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捨て身神官の恋愛事情 6

神殿の事はまかせておけと得意げな顔で言ったジジイに、神殿の事はまかせて置くとして。


強盗と強姦の犯人が未だに見つからない。


見つからないので、俺は今日も嫌々女装をして王都に繰り出さないといけないわけだ。

どんな羞恥プレイだよ。普通にアンジェラたんと2人で王都でお買い物したかったよ。


アンジェラたんの荷物持ちとか最高かよ……!


「マリオン兄様?顔がだらし無いですわ」

「おっと、これは失礼しました」


アンジェラたんに指摘され、自分の頬を張り飛ばした。

うん、アンジェラたんの前で下劣な顔を見せてはいけないな。


デズモンドの部屋でチェスター、カメーリア、騎士団の上層部を交えて作戦会議している訳だが、実際の所俺達あんまり必要ない。

こういう作戦は本職の騎士団の人達とデズモンドが立てた方がいいし、俺達は犯人の目撃証言が少ないので用心の為に駆り出されただけだし。


騎士団に的確に指示を出すデズモンドをぼんやりと俺は見ていた。


第2王子としては有能だ。正直将来王弟として置いておくのが勿体無いくらいに。


本気でデズモンドが王位を取りに行こうとすれば、王太子を押し退けて王座につけるだろう。

それをしないのは、兄弟仲が良いのとデズモンドが王座につきたくないからかもしれない。


寄る街で女を取っ替え引っ替えしてたのは、単純に押しに弱いからだった。悔しいけど、デズモンドはモテる。

言い寄られると断れない性格らしい。


それもアンジェラとくっ付いたら、パタリと止めたが。


デズモンドは誠実な性格なのかもしれない。

だが、同時に王子様だ。

国の上層部の意見に従う位なのだ。


デズモンドは、模範的な(・・・・)王子様なのだろう。


アンジェラを掻っ攫う位の勢いでいて欲しかったなあと、俺は座っていたソファの肘掛けに身体を傾けて、深々と溜め息をついた。


おい、美人が色っぽく溜め息ついてるぞとかいう騎士団の声が聞こえる。


アンジェラたんの事ですね分かります。


その光景、しかとこの目に焼き付ける為に隣のアンジェラたんを向くと、アンジェラたんは何故か俺を凝視していた。

もしかしなくても、さっき騎士団の奴ら言ってたの俺の事かよ。ぶっ飛ばしてぇ。


じぃーっと俺を見てくるアンジェラに、俺はジジイに指摘されて気になっていた事を正直に訊いた。


「アンジェラ。貴女を聖女の座から引退させるって言ったら、どう思いますか?」

「……え?」


彼女のアンバー色の瞳が凍りついた気がした。


あ、これは不味い。


長年の付き合いからそれを察した俺は思わず忘れてくれって言おうとしたが、それより早くアンジェラが俺の腕を両手で掴む。


「う、嘘……。嘘だよね、兄様。兄様はアンジェラの傍に居てくれるよね?」

「嘘、嘘だよ!ああああ、アンジェラたん泣きそうな顔しないで!ごめんって!俺が悪かったから!!」

「マリオン。今デズモンド達が真剣な話を……マリオン、何やったのさ?」

「うるせぇチェスター!俺も1分前の自分ぶっ飛ばしたいと思ってるよ!!」


冷たい目で見てくるチェスターとカメーリアに、何が起こったのか分かっていない顔をするデズモンドと騎士団の奴ら。

アンジェラたんは俺の背中に手を回して、ペッタリくっ付いてくるし。


ああ、なんと言うか。


アンジェラたんが俺の胸の中にいる、幸せ過ぎて死にそう。







◇◆◇◆◇◆







日がすっかり暮れた王都の路地裏で、俺はふうと息を吐いた。

吐いた息は白く煙って消えていく。


寒さに俺は少しだけ身を震わせた。

目撃情報によると、犯人は20代後半から30代前半。薄汚れたローブを身に纏った旅人風の男……らしい。


正直そんな奴はゴロゴロといる。

外国からの観光や冒険者等の旅人達は、よく王都に足を運んだりするからだ。


俺もこの前見たばっかだしな。

本当、神官が乱暴だと思われてなきゃいいけど。


ブルッと身体が震えて、俺は肩を竦めた。


神官って本当皆平等に慈悲深い奴がなればいいと思うんだ。世捨て人とかに神官という職をお勧めしたい。

毎朝野菜と穀物だけの質素すぎる朝ご飯なんて、食べ盛りの18歳には厳しいと思うの。


それにさ、俺の天使アンジェラたんが居ても、女の子にチヤホヤされたい欲はやっぱりある。つか、本当にチヤホヤされてぇ。


俺より1歳歳下のデズモンドとかチヤホヤされてんのに、俺に女の子が寄って来ないのは何で?!!

女っぽいとかいう理由だったら、泣く。坊主にしてやる。


「っぐしっ!」


あ、やべ。結構デカいくしゃみでた。

鼻水出てきたんだけど。


つか、寒いいいいいい!!!


ねぇ、今日特に寒くない?!俺風邪ひきそうなんだけど?!!


……ったく、なんで俺が女装なんだよ……。デズモンドにやらせればいいだろ……いや、ガチムチの女装なんて誰得なんだよ……。


それを言うなら俺が女装して誰が得するってんだ。アンジェラたん褒めてくれたけど、男としては微妙な気持ちだよおおお。


つーか、ワンピースってすげぇ足元寒い。腹壊しそう。

世の中の女の人達って、すげぇよな。どうやって腹壊さないようにしてんだろ……。


しゃがみ込んで、自分の両足をさすったら、少しだけあったかいような気がした。

コートを持ってくれば良かったかな等と思いながら、デズモンドのアンジェラたんを側室に迎えたい申告と先程のアンジェラたんの泣きそうな顔が頭の中でチラついた。


正直、すごく苛立っている。


天使よりも、いや、女神よりも素晴らしいアンジェラたんを側室にしたいとは本当にいい度胸だ。


そんなに愛してるなら、正室に迎える努力をすればいいのに。


大国の王女が何だ。デズモンド(あいつ)は今、魔王を討伐した勇者だろう。


本気になれば、大国なんてすぐに滅せるんじゃねぇの?


「あ゛ー。考えたらすごく苛ついてきた。本当にあの馬鹿王子の下半身不能にしてやれば良かった……」

「ひっ!」


思わずボソリと呟いた言葉に、いつの間にか近くにいた男が情けない悲鳴を上げて逃げて行く。

ボロボロの薄汚れたローブを身に纏った旅人風の男の背中を見て、既視感に襲われた。


え……なんか、前にもこんな事あったような……。

じゃなくて。


「ちょ、ちょっと待って!違うんだってこれ!」


咄嗟に人差し指を振り、地面から金色に輝く鎖を出す。

それは男の足に絡まって、男は無様に顔から転んだ。


……やべ、あれ絶対顔面擦り傷作ったやつだよな。超痛そう……。


「や……違うんだって。俺別に乱暴者じゃないから!あと普段女装とかしないから!あんたが咄嗟に逃げたから、追い掛けて鎖で縛っただけで……あんたが転ぶのは正直計算外だったというか、全く考えてなかったと言いますか……」


……あれ、これ説得力無くね?


「取り敢えず、次期教主が乱暴者だと広めないで欲しいっす!じゃないと、俺はあんたを消さな……」

「よくやった!マリオン!」

「……は?」


倒れたままの男に向かって手を合わせていた俺に、デズモンドが言葉を被せた。

思わず呆気に取られた俺の目の前にはいつの間にか数人の騎士団の人達がいて、男を連行しようとしている最中だった。


「えっ、待って。これどういう事?」


俺はデズモンドと騎士団の人達を見比べて焦る。

騎士団の奴らがはぁ……、やっぱり美人だとか何とか口々に言ってるけど、俺はそんなのキコエテイナイヨ。


そんな俺の元に天使が降臨した。


「流石マリオン兄様!わたくし感激したわ!」

「アンジェラた……、アンジェラ。当たり前でしょう。この程度の輩を捕らえる等、造作もない事です」


とても嬉しそうな笑顔で抱きついてきたアンジェラたんを優しく受け止めて、俺のできる最上級の微笑みを浮かべる。


ああ、アンジェラたん可愛い。可愛い。この世で一番可愛い。

というか、この世の言葉で表せないくらいアンジェラたん最高。


アンジェラたんを前にすると、俺の存在とか雑草……いや、雑草以下だわ。


ところで、俺が捕まえた男が探していた犯人だったって事でいいんだよね?

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