなかった後悔はもうしたくない。


「私はアンジェラの事が好きです。1人の女の子として。兄貴分とかただの逃げだった。こんな俺でよければ、俺と結婚してください」

「マリオン兄様……」


口調とか取り繕う余裕なんかなくて、言葉が震えそうになるのを堪えるので精一杯。

多分、これが初めてまともに彼女に伝えた想いだった。


俺を見上げるアンジェラの大きな瞳にみるみる涙が溜まる。

えっ、ちょっと嫌だったとかそんなんじゃないよね?!


ギョッとした俺にポロポロ涙を零しながら、アンジェラは突進するように抱き付いてきた。


「にいさまーっ!勿論だわ!嬉しい……!わたくし兄様に嫌われたのではないかと気が気でなかったの!大好きだわ兄様!」

「アンジェラたん……!」

わたくしマリオン兄様に恋人とか出来るの耐えられなくって……、兄様にたかる蝿共を散々叩いてきたの。ごめんなさい!」

「え、そんなに俺虫たかってる?!毎日風呂入ってるんだけど、今度から1日に2度入るね!!」


慌てて全身をチェックするが、特に虫はいなかった。

そんな俺をアンジェラたんはニコニコと上機嫌で見つめてくる。


「マリオン兄様は、ずっとそのままでいて欲しいわ」

「アンジェラた……アンジェラが言うなら!」


そのままどちらともなく手を繋ぎ、ジジイの待つ食堂へと向かう。

ジジイにからかわれそうだなと思いながら、俺は懐かしい気持ちになった。


ーー魔王討伐に行く前の俺達の日常が、戻ってきた気がして。

スランプ中に書いていた息抜き短編でした。

アホな主人公が書きたかった。

お付き合いありがとうございます。


登場人物

◯マリオン

アグネーゼ教の次期教主。

本当はかなりの美青年。天使の生まれ変わりとか大層なこと言われている。

神殿一の聖魔術の使い手。扱う聖魔術が強力すぎる為、運動音痴でも魔王討伐メンバーに加えられた。

アンジェラの事になると難聴を発揮する。本人曰く“アンジェラたんの非公認の追っかけ(ストーカーとも言う)”

かなりのアホだが、教主になる頃にはだいぶ改善している……筈。

◯アンジェラ

腹黒聖女様。計算高い。

実は小さい頃から兄様大好き人間。兄様にペッタリ張り付いている。それを知らないのは兄様だけ……。

将来裏から神殿操りそう。

◯チェスター

傭兵団の団長。細身なのに大剣振り回す戦闘狂。

普段温厚なせいか、戦いとのギャップに全員ドン引きした。

自他共に認めるロリコン。

◯カメーリア

ロリババア。パーティー最年長。なんかすごい魔女らしい。

魔王討伐終わってからチェスターの嫁になった。

アンジェラは可愛い妹みたいな存在(側から見たら逆)。

◯デズモンド

ハニートラップ掛けるつもりが、逆に掛かった第2王子様。

ハーレム築いてる人。命令に忠実なタイプ。

一国を背負う模範的な王子様。

◯アグネーゼ教教主

腹筋6つに割れたジジイ。

当分の間くたばらないと思う。

◯魔王

神殿上層部と王国上層部の思惑で決められた人選のパーティーにやられる。

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