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捨て身神官の恋愛事情 4

「ーーんで、何で俺が女装する羽目になってんだよこのヤリ◯ン野郎め」

「ちょ、マリオン落ち着いて!デズモンドの首しまってるから!」


アンジェラたんの要望にデズモンドが顔を引き攣らせながら頷いた……いや、俺が頷かせてから、何故か俺はカメーリアとチェスター、デズモンドに女装させられていた。


曰く、囮捜査なのだと。


悲しい事に俺はかなり女顔らしいのだ。

それに運動音痴だし、脂肪もつかないけど筋肉殆んど付かないし、チェスターよりも痩せている。


なら女装させたら女っぽくなるんじゃね?っていう結論らしい。

本当それに関しては否定出来なかった。


だって、魔王討伐の道中何度女に見られたことかっ。

大衆向けの銭湯の男湯に入ったら、見ず知らずのおっさんから悲鳴を上げられた事あるし…………見ず知らずのおっさんの悲鳴とか誰得だよ。


まず第一に俺達アグネーゼ教の神官は皆髪の毛伸ばしてるから駄目なんだよ。俺も肩甲骨の下まである銀髪を1本の三つ編みにしてるし。

きっとそういう所がなよってして見えるんだよね。


だから昔、男の中の男を目指して坊主にしようと刃物を持ち出したら、次期教主様がこの薄汚れた世界を儚んでご自身の命を絶たれようとしていると大袈裟に解釈されて必死に止められた。何故だ。


取り敢えず、男の中の男を目指している俺に女装させるとは良い度胸だなという事で、衝動のまま勇者の襟首を掴んで前後に揺さぶると、チェスターに止められた。


渋々手を離すと、王子はケホケホと数回咳をした後、まじまじと俺を見つめた。


「凄いなマリオン。どこからどう見ても女にしか見えん」

「この駄目勇者。本当に良い度胸だな……」


そういえばこの下半身王子、初対面で俺の事を聖女だと勘違いして、歯の浮くような世辞をつらつら言ってたんだっけ。鳥肌しか立たなかったけど。


下ろした鬱陶しい銀髪を搔き上げると、カメーリアに整えた髪型が崩れる、と頭を叩かれた。

この暴力似非幼女め……。


「夕方から王都に張り込むぞ。それまでしっかり休んでおいてくれ」


王子様だからか、何処か偉っそーな態度のデズモンドの言葉で各々自由に部屋から出て行く。


えっ、俺夜までこの格好しなきゃいけない感じ?

ただの羞恥プレイじゃねぇか。


「マリオン、少しいいだろうか?」


デズモンドと俺以外居なくなった部屋。

俺は今忙しいと適当にあしらおうとしたが、デズモンドの薄い金眼が決意を秘めたかのような色を湛えていたので、俺は近くにあったソファに腰を下ろす。


そうして足を組みながら、デズモンドを睨み付けた。


「手短に話せ」


俺の眼光にやや気圧されたデズモンドだったが、ぎゅっと自身の拳を握り締め意を決したように口を開いた。


「アンジェラを側室に迎えてもいいだろうか……?どうしても彼女を手放せない。俺は……俺は、彼女だけを愛しているんだっ!」


デズモンドの言葉に、俺は深々と溜め息をついた。

俺の反応にデズモンドはビクッと肩を震わせたが、更に言いつのる。


「神殿の力を舐めている訳ではない。今やアグネーゼ教はこの近隣数カ国の国教にまでなっている。正直に話すと俺は魔王討伐の時、聖女を籠絡して来いと国王陛下に命令された。王国の発展と神殿との結び付きを深める為に。だが、相手がアンジェラで良かったと本当に思っている。愛してるんだ、アンジェラを。なのに……っ」


デズモンドの告白を俺は片手を上げて遮った。

特に意外性のない、詰まらない話だった。


強いて言えば、王城といい、神殿といい、上層部の考える事って同じだなと改めて思ったくらいか。


「大方、大国の王女がお前に惚れたとか、この国の一部の人間が大国との縁が出来ると考えたんだろ?神殿との結び付きを深める事より、大国との結び付きを新たに作って貿易をする方が国にとって利益がある。アグネーゼ教は既にこの国の国教だしな。結び付きはもう十分深いと思ったんだろう」

「なんで……それを?」


呆然とする男に、俺は再度溜め息をついた。


「見くびるなよ。これでもアグネーゼ教次期教主だ。近隣諸国の政治事情も、国民の生活も全て把握している。じゃないと、孤児やスラム街の人々の救済もアグネーゼ教が率先して行えないからな」


組んだ足を解いて、立ち上がる。

そのまま部屋から出ようとして、俺はふと思い出してデズモンドに近付いた。


「ああ、そういえばお前のアンジェラを側室に迎えてもいいかという問いに答えてなかったな」


未だ固まったままのデズモンドに、俺は冷めた眼差しを向ける。


「それ、俺に言うことか?本人に直接聞け」


デズモンドは反応を示さなかった。もういいだろうと勝手に解釈し、部屋を出る。

王城の廊下を早足で歩きながら、俺は無意識に眉を顰めた。


デズモンドは第2王子だ。王太子よりかは自由だろうが、この国に王子は2人しかいないし、王子という身分ゆえ自由にならない事は多いだろう。


そして、それは俺も同じ。


信仰心なんて全くないのに、産まれた時から死ぬ瞬間まで神殿に囚われることが確定している。


だからアンジェラだけは、広い外の世界で自分の幸せを自由に掴んで欲しかった。

彼女の幸せな姿を見る事が、俺の何よりの喜びだった。


そこに俺の存在が、欠片もなくても。


だからこそ魔王討伐の直前、アンジェラから婚約破棄された時俺は受け入れられたのだ。


ーーマリオン兄様。わたくしとの婚約を破棄してほしいの。わたくし、マリオン兄様と将来を共にするなんて無理だわ。でも、マリオン兄様。お願いだから、これまでと同じように(わたくし)の傍にいて。わたくし達の間には、何もなかったように。


あの日、彼女が俺に告げた残酷な言葉が脳裏を過る。


そうだな、アンジェラ。

君は気付かないと思ったんだろう?

何年も一緒にいた俺が、気付かない訳ないのに。


君のついた嘘に騙された振りをしてきた。


でも、もういいだろう?


お前は十分傷付いて来たんだから、解放されても。

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